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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第七部 転生少女の革命期
297/304

女神編⑥ 尊きウヨーリ様神聖感謝祭

【お知らせ】

最近、更新頻度が上がってます!

最新話から読むと、前回のお話を読み飛ばしている可能性があるので、お気を付けくださいね!


そしてとうとう明日が、転生少女の履歴書12巻の発売日です!

一部地域はすでに発売されているかもしれません。どきどき。

どうぞ、よろしくお願いします!

そしてまた明日もお話更新する予定です!


 ひらひらと真っ白な布地を何枚も重ねたような重い衣装に身を包んだ私は、目の前のたくさんの国民たちに向けて、ゆっくりと右手を上げた。


「こんにちは、ウヨーリ神聖国の国民の皆さま。私は、ウヨーリ。人々を安寧に導く者」

 私が厳かな感じでそういうと、『ウ゛ヨーリさまあ゛!』と、咽び泣く国民たちの声が響き渡る。

 誰も彼もが地面に伏して、私を拝み涙を流している。

 中には『尊い』と書かれた団扇のような形状のもの持つ者もいた。その尊いの文字が私によく見えるように、大きく腕を振る。

 他にも、『ウヨーリ様ご尊顔くださいませ』みたいな旗を掲げている輩もいたので、ご要望にお答えして見つめて微笑むというファンサを返す。

 彼らはたちどころに失神した。


 相変わらず熱狂ぶりがすごいのだが……。


 今日は、タゴサクさん念願のウヨーリ様を讃える式典だ。

 その名も『尊きウヨーリ様神聖感謝祭』という。

 みんなに反対されていたけれど、私が賛成したことで勢いづいたタゴサクどんの強行で実行されるに至った。


 信者達の反応に怖気付きそうになったけれど私は気を取り直して前を向く。


 この後はウヨーリ様のありがたいスピーチのコーナーだ。

 ちなみにスピーチの内容はタゴサクどんが全て考えてくれた。

 つまりタゴサクさんが考えた『僕の考えた最強のウヨーリ様』の言葉を、私が読み上げるスピーチである。


 スピーチの内容はこれまたタゴサクさんの理想のウヨーリ様が言いそうなことがつらつらと綴られていた。


 最初見た時は正直顔がひきつったが、私は甘んじて受け入れた。


 もう私は覚悟を決めたのだ。


 私、神になる。


 このタゴサクさんの理想のウヨーリ様そのものになると決めたのだ。


 私はスッと息を吸った。

 私の声は、精霊使いのおかげで反響して遠くの地まで響くらしい。


 この場にいない人たちも、きっと私の声が届く。

 ウヨーリ教徒は私が何か話し始めるのと敏感に察知したようで、途端にシーンと静まり返った。

 私が話し出すのを今か今かと待ち侘びているのがわかる。


 ウヨーリは本当に大変だ。これだけの期待を一身に引き受けているのだから。

 どこか人ごとのようにそう思って、私は口を開いた。


「私は、この世を憐れみ、タンポポから生まれ出ました」

「たんぽぽ! たんぽぽ!」

 なんか声援というか掛け声みたいなのが国民の皆さん揃って言うので、思わず一瞬言葉を失う。

 あ、なんかこういう相槌が打たれる感じなの?

 タゴサクさんを見てみると満足そうに頷いてる。


 この相槌、もしかしてタゴサクさんに仕込まれてる?


 なんか嫌な予感がしたけれど、それでもどうにか気を取り直して先を続ける。


「尊きこの身をとして」

『尊い! 尊い! 尊すぎ!』


「人々に平和と幸福を与えるため」

『与えんと!』


「この世に生を受け」

『生を受け!』


「人々に手を伸ばす」

『伸ばされた!』


 や、や、やや、やりづれぇええ。


 なんか言葉の合間合間に相槌だけならまだしも、キレッキレのダンスのような動きまでしてる……。

 これ完全にタゴサクさんの仕込みでしょ!?

 一糸乱れぬ教徒たちのキレのある動き……!

 いつの間にここまでの訓練を!?


 私はチラリとタゴサクさんを睨んでみるが、彼は目に涙を浮かべて嗚咽していた……。

 どうやら国民の相槌&キレキレダンスは努力の甲斐あっての大満足の出来らしい。


 ふー……。

 もう乗りかかった船だ。


 私は前を向く。


「我々の前には常に困難が待ち受け」

『待ち受けた!』

「善良なものにこそ過酷な試練が強いられる」

『強いられた!』


「我が手を伸ばした時には、救えなかった命もあった」

『でもでもそれでもありがとー!』


 ……いやいやいやそれはノリが軽すぎない!?


