山賊編①-山賊村にて-
山賊のお馬さんに連れられて、やってきたのは、何の変哲もない村だった。もう既に日が暮れていてあたりは真っ暗なので、あまり村人は外に出ていない。
ま、まさか今度は違う村を襲っちゃうの? と警戒した私だったが、火の番というか見張りをしている村人が、スキンヘッドを見るなり、「おかえりなさい」「ご苦労様っす!」みたいに話しかけているので、どうやら、山賊の村らしい。
スキンヘッド山賊ご一行は、村に着くなり、積荷を降ろすと、村長的なおじいさんの家に山賊の幹部っぽい人達4人で集まった。何故か私も連れてこられている。ちなみに私、まだ縛られたまま。幼い子どもに何たる仕打ちでしょう。これぞまさしく鬼の所業! いや、山賊の所業か。
村長的なおじいさんは、おそらく今まで寝てたみたいで、目をしばしばさせてやってきた。人のよさそうな好々爺という感じだった。それなのに山賊村の村長なのだから恐れ入る。
「村長、狩猟の帰りに商人の馬車が目に入ったから、強奪してみたが、しくじった。襲った馬車はレインフォレスト領の貴族との血縁みてぇだ。積荷の中にレインフォレスト伯の家紋もあったし、馬車の持ち主の商人は黒い髪に黄緑の瞳だった。間違いない」
スキンヘッドが怖そうな顔をさらに深刻にさせながらそう村長に報告し、目の前に用意された酒らしき飲み物をあおった。
黒い髪に黄緑の瞳ってクロードさんのことか。
村長は、ズズっとお茶みたいなものを飲むと、ほっと一息ついたタイミングで、「しゃようですかぁ」と消え入りそうな声で反応した。
村長さん大丈夫? 本当に山賊村のボスなの? 今にもぽっくり死んじゃいそうなんだけれども。
「積荷はたいしたものじゃねぇし、手を出さなければ良かったんだが、若いもんが狩猟がうまくいかなくて、先走っちまった。まあ、ないとは思うが、もしかしたら、レインフォレスト伯から俺達山賊の討伐隊が派遣されるかもしれねぇ」
すると村長さんから「ヒェー」というか細い声が聞こえた。
さっきまでしばしばしていた目が見開かれているので、たぶんすごく驚いているんだと思う。たぶん。
「まあ、ここには迷惑はかけるつもりはねぇから安心しな。どちらにしろ、俺達は近々別のところにいくつもりだったから、ここを去るつもりだ。悪いが、村から何人か元気のあるやつを連れてくかも知れねぇが、かまわねぇよな?」
ギロリ。スキンヘッドが確認のため村長をギロリと見つめる。お、お年寄りは大切に!
「ヒェ、かまいましぇん」
村長のいまにも消え入りそうな声をきいて、なんとなく上下関係が分かってきた。山賊村の村長は必ずしも山賊のボスではないみたいだ。
そんなににらみをきかせないであげて、おじいちゃんに優しくしてあげて! あと子ども(私)にも優しくして!
「ちなみに今夜中に立つ。明るくなってからだと精霊使いに足取りをつかまれるかもしれねぇからな」
おじいちゃんはコクコクとうなづいて、家から出て行った。村人達に声をかけに行くらしい。
「ところで、親分。こいつどうしてここに連れて来たんすか?」
私達に縄をかけたサル顔の、確か名前はクワマルって呼ばれていた人が私を指差しながらきいた。
サル顔さん奇遇ですね。私もずっとそれを考えていたところです。
「いやぁ、こいつ、どうしようか迷っててよぉ」
そういって、スキンヘッドはあごに手を置いて、首をかしげた。
「男児だったら、俺の知り合いで人手を欲しがってるやつがいるから、そいつに渡したんだが・・・・・・女だからな。割がいいのは娼館だが、こいつの容姿はなんというか、悪くはないが、良くもないっていうか・・・・・・花がねぇよな。死んだカエルみたいな目をしてやがるし」
なっ! し、失礼な!
