番外編:リョウが口で薬を飲ませる話、カイン編(学生の頃)
【大事な前書き】
昨日更新した番外編の続きです。今回はカイン様回。
リョウが学生の頃の話です。魔物が学園に襲い掛かる前あたりの平和な日々ですね!
どうぞよろしくお願いします。
転生少女の履歴書コミックスは明後日9月9日金に発売です!
授業が終わって、コウお母さんのお店に到着!
お店の中に入ると常連さんがいたので、軽く会釈をして奥の部屋に入ろうとしたら、接客中のコウお母さんが私に声をかけてきた。
「リョウちゃん、おかえり。今、カイン君をアタシの部屋で寝かせてるんだけど」
いや、ええ!? 寝かせてるって、それって、ええ!? とうとうコウお母さん、カイン様を無理やり!?
「コ、コウお母さん! それは犯罪ですよ! 流石の、コウお母さんでも、それは!!」
私がうろたえながらそう抗議すると、コウお母さんは、もーう! と言って口を尖らせた。
「やーねー。風邪をひいて薬もらいに来たみたいなんだけど、高熱で倒れそうだったから、休ませてるだけよー。まだ襲ってないわよーう。まだ」
と言ってウィンクを投げてきた。
まだ襲ってないんだー。よかった「まだ」で、うん!
「それで、まだアタシ仕事残ってるから、台所にあるスープ持って、カイン君のところにいってあげてくれる? あと薬も持って行ってね」
ああ、なるほど、カイン様の看病ですね。
「わかりましたー」
と答えてそのままお店の奥に入り、台所で用意されていたスープをもらってカイン様がいるというコウお母さんの寝室にお邪魔した。
ノックをして「失礼しまーす」と言いながら、入るとまだベッドの上で寝ているカイン様がいらっしゃった。
お小さい頃から変わらず、天使の寝顔!
近くのテーブルにスープや薬をお盆ごと置くと、ちょっとした食器の音に気付いたカイン様が目を開けた。
起こしちゃったか。
「カイン様? お加減大丈夫ですか?」
「ああ、リョウか。うん、大丈夫。少し寝たら、だいぶマシになってきたみたい」
「あ、じゃあ、スープ飲めそうですか? カボチャのスープです」
「え、そんな、申し訳ないよ。寝かせてもらった上に、そこまで……」
と申し訳なさそうな顔をしてくるカイン様。風邪で伏せっておられても相変わらずイケメンである。
「気にしないで大丈夫ですよ。コウお母さんが好きでやってることですし、はい、どうぞ」
と言って改めてスープの入ったお皿を差し出すと、カイン様は、「ありがとう、今度何かでお返しするよ」と言って受け取ってくれた。
「アランの風邪が移ったんですかね?」
スープをふーふーしながら食べてるカイン様を見ながらそう問いかけると、困ったように笑ってカイン様は頷いた。
「弟の風邪を貰うなんて情けないけど、多分ね」
「ふふ、じゃあ、いいお薬持ってきましたよ。アランにも飲ませたらすぐに治ったので、すっごい効き目です!」
そう言って、コウお母さん特製飲み薬を見せた。
「ありがとう。本当に色々申し訳ないな。ところでリョウはアランのお見舞いに行ったの? アランは男子寮の部屋で臥せっていたと思うけど」
「実はこっそり男子寮に忍び込んで、りんご食べさせて、お薬飲ませたんです」
「ハハ、リョウらしいね。でも、アランはリョウが来てくれたからすごく喜んでいたんじゃないかな? 風邪が治ったのも薬のおかげだけじゃなさそうだ」
と言って楽しそうに笑うカイン様。
けど別に、カイン様がおっしゃるような喜ぶ子分はお目にかかれなかった。最後なんか勝手に寝たし。
「んー、そうでもなかったですよ。わたしが口でお薬飲ませてあげたら、なんか、不貞腐れた感じで勝手に寝ちゃいましたし」
「へーそうなんだ……って、えっ!? 薬を口で……!?」
「はい、なんか、アランがアイリーン奥様が旦那様とよくやってるとか言って、おねだりしてきたので、恥ずかしいの我慢してやってあげたんです」
カイン様がスープを飲む手を止めて、驚きの表情で私を見た。
そ、そんなに驚くことだったろうか。まあ、確かに深窓のご令嬢たる私が、いっきいっき! なんてコールをするとは思わないかもしれない、うん。
……いや、でも驚きすぎでは!?
