農村編④-ヒモジイ対策ー
次の日、マル兄ちゃんに、また川辺にいくか聞かれたが、丁重にお断りした。
べ、べつに、いじめられたからとかじゃないですからね!
やることがあるからですからね!・・・でも8歳ぐらいの女の子ってなんか怖い。おしゃまさんなんだもの、ぐすん。
そんなこんなで、すぐ上のお兄ちゃん二人を見送った後、私は、隣の倉庫みたいな部屋に行った。
しつれいしまーすといいながら、扉をあけると、次男のジロウ兄ちゃんが以前収穫した陸稲の脱穀作業を行なっていた。石で・・・。
そう、石で脱穀作業を行なっているのだ。大きな石の上に稲穂を置いて、手のひら大の石を手に持って、こするようにして稲穂を削いでいる。
最初、この光景を見たのは、お母さんに背負われたときだった。衝撃だった。
なにこれ、どこの石器時代よ! と思ったものです。
電気製品がないのは、他の生活感を見てなんとなく察したが(電柱ないし・・・)、千歯こきぐらいはあるかと思ったわ!
おかげでこの前収穫した稲穂の脱穀がまだ終わらない。
どうしちゃったんだろう、この村は。文明の利器を全て放り出したような・・・。
かと思うと時々、これ、どうやって作ったんだろう? と思われる品々が村には点在する。
代表的なものが、水の貯蔵タンク。みんなは「水ため石」と呼んでる。1m四方の大きな岩をくりぬいたような形をしており、雨水などをそこにためて生活用水として利用している。
驚くべきことに、コンクリートのようなものではない、玄武岩のような硬い岩をくりぬいたような感じなのだ。
そういえば確か、魔法使いという名の技術者がこのタンクも作ったって女の子たちが言っていたなー。
今度、魔法使いとやら(プププ)が、きたときに聞いてみよう。わからないことが気軽に聞けるのは子供の特権だね!
とりあえず、魔法使いの訪問の前に私にはやることがあるので、石での脱穀作業に精を出しているジロウ兄ちゃんに声をかけた。
「わらを、もらってもいい? あと、ここにわたしもいてもいい?」
するとジロウ兄ちゃんは、私を見て不思議そうな顔をしながら、こくんとうなづいた。
ジロウ兄ちゃんはあまりおしゃべりはしない。一緒に住んでるがあまり声を聞いたことがない。無口系少年なんです。金髪だけど、素朴なのです。
私は許可も取ったことだし、脱穀し終わった稲藁の束を運んで、どこらしょっと適当に座った。
目的は、魚を捕まえる道具をつくること。確か、小さな穴の開いた篭みたいなものを川の中に設置し、その穴から魚が入ってくるが、出口側は、凸になっているため、外には出られないという仕組みの小魚用の罠があったはず。アレなら簡単に出来そう。
しかし、道具の全体像は見えているが、なにぶん藁で何かを作ったことがないので、まず、わらじを編むことにする。
わらじは、小学校の授業の一環で布わらじを作ったことがある。そのときは、布を編んで作ったが、同じ要領でやれば藁で作れるはず。
そして、藁で編むことに慣れてきたら、魚の罠を作ろうと決めた。
てんやわんやで試行錯誤しつつ、おなかがすいて力が出なくなりつつも、10日ぐらいかけて、わらじと小魚用の罠を1つ、山菜をいれるための小さな篭を一つと、藁帽子をこしらえた。
そこまで大変な作業ではなかったのだが、なにぶん一歳児なもので、体力がなく、何度か力尽きて眠りこけていた。むしろほとんど寝ていた。だって寝る子は育つんだもん! 寝るのが仕事だもん!
そんなこんなで、再度マル兄ちゃんにお願いして、川辺まで連れて行ってもらうことにした。おニューのわらじ&稲藁帽子とともに。
稲藁帽子は、麦藁帽子と比べて硬いから、なんかちょっとチクチクイガイガする。失敗したかも。
魚の篭については、家族みんな、なんだこれ? という反応だったが、わらじや篭については大変驚かれ、いくつか作ってほしいとお父さんに頼まれた。
必要なときは、いつもは旅商人から買っていたらしい。
手元に藁があるのにもったいない!
いつも藁は、家の補強作業に使ったり(藁の家だからね)、敷き詰めて、ゴザみたいにして使っていたが、余った分は燃やしていたらしい。
Mottainaiお化けが出ても知らないぞ!
