革命編⑤ ゲスリーの提案
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「ラジャラスが血相変えて呼ぶもんでな。きてみた。だが、ここまで上るのはなかなか大変だったぜ」
にやりと親分が笑う。どうやら、ここまで素手で登ってきたらしい。
よく見ると親分の腰のあたりに縄がある。
命綱かと一瞬思ったが、その縄の先から、遅れてルービルさんが壁を登ってきた。
登ったというよりも、おそらく登ってゆく親分に半分縄で引っ張られながらここまできたのだろう。
「ルービルさんまで……」
ルービルさんは体育会系ではないので、ハアハア息を荒くしながらも、私をみて眉間に皺を寄せた。
「リョウ……」
ルービルさんは何とも言えない顔で、そう私の名を呼んだ。
ルービルさんには思うところがないわけじゃない。
私を捕らえて、薬漬けにして操ろうとしてたのだから。
でも、憎いかと言われたら、それは違うような気がする。
何とも複雑な気持ちだ……。
そのルービルさんが私から視線を逸らして、今度は辺りを見渡す。
そしてある一点を見て目を見開いた。
「おい、ハインリヒは一体どうしたんだ!?」
今のテンション王は立ってはいるものの、体を左右にゆらゆら揺らしていて、目はあいてはいるが、正気ではない様子だ。
「……死んでるのか?」
親分もテンション王を見て眉根を寄せた。
「ああ、首をはねてあげた」
ヘンリーが何でもないようにそういうと、その胡散臭い笑みを親分に向ける。
「いや、生きてる! だが、様子がおかしい! くそ! しっかりしろ!」
テンション王のところに駆け寄ったルービルさんがそう言ってテンション王の胸ぐらを掴んで揺すった。
すると―――。
ぼとり。
「ひっ……!」
先ほどまですごい剣幕だったルービルさんは短く悲鳴を上げると距離を置いた。
テンション王の首が落ちたのだ。
首なしの状態でふらふらと体を揺らしながらも立つ、テンション王。
「……魔法か?」
それを見ていた親分が、心底嫌そうな顔をして、ヘンリーを見た。
ヘンリーは親分に睨まれても大して気にならないようで、笑顔で肩を竦めてみせる。
「私の魔法ではないけどね」
「相変わらず魔法ってもんは気味がわりいことをする。……首をはねたのはお前か?」
「首をはねたのは確かに私だが、兄はすでに死んでいた。お前たちがやったのだろう? 生きる屍のようだったよ」
彼の言葉に、親分は思うことがあったようで、気まずそうな顔をした。
「ああ、そうか。そうだったな……」
親分は少しだけ後悔をにじませたような声色を出す。
もしかしたら、親分はルービルさんが薬で王を意のままに操ろうとしていたことは知っていたのかもしれない。反対か賛成かはともかくとしても。
そして、どちらにしろ、ルービルさんの作戦は潰えた。
テンション王の死は、彼の計略を全て無にするには十分のはず。
私は親分の方に歩み寄ると、ぎろりと親分が私を見下ろした。
相変わらず、こわい。恐い顔だ。
でも、私はもう引かない。
「親分、もう、手を引いて欲しい」
「引く?」
「親分達が復讐をしたかった人は、もういない」
そう言って私はテンション王を見た。
テンション王は、まるで自分の首を探すようにゆらゆら揺れながら小さい円を描くようにぐるぐると歩き回っている。
ホラーで、そして何より哀れな光景だった。
それをルービルさんは、呆然としたような顔で見つめている。
死人が動いていること、しかもそれが復讐相手であること、それにこれからも使い道があったのにあっさり失われたことで、気が動転しているのかも知れない。
彼の中では、もっと苦しめる方法で王を死なせることを思い描いていたのかも知れないけれど、もう十分だろう。
「確かに、復讐という目的もあった。だが、俺がしたかったのはそれだけじゃねぇ」
親分がそう言ったので、私は頷いた。
「分かってます。国を変えたかった、ですよね? 魔法使いが非人道的に非魔法使いを扱わないように。そして何より魔法に依存して何もしない非魔法使いの人たちの心を変えたかった」
