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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第六部 転生少女の混迷期

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虜囚編② ラジャラスさんの過去

「いつからアレク親分達と繋がっていたんですか?」

 ダメもとで、疑問を口にする。


 先から意味わからないこと言ったり、無視したりしてるので、どうせ答えてはくれないだろう。

 と、思っていたけれど、ラジャラスさんはこちらを見て不敵に笑った。


「分かりませんか? 貴方は私という存在がいることを間接的に知ってるはずですよ。それに私がアレクさん達に対してどんな気持ちでいるのかを、一番分かっていると思いますがね」

 間接的に知ってる……?

 ラジャラスさんの言葉の意味がすぐに分からず、眉根が寄る。


 どういうことだろう。それに、私がラジャラスさんの気持ちが一番分かってるというのも……。


 いや、待てよ……。そういえばさっき、ラジャラスさんは。


『どうして僕は捨てられたのに、君は彼らのそばにいられたんだ!』


 ラジャラスさんが叫んだ言葉が脳裏をよぎる。


 まさか、ラジャラスさんは……。


「貴方は、私と同じで、親分達とともにいたことがあるってことですか?」

 かつて私は親分達にさらわれて、行動を共にしていた。

 そしてその時、以前にも子供をさらったことがあると言うような話を聞いた気がする。

 貴族に虐待を受けていた子供を拾って、安心できるところにやったとか、そんな話を……。


「やっと気づいたんですか? そう、その通りですよ。私はアレクさんに拾われ、いや、救われた身なのですよ」

 そう言って、ラジャラスさんは笑みを深めると再び口を開いた。


「私の生まれは、もともとヤマト領の開拓村で、5歳で貴族の屋敷に売られました。そこの主人は酷い人だった。非魔法使いを人とは思えないらしく、毎日 意味もなく折檻を受け、食事もろくに与えられなかった。数年間、そんな生活を耐えたところで、アレクさん達が助けてきてくれた。その貴族を殺してくださった」

 ラジャラスさんが、静かに語り出した内容に思わず目を見張った。

 私が驚いている間にラジャラスさんは話を続ける。


「それからしばらくアレクさん達と一緒に行動を共にしました。暖かい食事を与えられ、夜には暖かい布団にくるませてくれ、傷が有れば薬を塗ってくれて、怯える私に暖かい言葉をかけてくれた。アレクさん達は、ヤマト領の貴族を殺したことで立場を悪くしていたので、逃げるようにして移動する日々。それでも私は幸せだった。そこには私の欲しいものが全て詰まっていた。最高の日々だった」


 ラジャラスさんの話にかつての自分の姿が重なった。

 暖かい食事、食事の後はどんちゃん騒ぎで、夜は疲れてぐっすり眠る。

 私にとっても、親分達と過ごした日々は、本当に楽しいものだった。


 いや、よくよく考えれば実際きついこともあったけど、親分顔怖いし……でも、こうやって振り返ると楽しいことばかりな日々で……。


「だが、途中でアレクさんは、子供を欲しがっていた行商人に私を売った。危険な旅に子供を連れ回すのは気が引けると言って……。売られた先の商人はアレクさんが選んだだけはあって、いい人そうだった。……でも運の悪い人だった。一緒に行商をしている途中、事故で死んだ。私はまた人の手を渡り、人身紹介所に流された。そこで、ヴィクトリアに買われて、文字の読み書きや教養を叩き込まれて、陛下の慰みものとして献上された。私は王宮にいる間、密かにアレクさんを探した。今のこの立場なら、アレクさんの役に立てる。それだけが私の希望だった。そして、アレクさん達は私を見つけてくれたんだ」


 ラジャラスさんの話に、圧倒されて何もいえないでいる私をラジャラスさんは睨み付けるようにして見た。


「君より私の方が有用だ。そうだろう? それなのに、アレクさん達はどうして君を特別に扱う。邪魔しかしない君を! 君にはコウキさんがついて行った。私の時は違った。私の方が使える人間なのに!」


