革命編③相も変わらず読めないゲスリー
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波瀾万丈な感じで恋愛ありあり物語、是非お楽しみください!
「ち、違うんです! 私はこんなことするつもりはなくて、殿下が! 殿下が、突然、陛下の首をはねて……!」
悲鳴のような声で、シャルちゃんがそう言った。
私は思わずゲスリーを見る。
「ひどいな。君だって、それを望んでいたはずだ。君と私は、彼女に隷属魔法をかけられた仲間だと言うのに」
ヘンリーの言葉に、私は彼を睨みつける。
何言ってんの!?
「私は隷属魔法なんて使ったことはありません!」
しかし私の言葉なんて信用に値しないとばかりにヘンリーは肩を竦めた。
相変わらず、腹が立つ。
「……殿下は一体何をしたいんですか? 王の首をはねたというのは、本当なのですか!?」
「本当だよ。兄上は、すでに死んでるようなものだった。だから正しく死なせてあげたんだ」
「すでに死んでるようなものって……」
薬のこと……?
やっぱり、ヘンリーは、テンション王が薬に侵されていることを知ってたのか……。
でも、そうだとしても、どうして今更直接手にかけるなんてこと……。
「……ヘンリー殿下が陛下に手をかけたのは、私に陛下を操らせるためです。だから私を脅して……」
答えは私の腕の中で泣いていたシャルちゃんから。
「私、リョウ様の居場所を聞きたくて殿下のところにきていて……! そしたら、陛下がやってきて、それで突然、私の目の前で……ヘンリー殿下が陛下を手にかけて……。そこで私に、こう言ったんです」
その時のことを思い出したのか、シャルちゃんは辛そうに唇を噛んだ。
そして話を続ける。
『王を殺したのを君のせいにすることができる。そして君はリョウと親しくしてる。君が犯した罪は、リョウが君を唆したせいだと言われるかもしれない。国と反目している今の状況を考えれば、王殺しの罪をかぶるのは彼女だ。ただではすまないと思うよ。君が敬愛する彼女が死ぬまで、この戦争は終わらない』
ヘンリーはそう言って、シャルちゃんを脅した。
ヘンリーが自身の兄を切り殺した後だというのに、平然とした顔でシャルちゃんにそう語る姿が浮かぶ。
「私、それで怖くなって……! でも、リョウ様の足を引っ張りたく、なくて、私、いけないことだと分かっていたのに、私、私は……魔法を使ったんです……! 腐死精霊魔法を陛下にかけたんです!」
泣きながらシャルちゃんはそう言った。
「そこらへんの腐死精霊使いなら、こんな芸当はできないだろうが、彼女ならできそうな気がして少し試したんだ。そしたらできた。いや、本当に、おぞましい魔法だね」
ゲスリーが、なんてことないことを話すような感じでそう言うのが聞こえる。まるで世間話でもするみたいに。
ゲスリーのその言葉にシャルちゃんがさらに体を震わせた。
シャルちゃんは、今まで人の死体に腐死精霊魔法を使ったことはなかったはずだ。
そしてその試みは、幸か不幸かうまくいってしまった。
王はシャルちゃんの思い通りに動く……屍になったのだ。
「私……私……! リョウ様のおかげで、自分の腐死精霊魔法が好きになってきたのに、こんな醜悪で残酷な魔法だったなんて……! 自分が自分で信じられない! リョウ様、私の、ことを嫌いに、ならないでください……!」
シャルちゃんが縋るようにそういうのを見て、私は首を振った。
「嫌いになるわけないじゃないですか!」
嫌いになんかなるわけない! 当り前だ。
私がシャルちゃんを嫌いになるわけがない。
私は泣いて縋りつくシャルちゃんの背中をさする。
「シャルちゃん、ごめん。辛くて恐い思いいっぱいさせちゃって、ごめん」
目の前で死んだはずの人が突然動き出すだけでも怖いだろう。
しかも、それが自分がやったことっだと分かれば、その恐ろしさはどれほどのものか。
シャルちゃんは、突然、そんなことに巻き込まれて……。
泣きじゃくるシャルちゃんをしっかり抱きしめて、私はヘンリーに視線を向けた。
いや、睨みつけた。
こんな風にシャルちゃんを……私の友達を追い詰めたと知って、怒りが湧かないわけがない。
「殿下、貴方は一体何がしたいんですか?」
何度も何度も思うけれど、私には彼がしたいことが何一つ分からない。
「少し試したくてね。でも、これではっきりした。私は君から逃げられないようだ」
いや、だから、言ってる意味が本当に分からないんだが。
「なんの話をしてるんですか? 意味が分かりません」
「つまり、私は生きていれば君の魔法で操られ、死んでも彼女の魔法で操られる。そして彼女は君の虜だ。どうあがいても、君からは逃れられない。いやあ、考えるだけでぞっとするね」
ゾッとしたとか言って相変わらず読めない笑顔を私にむけてくる。
ゾッとしてるのは私の方だ。
彼の考えてることは、未だに読めない。
ヘンリーとは数日間だけ旅をした。
記憶を失った殿下。
あの時、本当に記憶を失っていたのか、それとも失ったフリをしていただけなのか。
それさえもわからない。
救いを求めてカイン様を見てみたけれど、彼は殿下の後ろで先ほどからずっと表情を変えずにそばにいるのみだ。
カイン様……。
カイン様はこの状況をどう思っているの?
