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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第七部 転生少女の革命期

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エピローグ後編

うわーん!お待たせしました!転生少女の履歴書最終話です!!!涙

小説家になろうという素晴らしいサイトを知って、夜更かしして色んな面白い作品を読みまくって、勢い余って自分も書いてみようと思い立ち、書き始めたのが『転生少女の履歴書』(旧題:ハイスペック女子高生の異世界転生)でした。


気づけば100万文字超え。

当初、ぼんやりと思い描いていた最後のシーン。皆さま支えられながら、ここまで書けたこと、幸せです。

本当にありがとうございました。

それでは最終話をお楽しみください(感涙)




「アラン……」

 口からこぼれたその声は緊張で妙にかすれてしまった。

 名前を呼ばれて、こちらを向いたのは、間違いなくアランだった。

 まさか、もう再会できるなんて……。

 緑色の瞳は相変わらず綺麗で、懐かしい。


 そしてアランは、私に気付くと目を見開いて固まった。


 ―――ドサ


 アランが持っていた荷物が地面に落ちる。

 紙袋いっぱいに詰められていた林檎が地面に広がっていく。


「なんで……リョウが……」

 信じられない、という感じで瞳が揺れている。

 私だって、まだ心の準備なんてできてない。

 確かにアランを追いかけてここまで来たのは私だけど、まさかこんな突然、こんな風にアランと再会できるなんて。


 思わず息をするのも忘れる勢いで二人で固まっていると、アランがまず視線を下げた。


「相当疲れてるみたいだ。まさかリョウの幻まで見るとは……」

 そう言ってこめかみを揉みながらアランが首を横に振る。

 その顔は悲壮な雰囲気すらあった。


 アランが、私のことを幻か何かだと思ってる……。


 遅れて状況を理解した私は、口を開いた。


「幻じゃ、ないんだけど……」

 私の声はどこか頼りなくて、我ながら恥ずかしいのだけど震えていた。


「ま、幻が、幻じゃないとしゃべってる……俺はもうだめかもしれない……」

 アランが意気消沈した。まだ私のことを幻だと思ってるみたいで、私も意気消沈した。


 いやいや、ここで落ち込んでいる場合じゃない。

 私は唾を飲みこんだ。そして忘れそうになっていた息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。


 今さらビビるな、私。

 ウヨーリを昇天させて、皆とお別れをして、アランに会いにここまで来たんだから。

 ここで私が尻込みしてたら、愛の伝道師コウお母さんに怒られる!


「アラン、幻じゃない。私、追いかけてきたの」


 私がそう言うと意気消沈していたアランは顔を上げて信じられないようなものを見るような目で私を見る。


「追いかけて……?」

 未だに信じられないらしいアランに、私は近づく。

 本物であることをアピールするため両手を広げてみせた。


「本当だよ。私、アランを追いかけてここまできたの」

「幻じゃない? 本当にリョウなのか?」

 目を見開いて驚くアランに、私は頷いた。


「いや、でも、な、なんでリョウがこんなところに……?」

「アランが言ってくれた、でしょう? 私と一緒に、隣国に行ってくれるって」

「言ったけど、でもそれをリョウが……」

 そう言ってアランは苦し気に眉根を寄せた。


「あの時のことは、ごめん。アランを傷つけるつもりはなかったんだけど、いや、何言っても言い訳にしかならないと思うけど、アランと一緒に隣国に行きたいって言う思いは嘘じゃなくて……」


「そうか、分かった。母様や、カイン兄様に、何か言われて俺を連れ戻しにきたんだな? ……でもごめん、わざわざここまで来てくれて悪いけど、俺、戻るつもりないから」

 思ってもいない方向に話が行ってしまい、私はハッと息を飲んだ。


「違う! 連れ戻しにきたんじゃない」

「いいよ、別に、怒ってない。でも、俺、帰るつもりないんだ。向こうにいると、ずっと苦しいから……。だからもうリョウは帰ってくれ、いや、帰るべきだ。向こうにはリョウを必要としている奴らがたくさんいるだろ?」

 頑なに、私の言葉を聞いてくれないアランに、私は悲しくなった。

 もしかして、いいや、やっぱり、もうアランにとって私は……。


「……もう、アランにとって、私は必要じゃないの?」

 私がたまりかねてそう口にする。

 体が鉛のように重く感じた。

 もしそうだとしたら、悲しい。


 想像するだけでも悲しくて辛くて、私は悲しみを紛らわせるために再び口を開く。


「確かに、私を必要としてくれる人が、向こうにはたくさんいるかもしれない。でも私、私は……。向こうに置いてきたたくさんの人達の誰よりも、アランに必要としてほしくて、側に居たくて、ここにきたの」

