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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第七部 転生少女の革命期
295/304

女神編⑤ 思わぬ来客


 親分にもコウ母さんにも背中を押されたというのに、私と言う奴は結局動けないでいた。


 親分は、私がいなくなっても大丈夫だっていうけれど、大丈夫な気がしないっていうか……。


 いやだって、毎日毎日、ウヨーリの信者対応に、ウヨーリを崇める方々のフォローに、ウヨーリ大好きな国民へのサービス……!

 この国はウヨーリをよりどころにして、まとまってる。

 それなのに、ウヨーリである私が、突然抜けたら大暴走待ったなしなのでは!?


 アランに会う数日ぐらいなら平気かな、と思ったりもしたけれど、国民のウヨーリに対する盲目なまでの信仰心を省みるに、数日でも危うい気がする。

 いや、その数日のうちに、ウヨーリ様が奪われた! ウヨーリ様を返せ! とか明後日の方角に考えがめぐってレインフォレスト領に突撃してくるかもしれない……。


 そんなことになればまたウヨーリ戦争が勃発する……。


 ……こうなってくると、今の状況相当危うくないだろうか。

 私がいなくなったら、戦争待ったなしな状況をこのままなあなあにするのも良くない。


 だから、ここは、腹を括って……前少し思いついたことを実行に移した方がいいのかもしれない。そうすれば……いや、いやいやいや。やっぱり恐い。


 それにそれに、手紙を送っても返事をしてくれないアランにわざわざ会いに行って、彼はなんて思うだろう。

 ウヨーリ問題を置いて会いに行った上に、『お前の顔なんか見たくない』とか言われたらもう私再起不能な気がする……。


「リョウさん! すごい珍しいお客様がきてるわよ!」

「……ってリョウさん机に突っ伏して何してるの? 眠いの?」

 デスクに突っ伏して嘆いていた私のもとに、カテリーナ嬢とサロメ嬢がやってきた。


 のそっと顔だけ上げる。


「別に眠いわけではないんですけど」

「あー、またアランさんのこと考えてたのね?」

 カテリーナ嬢が呆れたようにそう言って腕を組んだ。


「……まあそんなところですけど」

 何か文句あるだろうか。別にやることはやってるのだからいいじゃないか!


「ふふ、そんなリョウさんに朗報よ。さっき珍しいお客様が来てるって言ったでしょ? 誰だと思う?」


「え!? まさか、アラン……!?」

「それは違うけど」

 違うのかい! この流れは完全にアランだったじゃん!


「でも、アランに近しい方よ。アランの兄上のカインさん」


「ええ!? カイン様が!?」

 思わずデスクに手を置いて立ち上がる

 手紙でやり取りは続けていたけれど、実際に会うのはかなり久しぶりだ。


 カイン様はゲスリーと一緒に王国側についた。

 ずっとゲスリーの近衛として仕えている。

 そんなカイン様が何故ここに……。


「リョウさんに会いたいといって、今は客間で待たせてるけど、どうする?」

「……! もちろん、今すぐに行きます!」

 私は即答した。


 ◆


 客間に入ると、王国騎士の格好をしたカイン様がいた。

 相変わらず華麗で、優雅に私に会釈をする。


 本当に、どこかの国の王子さまみたいだ。

 ゲスリーと立場を交換してくれたらきっとみんな幸せなのに。


「突然のことで申し訳ない。リョウに一刻も早く伝えたいことがあって……」

 とカイン様は深刻そうに話を切り出した。


 一刻も早くってなるとやっぱり、ゲスリーのこと?

 大人しくしてるという噂だったけれど、とうとう己の欲望を我慢できずに早速ゲスいことでもし始めたのだろうか……。


 私が身構えていると、カイン様が口を開いた。


「アランが、出奔したんだ!」

「……!? ええ!? アランが出奔!?」

 ゲスリーじゃなくてアランの話!?

 というか、出奔って……家出ってこと!?


「な、何故ですか……!?」

「それが……身内の話で、情けないのだが……その、母上が、リョウからアランに宛てた手紙やアランがリョウに送ろうとした手紙を処分していたんだ」

 カイン様のその言葉に思わず目を見開いた。


「先日、殿下から暇を頂き久しぶりに実家に帰省したのだが、その時に、リョウの話になって、私がリョウからもらった手紙の話をしたら、アランの顔色が変わって『俺は一つも返事がない』と言って……」


「い、いや、私、何通も手紙送ってますよ! あ、そうか、アイリーン様が手紙を処分したから……」

「そうなんだ。私はリョウにかぎってアランにだけ手紙を書かないなんておかしいと思って、それで母上を問い詰めたら母上が手紙を燃やしていたことが分かったんだ」


 そんな……!


