エピローグ前編
6月30日に転生少女の履歴書12巻が発売して、一週間が経過しました!
いつも応援、購入報告ありがとうございます(感涙)
12巻は、web版のその後の話が続き、そして新展開を迎えます。
もともともう終わりの予定だったのを、書籍版ではどうにかひねり出して続けてまして、不安もありましたがおおむね楽しんでもらえているようでほっとしてます(感謝)。
そしてweb版は今回のお話を含めてあと二話です…!(終わったあとも小話とかをぽつぽつ更新する予定ではありますが)
最後までどうぞよろしくお願いします!
カテリーナ嬢達と涙のお別れをして、船を下りた。
お別れはあっさりとしたものだった。長く言葉を尽くせば尽くすほど別れがたくなるから。
それでもしんみりしてしまう別れの余韻に浸りながら、気持ちを切り替えたくて深く息を吸うと、潮の香りが胸いっぱいに広がった。
乾いた大地を踏みしめながら、きょろきょろとあたりを見渡すと、浅黒い肌をした人々が快活そうに声を掛け合い、忙しそうに行き交っているのが見えた。
家屋は基本的に白い土壁でできており、屋根は半球のような形で赤や青に塗られている。
服装はみんな薄着で、原色を使った布のアクセサリーなどを好んで身に着けている人が多かった。
すっぽり頭と体全体を覆うフード付きの朽葉色の外套を着た私は、少し浮いているかもしれない。
ここは、ベイメール王国の港町バスク。
カストール王国の西側にある国だ。
アランが立ち寄ったはずの場所。
アランを追いかけてとうとうここまで来てしまった。
カテリーナ嬢達は、最後まで『貴方がアランを追いかけて海を越える日が来るとはね』と言われてからかわれたけれど、後悔はない。
それに心細い思いもあるけれど、新しい場所にわくわくしている自分がいる。
まずはアランの捜索……いや、アランを探すにしても、しばらくはこの国で生きるのだから、この国のことをもっと知らないと。
私は手で庇を作ってゆっくりあたりを見渡し、人々がたくさん行き交う通りを見つけた。
たくさんの露店があって、様々な形をしたフルーツや、魚が並んでいる。
市場か何かだろう。がやがやと活気がある。
私はさっそく市場に繰り出した。
ほとんどは魚屋さんだ。まあ、海も近いしね。次いで多いのは果物屋。
ぶつぶつした皮を持つフルーツや、前世で言うところのスターフルーツのようなものもある。あ、あれってもしかしてドリアン?
ライチのような硬そうな皮を持った小さなフルーツも。
カストール王国では見かけなかった、カラフルで珍しい形のフルーツが一杯だ。
試しに色々食べてみたいな……。
あ! あれ、林檎では!?
林檎はカストール王国でも売ってた。
なんか、さっきまで新しい味を開拓しようと思ってたけど、見慣れた食べ物が出てきてやっぱりなじみ深い味が恋しくなってきたぞ……。
「すみません、こちらおいくらですか?」
露店の中でひたすらフルーツの皮をむいているちょっとムキムキのおじさん、多分この露店の店主に話しかけた。
「ああ、それはね、100センスだね」
センス……この国の通貨の単位か。当然のことながら私はいまお金がない。
「今手持ちがないのですが、物々交換は可能ですか?」
私はそう言って、ポケットから換金できそうな小さな装飾品を取り出した。
店主はそれをちらりと見ると、首を振る。
「悪いが、物での売り買いはやってない。だが、それは結構いいもののようだし、買取屋に行けばそれなりの値段になるはずだよ」
へえ、買取屋。なるほど。まずはやっぱり換金か。
そして、ありがたいことに文字や言葉はカストール王国と一緒なのも確認できた。
もともと看板とかも全部読めたから、そうかなと思ってたけれどありがたい。これならそれほど不便しないはず。
私は店主に買取屋のある場所を聞いて、その場を去った。
リンゴはまた後で買う。
そうして換金屋ですんなりと手持ちの装飾品の一部を換金した。
果物屋に戻ろうかとも思ったけれど、まずは宿をとることにする。
しばらくはこの港町にいる予定だし、アランの手がかりを探さないといけないからね。
それに、私の読みが正しければ、もしかしたらアランはこの町にまだいるかもしれない。
もともとアランは、あてもなくベイメール王国にきた。なんとなくやってきた隣国。
正直カストール王国の生活が恋しい気持ちも十分にあるはずだ。
となれば、なんだかんだとカストール王国と繋がっている港町から出にくくて、ここでプラプラと生活しててもおかしくない。
しかもアランは、魔法使いだ。この国では魔法使いがどんな存在なのかわからないけれど、アランの魔法は細密で、ちょっとおしゃれな小物をあっという間につくれたりするぐらいの腕前はある。魔法を使えば稼ぐ方法はたくさんあるのだ。
アランが隣国に渡ってから、一か月以上は過ぎてるはずだけど、毎日日銭を稼ぎながら、そこそこ良さそうな宿に滞在してそう。
私はそう目星をつけて、自分の宿探しもかねて、宿が立ち並ぶエリアを目指した。
港町だからか、結構栄えてるし、宿もたくさんだ。
それにしても改めて思うけれど、すごくきれいな町並みだ。
