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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第一部 転生少女の幼少期
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山賊編⑥-入団希望者の悩み-

 数日すると、コウお母さんの容態も安定してきて、今では上体を起こして、一人で食事も出来るぐらいになった。


 普通に会話も出来るから、最近はコウお母さんの指示を受けながら治療にあたっている。

 背中の傷跡はまだ残っていて、少し腫れているような感じ。けれども傷はふさがっているし、治療次第では傷跡もきれいになくなるらしい。今は、止血の塗り薬から痛みと炎症を抑える塗り薬に変えて包帯を巻いていた。



 コウお母さんの看病をしている間、私はなんだか少し幸せだった。コウお母さんは優しい。私の足りないところを埋めてくれる気がする。


 でも、私はいつか売られる身の上のはずだ。


 コウお母さんは一体どういうつもりなんだろう。あんまり優しくされると、勘違いしてしまいそうになる。いや、もうむしろ私は、期待している。だって、身を挺して守ってくれた。


 まるで私がすごく大事みたいじゃないか!


 そんな風にされたら、誰だって期待してしまうに違いない。コウお母さんなら私を愛してくれるんじゃないかって。だって、最初に、親分との子どもだと思って大事にする、って言ってくれた。お母さんと呼んでって言った!


 また信じてみたい。



 でも、もし裏切られたら、私はまた売られてしまうのだろうか……。



 今は、コウお母さんが動けないので、山賊団の治療師は私しかいない。だから、ずっと側にいられるけれど……。

 コウお母さんが臥せっている間は、私は貴重な山賊団の治療師なんだ。その間は私が売られることはないだろう。



 そうだ、このまま、コウお母さんがずっと寝たきりになってくれれば……! いっそのこと手足を……!



 って、無理―!! 私はヤンデレか! 怖いわ!

 私は断じてヤンデレではない!



 正直、コウお母さんが私のことをどう思っているのか、よく分かっていない。しかも聞くのもこわい。

 でも自分の気持ちははっきり分かる。

 この生活を続けたい。コウお母さんや親分や他の山賊のみんなと過ごしたい。


 そのためだったら、私は何でも出来そうな気がする。

 また、頑張ってみようかという気になってくる。


 努力が必ず報われるわけじゃないのは分かってる。


 前世でも、ずっと、いつか親が私のほうを向いてくれると思って、頑張り続けて、それでも報われなくて、でも、もしかしたらと思って、少しの希望にすがり続けていたんだもん。むしろ世の中報われないことばかりだ。


 でも最後にこの希望にすがらせて欲しい。これを最後にするから。



 よし! 私、山賊デビューする。


 一時期は卸先の伯爵家小間使いでいいんじゃないかと思っていた私でございますが、山賊も悪くない。このまま山賊暮らしを続けたい。スローライフ楽しい。


 ただ、略奪とかするのは、やだけれど。だって安全大国日本出身だし……。


 略奪行為に関しては、私が、山賊の皆様を更正させれば済む話に違いない。そうだそうだ。かわいい幼女であるはずの私が、『親分、私のために争うのはやめて!』って言えば止まるに違いない。

 しかし、悪行が顔にまで染み込んでしまったような親分を更正させることは出来るだろうか……。


 

 いや、深く考えるのはやめよう。

 とりあえず、肝心なのは私が山賊団に入ることだ。入団するときは、なんか入団試験とか、儀式とか、洗礼とかがあるのだろうか。……まずは親分にどうすれば入れるのか確認しなくちゃか。


 いや、まてよ。

 突然入団希望を申し出て『お前みたいな子どもに出る幕はねぇ! 一昨日きやがれ!』みたいなことを言われたらどうしよう。さすがの私も一昨日来ることはできない。


 そうだ、入団希望を申し出る前に、私すごいんですアピールをすればいいんじゃないだろうか。


 そうだ、それだ!

 もう向うから、ぜひ我が山賊団へきてくだせぇ! と言われるようにすればいいんだ!


