番外編:リョウが口で薬を飲ませる話、アラン編(学生の頃)
【必ず読んでほしい前情報】
転生少女の履歴書完結後も楽しんでくださっている皆様、本当にありがとうございます!
本日は転生少女の履歴書のコミックス第一巻発売記念で、番外編を更新します!ぱふぱふ
今回用意した番外編は、小説版転生少女の履歴書4巻の巻末おまけに掲載した小話(活動報告に載せていた小話の改稿したやつ)の続きです!
続きということになるので、その前提となる小話をまず掲載いたします。
全部で四話。最後の四話目が新しい話になります。
このお話は、リョウがまだ学生時代の話です。
学園に魔物が襲い掛かる前ぐらいになります。
そしてですね、書籍版の設定で書いてるのでクリス君というwebには出てこないキャラが四話目あたりで現れますがその点はご了承くださいませ。
それではどうぞお楽しみください。
あと、藤本れもち先生による転生少女の履歴書コミックス一巻は、9月9日(金)発売予定です!!絶賛予約受付中!
コミックスも楽しんでいただけましたら幸いです。
アランが連日の雨に体調を悪くしたらしいので、こっそり男子寮に忍び込んで、アランの部屋にやってきた。
扉をノックして開けてもらったんだけど、かなりフラフラしてて、私の顔を見て、「……夢?」とか寝言を言ってきたので、「現実だよ」と答えて、部屋の中に入れてもらった。
お土産のコウお母さん特製の風邪薬と果物をサイドテーブルに置いて、なんかフラフラしたままのアランをベッドに寝かしつける。
「アラン、大丈夫ですか? 薬飲みました? 食事は?」
「薬は、まだ飲んでない。お腹も空いてないから、何も食べてない」
「ダメですよ、それじゃあ元気になれないです。私、リンゴ持ってきたので剥きましょうか?」
「……うん」
とアランが元気なく頷くので、これは結構重症だなぁと思ってリンゴを剥いて、小さく切ったリンゴをお皿に載せた。
「アラン、少し起きれそうですか? リンゴむけたんですけど」
と言うとダルそうな顔をしたアランが、なんか、小声で何か言ってる。
よく聞こえなかったので、耳を近づける。
「りんご、食べさせて欲しい。……お父様も前、風邪ひいた時に、お母様に食べさせてもらってた……から……」
といって、さっきよりも熱が上がったのか、ますます顔が赤くなってる気がする。
どうやら、口に直接りんごを運んでもらいたいらしい。
まさかこの子分、親分にアーンをしてもらいたいのか。
普段なら絶対にやらないけれど……弱ってる子分に冷たくするのも気が引ける。
それに実際アランは、結構弱っているように見えるし、りんごを自分で食べることすら辛いのかもしれない。
私はアランの枕を少し高くして、切ったリンゴにフォークを刺して、口元に持っていった。
おもむろに口を開けるアランは、結構満足そうな顔をして、リンゴをシャクシャクと咀嚼する。
ゆっくりでいいですからねー、とか言いながらリンゴを食べさせていたら、結局リンゴをまるまる一個平らげた。
食欲が戻ってきたのかもしれない。いい兆候だ。
心なしか顔色も良くなってきた気がするし。
りんごを無事に平らげたアランに、今度はコウお母さんが調合したお薬をだしてあげる。飲み薬タイプで、即効性があるすごいやつ。
「コウお母さん特製の風邪薬ですよ! これを飲めば一発で治ります」
しかし、アラン坊や瓶に入った怪しげな色の薬を見て、すごく嫌そうな顔をして、「苦そう……」と一言呻いた。
まあ、苦いことは否定しない。
「大丈夫です。苦いのは一瞬です! お薬飲んでください」
という親分の命令なのに、アランは苦い薬を前にまだ動けずにいる。
しかし、私だって譲らないよ! せっかくコウお母さんが用意してくれたんだもん! 飲んでもらわないと帰れない!