でもしかし、娼館行きはどっちかと言うと避けたいルート。前世でもそういう経験ないし、ちょっと気後れしちゃう。このままカエルが死んだような目をしてやり過ごしたほうがいいかもしれない。まあ、別に意図的にそんな目をしてたわけじゃないんだけれど・・・・・・。
「だがよう、親分。あの荷馬車の主人はえらくご執心だったじゃないっすか。この手の顔が、あっち方面では人気があるのかもしれないっすよ」
ふへへっとちょっと下卑た笑いをする猿。
ちょっと、余計な入れ知恵しないでよ、このサル!
「ふーん。そういうもんかねぇ」
そういってスキンヘッド親分はギロリとあたしを凝視する。猿にそそのかされないで親分!
野生動物と遭遇したときは決して目を離してはだめだという教えにそって、私は慄きながらも目線を合わせ続けた。カエルが死んだような目で。
「確かに、あの商人の反応には俺も引っかかってんだよなぁ・・・・・。お前一体何が出来るんだ? ・・・・・・まさか魔法使いか?」
またこの質問か。なんかもう新しいところくるたびに毎回毎回聞かれてる気がする。
胸の辺りに『私は魔法使いじゃありません』とでもかいた紙を貼り付けたほうがいいですか? ええ?
と心の中では強気だけれども、私そんなこと言えない。だって相手はスキンヘッドなんだもの。
私は縛られたまま姿勢を正す。
どうしよう、なんて答えるのがベストアンサーなんだろう。
今のところ私に示されたルートは娼館ルートのみだ。それ以外のルートに行きたいのだから、女としての価値よりも、他の優秀なところを見せ付けたほうがいいのかもしれない。
「ま、魔法は使えませんが、算術ができます。あと文字も読めます。物覚えもいいです!」
最初ちょっとどもっちゃった。だって、こんないかついやつらに囲まれてるんだからしかたない。圧迫面接は良くないと思う!
スキンヘッド親分は、まあ、魔法が使えたらそんな使用人みたいな格好はしねぇよな、とつぶやいて、ちょっと思案気な顔をする。
「でもよ、算術に文字? なんでそんなのができるんだ?」
「屋敷のお坊ちゃまと一緒に授業を受けておりました!」
「ふーん。……なら、バッシュのところで高く買ってもらえそうだな」
バッシュ? 人名かな? そこに買い取られると一体全体どうなるのかが気になる。
「あの、バッシュさんのところに売られるとなると私は何をやるんでしょうか?」
勇気を振り絞って質問をしたところ、スキンヘッドはああん?と言う顔をして私を見下ろしながら、
「そんなの売られてからバッシュに聞け」
とおっしゃいました。
ねえねえ、お話しするたびに顔を怖くする必要はあるのでしょうか? 私まだ6歳よ。この人見た目どおりで怖い。
口のわるい不良転校生だけど、実は捨てられた猫を拾って優しい笑顔を向けるぐらいの意外性を求めたい。
私がスキンヘッドに慄いているとバシッと戸が開く音がして、長身の何者かが部屋に怒鳴り込んできた。
「ちょっとー! 今日出発ってどういうこと!? あたし、あんた達が暴れたせいで怪我をした村人の治療で忙しいんだけどぉ!!」
話し方が独特の方だなと思った。しゃべるときにくねくねと腰を振り、小指をピンとたてている。声は明らかに男性の声なのに、甲高い声を出そうとして失敗したようなそんな響き。
「コ、コーキか。そんな怒るなよ、ちょっとした切り傷だろ? まあ座れ」
「切り傷馬鹿にしないでくれるぅ! ちゃんと処置しないと大変なんだからぁ、もう! それに! 私のことはコウちゃんって呼んでって、いってるでしょう!」
心なしかスキンヘッドが、彼の・・・・・・彼女の? 登場でひるみをみせている。
彼? は赤茶色の髪の毛を襟足だけ女性のように長く伸ばし、それをみつあみに編んで流している。彼女、いや彼? は動くたびに何故か体をくねくね動かし、小指をぴしっと上げながら歩く。服装は動物の皮的なもので出来ているようなピッチリとしたへそだしルックのベストにこれまたピッチリとしたズボンをはいていて、私がこの世界に生まれて出会った人の中で、もっとも奇抜な人だった。
私はこういう人達をあらわす言葉を知っている。彼は、おそらく、オネェだ。オネエ山賊だ。









