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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第一部 転生少女の幼少期
35/304

山賊編④-カリスマ親分の秘密-

もしかしたら明日、明後日更新できないかもしれないので、本日は2話更新します。

 まだバッシュさんのところに行った3人は戻らない。いつもどおり、男どもは狩をして、私とコウさん(男)で、山菜取りやら洗濯やら諸々を行なっている。


 最近は私も治療術が分かってきて、狩りで怪我して帰ってくる山賊達の治療なんかを行なってた。治療といっても、怪我の症状に合わせて、傷口洗ったり薬塗ったり包帯巻いたりするぐらいだけれども。


 最近は、薬の調合とかも教えてくれるので、念願の乙女の抱擁で忘れさせてあげる薬も作らせてもらった。


 そして、最近気になっていることがある。

 山賊達は、山賊村を出てから今まで略奪をしていないのだ。これでは山賊ではないではないか。

 実は、この野営地でもお馬さんで少し走れば道っぽいものがあるのに、そこを通る商人さんから略奪とかしないで、ひっそーりと狩暮らしである。現在の私達はただの狩人の集団だ。


 もしかして、小さい子(私)がいるから、教育上良くないということで控えてくださってるのかしら? あらやだ、意外と優しいところがあるのね。


「あん? 別に、リョウに気を使ってるわけじゃねぇぞ」


 私が、ちょっとそのことを質問していたら、猿顔のクワマルに一蹴された。


 猿顔のクワマルは、親分とか、コウさんの前では、基本的に語尾が「っすよ」「っすー」「っすねー」みたいな、部活動の後輩的立ち位置のセリフしか言わないくせに、私にはアニキ面してこの言葉遣いである。


 こいつ!


 私は、内心のイラっとした気持ちをなだめつつ、自分の作業に没頭する。

 今、クワマルと村人山賊のゴズルさんとで、剥いだイノシシの皮についている脂肪をそぎ落とす作業を行なっているところなのだ。皮の裏側はぶよぶよして気持ち悪いし、イノシシがかわいそうで、ちょっと苦手な作業……。



 最初、私はこの山賊団の中では空気みたいなもので、コウさんぐらいしか話しかけてこないし、私も自分から話しかけないっていうスタンスだったけれども、一緒にすごすようになると、さすがに山賊の皆さんがどういう人なのかとか気になってくる。


 というかコウオネェさんからきいたバッシュさん伯爵話を聞いて、ちょっと心が落ち着いたと言うか、なんというか、先が見えて余裕が出てきた感がある。


 そんなかんじで、せっかくだし山賊の生態について社会勉強しますか、みたいなテンションになってきていて、山賊に話かけることが多くなっていた。


 そして、このクワマルの二面性を知ったのである。下のものには偉そうにし、上のものには媚びへつらう。

 なんという嫌われ中間管理職!


「ここら辺で暴れると後々面倒なんすかね。よく分かりませんけど、親分さんはお尋ね者だと言ってたし。それにしても、アレク親分さんは一体何をしたんすか? 略奪しまくったんすか?」


 現在クワマルの後輩的立場である村人山賊の一人ゴズルさんだ。後輩的なセリフで話し始めた。


「……別に何も悪いことなんかしてねぇよ」


 そっぽを向く猿顔のクワマル。

 いやいや、悪いことをしないとお尋ね者にはならんと思いますがね?  やっぱりあの顔だったから人里におりるとそれだけで、通報されてしまうのか。

 

「それに、親分が略奪してねぇのは、ここがルビーフォルン領だからだ」


「そういえばコウお母さんから聞きました。たしか、ここの領主様と親分さん達はお知り合いなんですよね? だからここでは略奪をしないんですね」


 最近そんな話をコウさんから聞いていた。すっかり忘れていたけれども。お友達のよしみというところなのだろうか。すでにお尋ね者らしいけれど。


「それもそうだが、それだけじゃねぇ。親分は魔法使いが大嫌いで、魔法使いに頼って暮らしてるような領地がきらいなんだ。ここ、ルビーフォルンは呪われた領地って言われて、数十年間一人も魔法使いが生まれていない。親分は魔法使いと縁遠い領地はおそわねえ。つってもそんな領地はここぐらいだけどな」


 ほーう、山賊の矜持というやつでしょうか。それにしても初めて出会ったかも、魔法使い嫌い。だいたいみんな魔法使いというと神様みたいに崇めたりするから魔法使い嫌いは新鮮だ。


「カーッ! 親分の志なんすね! 男の生き方っすね! やっぱり親分さんはかっこいいっすよー。俺の憧れっす。命の恩人っすもん」


 村人のテンションが上がってきた。

 ていうか命の恩人て、何だろう。


「命の恩人ってどういう意味なんですか?」

 私は6歳らしい愛らしい無垢な顔で村人に聞く。カエルが死んだような目とか言われているけれども、決してそんなことはないはずだ。私は、かわいい幼女のはずだ。

 私の渾身のキメ顔に応じて村人山賊ゴズルさんが笑顔で答えてくれた。


「俺達がいたグリグリ村は、開拓村なんすけど、ぜんぜん作物が実らなくなるし、実った作物もイノシシに食べられたりするし、魔法使いも来ないしで、餓死寸前だったんす。そこで颯爽と現れたのが、アレク親分やクワマルの兄貴たちっす」


 さすがっす、かっこいいっすと連呼しまくるゴズルさんに、クワマルがまんざらでもない顔で、「よせやい」みたいなことを言っている。そのまんざらでもない猿顔がちょっとイラっとする。


 というか、開拓村! 同志だったか! しかも名前グリグリ村って、開拓村ってみんなそんな名前なの!? いったい誰が付けてるんだ! 一言物申したい。


「いやもうホント、助かったっす。狩猟の仕方や、皮の剥ぎ方、山菜のことや、略奪の方法まで教えてくれたっす」


 そうかそうか。それは良かった。しかし、略奪までは教えなくて良かったのではなかろうか。


「まあよ、親分はああいう性格だから、困ってる人間はほっとけねぇのさ」

 そして自分のことのように自慢するクワマル氏。

 ああいう性格と言われても、私は親分のこわい顔しか知らないので、いまいちピンとこない。そこまで悪い人ではないんだろうなぁとは思うけれども……。


「今思うと不思議なんすけど、餓死寸前だったあの頃の俺達は、誰かから奪ってでも生き延びたいと思う気持ちがなかったっす。今なら、家族や自分を守るためなら、なんだってできるって思うのに、あの時は、飢えに苦しみながらただボーっとして魔法使いを待つ、というか死ぬのを待つぐらいしかできなかったっす」


 不思議っすよねーと言いながら村人は、ぽりぽりと頭をかく。

 

 それでも、略奪は良くないんじゃないの!? と略奪された私は思うけれども……でも、生きるために仕方ないときもあるのかもしれない。


 それにグリグリ村はレインフォレスト領の開拓村のはずだ。彼らを飢えで苦しませているのは、うまく開拓村を管理できなかったレインフォレスト伯爵家のみんなのせいになってしまうのだろうか。


 いやでも、アイリーンさんやクロードさんだって、すごく忙しくしてたし、頑張ってるし! と、元小間使いとしては思うのだけれど、それでも、餓死で苦しそうな村人を前に、そんな言い訳みたいなことは言えない。


 ……なんか複雑な気分。


 

 もし、ガリガリ村に私が生まれなかったら、あの村も山賊村になってたのかな。

 いや、もしかしたら、今まさに山賊村になっていたりして。


 ヒャッハーといいながらポニーに跨るマル兄ちゃんが、脳裏をかすめる。


 ……似合わない。ガリガリ村の住人にそんな気概はないと思う。多分。


 私はマル兄ちゃん達がヒャッハーしないで、ちゃんと畑を耕してくれていることを祈った。



*



 街にバッシュさんに会いに行った3人が帰ってきた。でもバッシュさんとは会えなかったらしい。なんでもバッシュさんは現在、農業の先生を招いての農業改革のため、遠征中という。いつ戻るか分からないが、そんなにかからないのではないか、ということだった。

 その話を聞いて結局親分は、この野営地にしばらく暮らして、バッシュさんの帰りを待とうという話になった。



 なんというタイミングの悪さ。


 私の再就職が遠くなったけれども、意外にも私はこのお山でのスローライフを満喫していたので、別に大してダメージにはならなかった。


 最初こわくて、顔すらまともに見れなかった親分だったが、最近ではちょっと慣れてきた気がする。


 親分の横顔をずっと見て、親分が私の視線に気づきそうになってこちらを見る瞬間に視線をはずし、何食わぬ顔をする。

 ピンポンダッシュよりもスリリングな私お気に入りのお遊びである。


 そんな余裕が出来るぐらいには、私は、ちょっとこの山賊達に打ち解け始めていた。



*


 うーん、石鹸が欲しい。川でゴシゴシ山賊の服を洗っている私。

 山賊内では、主に家事担当に納まりつつある私は、山賊のぼろぼろの布切れのような服の汚れを取るため奮闘している。

 水だけだとなかなか汚れが落ちないし、かといってこすりすぎると布が破ける……。どうしたものかね。


 基本的に川に行くときは危険だからとコウさんがついてきてくれるんだけれども、昨日ルーディルさんが、狩のときにぎっくり腰になったからその看病をコウさんがしていて、今日は一人。

 ルーディルさんは、あんな細くて、いかにもインテリ風を装ってるんだから、無茶して狩なんか行かなきゃいいのに。


 川は危険とは言われているが、川の向こう側にさえ行かなければ安全らしい。

 私だって死にたくないので、川の向うに自ら行く気もないし、ましてや、ドラゴンみたいな魔物が見えたら、全力で逃げ出す! 速攻で!



 それにしても、山賊のボロキレ洗濯は結構疲れる。

 

 ちょっと休み休みやろー。

 

 休憩しようと顔を上げてみると、川の向うに誰かがいた。


 女の人だと思う。私と同じ金色の髪で少しくせっ毛。毛先に少しウェーブがかかっている。


 私に似ている?


 その女性が川の向うで手招きしている。


 なんだろう、山賊以外の人を始めてここら辺でみた。近くに村があるのだろうか?

 だとしたら……そのままここから逃げ出せる?


 もしかしたら、山賊が川の向うに言っちゃいけないといったのは、人里が近くにあるから? 逃げ出さないため?


 正直最近、逃げ出すと言う発想すらなかったけれど。でも、人がいる。


「あのーそこで何をしてるんですか? 近くに村があるんですか?」


 話しかけてみたけれど、彼女はゆらゆらと笑うばかりで何も答えてくれない。

 なんだろう、口がきけないのかな。それとも、山賊が近くにいると知ってて、あまり大きな声を出したくないのかもしれない。


 私はそんなことを思いながら、足が川の中を進んでいた。大して深くない川だ。深いところでも子どもの私で腰ぐらいの高さ。流れも緩やかなので、川の中を歩くことは問題ない。



 私は、ずっと手招きしている女性を見ていた。最初私に似ていると思ったけれども、いや違う、その人は私のお母さんに似ている。


 もしかして、お母さん? まさか、お母さんが心配して、私を、迎えに来てくれたのだろうか? 


 私はその人が誰なのか確認したくて、川を渡り、そして、川の向こう側についた。


 向こう側へ渡ると、お母さんに似ているその人が、さあいらっしゃいとばかりに、手を広げた。まるで、私を抱きしめようとしているみたいに。




 お母さんだ! 




 心配して探しにきたのかもしれない、売ってしまったことを後悔して私を呼び戻しにきたのかも!


 そう思って、お母さんの胸の中に飛び込もうとしたとき、お母さんの姿が消えた。

 いつの間にか目の前には9つの目みたいなものがついている黒い大きな熊みたいなものがいて、そいつの大きな爪が私に襲い掛かってきていた。


――――――ザンッ!


私はあまりの恐ろしさに目を閉じた。


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