「……そうだ。この国は間違ってる。魔法が使えない奴らを下等なものだと思い込んでる魔法使いのやつら。そして、魔法使いに依存して、自分じゃ何もしようとしない非魔法使いの奴ら。どちらも等しく愚かだ」
「そうですね……。でも、親分達のやり方は間違ってる」
「誰が見ても正しいやり方が、最善ってわけじゃねえ。間違っていたとしても、そうしないと何も変わらねえと言うなら、俺はやる」
「けど、親分達のやり方、成功しそうですか?」
少々挑戦的に言うと、親分は眉間に皺を寄せて口を噤んだ。
痛いところをつかれた。そんな顔。
だって、実際、親分達の作戦は破たんしてる。
切り札だったであろうテンション王はあの有様で、王国側には天変地異を起こせる魔法使いがいる。
親分達に、もう勝ち目はないのだ。
「親分達が引いてくれるのなら、私から提案があります。実は、ルビーフォルン領とグエンナーシス領の独立を許してくれるそうなんです。なのでそれの自治を親分達に任せたいと思ってます」
「……はあ?」
「ですから、親分の理想は、独立したその新しい国で頑張ってみてはいかがかと」
「何言ってんだ。独立? そんなこと……そんなの信じられるわけがねえ。この戦争だって、俺達に勝ち目がねえってのは、お前がさっき言ったことだろ」
「都合が良すぎると思うでしょうけど、戦争に勝たなくても良さそうな状況になりまして……。いや、私もちょっと半信半疑なところはあるんですが……」
と言いながら、ちらりとヘンリーを見る。彼は私と目が合うと胡散臭い笑みをより深めた。
……ゲスリーは、私が隷属魔法をかけたと思い込んでいる。
だから、私が望む通りにしようとしてる。
隷属魔法なんて、かかってないのに。
私は改めて親分に向き合った。
「でも、親分、ここからの景色を見たら信じる気になりますよ」
私はそういうと、私は親分に私が今いる場所に来るように手招きすると、その場所を譲った。
ここからなら、先ほどゲスリーが割った大地がよく見える。
「これは……さっきの揺れは、この亀裂のせいか」
圧倒されたようにして親分がそう言った。
「そうです。この亀裂はちょうど、レインフォレスト領とルビーフォルン領の境で割れてるそうです」
私が説明している間も驚愕の顔で親分は亀裂を見続ける。
「ヘンリー殿下が、ご丁寧に大地を割ってくれたんですよ。そして割れた先の地については委ねると」
私がそう説明を足すと、親分はヘンリーを見た。
「この割れ目の先を、委ねる? 本当か?」
親分がそういうと、ヘンリーは胡散臭い笑みを絶やさず頷いた。
「ああ、先ほどそう彼女に言った」
「騙されるなアレク! 何か裏がある!」
先ほどまで放心状態だったルービルさんがそう叫んだ。
ルービルさんの言葉に、親分も険しい顔でヘンリーを睨みつける。
「確かに、裏があるとしか思えねぇな。俺たちをはめるための小細工か……。いや、こんな天変地異を起こせる奴がわざわざ小細工を使う意味もわからねえな。大地に亀裂なんか生み出せるんなら、連合軍のいる場所を全部沈めることもできたはずだ。そうすれば、この戦争なんて一瞬で終わってる」
親分のいう通りだ。
ゲスリーが動けば、この戦争なんてすぐに終わっただろう。王国側の勝利という形で。
そもそも、ゲスリーは魔法で作られたものなら全てを崩すことができる。
それを使えば……この国の文明自体をなくすことができるのだ。
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更新のたびにお知らせしていてすみません!
実は今日は、私が原作を担当している漫画『嘘憑き狐の巫女様は後宮で謎を占う』の二巻の発売日!!(てってれー)
かっこいい王蘭の表紙が目印です!一巻から続いた謎が二巻にて収束!!
とても分厚いお買い得な漫画です!一巻、二巻ともによろしくお願いします!









