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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第七部 転生少女の革命期

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番外編:リョウが口で薬を飲ませる話、リッツ振り返り編(学生の頃)

【号外!号外】

転生少女の履歴書コミックス第一巻、本日発売です!本日発売です!


藤本れもち先生による転生少女の履歴書のコミックス第一巻が本日発売となります!

嬉しい!嬉しいい!!

皆様、いつもありがとうございます。


感謝の気持ちも込めての番外編更新も今回の分で最後です。今回はリッツ視点となりますのでお気をつけくださいね!

コミックスと一緒に最後まで楽しんでいただけると幸いです。

「あれ、アラン? もう調子はいいの?」

 講堂に入ると、既にアランが着席しているのをみて、僕は声をかけた。


 アランは先日風邪を引いてしまい、しばらく寝込んでいたのだ。体調がよくなってからも、念のため数日はお休みすると言って、学校には来ていなかった。


「リッツか。もう大丈夫だ」

 そう答えたアランの隣に座る。


「よかった。今風邪が流行ってるみたいだよね。サロメ嬢も風邪を引いたらしいよ」

「らしいな。今流行ってる風邪、結構しんどいぞ。幻覚っていうか変な夢みるし」

「夢? まあ体がだるいと悪い夢見ちゃうよね。ちなみにどんな夢だったの?」

「リョウが出てきた」

「リョウ嬢の? へー、それじゃあ、悪い夢じゃないんじゃないの?」

 と思わずニヤニヤして答えると、アランが「なんだよ、その顔……」と言って不満気な視線を送ってきた。


「別に? それよりも夢の中のリョウ嬢は何をしてくれたの?」

僕がそういうと、アランは、考えるように目線を上げた。


「リョウは、リンゴを剥いてくれた。し、しかも……リンゴを俺の口元まで運んでくれたんだ。おいしかった。夢だとは思えないぐらい、おいしかった」

 そう言って、その時のことを思い出したのか、アランは満足そうな顔で頷いた。


「へー! そんないい夢なら、問題ないじゃないか」

 というと、アランの満足そうな顔が少し陰った。


「まあ、ここまでは良かったんだけど……俺も、その、熱でぼーっとしてたから、普段は言えないようなことを、その、お願いして、でも、リョウはそれを受け入れてくれて、それで……それで……」

 とアランが、目一杯溜めてから、ため息のように言葉を続けた。


「リョウが、いきなり歌いだしたんだ」

「う、うた?」

「ああ、リョウが突然歌ったんだ。それで俺はこれが夢だと気づいた」

「どんな歌?」

「わからない。びっくりして、あまり聞いてなかったけど、なんか勢いのある歌だった覚えがある」

「まあ、夢って突拍子もないこと起こるもんね。ところでさ、リョウ嬢にアランは何をお願いしたの?」

 何気なく僕がそれを聞くと、アランは体を硬直させて顔を赤くした。


 あれ? この反応は……。

 まじまじとアランを見ていると、アランが怯えるように目線をそらした。


 アラン、君は一体夢の中でリョウ嬢に何を口走ったの? なんだか面白い予感しかしないけど。


 必死に緩みそうな口元を我慢して、さりげなさを演じながら、「どんなこと、お願いしたの?」ともう一度聞いてみた。


「べ、別に大したことはお願いしてない。そ、それに熱で、こう思考が、ほら、ぼーっとしてたし! でも、よく考えたら、夢でよかった。リョウにあんなこと言ったってばれたら、大変なことになってた……」

 そう言って、重い溜息を吐くアラン。そんな大層なことを口走ったの……?


「そんな変なことを、お願いしたの?」

「く……」

 とアランは唸ってそっぽを向いた。顔が真っ赤だ。

 そんなに顔が赤くなるようなことを……?


「アハハ、アラン様一体師匠にどんないかがわしいことお願いしたんですか?」

 いつの間にか近くの席についていたクリス君が会話に混ざってきた。


「ば、ばか! お前、いかがわしいとかいうなよ!」

 と必死になるアランをクリス君が一通り笑うと、「そういえば、僕、昨日師匠にお酒を飲むときに周りの人が歌う歌について聞かれたんだけど、アラン様何か知ってます?」と突然話題を振ってきた。


「お酒を飲むときに歌う歌? いや、聞いたことない。なんなんだ?」

「いや、僕もよくわからないんですよね。師匠の話だと、お酒とかを飲むときに、周りのみんなで音頭をとりながら飲むための歌らしいんですよ。レインフォレスト特有の文化らしくて。でも、僕聞いたことなくて。僕の家族でお酒を嗜んでるような人はいないから、知らないのかなぁって思ったんですけど、アラン様も知らないんですか」