「それで当然アランは怒ったのだけど、その時母上が、リョウからの手紙に『アランの顔も見たくないほど嫌い』だとか、『臭過ぎてムリ』とか、『生理的に受け付けない』とか、そういうひどいことばかり書かれていたから見せられなかったと言って……」

「いやいやいやいや、そんなこと書いてませんよ!」

「だろうね。私は、すぐに母上が嘘をついたのだと分かったのだけど、アランは……真に受けたみたいなんだ」


「……まさか、それで出奔を?」

 私が尋ねると、カイン様は悲し気な顔をして頷いた。


 アランー!! こんなに付き合い長いんだから、私がそんなこと書くわけないってわかるでしょ!?

 私は心の中で絶叫した。


 だって、そんなこと書くわけないじゃん!

 アランのばか! もっと私のこと信じてくれてもいいじゃないか!


「普段のアランなら、そんな話鵜呑みにしなかったのだろうけど、リョウとずっと連絡が取れずにいたことや、その、最後にリョウと別れた時のことが、気にかかっていたようで。詳しくは聞いてないのだが、結構ひどいふり方をしたとか……? 一度持ち上げて落とすみたいな感じの……」


 カイン様が伺うようにそう言って、私は眩暈がした。


 私だー! アランに私を信じる心を奪ったのは、私だった!!

 ごめんアラン! 本当にその節は申し訳ありませんでした!!


 私はその場で、ウヨーリ教徒のように五体投地でアラン神に許しを請いたくなったが、何とか踏みとどまった。

 そんなことしても、アラン神はきっとお許しにならない……。



「話はすべて、聞かせてもらったわ!」

 私が後悔で押しつぶされそうになっていると、突然、強気な声が聞こえた。

 顔を上げると、扉をバーンと開いたカテリーナ嬢と、意味ありげに微笑むサロメ嬢がいた。


「やっぱりね! アランさんのことだからそんなことだと思った! あのアランさんが、リョウさんを忘れられるわけないもの! あのアランさんだしね!」

 カテリーナ嬢が得意げにそう言うと、隣に立っていたサロメ嬢もうんうんと頷く。


「どんなにリョウさんに相手にされてなくても、あれだけずっと想い続けてきたもの。そう簡単に吹っ切れるはずないと思ってたわ」

 二人して何か納得した風だけども、もしかして聞き耳を立てていたということだろうか?

 さっき『全て聞かせてもらったわ!』とか高らかに宣言してたし。


 私が胡乱な眼差しを向ける。


「お二人とも、扉の前で聞き耳たててたんですか?」

 私が突然現れた二人に呆れたようにそう言うと、カテリーナ嬢は踏ん反りかえった。


「それはそうよ。友人の一大事だもの。立てる耳は立てさせてもらうわ。当然よ」

 盗み聞きしていたとは思えないほど堂々とした佇まいである。


「というか、リョウさんも、そんな落ち着いてる場合ではないでしょう? アラン様は傷心で出奔。そんな彼の心を慰めることができるのは、貴方しかいないのよ?」

「えっ!? 私っ!?」

 サロメ嬢にとんでもないことを言われたような気がして、声が思わず上ずる。


 アランを慰めるって……いや、でも……確かにアランの心に傷をつけてしまったのは私なので、そこは責任をとった方がいいかもしれない……。


 で、でも、アランは私を許してくれるだろうか。

 今さらのこのこやってきて、ごめんなさいで済む話だろうか……。


 私がむむむと思い悩んでいると、ぴとりと眉間のあたりに冷たい何かが当たった。

 顔を上げると困ったように微笑むカイン様が、私の眉間に人差し指を当てている。

 冷たく感じたのは、カイン様の指だ。


「カ、カイン様……?」

「リョウ……そんな難しく考えなくてもいい。アランはアランで、好きなようにしてる。出奔したのだってそうだ。だから、リョウもリョウで好きなようにしていいんだ」

 そう言って、どこか呆れたように笑うカイン様。

 私がうだうだと考え始めていたことはカイン様にはお見通しだったらしい。


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― 新着の感想 ―
[良い点] アランへの好意がリョウの言動を完全に恋する乙女のそれにさせましたね、やったなアラン!色々あったけど災い転じて粘り勝ちだ! でもまさか最後に立ちはだかるのが、リョウへの好感度がかなり高かった…
[一言] そうだなぁ、アランは一の子分だもんなぁ
[一言] リョウ様ってば罪作りなお人ww
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