「カ、カイン様?」
「あ、いや、何でもないんだ、けど……そういうのは、何というか、まだ早いんじゃないかな……」
そう? あ、でも、確かに本来は、お酒の場で使う奴だし、あんまり子供がしちゃいけないのかな? いや、でも、この国、別に何歳以下お酒禁止令なんてないけれども。
「そうですか? でも、私も初めてで慣れてなかったから、だからアランも不満そうだったのかな……」
「いや、アランが不満に思うことはないと思うけど……」
と言いながら呆然としたような顔をしたカイン様。
アランが不満に思うことはないとは言うけれども、でも、実際アランはなんか不服そうだった……。
このまま、アランにあいつメッチャコール下手なんだぜって思われてたら、癪だ。
改めてカイン様を見て考える。
私のコールのどこがだめなのか、フォロリストのカイン様なら、なにかアドバイスをいただけるんじゃないだろうか……。
「……あの、カイン様が、もしよければなんですけど、カイン様にも口で飲ませてみていいですか? それで、何がいけないのか教えてもらいたいんですけど」
私がそういうと、カイン様はものすごくびっくりした顔をして私を見た。
「いや、えっ、それは、その、ダメなんじゃないかなと思うんだけど、リョウだって、その、あれだろうし、それに……アランにも、その……」
と、なんかカイン様にしては珍しくすっごい焦ってるご様子。
なかなかこんなカイン様はお目にかかれないよ。どうしたんだろ。熱が上がってきたのかな?
「いや、私は別に、恥ずかしいですけど、でも、アランにバカにされたままよりかはマシです。だから、あの、今からやるので、何がダメだったか、教えてくれませんか?」
「いや、でも、その、こ、心の準備が、というかそれ以前に、やっぱりそういうのは、その……」
ますます顔を赤くさせるカイン様。
これは……風邪が悪化したっぽい! こんなことお願いしてる場合じゃない!
「すみません、体調が悪いのに、私自分の話ばかりで! とりあえず、早くお薬飲みましょう!」
慌てて、スープ皿を回収して薬の入った瓶を渡しつつ、「ちょっと苦いんですけど飲めそうですか?」とカイン様に問いかける。
カイン様は、顔を赤くさせたまま、薬を受け取った。
けれど、なんか、心ここにあらずなカイン様が、おもむろに私を見たり薬を見たりして「リョウとアランが、口で……」と何やらボソボソ言ってる。
どうしたんだろう。もしかして、やっぱり、コールして欲しいのかな。
カイン様はお小さいころから意外と苦味のある野菜は苦手だった。コールのリズムで一気に呷りたいのに、カイン様のことだから我慢してるのかも……。
ありうる。それに、私も私のコールについてのご意見をもらいたい。よし。
「カイン様、私が、お薬飲ませてみせます!」
私がそういうと『えっ』という顔をしたカイン様に向かって手拍子を合わせた。
「カイン様のかっこいいところが見てみたい! ハイ、飲ーんで飲ーんで飲んで!のーんでのーんでのんで! イッキイッキ! お薬いっき!」
気づくとカイン様が唖然としたような顔で私のことを見ていた。
「もしかして、口で飲ませたっていうのは、今の、その、歌みたいなもののこと?」
「? はい、そうです。やっぱり変でした? 下手ですかね?」
「いや、あの、その……」
と何度か言葉をつっかえるカイン様がどんどん顔を赤くした後に、薬を呷るように一気飲みした。
「ごめん、リョウ、今、私は自分が許せないんだ。変な想像を……自分が恥ずかしい」
そう言って、顔まで布団に包まって、横になった。
「カイン様……?」
「ごめん、リョウ、ちょっと冷静になりたいから、その、このまま寝させてもらうね、ごめん」
そして、布団の中のカイン様からもごもごとそういう声が聞こえた
コールの感想を聞きたかったんだけど……どうも聞けそうな雰囲気じゃないな。
やっぱり、下手なのかな……。
「あ、じゃあ、あの、お身体休めてくださいね」
と、どうにかカイン様に声をかけてから、そのまま部屋を出た。
一体、私のコールの何がいけないんだろう……。
【宣伝】
転生少女の履歴書コミックスは明後日9月9日(金)に発売です!
楽しみですね!わくわく!