 と首を傾げたクリス君に「知らない」とアランが即答しているのを見て、僕はふと嫌な予感がした。


「ねえ、アラン、夢の中のリョウ嬢がくれた薬って飲み薬?」

「ああ、そうだけど」

「となるとさ、なんかこの話さっきアランが言ってたのと似てない?」

「似てるって何がだ?」

「だから、歌のところ」

「歌?」

「さっきアランが、夢の中のリョウ嬢が突然歌い出したって言ってた」

「ああ、言ったな」

「やっぱりそれ、夢じゃないんじゃない?」

「夢じゃない?」

「薬を飲ませるために、リョウ嬢が歌ってくれたんじゃないかな」

「え……」

  絶句するアランに僕は畳みかけるように質問を投げることにした。


「それで、アランは、リョウ嬢にあのとき本当は何をお願いしたの?」

  たぶんアランがリョウ嬢にお願いしたことで、リョウ嬢は歌を歌いだしたんだ。


  アランが一体どんなことを口走ったのか、気になる。

  アランは、おろおろした様子で口を開く。


「そ、それは……だ、だから、俺はリョウに……」

「そんなに気になるようでしたら、私が教えて差し上げましょうか?」

 カテリーナ嬢とシャルも講堂にやってきたようで、カテリーナ嬢がそう言いながら近くの席に座った。


「な、なんでお前が、知ってるんだよ」

「それはもちろん、リョウさんに聞いたからよ」

 と勝ち誇ったようにそう言うと、アランは面白いぐらい肩をビクつかせた。


「やっぱり、あれは夢じゃなかったのか……!?」

 そして顔色が真っ青になる。


「ということは、俺がリョウに口移しで薬を飲ませてほしいってお願いしたことを、リョウも知ってるってことか?」

 思わずといった感じでつぶやいたアランの言葉に目を見張った。


 本当に? 本当にアラン、そんなこと言ったの?

 こっそりとアランを見たら、いまさら口走ったことに気づいたらしく「あ、いや」とか言葉にならないうめき声を言って顔を赤くさせていた


 ……うわー。


「リッツ、うわーみたいな目で俺のことを見るなよ!」

 僕が思わずうわーって思って見ているとアランに怒られた。


「うわー」

「クリスは口に出して言うなよ!」

 口に出したクリス君はもっと怒られてた。


 アランが、顔を赤くさせながら、荒く呼吸をする。


「だ、だって、しょうがないだろ! 風邪でぼーっとしてたし、リンゴとか剥いてくれて、すごく優しかったから、こう、つい、ぽろっと」

 僕も含めそんなアランの様子をニヤニヤと眺めていたのだけど、シャルだけ真面目な顔で口を開いた。


「私、何も知らない純粋なリョウ様にそのようなことをお願いしたアラン様に、正直失望しました」

「正直すぎる!」

 シャルの辛辣な言葉にアランは吠えた。


 シャルはリョウ嬢のことになると、すごく切れ味の鋭い言葉を放つ。


「でも、安心なさい。リョウさんは何を思ったのか、アラン様が言った口で薬を飲ませるっていうのを、歌を歌って薬を飲ませることだと思ってるみたいだから」

「……だから、リョウはあの時、歌いだしたのか」

 アランがそう小さくつぶやいた。背中に哀愁が。


 わかるよ、リョウ嬢にアランの要望が気付かれなかったのは、幸いだったかもしれないけれど、まったく察してくれないというのも、全然意識されてない感じがして、悲しいよね。