 私がそう必死に言うと、アランは、傷ついたような顔をした。


「リョウ……もうやめてくれ。またそうやって、俺の心を掻き乱すのは」

「だって、アランが私の話を聞いてくれないから!」

「リョウはいつもそうやって俺に期待だけさせて……! もっと言動に気をつけないと、勘違いするだろ!」

 そうアランは声を荒らげた。

 言ってる意味がわからない。


「勘違いって何が?」

「リョウが俺のことを好きになってくれたとか、そういう勘違いだよ!」

 思わず言葉を失った。アランの言った『好き』と言うのが、友人同士の友愛のことではないってわかる。


 そうだ。私が、アランを追いかけたのは、私、アランが好きだからだ。

 その好きはもちろん、特別な好きで、決して友人としてとか、人間としてとかそういうものじゃない。


 今までずっと、アランを追いかけなくちゃ、謝らなくちゃ、アランと一緒にいたいって気持ちだけでここまできて、自分の気持ちに向き合うのを置き去りにしていたけど。

 そうだ、私は、アランのことが好きなんだ……。


 それなのに、私、アランに自分の気持ちをまだ言ってない。


「ほらな、思ってもみなかったって顔してる。リョウは、いつもそうだ」

 ふてくされたようにいうアランがそっぽを向く。

 私はアランにもう一歩近づいて距離を詰めると、彼の手に自分の手を重ねた。


「アラン、好きだよ。私アランが好き。特別な、好きだよ。……そうじゃなきゃ、ここまでこないよ」

 アランにちゃんと伝わるように、慣れないながらも、恥ずかしさで顔を赤らめながらも、まっすぐアランを見上げてそう言った。

 するとアランは、目を見開いて私を見下ろす。

 そしてそのまま微動だにしない。


 どうしよう、アランが彫像になってしまった。

 息、してる……?

 不安になってアランの口の前に手を当てようとして――。


「わっ」

 強い力で腕を引き込まれた。

 そしてそのままアランの腕の中にすっぽりと納まる。


 こ、これは、もしかして抱きしめられている!?

 

 いやにうるさい心臓に、何故か体中の熱が上がっていく。

 特に顔に集まる熱と言ったら尋常じゃない。

 

「いやならいやって言ってくれ。このまま何も言わなかったら、俺、本当の本当に、勘違いするからな!」

 アランの焦ってるような、かすれた声が私の耳元で響く。

 突然のことに驚いたけれど、アランにこうやって抱きしめられても全然嫌じゃない。

 私はアランの胸に頭をもたれさせた。


「だから、勘違いじゃない」

「いや、やっぱり夢見てるのかも。俺、おかしい。だって、こんなこと……」

「夢じゃない。アラン、私の言葉信じなさすぎだよ。私、そんな人に気を持たせるようなこと、言わないし、言ったことない」

「あるんだよ! 俺がどれだけ振り回されたと思ってる!」

 えー、いや、ない。ないはず……。記憶にない。

 それになにより、大体……。

 

 私は顔を上げた。アランを見上げる。

「それに、私はちゃんと言ったけど、アランは、私のことどう思ってるのか言ってない」

 私がそう言うとアランは戸惑うように眉を上げる。


「いや、それは……言わなくても分かるだろ。前に言ったし」

「前は前。今の気持ちは分からない。言わないと、不安になる」

「いや、リョウはどうせそんなことでは不安にならない」

 なるよ! アランの中の私どんだけ鋼鉄な女なんだ!

 こちとら年頃の乙女だよ!?


「なる! アランを追いかけるのだって、本当は怖かった。アランに嫌われたかもしれないって、追いかけていっても、もう言葉も交わしてくれないかもしれないって……怖かったんだから」

 言いながら、いろんな思いがこみ上げてきて、声が震えた。

 アランから連絡がなくて、どれだけ不安に思ったか。

 アランの気持ちを確かめたいのに、拒否されるのが怖くて勇気が出なくて、自分の気持ちに見て見ぬふりをしたこと。

 でも、見ないようにしても、ふとした瞬間にアランのことを思い出す。


 そんな風に、思い悩んだのは、私がアランのことを好きだからだ。


 言っておくけどね! 大人に混じって商人ギルドの十柱の一人として動いてた時や、ゲスリーの婚約者だった時、ウヨーリ聖国を束ねてた時だって、こんなに、悩んだことなんてないんだからね!


