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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第一部 転生少女の幼少期
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山賊編⑨-グリグリ村-

 グリグリ村につくと、村の様子が以前見たときとちょっと違った。

 畑の手入れがされている。最初、この村を出るとき、暗くてよく見えなかったけれど、畑はボロボロだったような気がする。


 私たち山賊ご一行は、以前も同じように村長の家に通された。


「村長、俺達がいない間は特に問題なかったか? というか、少し変わったな。畑を耕し始めたのか?」


「ええ。しゃようでございます。実はですねぇ。アレク様が出立した数日後に魔法使い様がきてくれましてねぇ。作物を魔法で育ててくだしゃったのですじゃ」

 ズズズ。ちょっと多めに話したので、喉が渇いたのだろう。お茶をズズっと飲む村長。


「魔法使いか。……俺達のことを追ってきたのか?」


「しょのようでごじゃいました。ただ、どちらかといいますと、山賊の討伐というよりも、今お連れのこちらの女児について聞いておられました」

 村長は目線だけを私に向けて、ズズズっとお茶を飲む。


「まさか、本当に魔法使いを使いに出させるとは……」

 ルーディルさんが青い顔でつぶやく。そういえばこの人、行くとき、魔法使いが来るわけないってずっと言ってたっけ。


「それで、村長達はなんて答えたんだ?」


「知らぬとお伝え申しました。光の精霊魔法を使って、探されていたようでしたが、アレク様が夜に出られたので、手がかりを見つけられなかったようでごじゃいます。しょれで、せっかく魔法使い様に来てもらったので、作物を成長させてもらったのですが、もともとタネとか植えていなかったのでグゴッホゴッホゴッホ!」

 お、おじいちゃん! お茶、お茶を飲んで! あんまり長いことはなしちゃダメよ!


「……ふー、こりゃ失礼。種を植えてなかったので、あまり実りませんでした。しょしたら魔法使い様が種と肥料というものをくだしゃって、今育てているところでごじゃいます」


「ああ、さっき村に来るときにみた。畑に芽吹いていたな」


「ええ、しょうなんです。どうせ種を植えても実らんじゃろうと思っておったのですが……喜ばしいことです。肥料のおかげのようです。草を燃やした灰や、山にある土を畑の土と一緒に耕しております」

 肥料? そういえば……レインフォレストの精霊使いに肥料について教えたことがあったような……。


「もしかして、村にきた魔法使いって、頬がこけて、目の隈がすごい、今にも死にそうなくたびれたおじさんでしたか?」


 私はもしかして! と思って、会話に割り込む。

「ええ、しゃようでございます」


 やっぱり! あの過酷なブラック企業労働で今にも死にそうだった精霊使いに違いない。

 そうか、ここまで出張しにきたのか。お疲れ様です!


「知り合いか?」

 親分が顔をこっちに向けてきた。


「知り合いと言いますか、小間使いをしていた時に、仕事のお手伝いをしてました」

 それにしてもあの精霊使い、肥料を広めるたぁいい仕事をするじゃないか。


「アレク様、またしばらく滞在してくださるでしょうか?」


「……ああ、そのつもりだ。部屋を借りるぞ」


 そう言って村長に背を向けると、親分の顔が険しくなっていた。



*


 親分達は村長の家を出て、用意された空き家に案内された。


 途中村人山賊の3人が、家にもどって、家族に会いにいくという話をしていたが、何故か親分に引き止められ、その空き家に一緒に入る。


 いやこの小さな家に、9人は厳しいのでは? 村人山賊には是非自分の家にもどってもらいたいものですが……。


 全員が部屋に入り、扉や窓を閉めると、

「聞こえたか?」

 と、親分がかなり険しい顔でつぶやいた。


「ああ、聞こえた。馬のひづめの音だな」

 いつもの淡々としたルーディルさんではなく、ちょっと焦りをにじませている。


「おそらく、俺達を捕らえるために魔法使いを呼びに行ったんだろう」

 え! 

 つまり、あれか。この山賊村は、親分を売ったということ?


「まさか! どうしてです!? この村の人がそんなことする訳がない」

「ばか、こえがでけぇ!」


 まさかと驚いたのは、村人山賊の3人衆だ。クワマルが大声を出して戸惑う村人山賊を諌める。


「でも、クワマルのアニキ! 親分達は俺達の命の恩人だ! そんなことするやつがいるわけねぇ」

「全員が全員そう思ってるわけじゃねぇだろ。……ましてや今回は、魔法使いも出張ってきたし、中には魔法使いに頼った生活をしたがるやつもいるだろう」

 ちょっと悲しそうなクワマルのアニキ。背中が切ない。


「そ、そんな……! 今まで魔法使いに見捨てられて、死にそうだった村を助けてくれたのは……親分さん達なのに! そんな今さら、村に来て魔法で作物を成長したからって、そんな……」

 

 ちょっと恐慌状態の村人山賊を落ち着かせるために、クワマルがゴズルの肩にポンと手を置く。

「分かってるよ。村人の中でも一部のやつらの考えだ。お前達全員がそう思ってるわけじゃねぇって、わかってるよ」

 村人山賊が『アニキ』とつぶやいて、うつむく。


「今から馬を駆けたんだとしたら、魔法使いは今日中には来れないだろう。俺達は、日が暮れたら出るぞ」

 親分が村人山賊が落ち着いたのを見計らってそう宣言すると、山賊幹部達はそれぞれうなづいた。

 

 そして、親分は信じられないと、まだ整理できずに固まったままの村人山賊に目を向けた。

「ゴズル、ポルン、バケツ。お前らはどうする? 村に残るか? いっておくが、もうこの村に俺達はもどらねぇぞ。家族と一生会わねぇ覚悟はあるか?」


 3人の村人山賊は、ゆっくりと顔を上げて、こわばった顔で親分を仰ぎ見る。顔が青い。いろいろなことがあって頭が整理できてない感じだった。


「親分、少し時間をくれないか……」

「いや、今決めろ。迷うようならいらねぇ」

 親分の容赦のない言葉に三人が息を呑むのが分かった。


 部屋の空気が凍ったように静かになって、最初に動いたのはバケツさんだった。村を出るとき、防具代わりにバケツをかぶってきた村人山賊で、みんなからバケツと呼ばれていた。シャイな人みたいで、あまりお話をしたことはないけれど、優しくしてくれた。

 グリグリ村に戻るとき、村に残してきたお母さんのことを心配していて、ぼそぼそとお母さんの話を聞かせてくれた。


 バケツさんが頭にかぶっていたバケツを震える手で取って、ガコンと下に落とす。そして床に膝をついた。

 そして、土下座のような姿勢で、泣きはじめた。


「……すみません、家族は捨てられない」

 バケツさんは、村の残留を決めた。


 その様子を見ていた他の二人も、崩れるように膝をつく。


「俺も、本当にすみません。やっぱり、家族といたい……。親分たちと旅が出来たのは本当に楽しかったっすけど、それはきっと、帰る場所があったから……」


 そして、すみませんといって、3人とも頭を下げた。


 コウお母さんが、涙声で『いいのよう、家族の側にいてあげて、顔をあげて』と背中をさすっていた。

 コウお母さんは涙もろい。


「そうか、分かった。もし魔法使いがきたら、脅されて無理やり連れてかれたと言っておけよ」


 親分の顔は穏やかに見えた。

 クワマルのアニキは弟分がいなくるからか、ちょっと辛そうだ。

 

「リョウ、お前はどうする?」


 突然、親分が私を見てそういった。


 え?


「どうするって……何をですか?」


「どうやらお前の将来の旦那様……クロードつったか? そいつは、魔法使いを使ってでも、必死にお前を探しているようだ。お前も、ここに残るか?」


 えっ!


 私にも残る選択肢があるの!?

 

 予想外の質問をされて、私は親分の顔をまじまじと見る。いつもと変わらない怖い顔だ。顔色からは親分の真意が読めない。


 もし、ここで残ったら、またレインフォレスト領のみんなに会えるってこと?


 アランにカインに、アイリーンさんにクロードさんにステラさん。あそこで過ごしたみんなの顔が蘇る。


 でも、そうしたら、もう、山賊のみんなには……コウお母さんには……。


 私は、ゆっくりと山賊達の顔を見た。みんな私のことを見てる。私がなんて答えるのかを待ってる。


「私は……」




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