女神編① 神聖ウヨーリ聖国
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本日は完全書下ろしの『後宮妃は麒神の生贄花嫁 五神山物語』の発売日です。
書下ろしは反応が分からないから、どきどき具合がすごい…!
また、3月15日は『後宮茶妃伝2 寵妃は愛で茶を沸かす』が発売します。
こちらの書影もすでに出ておりまして、とても素敵なので見てほしい…!
どうぞよろしくお願いします。
あの慌ただしい内乱のようなものから、半年が経過した。
戦後、というほど戦らしい戦ではなかったけれど、一応あの時のことは、『ウヨーリ革命聖戦』という名で、歴史に名を刻むことになった。
だって、国が二つに分かれたわけだし。
そして今なおその後の処理で大忙しだ。
まあ、当初と比べたら、相当落ち着いたけれども。
しかし新しい国作りというのはまじで大変で、未だにバタバタしている。
そう、新しい国。あの戦いの後、国は二つに分かれることになった。
レインフォレスト領とルビーフォルン領の境目に生まれた亀裂より南の地を「神聖ウヨーリ聖国」という国として独立したのだ。
……私は、あの時、ヘンリーが差し伸べた手を取らなかった。
きっと私では、ヘンリーが求めるような愛を返してあげられないと思ったから。
そしてその気持ちのすれ違いは、ゆくゆく彼が治めるであろうカスタール王国に影をさしてしまう気がした。
そしてゲスリーと別れ、というか一人でさっさと国に戻っていったので、私も私でルビーフォルン側に戻った。
大地が割れたりなんだりで何がなんだか分からなくて混乱している反乱軍の戦士達を集め、戦の終わりと国から独立したことを伝えたのだ。
その時に起こりうる混乱や疑問の声など色々想定してたのだけど、私が想像してきたようなことは起きずにみんなして私に向かって五体投地しただけで終わった。
その時は、色々疲れていたので『良かった! 簡単に終わった! ラッキー!』という気持ちでいっぱいだったけれど、私のいうこと全部五体投地で受け入れる恐ろしい国をどうにかしなくちゃいけない現実に、最近の私は泣きそうな日々である。
何でこうなったのか。
私は花も恥じらう16歳。思春期真っ只中の悩める年頃だとは思うんだけど、絶対こんなの16歳が抱える悩みと違う。
もっと、こう、恋とかパンケーキのこととかで悩むお年頃だったはずなのに!
そして今も、神聖ウヨーリ聖国の首脳会議みたいな場で、私は嫌な予感がして思わず眉根を寄せる。
神聖ウヨーリ聖国を運営管理している代表者たち一同が、一つの円卓に顔を並べての定例会議中である。
その円卓の席の一つに腰掛けているタゴサクさんが恍惚の表情で目を潤ませ私を見ている。
嫌な予感しかしない。
きっとまた変なことを言いだす。
そう思ったところで、案の定タゴサクさんが挙手をした。
「たんぽぽより生まれし偉大なるお方、海よりも深い慈愛を持ち、この世で最も尊き存在である女神ウヨーリ様、ひとつ進言したいことがあるのでございます」
前置きが長い。
当初はその都度、普通に呼んでくださいって注意していたけれど、今はもう改善される気配がないので諦めた。
「どのようなことですか?」
私がスルースキルを駆使して、穏やかな笑みを張り付けてそう問い返すと、タゴサクさんはあいも変わらずなタゴサイックスマイルを見せてくれた。
「命をはぐくむ大地の根源であり、世の理全てに置いて優先されるべき絶対的な存在であるウヨーリ様の奇跡を、国民は感じたいと強く願っております」
「簡潔にいうと?」
「つまり、祭典のようなものを開きたいと思っております」
タゴサクさんの意見が言い終わると、すぐさま彼の隣に居たリューキさんが、ぱちぱちとものすごい速さで拍手をした。
「素晴らしい! なんて素晴らしいお考えなのでしょう! タゴサク先生!」
ものすごい勢いで賛同したのはリューキさんだけで、ほかの人たちは冷めた目だったり、戸惑っている。
この場にいるのは、ウヨーリ聖国の上層部ということで、主に革命聖戦でリーダー格を担っていた人たち。
その中でも一際冷めた目で、また始まりやがったかとかいう顔をしているのが、ウヨーリ聖国の国防を担う剣聖騎士団の代表者、親分ことアレクサンダー。
今のところ、戦争は起きなさそうなので、現在は国内見回りなど警邏の仕事がおもになっている。
革命後の国と言うのは混乱しがちで暴動とかも頻発するのでは? と心配していたけれど、妙な一体感があるウヨーリ聖国の民度は高く、この苦しい状況においても国内のいさかいが少ない。