そして、私たち終わりの三兄妹が川辺に着くと、他の村の子たちもほとんどいた。そして、私が作ったわらじや帽子をみてきゃあきゃあ言ってくれた。
わらじについては、いいなーとうらやましがっていたが、帽子についての意見で、「いいなー」という意見はなかった。
まあね、正直ださいもんね、これ。なんかぼさっとしてイガイガしてるもんね。形も笠懸地蔵の菅笠に近いし。
しかし、白いお肌を保つためには、日焼けは禁物なんだぞ! 美しさのためには手段を選らばない女、それが私リョウちゃんなのです!!
わらじや帽子のご意見会が一段落したところで、川に罠をしかけた。
罠は勿論、私が夜なべしないで作った小魚用の罠。中におもりの石を入れて川に沈めた。
また明日、様子をみに来るころには、小魚がわんさかいるはず・・・たぶん。
「ねー、マル兄ちゃん、わたし、おやまにいきたい」
魚とりのほうが一段落着いたので、優しいマル兄ちゃんに声をかけた。
シュウ兄ちゃんは他の子供たちと一緒に、追いかけっこみたいなことをしている。
「山? なんで山なんかにいきたいの?」
「やまで、たべられるものをとりたいの。あたらしいかごにいれたいの」
極力上目使いで、かわいこぶって言ってみた。まあ、そんなことしなくても優しいマル兄ちゃんなら一緒にいってくれるだろう。
そう、思っていた。
しかし、なんと断られた!!
「山はあぶないよ。子どもだけじゃ入っちゃだめなんだ。まものがいるから」
という兄の言い分です。
何、魔物って! また、ファンタジー混ぜてくるの? 魔法使いといい。もう、どうせ野犬とか熊のことなんでしょ? 魔物とか言ってさー。プリプリ。
でも、どちらにしろ、熊や野犬が出るようなところへ、子どもだけで行くのは危険かも。山の入口のほんの少しならーという欲もあるが、あきらめよう。
それにこの川辺にだって食べられる野草はある。 しばらくはそれで我慢しよう。
「それじゃー、かわのちかくのたべれる草をいっしょに、とろー?」
「いいけど・・・、たべれる草なんか、あるの? リョウちゃんはわかるの?」
「・・・このまえ、わらじ作ってたときに、ジロウ兄ちゃんにおしえてもらったの」
そうよね、突然1歳の女の子が、この草、食べれる・たべれないとかいったら怖いよね!あやしすぎるよね!
しくったー。私はとっさにあの無口の少年の名前を使ってしまった。ゆるして、ジロウ兄ちゃん。
マル兄ちゃんは、ジロウ兄ちゃんって草に詳しかったかなーみたいなことを言いながらも、とりあえずは私の要望を聞きとどけてくれるみたいで、一緒に、野草の採取をすることになった。
優しいお兄ちゃん大好きよ!
川辺で見つけたたべれる野草は結構あった。
たんぽぽ、クレソン、セリ、よもぎ、ヒメジオン、ハハコグサ。
前世で読んだ図鑑の情報をもとにして採取しただけなので、クレソンとよもぎ以外は、実はたべたことがない。
タンポポって食べれるんだーと、前世の私は思っていたが、実際に食べようとは思わなかった。
しかし今の私はちがう。少しでも腹の足しになるのなら、何でもたべたい気分だった。
採取を始めて少ししたら、小さな篭がいっぱいになったので採取をやめて、お兄ちゃんと一緒に昼寝をして、家に帰った。
お母さんが、庵で陸稲の米がほんのすこーし入っているおかゆを作っていたので、そこに野草を少し入れてもらった。
私はすでに乳生活から脱出している。だって、ミルクでないんだもの。だから現在離乳食。ていうか、家族全員離乳食という状態でごわす・・・。
お母さんは、最初こそ、食べれるの? 大丈夫なの? という顔をしていたが、村の大人に食べれるって聞いたと適当に言ったら、素直に野草をなべに入れてくれた。
その日の夕食は、うっすーいおかゆに、野草が良い出汁を出してるみたいで、滋養が体の隅々までいきわたるような味だった。
他の家族も満足そうに食べていたので、安心した。
明日はとうとう、魚が食べれる! ・・・かも。