 そう言ったラジャラスさんが、ずいぶんと幼く見えた。

 まるでわがままを言う子供みたい。

 でも、その姿は、かつての自分と重なった。

 ……似てると思った。


「……コウお母さんがついてきてくれたのは、私が、一緒にいたいって言ったからです。……ラジャラスさんは言ったんですか? 一緒にいたいと伝えたんですか?」


 私が尋ねるとラジャラスさんは訝しげな表情をした。


「そんなこと言えるわけないだろう? そんなわがままを……」

「そんなこと、親分達はわがままなんて感じませんよ。きっとその時ラジャラスさんが一緒にいたいと言えば、彼らは一緒にいさせてくれたと思います。……でも、ラジャラスさんの気持ち、私も分かりますよ。私もそうだった。利益を生み出せば、必要とされると思いこんでいた。わがままなんか言えば嫌われると思っていた。私は必死で彼らの望むことをやろうとした。……自分の望むことを後回しにして」


 そう言いながら、山暮らしのことを思い出す。

 彼らとずっと一緒にいたいからと、私は色々と空回りしていた時もある。

 そんな日々を懐かしみながら私はさらに口を開いた。


「でも、彼らは私たちに利益なんて望んでないんですよ。そりゃあ口では悪ぶってましたけど……優しい人たちだった。人を利益で見ない人達だから、私たちはきっと彼らと一緒にいて心地よかったんです。彼らのそばにもっといたいと思えた。大好きな人と一緒にいるのに必要なのは、自分がその人にとって有用かどうかじゃない」

 扉の小さな格子の隙間から、ラジャラスさんの戸惑うように揺れる瞳が見えた。


「……私をここから出して下さい。戦争を止めたい。私だって、親分達のこと愛してます。

そこに変わりはない。私は、愛してるからこそ、彼らを止めたいんです」

 私の言葉にハッとしたように目を見開いたラジャラスさんは、でもすぐに首を横に振った。


「だが、今更君が外に出て何ができる?」

「まだ、できることはあります」

「いいや、もう遅いんだ。戦争はもう始まっている。王国騎士が、君をさらうために夜襲をしたことは明るみになっている。そっちの陣営は君の弔いのために戦いたがっているぞ。そして、ハインリヒ陛下も宣戦布告を出した。君は止められなかったんだ」


 ラジャラスの話に思わず言葉を失った。

 止められなかった……?


「もう、戦争が……?」

 ラジャラスさんはうなずいた。


「ヘンリー殿下も動き出す頃合いだ。もう犠牲は免れない。そして少しでも血が流れれば、この戦争はどちらかが全滅するまで止まらない」

 ラジャラスの言葉が私に重くのしかかる。

 間に合わなかったってこと……?


 今までのことが脳裏に過ぎる。

 アレク親分はどうしてるだろうか。

 リッツ君にシャルちゃんは? カテリーナとサロメ嬢だって……。

 みんな今、どうしているのだろう。


 私は……。親分達と暮らしていた時、私は親分に力を貸すつもりだった。

 そこに自分の意思はなくて、ただ親分達によくおもわれたいから、家族でいたいから、親分の無謀とも言える目的のために尽くすつもりだった。


 けれど、学校に行って、いろんな人たちに会った。

 アラン、カイン様、シャルちゃんにカテリーナ嬢にサロメ嬢、リッツ君に、一緒にドッジボールをしたみんな、みんな……。


 私の世界は広がって、だからこそ、私は親分を止めようと思うことができた。

 ただ親分のやりたいことを否定するわけじゃなくて……。

 この国を変えることで、親分を止めるんだって……。


 それなのに……。

 一気に体の力が抜けた。ベッドの上で項垂れるようにして顔を下に向ける

 間に合わなかったんだ……。


 私は……。


『もう諦めちまうのか?』

 親分の声が聞こえた気がした。

 不敵な笑みを浮かべて、試すような口調で、スキンヘッドを光らせて、親分が私を見ているような気がした。


『リョウちