革命編①テンション王のご乱心
【お知らせ】
私が原作をしてる漫画『嘘憑き狐の巫女様は後宮で謎を占う』が、本日6月11日発売しました!
作画は『天に恋う』で有名な望月先生で、主人公の丹己ちゃんの可愛らしい表紙が目印!!
面白いので、ぜひぜひお手に取って楽しくなってください!
階段を登ると、すぐ地上に出れた。
激しい音がする方を見れば、砂煙が上がる中、人が剣を持って何かに向かっていく背中が見えた。恰好からして王国騎士だ。
そしてその向かい側、王国騎士と相対するように剣を持った男達がいる。その男達が背負う旗印は、たんぽぽ。
王国側と連合国側とで、戦っているのだと分かった。
彼らは一体何のために戦うのだろう。
こんな戦い、意味なんてないのに……。
そして左側の奥に目を向けると。唐突にせりあがった小高い丘のようなところに派手な赤い絨毯を敷いた場所が見えた。優雅な屋根付きだ。
魔法で作ったのだろう。
肉眼ではわからないけれど、きっとあそこにテンション王やヘンリーがいるに違いない。
戦場を遠目に見ながら、私は赤い絨毯の広がる丘の上に向かうことにした。
変な気持ちだった。気持ちがふわふわしてる。現実感がない。
ただ前に進むしかなくて、歩く。
本陣に向かって歩いてくる小汚い恰好の女がいると言うのに、国軍側は私のことを気にも留めてない。
私があまりにも堂々と歩いているので、魔法使いの小間使いか何かと思われているのかもしれないし、目の前に迫っている連合軍しか目に入らないのかもしれない。
みんなそれぞれ、自分のことで手一杯と言った感じで、険しい顔をしてる人もいれば、疲れ切った顔をしてる人もいる。
忙しなく動いてる人もいれば、呆然と立ち尽くしてる人も居る。
けれど、不安そうに話をしてる人が大半だ。
「宣戦布告されたはずの陛下が、今度は戦いはやめろとおっしゃってるらしい」
「今更止められるのか?」
「しかし、陛下の命令だ……」
そういう話がそこかしこで聞こえてきた。
テンション王が、戦を止めようとしてる?
にわかに信じがたい話なんだけど……。
それが本当だとしたら、確かにこの場が混乱してる理由が十分すぎるほどわかるけど、テンション王の真意が掴めない。
テンション王は、既に薬に侵されて、ルービルさんの言いなりだ。
ルービルさんの策で、国王に降伏を宣言させたのだろうか?
でも、ルービルさんは大きな犠牲がでてから戦いに終止符を打つつもり、のようなことを言っていた。ならば、まだまだ戦を引き延ばしたいはず……。
……どちらにしろ、私がテンション王に会わない限りは何も分からない。
もし本当にテンション王が戦争を止めたいと言っているのなら、話が早い。
私も同じ気持ちだもの。
そうしてズンズン前に進むとようやくテンション王がいるであろう小高い丘のすぐ下にたどり着いた。
魔法で作ったこの小高い丘は、いや、丘と言うより円柱と言った方がいいかもしれない。まっすぐ土が盛り上がっていて、下からだとてっぺんが何も見えない。
これに上るためには、と思って視線を巡らせると、土でできた階段が見えた。
円柱をぐるっと囲むように階段ができてる。
ただ、気になるのは、その階段のところに何故か見張りがいない。
階段をあがったところには見張りがいるかもしれないけど、王族がいる場所へと続く階段に見張り置かなくていいの? 入り放題じゃないか……。
ねえ、もう一度言うけど、入り放題だよ? というか、既に部外者である私ここまできてるよ?
何の苦労もなくここまできちゃったよ?
もうね、我慢ならない。
王国側の皆さん、こういうところですよ!?
こういうところがあるから、城内に薬が蔓延してルービルさんにまんまとしてやられるんですよ!?
国王軍側のあんまりな体制に、さすがの私も心中穏やかではいられない。
もうこれ、別に薬使わなくても、国滅ぼせたのでは……?