 私は早速計画を練って翌日から行動を開始することにした。


*


 山賊入団希望者の朝は早い。

 誰よりも先に起きて、まずは今日の分の薬の調合だ。そして、近場で山菜摘み。今日は一緒に狩に行こうと思うので、狩用に長めの木の棒も一緒に見つける。

 焚き火の灰は今後石鹸作りに使うかもしれないので、とっておきつつ、テントの外回りの掃除。

 そして火をおこして摘みたての山菜とイノシシのお肉を使った朝ごはんの用意。山賊は朝ガッツリ食べるのだ。


 そして、おいしそうな匂いにつられて、山賊団ご一行起床。


 私はさわやかな笑顔でお出迎えする。


「いやはや、親分、おはようごぜえやす! いやー今日もイカしてますねぇ!」

「……なんだお前」


 私のさわやかな挨拶にアレク親分は明らかに動揺した様子だ。それもそうだ、今まで挨拶はしてたけれども、こんなテンションで、『ごぜえやす』みたいな山賊語をしゃべったことはない。うん、やりすぎたかもしれない。


 とりあえず、なかったことにして、いつもどおりの話し方で接することにした。話し方は元に戻したけれども、ちょくちょく親分を褒めちぎることは忘れない。


 あと外堀を埋めることも大事だと思うので、他の山賊幹部達も褒めちぎる。

 クワマルについては、アニキぱねぇっす、さすがっす! と言っとけば上機嫌だし、筋肉男のガイさんには、筋肉を褒めておけば大胸筋をピクピクさせて喜んだ。ルーディルさんは、私の行動の変化を怪しんでいるようで、反応が悪い。親分も反応が悪い。


 いやしかし、まだ初日だ、焦らず行こう。


 私はコウお母さんの食事のお手伝いやら、お薬の処方や包帯の交換などを終えて、親分に、今日一緒に狩に行きたい旨を伝える。しかし、『馬に乗れないから無理だろ』と断られる。


 いやでも、ここまで来るときコウさんが乗せてくれたみたいに、誰かと一緒に乗りながら、弓を引くことは出来るはずだ。前世での私は弓道でいい感じの成績を納めていた。


 私は弓が引けることを親分に伝え、親分から『引けるもんなら引いてみろ』といわれて弓を貸してもらった。弦を引こうとしたけれども、力が足りなくて思うように引っ張れなかった。


 クッ! 前世のときの体さえあれば!


 私は朝のメニューに腕立て伏せを追加することを決める。

 結局私は、狩は一緒にいかせてもらえなかったが、珍しいことに親分が私の頭をなでて、『まあ今度機会があれば、狩の仕方を教えてやるよ』と言ってくれた。


 え、やだ、いつも恐い人にいきなり優しくされると、ドキッとする。

 親分がもう少しイケメンだったら、よかったのに。残念ながら、私の目からみると親分の顔はブルドッグをもっとゴジラっぽくしたような強面で、申し訳ないけれどタイプじゃない。すまない。

 それにオネェのライバルにはなりたくない。彼、じゃない彼女の女子力には勝てる気がしない。


 そんな感じで、主に家事全般を引き受けるかたちで山賊達に貢献する日々。


 そして、努力家の私は、家事だけの女じゃなくってよ! というところも見せたくて、村人山賊から鍬を借りて、空いてるスペースを耕して、馬糞を肥やしに芋を植えてみたり。そしてその日の夜にイノシシに全て掘り返されてだめになって、コウお母さんに怒られたり。


 灰水と獣の油で石鹸を作ろうとして、泡立ちの悪い、油くさい石鹸ができたり。しかも別にきれいとか汚いとか、清潔であることに頓着のない山賊達からは別に水洗いでよくね? と一蹴されたり。


 山の粘土を使って、縄文土器みたいに、焚き火の灰の中で焼いて、器を作ってみたり。でも今使ってる木のお椀で十分じゃね? と言われて、ただの飾り物になったり。


 前世でコンクールを総なめにした音楽的センスを見せつけて、虜にしようと画策し、村人山賊の防具であるバケツをひったくって、木の枝で、なんちゃってドラマーしてみたり。でも、神経質なルーディルさんにうるさいと言われたり。



 そして今は粘土でレンガを作っている最中。そのレンガでかまどを作ったり。体を濡れた布で拭く時の仕切り用の壁だったりを作る予定だ。今度こそ、みんなにすごいって言ってもらうんだい!



 という流れで、日々、自分から見ても空回りしている生活を満喫している。

 

 焦りか、焦っているせいなのか。こんなに物事がスマートに進まないことは今までにないよ。


 でも不思議。

 こんなにうまくいってないのに、やっぱりちょっと楽しい。

 私のしたことに対して、誰かしらが必ず何か反応してくれる。私が何か失敗すると、怒られたりはするけれど、誰もがっかりしたりしない。

 変な期待がかかってないからなのか、なんだかとっても体が軽く感じた。



 

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