「さて、君はどうしてここにきたのか、思い出したほうがいいのではないかな?」
ヘンリーが、まるで世間話するみたいなノリで話題を変える。
改めて無性に腹が立ったが、ここで私の目的を果たさなくちゃいけないのも事実。
とはいえ、テンション王がこんなことになっていることを考えると……。
どういうべきかと少し悩み、私は正直に言うことにした。
「私は、ただ、戦争を止めたくて……陛下に会おうとしてここに来ました。でも……」
陛下はもう死んでいる。
それは良いことなのかどうなのか、分からない。
どう判断したものか迷っている。
陛下が、シャルちゃんの言いなりならばその力で戦争を止めることはできるのでは?
しかし、そんなことをすれば、良心の呵責に悩むシャルちゃんを傷つけてしまうかもしれない。
でも、それが一番簡単な方法で……。
だけど、大人しくゲスリーがそれを許すだろうか?
いや、ゲスリーは、シャルちゃんの力のことを知った上で、そのままにしてる。
彼は一体何をしたいのだろうか……。
「へえ、なるほど。戦争をね。つまり彼らを止めたいと」
ヘンリーはそう言うと、ゆっくりとした動きで歩き出し、人々が争っている戦場を見下ろせるところで立ち止まった。
そして顔だけこちらを振り返る。
「君もこっちに来てくれ。カイン、シャルロット嬢を頼めるかな?」
ゲスリーがそういうと、先ほどまで無言でゲスリーの側に控えていたカイン様がこちらに来た。
「乱暴にはしたくない」
カイン様は、一瞥たりとも私のことを見ずにシャルちゃんにそう言うと、手を差し出した。
それってつまりシャルちゃんが拒否したら無理やり私とシャルちゃんを離れさせるということだろうか。
私が、戸惑っていると、シャルちゃんがそっとカイン様の手に自分の手を重ねた。
私にもたれかかるようにしていたシャルちゃんのぬくもりが離れる。
「リョウ様、私のことは、大丈夫ですから。リョウ様は殿下のところへ」
そう言って、少し落ち着いたらしいシャルちゃんが、カイン様の手を取りながら辛うじて作ったような笑顔を見せた。
「シャルちゃん……」
殿下と話し合う必要があるのは私も分かってる。
別に殿下はシャルちゃんを傷つけるつもりはないだろうし、それに、カイン様がシャルちゃんを害すことはない。
「カイン様、シャルちゃんをよろしくお願いします」
私がカイン様にそう言うと、カイン様とやっと目が合った。
一瞬戸惑うようにカイン様の瞳が揺れた気がした。
そして苦笑したような微かな笑みを浮かべる。
「ごめんね、リョウ。それと、殿下のこと、頼むよ」
カイン様が、私に顔を寄せてそう言った。
その声色が、懐かしいフォロリストの声色で……。
さっきまでずっとカイン様が、何を考えているのか、わからなくて不安だった。
私やアランを裏切ったような形で別れたから余計に。
でも、やっぱり、変わらない。
優しい人だ。そう思えた。
変わってしまったように感じたのは、きっと今のカイン様が支えたいと思っている人が、ゲスリーだからだ。
今までカイン様は、アランや私、家族に満遍なくその優しさを分けてくれていた。
でも、カイン様は王族に仕える騎士として、ゲスリーに忠誠を誓うことを決めたんだ。
だから、その優しさも配慮もゲスリーに捧げている。
ただ、それだけのことだった。
私は頷いた。正直どれほどの力になれるか分からないけれど。
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明日発売の『後宮妃は龍神の生贄花嫁 五神山物語』(スターツ出版文庫)をどうぞよろしくお願いします!
書いててすごい楽しかった…。
やっぱり不遇な主人公が困難に打ち勝って強くなってハッピーエンドを手に入れる話、大好き…。
ノベマにて試し読みもできるのでお手隙な際に是非!









