山賊編⑧-バッシュさんと連絡がとれない-
ちょっと前にバッシュさんの動向を探りに里に下りていたルーディルさん達が帰ってきた。
「バッシュはまだ戻ってねぇのかよ!」
「みたいだ」
アラぶる親分にも臆せずルーディルさんは淡々と告げた。
どうやら、バッシュさんの農業改革はマジで領内全部を見て回るみたいで、1、2年ぐらいは戻りそうにないという話だった。
これまでも、何度かバッシュさんの様子を見に、ガイさんとかが山を降りたりしていたが、ずっと会えないまま。
バッシュさん戻らない詐欺に引っかかった私たち山賊一行は、数ヶ月この山に潜伏しており、私はさりげなく7歳になっていた。
私的には、スローライフ大歓迎だったけれども、親分は大きくため息をついた。
「ったく、バッシュの野郎はちゃんと準備できてるんだろうな……」
「もう、いいじゃなーい。私こうやってみんなと過ごす山暮らし、楽しいわよ? このままずっと、ここであたし達の家庭を築いていきましょうよう!」
クネクネのコウお母さんが荒ぶる親分に擦り寄る。
「楽しいとか、楽しくねぇとかじゃねぇだろ! それにお前と家庭を築いた覚えはない!」
擦り寄るコウお母さんをものすごく嫌そうな顔ではがそうとする親分。いつもの光景である。
「とか言ってー。私、知ってるのよ? リョウちゃんと二人で影でこそこそ馬に乗る練習を見てあげてるじゃなーい! 楽しそうに狩の何たるかとか語ってたじゃなーい!」
アレ、親分楽しそうに語ってたの? 親分の顔はいつも恐いから、楽しいとかの感情を読み取れない。
そうか、楽しそうにしておりましたか。私ったら、なんて罪作りな幼女なんでしょう。あれ、7歳ってまだ幼女? まあ、いいや。
うふふ、なかなか作戦はうまくいっているようである!
「うるせぇ! いいかげんにしろ、コーキ! とりあえず、バッシュに会えないんじゃ話しにならねぇな。一度、グリグリ村にもどるか? 俺達が出てからずいぶん経ってる。ほとぼりも冷めた頃だろう」
「そうだな。村の状況も気になる。戻ろうか」
ルーディルさんが答えた。ルーディルさんはこの山賊団の中では参謀的な役割っぽい。賢そうな顔は伊達ではないのだ。
「コーキの怪我も問題ねぇか? 馬に乗れるか?」
「ああん! もうアレクったら私の心配してくれるの? う・れ・し・い! でも、私のことはコウちゃんって呼んでっていってるでしょ?」
また擦り寄ろうとするコウお母さんと親分との攻防戦が始まる。
「それだけ動ければコーキは大丈夫そうだな。アレク、いつ出る?」
そんな二人のやり取りをいつもの淡々とした表情で見守りながら、ルーディルさんが取っ組み合い中の親分に問いかけた。
「いいかげん、離れやがれ!」
と言って、コウお母さんを突き飛ばし、さっと親分は立ち上がる。
「野郎ども準備しな! 俺がいくっつったら……今だ!」
親分の掛け声で山賊会議は解散。それぞれ準備に動き始めた。
しかし、野郎どもって……ここにかわいい幼女がいることを忘れてもらっちゃ困る!
それにー。コウお母さんかわいそうー。突き飛ばされてかわいそうー。
私は、コウお母さんに駆け寄って、声をかけようとしたが、
「ああん、やっぱりアレクって、ス・テ・キ」
と、うっとりした顔で、つぶやいてるので問題なさそうだった。
*
私の持ち物は、アランの短剣と、唐辛子の苗ぐらい。以前、山で見つけた唐辛子の苗を引っこ抜いて、自分で作った土器をプランター代わりに植え替えていたものを数鉢、馬に載せても負担にならないぐらい持ち出すことにした。
私の荷物もち担当は、力自慢のガイさんだ。唐辛子のプランターを渡すと、一瞬なんだ? と驚きの表情を見せたが『ウッス』と言って、荷物として馬に積んでくれた。
ガイさんは基本的に会話をウッスで終わらせる傾向がある。
「リョウちゃんたら変なものもっていくのね。確かに唐辛子は、薬にもなるけれど……こんなにはいらないわよ? しかも実だけで十分だし」
私を持ち上げて馬に乗せながらコウお母さんが話しかけてきた。
恥ずかしながら私はまだ一人ではお馬さんに乗れない。サイズが合わないのだ。
ポニーさえ、ポニーさえいれば!
「イノシシから作物を守るために使おうかと思ってます。現地で調達できるかもですが、念のためです。前に、ゴズルさんから、グリグリ村の畑がよくイノシシに荒らされて困ってたと聞いたことがあったので」
そう、私は、私が作ったお芋畑を荒らされてから、イノシシ対策を研究していたのだ。その成果が唐辛子で畑を守ること。生垣みたいに唐辛子で畑を囲うと、イノシシが近寄ってこないと言う実験結果が得られている。
私のこの実験の成果をグリグリ村にてお披露目し、みんなから、『すごいよ! リョウちゃん!』と言われ、『スゴリョウ』の名を欲しい侭にする算段である。
「よく分からないが、リョウのことだから、また変なことをするのだろう」
そういって会話に混ざってきたルーディルさんが眉をひそめている。ていうか、基本的にルーディルさんは私に対して眉をひそめている。
ルーディルさんは子ども嫌いらしい。だからと言って、すごく邪険にしてくるわけでもないので、根はいい人なのだと思う。
しかし、また変なこと、とか言われるとなんか傷つくんですけれど!
確かに今までの行いは奇行にしか見えなかったかもしれませんが、これからは起死回生のリョウちゃんだよ!
そしてまた、お馬さんの旅が始まりました。
特に、村人山賊の3人が久しぶりの帰郷が嬉しいのか、うきうきしていた。旅の道中でも、村に残してきた母親や妹などの家族の話を語って聞かせてくれていた。
そうかいそうかい。家族に会えていいですねー!
べ、別に、ぜんぜん羨ましくなんてないんだからね!