 諸々気になったが、私は鋼の精神で無視を決め込む。

 というかもう無視するしかない。気にしたら負けだ。


「我は宣言す。我を信じる者に幸福を」

『幸福を!』


「我についてくるものに安らぎの道を」

『安らぎを!』


「我を求めるものに限りのない救いの手を」

『とりたいとりたいその手をとりたい!』


「辛き時代を知る者よ、真の貧しさを知る者よ」

『はい! はい! はい!』


「汝らが我の想いを望むとき、我もそなたらの幸を望んでいる」

『望んでる!』


「我は辛い時も喜ぶべき時も、永遠に汝らの心の中に!」

「ウヨーリ様は永遠にー!」


 そう言って国民達は大合唱すると五体投地をして私を讃えた。


 ここまで乱れない動き。誠にあっぱれ。

 完全にタゴサクさんの仕込みだろうけど、私が気づかぬうちにここまで仕上げたのだと思うと、もう素直に尊敬する。

 君たちは本当にすごい。


 ふー。ここまではタゴサクさんの作った台本通りことが進んだ。


 国民の反応には驚かされたけれども。


 ……いよいよだ。


 これから起こることを思うと、心臓がすごい勢いでバクバク鳴った。

 でも、やる。やってやる。

 もう決めたのだから。


 私は舞台袖に目を向ける。そこにはバッシュさんの奥様であり、炎の精霊使いであるグローリア様がいた。


 彼女は私の視線を受け止めて頷くと、呪文を唱える。

 ボッと私の着ている衣の裾に炎が灯った。


 ……きた。

 ともった炎は地面についた裾を一周するようにして燃え広がった。


 私はそれを認めて顔を上げる。

 突然炎に囲まれた私に気づいた国民達が目を見開いて驚いている。



「悲しみに打ちひしがれ泣き暮らす者達よ。憎しみ抗えず悶え苦しむ者達よ。我の声に耳を傾けよ」


 国民達は、突然の炎に驚愕しながらも、はっとしたような表情をでこちらを見た。


「我はこれより、汝らが抱える悲しみと憎しみをこの身に背負って天に還す」

 炎の熱を感じながら、私はよどみなく決めていたセリフを吐く。


「悲しみを身近に感じた時、空を見上げよ。陽の光、星の煌めき、雲の流れの中にそなたらを思う我がいる」

 国民の中には、ウヨーリ様が燃えている!と騒ぎ出す者が出てきた。

 だが私は言葉を続ける。


「憎しみにその身を焦がすとき、大地を見よ。道端の小さな石、青々と茂る草、止めどなく流れる川にそなたらを思う我がいる」

 微動だにしない私がつらつらそう言うと、国民たちも私の雰囲気にのまれたかのように静かになり始めた。


「悲しみや憎しみは、我とともに。そしてそれらは我の体と魂と共に天に還す」

 炎がゆっくりと私の周りに広がってゆく。

 火の熱で顔が熱い。

 もうそろそろ限界だ。締めなくては。


「例え体が燃え尽きようとも我は不滅。そなたらが我を想うとき、我もそなたらを思っている。ウヨーリを讃えよ! さすればそなたらに幸おおからん!!」

 私はそう宣言して、とうとう全身が炎に包まれた。


 ああ、意外とあっという間だ。

 でも後悔はない。ちゃんとやり遂げた。

 きっとこれが、私がこの国にできる一番最善。


 今日までこの国は、ウヨーリっていう絶対的な存在の上に成り立っていた。

 けれど、いつまでも私が女神なんていう超自然的な存在に納まれるわけがない。


 私だって失敗するし、みんなの望みを全て叶えられるかと言えばそうじゃない。


 ウヨーリが絶対的な存在ではないのだと、そのうち国民は気付く。

 そうなれば、ウヨーリという存在をよりどころにしている今の国は、あっけなく崩壊するだろう。


 だから、その前に私はこの国から消える必要があるのだ。


 ウヨーリ教徒のざわめき、タゴサクさんのどよめきが聞こえる。

 顎が外れそうなぐらいに口をあんぐりあけて私をみるタゴサクさん。

 ふふふ、良い気分だ。

 あのタゴサクさんにあんな顔させることができたのだから。


 ◇


 炎は舞台の上のものを全て燃えつくし、やがて燃え尽きると延焼することなく消えた。

 残ったのは灰だけで、その残った灰はタゴサクさんが泣きながら集めたとのことだった。

 ウヨーリが、国民のためにこの世のすべての悲しみと憎しみを背負って天に昇った日を、のちに聖ウヨーリ昇天日と命名されて国民がウヨーリのために祈る日となった。



明日も更新予定です!

よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ウヨーリ教徒のセキさんの息子ってそういや王家の血を引いてたな…と思ったら、 アランとカイン様の親父も王家出身だったわ。 ゲスリーも惚れてたし、リョウちゃんは王家キラーかな?
[一言] タゴサク師は、前世がドルオタでございますか? 〉もう乗り上がった船だ。 は、「乗りかかった船」の間違いなのかわざと使った表現)なのか……。
[良い点] 完璧にヲタ芸決めてて草 [一言] 少女よ神話になれ・・・ってなっとるやないか! とんでもねえ、あたしゃ神様だよ ああ、あとはアランを探しに行くだけだな
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