故に、剣聖騎士団はあまり仕事らしい仕事はないのだけど、働き盛りの血気盛んな若者を無駄にするのは勿体無いので、見回りの傍ら土木関係の仕事を行なっていたりもする。
体を鍛えるのにも一石二鳥だし、戦争になったら土嚢づくりとか砦作りとか、意外と土木関係の知識は必須だ。そう言い聞かせて、どうにかやってもらってる。
それに住居の建て替えは、魔法に頼らない生活をする上で、まずどうにかしなくてはならない問題だ。
この国の家はまだまだ魔法製がほとんどだから。下手するとゲスリーの気まぐれで崩れる恐れがある。
それだけは阻止したい。
「式典の類は、もちろん国を営む上では必要だと思いますが、まだ時期ではないでしょう」
タゴサクさんに対して比較的暖かい視線を向ける聖者のバッシュさんが、丁寧にタゴサクさんに伝える。
バッシュさんの言葉に私も大きく頷いた。
式典なども、国を営む上では必要なことだとは思う。
けれど、正直今まだ混乱の残るこの時期に式典なんてする余裕はない。
さすがバッシュさんである。私が言いたいことを言ってくれる。
バッシュさんはそれぞれの調整役というかまとめ役を担っている。
カスタール王国でいえば宰相的な地位だ。
いつも私が言わんとしてくれることを言ってくれるバッシュさんに、内心で『さすバさすバ』と高らかに拍手をして讃える。
「バッシュ殿! 違いますぞ違いますぞ! 余裕のない今だからこその式典なのです! ウヨーリ様の祈りの言葉で、全てが良い方向に向かうことでしょう!」
タゴサクさんは引かない。
でも、待って待ってタゴサクさん。
私の祈りで全て良い方向に行くんだったら、まずタゴサクさんこの場にいないからね?
私の祈りは全然効かないよ。効いたためしないよ。
私が思わず遠い目をしていると、隣の席の人がこそっと私の耳元に顔を寄せた。
くるっととした縦ロールが揺れる。
「ねえ、ねえ、リョウさん。前から思っていたけれど、リョウさんの周りの方って、風変わりな方が多くないかしら? むしろ風変わりな方しかいないんじゃない?」
そう言って、バッシュさんに抗議の声を上げているタゴサクさんとリューキさんを珍獣を見るような目で見たのはカテリーナ嬢。
風変りって……。
まあ、気持ちはわからなくないけど、私の周りにいる人みんな風変わりだったらもれなくカテリーナ嬢も風変わりな一味に加わるけどいいかな?
カテリーナ嬢もここでの生活も長いのだけど、未だにタゴサクさんの奇行にはなれないらしい。
気持ちはわかる。私も慣れないもの。
ちなみにカテリーナ嬢は、ウヨーリ聖国に残ってくれた数少ない魔法使い達のまとめ役だ。
カテリーナ嬢はまだ若いけれど、もともとグエンナーシス領を治めていた伯爵家の娘だ。
魔法力が強いことや、神聖ウヨーリ聖国に残ってくれた魔法使いの多くは元グエンナーシス領の人たちということもあり、慕われている。
魔法に頼らないことを目指しているこの国において、カテリーナ嬢達の立場は少し複雑だけど、上手くやってくれている。
ウヨーリ聖国だって、まだまだ魔法使いの力は必要だ。
いきなりはいそうですかと全部を全部、魔法なしの生活に切り替えるなんてことは現実的に不可能。
未だに魔法以外の作り方がわからないものもあるし、魔法に頼らなくてはならないものは、カテリーナ嬢達に頼っていくことになると思う。
「まあまあタゴサクちゃん達、落ち着いて? 別にやるなって言ってるわけじゃないでしょ? まだ時期じゃないってだけよ」
そう言って、親分の隣でクネっと腰をくゆらせたのはコウお母さん。
現在は、ウヨーリ聖国で、生物魔法含む医療の普及に努めてくれてる。
生物魔法についてのことを公開することにしたのだ。
つまり、今まで魔法が使えないとされた人々に、使える魔法があることを知らせたのだ。
生物魔法の存在を国民に伝えた日は本当に緊張した。
混乱してしまう部分もあるだろうけれど、これからカスタール王国と渡り合うためには、この国独自の力がどうしても必要だった。
時代の移り変わりに合わせて、力を持たないウヨーリ聖国は再び辛い立場に立たされるのは目に見えている。
暴動とか起きやしないか、混乱したりしないかとドギマギしたけれど、思ったよりも国民はすんなり受け入れてくれた。
大部分の人々が、ウヨーリ様の奇跡の一言であっさり受け入れてくれたので。
ということで国民総信者。それが神聖ウヨーリ聖国なのである。
もちろん、そういう結果をもたらしてくれたのは、ウヨーリ聖国でみごとに国教の座に収まったウヨーリ教の教祖のおかげなのだけど……。
コウお母さんがタゴサクさんに忠言すると、先ほどまでバッシュさんに食ってかかっていたタゴサクさんの動きがとまる。
「おお、聖なる力を聖なるウヨーリ様より与えられし、聖なる者よ」