「リョウ……。本当に、リョウが、俺のことを? ……好き?」

 今、気づいた、みたいな顔してアランが呟く。


「さっきからそう言ってる!」

 私が不満げに頬を膨らませると、アランが戸惑うように瞳を揺らして、私の頬を両手で包んだ。

 その手つきが優しくて、怒りを込めた頬からゆっくり空気が抜けていく。


「俺を追いかけて、海を渡ってくれたのか?」

 私は頷いた。

 

 それでようやくアランの顔に、微笑みが浮かぶ。

 緑の瞳にほんのりと熱を込めた、今にも泣き出しそうな笑み。


「俺も、リョウのことが好きだ。愛してる。ずっと一緒にいたいと思えたのは、こんな気持ちを抱いたのは、リョウだけなんだ」

 泣き笑うような顔で、気持ちを込めるように一言一言まっすぐ私に伝えてきた。

 改めて聞いたアランの気持ち。

 まっすぐ私を見る瞳は、今までにないほどに真摯で、この世のあらゆる宝石よりも綺麗だった。

 ほんのり潤んだアランの瞳に吸い込まれそうになって、ただただ見詰めていると、アランの顔がそっと近づく。

 唇が重なった。


 優しく触れるだけのキスで、瞼を閉じてやわやわと柔らかい唇の感触を楽しむ。

 もっと深く触れ合いたいと思うと同時に、そんなことを考えてしまった自分に言いようのない恥ずかしさがこみ上げて、頭がくらくらする。


 しばらくキスをして、お互いゆっくりと唇を離す。

 真っ赤になったアランの顔があった。


「……アランからしてきたのに」

「し、仕方ないだろ! 照れるものは照れるんだから!」

 憤慨したアランはそう言って、また私に顔を近づけた。今度は額と額がくっつく。


「もう一回」

 アランは囁くようにそう言って、再び唇を重ねてきた。


 先ほどのキスよりも深くて、熱い。

 そして、甘酸っぱいリンゴの味がした。



 きっと、リンゴを食べるたびにこの時のことを、思い返す。そんな気がした。

 幸せなキスに酔いながら、今までのことが脳裏に駆け巡る。


 前世の記憶を持って、貧乏な農民の子として産まれたこと。

 そのあと貴族の家に売られて小間使いになったこと。

 山賊に攫われて、そのまま山賊の仲間になったこと。

 貴族の養女に迎えてもらって、学生になったこと。

 学園に通いながら、商人になったこと。

 商人として生きていこうと誓った後に、王族の婚約者になったこと。

 王族の婚約者から、反乱を引き起こした悪女にされたこと。

 反乱を収めて誰もが崇める女神になったこと。

 そして女神をやめて、ただの恋する女の子になって、好きな人を追いかけたこと。


 振り回されてばかりの人生だった。

 自分で決めてるつもりで流されてばかり。

 仕方なくその場でできる役割を背負ったりもした。

 

 でも最後にこうやって、自分の意志で、自分がしたいことができたのだから、今までのこと全部が全部、この時のために意味のあることだったんじゃないかとすら、思えてくる。


 風が強く吹いた。近くに咲いていた桜の花びらが散って、あたりを舞う。

 照れながらキスをする、私達を隠すように。



 

 了




最後まで、お読みいただき、誠にありがとうございましたっ!(涙涙涙)

転生少女の履歴書(web版)はこちらで最終回となります。(なお、書籍版は続きます。転生少女の履歴書十二巻以降は、アランとリョウがいちゃついてますのでよろしくお願いします)


転生少女の履歴書は、私にとって思い入れ深すぎる作品なので、今後も時折、番外編や小話を更新する予定です!

こんな話が読みたい、などのリクエストをお待ちしてます!


最後になりますが、謝辞を。

読むのを楽しみにしてくれる方がいる、そう思うからこそここまで書けたと思います。

本当に、ありがとうございました!!ありがとうの言葉だけじゃ伝えきれない感謝の気持ちでいっぱい…!


今後も執筆活動は続けていくので、また違う作品でお会いできたらうれしいです!

ちなみに7月28日に書下ろしで、スターツ出版さんより「後宮の生贄妃と鳳凰神の契り」発売します(宣伝)

そしてそして藤本れもち先生が描く「転生少女の履歴書」のコミック第一巻は2022年9月9日発売予定!コミカライズは小説とはまた違う面白さがありますので、是非ともよろしくお願いしまする!


本当に、本当に、最後までお読みいただきありがとうございました!

感想については、最近返信できていないのですが(うっかりネタバレしちゃいそうで…)ありがたく読んでおります。

いつも応援、ありがとうございました!

とても励みになりました…!本当にありがとうございました!!


唐澤和希


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― 新着の感想 ―
[良い点] 最近見つけて数日かけて読み始めましたが、話の展開が飽きさせず面白かったです。 エンディングも紆余曲折あった末に落ち着くとこに落ち着いて良い話でした。 傑作だとおもいます。 [気になる点] …
[一言] 数日かけて読み終えました。 最後が期待していた通りの雰囲気になって良かったです。
[一言] 微妙でした
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