私が無言の圧力を送っているとアランが小さくため息を吐いて、薬に手を伸ばす。
けど途中で何か思いついようなハッとしたような顔をして、恐る恐るという感じで私の顔を見た。
「どうしたんですか?」
「薬、なんだけど、こ、この薬もリョウから……こう、直接、飲ませてくれたら……お父様とお母様もたまにふざけて、こう、お酒なんかを……直接……」
「え? お酒を?」
「だ、だから、口で、薬、飲ませてくれたら……」
お酒を口で飲ませるって……ああ、なるほど。
それにしてもアイリーンさん御夫婦、いい大人が子供の前で何やってるんだ。
「いや、うそ、今のは嘘だ! 今日はリョウが妙に優しいから、だから、もしかしたらって、だから別に……ちがうからな!」
と何故か全力で取り消してきたけど、どうしたんだ子分よ、いきなりあらぶって。
親分がそんなことしてくれるはずない! みたいな顔してるけど、親分は寛大よ。口で飲ませるぐらいなら、別に……。
「別にいいですよ。でも私、そういうのやったことないので多分下手だと思うんですけど、いいんですか?」
「えっ! い、いいのか!?」
「いいですよ! でも、本当に初めてで、よくわかってないですし、ガッカリしないで下さいね」
「し、しない……!」
そう言ってアランは期待に満ちあふれた目で私を見てくる。
いやー、なんかすごい期待されてるけど、ほんと自信ないよ。
私はアランにコップを持たせて、そのコップに飲み薬を注ぎ入れた。
とくとくとくと、いい感じの音が鳴る。
そして、大きく深呼吸をして、前世の記憶を探る。
私は、年齢的にもそういったものには疎かったから、実践したことはなかった。
でも、テレビとかで聞いたことがあったし、多分できると思う。
リズミカルで、でもちょっと強引なぐらいがいいんだよね。よし。
「アラン、お薬持ってるね! ちょっと一気に飲んでみよう! ハイ! イッキ、イッキ! 飲んで飲んで! イッキイッキ! のんでのんで! お薬のんで! アランアラン! イッキイ……」
と言ってる途中でなんかアランが固まってることに気づいた。
心なしか30年ぐらい一気に老けたような佇まいだ。
あ、やっぱり、ダメだった? 下手すぎたのかな……?
前世では未成年で終わってしまったし、こういうコール? っていうのかな、口でいい感じに場を盛り上げてお酒とかを飲ませたりとかしたことなかったからよくわからなくて……。
口で飲ませるってそういうことだよね?
そういう場に実際行ったことすらないし。
とりあえず、イッキとかいうのをリズミカルに言えばいいのかと思ったんだけど……。
「ア、アラン様?」
私が話しかけるとやっとアランは動き出した。
「なんだ、やっぱり夢か。いきなりリョウが変な歌みたいなのいいだすとか、ほんと夢って意味わからないよなぁ。あーあ。だいたいリョウのくせに優し過ぎると思ったんだ」
とぼそぼそアランがこぼしている。
え、なんか今変な歌とかいった? 気のせいだよね?
別に音痴じゃないと思うんだけど!
子分のために私、恥ずかしい気持ちを我慢して、頑張ったんだけど!?
うちの子分がそんな生意気なことを言うはずがない、という気持ちでアランの言動を見守っていると、アランがおもむろに薬を飲み干した。
そして、すっごく渋い顔をする。
「夢なのに薬苦い。なんか変な夢っていうか、リョウの幻覚まだ見えるし、もうやばいな、俺。寝よ」
と言ってコップをサイドテーブルに置くと、いそいそと布団に包まって横になってそのまま寝息を立てはじめた。
え? なにこれ。何いきなり、私の頑張り無視して寝始めたの、この子分!
私は、お前全快したあと覚えとけよ、と思いながらアランの部屋を後にした。
次はカイン様編です!
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男児「うえーんうえーん」
タゴサク「幼子よ、どうしたのです?」
男児「名前を言うのも恐れ多いあのお方の尊さのすべてが描かれた聖書が欲しいのに、手に入らないよぉ」
タゴサク「ふむ。名前を言うのも恐れ多いあのお方の尊さのすべてが描かれた聖書が手元にない心もとなさ、わかりみを深く察しますよ。ですが、幼子よ、ご安心なさい。あの方は心広きお方、求めればすべからく慈悲を与える御方です。今手元にないのは、まだ時期ではないからでしょう」
男児「時期? いったいいつになったら僕は名前を言うのも恐れ多いあのお方の尊さのすべてが描かれた聖書が手に入るの?」
タゴサク「名前を言うのも恐れ多いあのお方の尊さのすべてが描かれた聖書がご降臨されるのは、9月9日(金)です!」
男児「9月9日!? それって今週の金曜日って…コト!?」
ということで、転生少女の履歴書コミックス第一巻は今週金曜日の9月9日発売です!予約受付中!どうぞよろしくお願いします!