タゴサクさんがコウお母さんを眩しそうに見てそう言った。
心なしか、コウお母さんの顔が引きつる。
「しかししかし、聖なる貴方様の言葉であろうと、ウヨーリ様の祭典については、諦めるつもりはありませぬぞ。祭典はウヨーリ様を讃える人々にとって、どれほどに希望になろうか!」
タゴサクはそう言って天を仰いだ。
まるで天に信仰を捧げるウヨーリがいるような身振りだけど、貴方がウヨーリだと思ってる人、今ここにいるからね。上じゃないからね。
「はー、まったく、タゴサクちゃんは相変わらずねぇ」
と言って、コウお母さんがため息をつく。
本当に、タゴサクさんは相変わらず過ぎて留まるところを知らないよ。
ちなみにタゴサクさんがコウお母さんを聖なる人扱いするのは、生物魔法を使えるから。
タゴサクさん達は、生物魔法は、ウヨーリに認められた信徒が発現する力か何かだと思っている節があるので、生物魔法が多少なりとも使えるコウお母さんのことを一目置いているのだ。
しかも、私が生物魔法だって言ってんのに、タゴサクさんが勝手に神聖魔法と言いまわっているため、ウヨーリ聖国の国民たちは、神聖魔法と呼んでいる。
タゴサク氏は信者に『信仰心を高めれば、神聖魔法が使えるのです』とおっしゃっておりますが、違うからね。
勝手に設定盛らないでねって何度も忠告したのに、タゴサクの奴……。
生物魔法については、私もまだはっきりと色々分かったわけじゃない。
ただ、生物魔法は、呪文を覚えるのにかなり時間がかかる。
けれど、コウお母さんは普通の人よりも生物魔法の覚えが早い。
何か適正のようなものがあるのかもしれないと、色々試した結果、治療師などの人体に精通している人達が特に魔法の覚えが早いことに気付いた。
人体の構造に関する予備知識があった方が、呪文を覚えやすいのではないかと仮説を立てていたりする。
なので、色々試しつつ、治療師たちを中心にまずは生物魔法を広めると言う形で、今度、専門の学校を作る予定だ。
「私は絶対に譲れませぬ! 祭典を開き、ウヨーリ様を讃えることで、これからの安寧を祈願するべきでありますぞ!!」
感極まったタゴサクさんが、未だに『式典をしたいですぞ!』と抗議の声を上げる。
彼のお陰で、新しい国造りがしやすい部分はかなりあるのだけど、しにくい部分も無視できないのである。
ああ、そろそろ荒ぶるタゴサクさんを鎮めなければ……。
はあとため息つきたいのを抑えて、私は重い口を開いた。
「タゴサクさん、いつか必ず祭典を開くことはお約束します。ですが、バッシュさんのいう通り、まだ時期ではありません。少し様子を見ていただけますか?」
私がそう声をかけると、ピタリとタゴサクさんの動きが止まった。
そして深々と頭をさげる。
「おお、我が女神、我が全て、偉大なる貴きお方よ。あなたのおっしゃることは全てが是。仰せのままに」
と言って静かになった。
恍惚の表情で私を見る。
やめて、そんな顔で見ないで。
辛い現実を思い出すから。
私が今、どういう立場でいるのかという、辛い現実を……。
そう、悲しいことに、現在の私の職業は、神聖ウヨーリ聖国を導く女神様ということになってる。
王様とか、調整役とか、代表とかでなく、女神。
職業、女神って……。
この国は、王国制度を廃止した。
でも、リーダーとして国を導く人は必要で、だから誰がトップに据えるかというのが問題になった。
けれど、あの独立戦争の中心人物だった親分は、首謀者だったくせに嫌だというし、バッシュさんは荷が重いというし、タゴサクさんは『何を言っておられるのか、あなた様よりも上の存在があるわけないでしょうご冗談を。ウヨリアンジョークですかな? HAHAHA!』みたいな顔して笑うのみ。
あれよあれよという間に担ぎ出された。
そして私自身もこの新しい国の混乱を抑えるには、ウヨーリだと思われている私が治めるのが一番早いと分かってはいるので、渋々引き受けざるを得なかった。
でも、ずっとじゃない、ずっとじゃないからね!
私は心の中で、これからの自分のライフステージについて考える。
頭が痛い。
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本日、『後宮妃は麒神の生贄花嫁 五神山物語』の発売です!
表紙は引き続き宵マチ先生!
本当に表紙だけでも見てほしい!!
美しすぎるから!本当、表紙だけ、表紙だけでも…!
(表紙を目にすればあまりの名画ぶりに手元に置きたくなって買うこと必死)
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