真っ白な土壁は陽が反射して眩しいくらいだし、ところどころカラフルに塗られた窓の枠や屋根は、鮮やかだ。
私が町並みをうっとり見ながら歩いていると、ひと際大きな建物を見つけた。
看板が出ていたので、宿だと分かる。
多分この町の宿の最高峰ってところかな。お金持ち向けだ。
ちょっと気持ちが惹かれたけれど、私の手持ちのお金は限りがある。
大切に使わなくちゃ。
少し歩くと、今度はちんまりと建てられた少々ぼろい建物が目に入った。
こちらも宿のようだけど大人数で雑魚寝するようなタイプの小さな宿。
これは安いだろうけれど、さすがに女子一人で知らない人と雑魚寝するタイプの宿には泊まれない……。
となると、やっぱりあのあたりか。
私が左を向くと大きくはないけれど、壁はそれなりに綺麗にされた建物が目に入った。
ちゃんと一人部屋がありそうな作りだ。狭いけど。
この町だとおそらく中の下ってところかな。
私が泊まるとしたらこういうところになりそうだけど……でも、もしアランなら。
アランも私と同じくこの国のお金の手持ちがたくさんあるわけではないはず。
となれば、私と一緒でお高い宿は避ける。
でも、アランは、ああ見えて生粋のお坊ちゃまだ。
私は改めて今自分が泊まろうとした宿を見上げた。
それなりに綺麗にはされているけれど、多少はひび割れや経年劣化の面差しはある。
こじんまりした見た目だし。
多分、アランお坊ちゃまはこの建物を見て宿だと気づかないかもしれない。
なにせ生粋のお坊ちゃまだもの。
アランのことだから、宿を探そうとここに繰り出して、手持ちのお金のことを気にしてお高い宿は避けて通る。
そしてあたりを見渡しながら、他の宿を探して……。
とアランの行動を予測しながら、宿屋通りをあるくと、良さそうな宿にたどり着いた。
建物はそこそこ広くて、外壁が塗り直したばかりのように綺麗だ。
それになにより、宿屋です!と大きく派手で立派な看板でアピールしてくる。
この感じだと上の中の宿ってところかな。
ばか高いわけじゃないけど、安くはない宿。
そして、アランが宿屋と認識できる見た目で、実際は高いけど、安そうな宿だ! とアランに思わせるぐらいには、華美じゃない。
……ちょっとここで情報収集してみようかな。
私が中に入ると扉にベルがついていたようでカランカランと音が鳴った。
そして、目の前の受付にいた可愛らしい茶髪の女の子が笑顔で迎えてくれる。
「いらっしゃいませ! 金の鳥亭にようこそ」
同じ年ぐらいかな。快活そうな笑顔が可愛らしい子だ。
いかにも看板娘って感じ。
でも、ものすごく笑顔で迎えてくれて申し訳ないが、泊まりに来たわけではないので心苦しい……。
ちらりと店内に置かれた料金表を見た。
うーん、しばらく滞在する宿としてはやっぱり高い。
「すみません、あの、人を探していまして。こちらに泊まったかもしれないのですが」
「人探しですか?」
「はい、こちらに長い黒髪に緑の瞳を持った私と同じくらいの男性が来ませんでしたか? 名前をアランというのですが」
私が率直にそう尋ねると、看板娘さんは明らかに警戒したように目を眇めた。
「……さあ、どうでしょう。見かけてないかと思いますが」
声も固い。完全に不審に思われてる。
いや、でもよくよく考えれば、宿泊客のことを突然聞いてくる人って怪しいよね。
先走ってしまった。
ほら、前世だとプライバシーとか色々あったけれど、カストール王国とかウヨーリ聖国にはそういう概念ほぼほぼなかったし。
ベイメール王国は結構プライバシー権のしっかりした国なのかもしれない。
もしくはこのお宿がそういうのにも気を使える優良店というところか。
「あの、私、別に怪しいものではなくて! その、友人を探しているだけと言いますか……」
「どうであろうと、そう言う方を御泊めしてませんので、用がないのでしたらお引き取りください」
冷たい……。
私は看板娘の眼光にやられて「はい、すみません」と謝ってとぼとぼと宿を出た。
新しい国に来てちょっと浮かれていたかもしれない。
もっと慎重になって尋ねるべきだった。
でも、アランのことだからこんな感じの宿に泊まってそうなんだよなぁー。
というか、あの固い反応は、ちょっと心当たりがあるからって感じもするし。
もうちょっとお金を換金して、この宿に泊まってあの看板娘さんと親交を深めたほうがいいかもしれない。よくよく考えればお金を使わないくせに情報だけもらおうだなんて甘い考えだ。
よしチップもはずもう。チップ文化があるのかわからないけど。
私はあの看板娘さんに貢ぐため、再び買取屋に行くことを決めた。
来た道を戻るかと、歩き出したその時、ハッと息をのんだ。
丁度戻ろうとした道の先に、林檎の入った大きな紙袋を片手に抱えてる人がいた。
前を向かずによそ見をして林檎にかじりつきながら歩いている。
一本に縛った黒い髪が、風に吹かれて揺られている。
懐かしくもあり、馴染み深くも感じるその横顔は……。
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12巻は、端的に言えば、いちゃいちゃ回…!
12巻は、いちゃいちゃしてる二人が!見れます!照