と、思わなくもないけれど、しかし忘れてはいけないのが、国王側にはゲス界のプリンスであり、チート界のキングであるゲスリーさんがいるということだ。
悔しい話だけど、どんなに頑張って知恵を絞ろうとも、天変地異を前にすれば敵わない。
この無防備な防犯体制も、魔法というファンタスティックに絶対的な自信を持っているからこそなんだろう。
私は一度深呼吸してから、無防備な階段を登ってゆく。
階段を上るにつれて、誰かの叫び声というか、怒声? 喚き散らしているような声が聞こえてきた。
この声、テンション王? どうやら丘の上のテンション王のボルテージはマックスらしい。
そしてようやく階段を登り切ると、赤い絨毯を敷いた派手な場所が目に入る。
そしてこれまた大きくて金ぴかで派手な椅子にゆったり座っているゲスリーが見えた。
相変わらず何を考えてるのかわからないような表情で自分の髪を暇そうにいじってる。
そばには、護衛騎士が一人。いや、あの護衛騎士はカイン様だ……。
カイン様が厳しい表情で、少し離れた場所に立っているテンションを見ている。
そのテンション王は唾をまき散らす勢いで何事か喚いていた。
よく見ると喚かれてるのは、ラジャラスさんだった。
彼は、テンション王に叱責された事がないのか、荒ぶるテンション王を前に訝しげな表情をしてる。
その光景が少し意外に思いつつも、歩を進めると……。
「待て!」
とうとう騎士の一人に止められた。
流石にここには、見張り的な騎士がたくさんいるようだ。
今までスムーズ過ぎるほどスムーズにここまで来たけれど、ようやく周りが私の存在に気づいたらしい。
何故だろう。気づかれて逆に安堵してる自分がいる。
だって、ここまでずっとスル―されてたから……。
「何者だ! ここから先はお前のような子供がいていい場所ではない!」
そう思うならもっと前から見張りとかしといたほうがいいよ!?
と見張りの騎士に思わずそう訴えそうになったのをグッと堪える。
私は別にここで防犯体制について議論しに来たわけじゃない。
私は目の前に立ち塞がった騎士を睨みつけた。
「陛下がお呼びと聞いたので、参りました」
「陛下が……?」
訝しげな表情で私をみる騎士。
どうやら、まだ私は元ヘンリー殿下の婚約者のリョウだと気付いてないらしい。
けれど周りの騎士の一人がやっと気づいた。
「殿下の婚約者様……!?」
誰かわからないが、騎士の一人がそう声を出したことによって周りにいる人たちもザワザワと騒ぎ出す。
そしてその騒ぎは少し離れた場所にいたヘンリーやテンション王にも伝わった。
「どうした! 何の騒ぎだ!」
テンション王が、今まで聞いたことないような大声を出した。
その声に反応した、先ほど私を呼び留めた騎士が、ニヤッと笑う。
「そうか、お前が……」
と言ってその騎士が、私の腕を掴んだ。
「来い! 陛下の前にいくのだ!」
トゲのある物言いで言うと、乱暴な扱いで私を引っ張り、そのまま引きずられるような形でテンション王の目の前に連れて行かれた。
騎士は、乱暴に私を転げさすとそのまま頭を床に押さえつけてきた。
「私が、連れてまいりました! 此度の戦の元凶です!!」
手柄はもらった! とばかりに高揚したような声で宣言した騎士。
顔はみえないけれど、きっとテンション王もご満悦なんだろう。
けど、別に引きずらなくてもよくない!?
しかも自分捕まえました感出してるけど、私が自分でここまで来たんですが!?
というか、ちょっと痛い。床はふかふか赤い絨毯だけど、勢いよく押さえつけられたから地味に痛い。
あの騎士の顔は覚えたので、後で靴の中に糞詰めとくけど、今はこんな小物の騎士に構ってられない。
私はこれからテンション王と交渉するのだから。
そう思ったところで、「無礼者!!」とテンション王の怒声が響き、バンと何かがぶたれた音がした。
私の頭を押さえていた騎士の手が離れる。
「へ、陛下、なぜ……」
さっきまでイケイケだったはずの騎士の呻き声。
私は恐る恐る顔を上げると、左頬を真っ赤に腫らした先ほどの騎士がいた。
え? 何? 何が起きたの?
と思って騎士を見たけれど、その騎士自身も何が起きたのか分からないというような顔をしていた。
そしてその騎士の戸惑う視線の先にはテンション王がいて、そのテンション王の手には鞘に収まった剣が握られている。
まさか、テンション王、あの騎士を鞘で叩いたの!?
私が靴の中に糞をつめるよりも先に騎士にギャフンと言わせるなんて。
しかも、無礼者だとかなんとか言ったような……。
戸惑うように私がテンション王を見ると、私と目があったテンション王は何故か目を潤ませた。
「リョウ様っ! 御無事で!」
と言って、テンション王は少女のような仕草で胸の前に両手重ねた。
まるで私に会えて感激してる乙女のような顔。
何が起きてるのか理解できなくて、思わずテンション王をまじまじと見る。
するとテンション王は「いけない!」と言ってわざとらしく顔の表情を険しくしてから騎士の方を見やった。
「お前は、もういい。ここから降りろ!」
と怒鳴った。
状況が飲み込みきれてない騎士は、「は、はい!」と言って逃げ出すようにしてその場から離れたわけだけど。
いや、まって。テンション王マジでどうしたの一体……!?
【お知らせ】
前書きでも書きましたが、『嘘憑き狐の巫女様は後宮で謎を占う』(漫画)が、本日6月11日発売しましたー!
読み切りから始まり、連載になってコミックスまで…!
ありがとうございます!(感謝)
中華後宮ミステリーものです!
なんと薬屋のひとりごとの日向夏先生から帯コメントまでいただきました!!
どうぞよろしくお願い致しますー!