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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第一部 転生少女の幼少期

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山賊編⑦-魔法の剣-

 ちょっと落ち着こうか私。

 空回り中の自分を涅槃のポーズで落ち着かせる。


 うまくいかないことは多いけど、基本的なことははずしてない。

 家事は完璧だし、治療師としての仕事もこなせている。お馬さんの扱いだって、親分に教えてもらって、だいたいできるようになったし、小さい獣ならさばくこともできる。


 多少……ほんのちょっとだけ、うまくいかないことがあっても、カバーできているはずだ!



 今のところ、親分の私への評価ってどんなもんなんだろう。あまりにも楽しくって、たまにそういうの忘れちゃう。周りのみんなも普通に接してくるし。


 早くスカウトが来ないかなと思って、チラッチラッと、親分を見るがそんな気配はない。


 ていうか、みんな私への対応普通過ぎない? 最近の商品(私)のお取り扱いはこれが普通なの? もう既に、私ったら、山賊団に入ってる雰囲気なんだけど。


 結局バッシュさんと連絡取れないまま、攫われてから数ヶ月はたってるし。

 バッシュさんの話をするときとかに、私を売るとかの話もないし。

 もしかして、私を売るとかいう話、流れたんじゃない?

 このまま、何食わぬ顔でいれば、いいんじゃない?


 今がよければいいんじゃない?


 私の中の刹那主義的人格が囁いてきやがる……。鎮まれ、もう一人の私!

 

 それにしてもまさか山賊団に入りたいと思う日が来るとは思わなかった。正直、キツイし、汚いし、危険だし……3Kじゃないか。


「よう、リョウ……なんだ昼寝か? わりぃけど手伝えるか?」

 クワマルのアニキが涅槃のポーズだった私のところにやってきた。

 

 イノシシから剥いだ皮の脂肪をとる作業をして欲しいらしい。

 私はもちろん二つ返事で了解した。


 最初こそ、イノシシさんかわいそう、と思って苦手だったけれども、今では、もう手馴れたものです。

 しかも、脂肪をナイフでそぎ落とすんだけれども、アラン特製の短剣が戻ってきたので、それでもって脂肪剥ぎ取りの作業をしている。

 山賊生活が慣れてきたあたりで、普通に返してもらいました。


 ねえ、既に私ったら山賊団入りしてるんじゃない? そういうことじゃない?


 しかし、アランの短剣が戻ったのは嬉しいけれど、まさかイノシシの皮の脂肪を取り除くために使われることになるとは、アランも思わなかっただろう。


「リョウのその短剣は、もらいもんか?」

 クワマルのアニキが隣で私と同じように脂肪取りをしながら聞いてきた。


「以前勤めていた貴族の坊ちゃまに作ってもらったんです」

 なにやら興味を持ったようで、クワマルのアニキが顔を上げた。


「坊ちゃまって、魔法使いか?」


「そうです。魔法で作ってもらいました。魔法使いが剣を作って渡すことは信頼の証とききました」


「信頼ねぇ」


 といって意味ありげなニヤリ顔をするクワマルのアニキ。


「ちなみに俺のこの短剣はな、自分で金属を鍛錬して作ったんだ」

 と言って、不恰好な、正直あんまり鋭くなさそうな短剣を私に見せてくれた。


「自分で? へー。……あっ! さすがっすね!」

 おっといけない。いつもの合いの手を忘れるところだった。


 そういえば、神話では人間達が剣や鎧を鉱物から精製したことが戦争のきっかけになってた。と言うことは、ちゃんとそういう鍛冶職人さんがいるってことか、そらそうか。

 だったら、わざわざ魔法使いが剣とか作らずに鍛冶屋さんに頼めばいいのに。アイリーンさんのお仕事の中には剣とか、鎧の精製作業が結構あった。人間が出来ることはもっと積極的に人間がしたほうがいいいと思うのだけれども。


「だからこいつは神殺しの短剣だぜ」


 神殺し……だと? クワマルのアニキ! なんという中二病的なセリフなんだ。そのうち右手が疼きだすんじゃないだろうね!


「は、はあ」

 中二病への対応はどうすればいいのか分からず、気の抜けた返事しか出来なかった。

 もっと気を利かせて、『私の第三の目が言っている……そいつは危険だってな』ぐらいのことは言っておいたほうがよかったかもしれない。


「おうおう、まだこの神殺しの剣のすごさが分かってないようだな!」

 お、おう。

 なんか、クワマルのアニキのテンションが高い。自慢の短剣なんだな、きっと。手作りだと思い入れが違うよね、やっぱり。


「これは、魔法の力で作られてない。つまり、魔法使いを殺せる短剣なんだ」

 おお、殺すとかなにその物騒な単語は。

 てか、別に剣は剣で、鋭いなら魔法使いに関わらず人を殺傷する能力はあると思うけれども。


「魔法で作ってもらったこの短剣でも、問題なく魔法使いを刺せると思うんですけど」

 と言って、アランの短剣をクワマルのアニキが見やすいように持ち上げる。正直、クワマル特製の短剣よりもいい感じだ。

 しかし、クワマルのアニキは、ハッ! と馬鹿にしたようにわらってきた。

 なんか屈辱的!


「リョウはまだまだだな。魔法使いの剣は、魔術師の魔法で簡単に消えるんだぜ?」


 え?

 そういえば、アランも剣を作ってるとき、失敗したものを魔法で、砂みたいに変えていた。


 つまり、それって……。


「……魔術師なら誰でも、魔法で作ったものなら何でも、消せるんですか?」


「王族とか、魔法の力が強いやつが作ったものは消えにくいらしいけど、ほとんど消える。呪文一つでな。まあ、その呪文を覚えてないやつは出来ないだろうが……解除の呪文は魔術師なら大体覚えてる。まあどちらにしろ、俺が持ってるこの短剣はすげえんだぜ! 魔法で消えねぇからな!」


 と、自慢気なクワマルアニキ。


 ていうか、それって、なんというか、もう、なんというか。


「……剣とかを普通の人間が鍛錬して作るところはたくさんあるんですよね?」


「ねぇよ。王都の地下の地下で秘密裏にたまに作られてるぐらいだろ。マモノの中には、魔法で造られた剣じゃ切れないやつがいるらしいからな。そのために数本ってとこなんじゃないか。俺だって、学校に行ってた時にこっそり作らせてもらったんだ。本当は貨幣を作るための特別授業だったんだが、先生にばれねぇようにやったのよ」


 そして褒めてほしそうにしたので、いつもの合いの手をいれた。


 でも合いの手をいれながら、別の想像が止まらなかった。

 爪と牙を抜かれて腑抜けになった獣が、大きな檻の中で暮らしている光景が脳裏をよぎる。


 思ったよりも、神話後の魔法使い達はしたたかなのかもしれない。もう二度と、人間に反乱を起こさせないように、爪と牙のお手入れだけはしっかりと管理してるんだから。




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