 哀愁を帯びたアランの背中をさすっていると、カテリーナ嬢が「それにしても、アラン様のそ

の無謀なお願いに、レインフォレストでは口で歌を歌って飲み物を飲ませる文化があるんじゃないかと思ったリョウさんって、本当に不思議よね」と言った。


「確かにね……」

 みんなして神妙に頷いた。


「あー、だから、師匠はレインフォレストにはそう言う文化があると思いこんでるから僕に、色々きいてきたのか!」

 クリス君が思い出したようにそう言ってきて、そして僕は気が付いてしまった。

 恐る恐る口をひらく。


「ということはさ……リョウ嬢は、またその文化のこと聞いてくるんじゃないかな。それで、もし、レインフォレストにそんな文化がないってわかったら……」


「殺される!」

 アランが絶叫した。


「いや殺されはしないとは思うけどね!?」

「いや、でも、俺が、口移しで飲ませて欲しいって言ったってばれたら……」

「流石に師匠もそこまではしませんよ、多分」

「多分ってつけるなよ!」

 アランはクリス君にそう叫んで、青ざめた。


 やばい、アランには申し訳ないけれど、ちょっと楽しくなってきた。本当にアランといると、面白い。

 でも、アランは大事な友人だし、困っている時は力になってあげないとね。


「アラン、しょうがないね。手伝うよ。もし、リョウ嬢がアランにその文化をについて聞いてきたら、答えられるようにしておこう。僕たちで勝手に作っちゃえばいいよ」

 僕がそういうと、アランが、目を見開いた。


「リッツ! お前! いい奴だな!」

「しょうがないわね……私も手伝うわ。あなたにはいつも笑わせ、失礼、お世話になっているし」

 カテリーナ嬢が本音をほとんど漏らしながらそう言うと、アランは気づかなかったのか、カテリーナ嬢の申し入れに感動しているそぶりを見せた。


「私も手伝いますけど、もうこんなことはしないようにしてくださいね」

 とシャルも優しく微笑みかけると、感極まったアランが、「カテリーナ! シャルロット!」と二人の名前を呼んだ。


 みんなで、力を合わせればきっとやり過ごせる、そう思った時にクリス君ののんきな声が聞こえてきた。


「あー、僕も手伝いたい気持ちはあったんですけど、アラン様。もう遅かったみたいです」

「え?」

 僕たちは嫌な予感を覚えて講堂の入り口に目を向けた。


 講堂の入り口にリョウ嬢の姿が見えた。僕たちの姿を見つけると、笑顔でこちらに歩いてくる。心なしかいつもより機嫌が良さそう。


 リョウ嬢は、こちらにやってきて、「おはよう」と言うと、アランを見つけてますます笑みを深めた。


「私、アランに聞きたいことがあったんですけど」

「えっ、お、おおおお俺に聞きたいこと?」

 みんなに緊張が走った。アランに至っては顔面が蒼白になっている。


「はい、アラン、レインフォレストで流行ってるお酒を飲ませる時の掛け声について教えてもらってもいいですか?」

 いつもよりも優しげな笑顔でリョウ嬢がアランに微笑む。


 ……終わった。


 アラン以外のみんなで目線を合わせて、そして首を軽く振った。

 アランがすがるような目で僕を見てきた。


「アラン、何があっても骨は拾うよ」

 そう言って、力強く肩を叩いた。


 アランは一瞬恨めしそうな目をして見てきたが、あきらめたように肩を落とし、下を向く。


 そして少しすると、近くにいる僕にしか聞こえないぐらいの小さい声で、「俺も、うろ覚えだけど、リョウの歌はちょっとだけ聞いた。あんな感じで歌えばいいんだろ」と暗い声でつぶやいて、顔を上げた。何か覚悟を決めた顔をしていた。


「ア、アラン?」

 僕はアランの気迫に思わず声を出す。


 そしてそのまま、アランは、挑むような目でリョウに言った。


「お酒を飲ませる時の掛け声か。ああ、歌、みたいなやつだろ? わかった。教える」

 そういったアランが、そのまま手拍子を入れて『飲め』的な単語をたくさん使った歌を聞いたことがないようなでたらめなリズムで歌いだした。


 授業を受けるために集まりだしていた講堂の生徒達の視線を感じる……。ちょっと恥ずかしい。でもアランは堂々と歌い終わった。


 アラン、君って本当に、すごいよ! よくやり切ったね! 僕は絶対にできないよ。しようとも思わないけど。


 歌い終わったアランは、唾を飲み込んでリョウ嬢の反応をうかがった。


 歌っている間、驚いてるように目を見張っていたリョウ嬢だけど、歌い終わると、「アラン、ありがとう。参考になりました」と言って笑顔を見せてくれた。


 アランは、思いっきりほっとしたような顔をしたし、陰ながらアランを見守っていた僕らもほっと息を吐き出した。

「アラン、良かったよ」

 僕はアランの肩を叩いた。クリス君やカテリーナ嬢、それにシャルもいい笑顔でアランの頑張りを讃えた。


 お互いに微笑み合う僕たちに、リョウ嬢は、不思議そうに首をひねっていた。


 なんだか、色々あったけれど、朝から、皆で一つの問題を解決したという爽快感が心地良い。



 この後、何故か王都にアランが即興で作ったでたらめな歌が酒場ではやり始めて、アランが頭を抱えることになるのだけれど、そんなことを考えもしてなかった僕らは、爽快な一日の始まりに皆で笑いあったのだった。



番外編、最後までお読みいただきありがとうございます!

コミックス発売記念番外編更新もこちらで最後です!


学生の頃のアランはなんか、まだちょっと素直じゃなくて子供らしさがあってかわいいなあと。

最終話付近のアランは、もう自分の気持ちに正直になって大人っぽくもなってるから、すごく新鮮な感じでした。

学園編、楽しかった…!

リョウもアランも、初登場時から比べると、すっかり成長していて感慨深い。

ちなみにリョウの成長は、美麗なコミックスで振り返ることができるのでおすすめです!(宣伝)


本日は、転生少女の履歴書のコミックス一巻の発売日。

週末のお供に是非!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白すぎて朝の5時まで一気読みしました ゲスリーが良いキャラ過ぎてゲスリールートも見たかったです!
[一言] あ、可愛い。
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