山賊編②-オネエ山賊-
親分はオネエに、レインフォレスト家の馬車を襲ったこと、もともと出て行く予定だったし、このまま出ることになった経緯を話していた。その説明の中で幹部のなんだか頭のよさそうな痩せ型の人が「子どもがクロードと呼んでいたからおそらくレインフォレスト商爵のクロードだと思う」みたいな事を言っていた。クロードさんは結構有名人みたい。
「ちょっとぉ、なにやってるのよ! ちゃんと襲う相手ぐらい確かめなさいよねぇ! ほんと、あきれちゃーう」
くねっとポーズをとりながらネチネチとオネェがスキンヘッドを怒っている。
「いいじゃねぇかよ、過ぎたことだしよ! どっちにしろ、しばらくしたらバッシュの様子を見に行くって話になってたじゃねぇか」
まーね、とオネェがつぶやいて、顔を親分から逸らしたとき、はじめて私と目が合った。何でこんなところに子どもが? と言う顔でまじまじっと私をみている。
「ねえ、この子どうしたの?」
「今日攫ってきた。算術ができて文字も書けるらしい。バッシュに売りつける予定だ」
ふーん、といいながら私を上から下まで見てくる。
これはまさかお約束のファッションチェック!? 縛られたりなんだりで、ちょっと今は汚いから、甘口でお願いします。
「ねぇ! バッシュのとこ行くまで、この子、あたしが預かっていーい?」
そして両手をあわせて、くねりとお願いのポーズをとるオネエ山賊。
「別にかまわねぇが・・・・・・」
「あーん、アレク! ありがとう! 大好きよ! あなたとの子どもだと思って、大事にするわー」
うっふんとウィンクをスキンヘッドに投げるオネエ山賊。スキンヘッドの名前はアレクというらしい。アレク親分はウィンクをみて心底嫌そうな顔をしている。
「俺との子どもだと思うんじゃねぇ! あと・・・・・・情は移すなよ。売り物だ」
そしてアレクスキンヘッド親分、おなじみのこわい顔。私なんかは恐怖で足がすくんで、すばやさがガクッと下がりそうだけれども、オネエ山賊はどこ吹く風。
わかってるわよーう、とオネエ山賊はぶつくさいいながら、私のところにやってきて、なんと縄を解こうとしてくれている。
「おい、縄解くのかよ!?」
「当たり前でしょー。色々手伝ってもらいたいの。治療師あたししかいないのにみんな怪我してばかり! ちょっとしたお手伝いさん欲しかったの」
「こんな子どもあてにするんじゃねぇ。村人からいいのを見繕えばいいじゃねぇか」
「村人の中だと文字読める人いないでしょぉ? あたしせっかく薬学の本もってるし、それ読ませたほうが、効率いいじゃない。それに、このカエルが死んだような目、あたしの母性をくすぐるわー」
おめぇに母性はねえだろ、と小さくつぶやいたアレク親分はあきれたような顔をオネエ山賊に向けている。他の幹部も何も言えねぇという雰囲気なので、オネエ山賊には誰も逆らえないようだ。
ていうか、私の目って誰が見てもそんな目に見えるの? そうなの?
色々と疑問に思いつつも、やっと私は縄を解かれて、久しぶりの解放感! でも親分のこわい顔によって、すばやく動くことは無理そうなので、大人しく正座で待機する。
「あなた、名前は?」
そんな私の正面に座ってオネエ山賊が質問をした。
「リョウといいます。縄を解いてくださってありがとうございます」
「あらー、礼儀正しい子ねー! アタシはここにいる荒くれ者のお母さん的存在でコーキっていうんだけど、アタシのことはコウお母さんって呼んでね~」
お父さんではなくて、お母さんなんですね。そうですよね。
でも、クロードさんが養女にもらうと聞いたときも思ったけれど、もうそういう、家族みたいなの、嫌なんだよな……。
コウお母さんとか、絶対、言いたくない……!
よし、ごまかそう!
「はい、宜しくお願いします。コウ様」
「リョウちゃーん? コウ様じゃなくて、コウお母さんよ。ハイ、言ってみなさい!」
「でも、そんな気軽にお呼びするのは恐れ多くて・・・・・・」
と言ってみるが、オネエ山賊は、そんな私の意見には聞く耳持たずと言う貫禄で、ダメよいいなさーい、とずっと私の目を見てくる。
やだこわい。
うーん、しょうがない、オネエ山賊には逆らえない。何より、近くで親分が、そんな茶番は早く終わらせろとでも言うようなオーラを滲み出していらっしゃる。
所詮は名前だけだし、しばらくすれば別のとこに売られるんだから、まあいいか呼び方ぐらい。
「分かりました。コウお母さん。宜しくお願いします」
オネエ山賊は満足そうにうなづいた。
しばらくは、このオネエさんのお手伝いになるのかな? 手足の縄も解けたし、逃げられるかな? でも、逃げるとしてどこにいこう。レインフォレストの屋敷まで一人で戻るにはここは遠すぎる気がする。
だからといって、このまま山賊と一緒に過ごすというのは、ちょっとどうなんだろう。だってあのスキンヘッド親分の顔ときたら、何人も人を殺してそうな顔してるし、女と言う女を片っ端から攫っては食い物にしてそうな貫禄だ。
他の山賊の幹部達は見た目が30代後半ぐらいにみえるけれど、親分にいたっては顔が怖すぎて年齢不詳。人間ではない可能性がある。
隙がありそうなら、やっぱり逃げよう。
懐に抱えていたアラン特製の短剣は既に取り上げられて手元にない。アレだけはどうにか取り返して、そして、逃げよう。
*
その後親分は、30秒で用意しな! みたいなテンションで急いで準備させ、すぐに出発した。山賊って身軽なのね。
アレク親分は山賊村を去る際、村長に、『もし山賊のことを聞かれたら、白を切れ。万が一、略奪行為のことで、この村がとがめられそうになったら、俺達に脅されてやったと言っていいからな』となんとも顔に似合わず優しそうなことを言っていた。
村長の震えた様子から察するに本当に脅されてやってたんじゃないかなと思えてしまうが、村長のあの震えは高齢者特有の震えなのだろう。多分。
しかも、極悪非道な顔の作りをしているのに、アレク親分は村人に結構慕われているようで一緒に村を出る希望者を募っていたところ、村の若者はもちろん、果ては年頃の女性まで一緒についていくとたくさんの立候補があがった。
ただ、あまり人数が多くても困ると言うことで、村男3人に絞られたのだ。
あのこわい顔はもしかしたらこの世界ではかなりのイケメンハンサムになってしまうのだろうか。だとしたら私はこの世界のイケメンとは結婚できまい。
なので、総勢8人程度の団体様での出発。思ったより少ない。ちょっとしたお出かけみたいなテンションなのかしら。
スキンヘッド親分アレク、オネエ、猿顔、なんか頭よさそうな人、筋肉がすごい人の5名が、山賊のメイン幹部らしい。そのほか3名が先ほど募集をかけた活きの良い村人だ。村人は鍬とか斧とかを装備したり、防具のつもりなのか、鍋を兜代わりにしたり、銅製のようなバケツをすっぽりかぶっている人がいた。
仮装大会か、と心の中で突っ込みつつ、現在はオネエ山賊コウさんの前に座って馬に乗っている。スキンヘッドに攫われて荷物みたいに馬に乗せられたときを抜かせば、初めての馬上の人。思いのほかに高くて怖いけれど、風が気持ちいい。
月明かりが出ていて、夜なのに意外と明るい。しかも、先頭の親分や猿顔なんかは、たいまつを持ってくれているので、はぐれることもなさそうだった。
頭のよさそうな山賊の幹部が、わざわざ精霊使いを恐れて夜の出発なんて馬鹿げてますよ、そう簡単に魔法使いを派遣するわけがないじゃないか、とぶつぶつ愚痴をこぼしては、親分にうるさい黙れと言われていた。
進んでいる方角は、レインフォレストの屋敷から遠ざかっている感じがする。目的地のバッシュさんがいるところは反対方向なのか……。
これだとますます、一人で逃げたときに、行き場を失いそう。大人しく売られてから、今後のことを考えたほうがいいのかもしれない。でも売られた先の離れた地で生活するとなると、もうレインフォレストの領地には戻れない可能性が高い。
レインフォレスト家のみんなは心配してるかな、と思って、アランやカインの顔が浮かんだ。あの二人を悲しませてしまったかも知れないと思うと、ちょっと心が痛んだ。
どうにか元気でやってるよ! ぐらいのことは伝えたいけれど……。
いや、自意識過剰かな。私のことなんかで、そこまで悲しまないかもしれないね。所詮は1年ちょっと一緒にいただけなんだし。少しは悲しんでくれるだろうとは思うけれど、時がたてば忘れられてしまうような存在にちがいない。
前世の世界にガリガリ村。そこで出会った人達だって、今ごろは私のことなんか忘れているにちがいないんだから。









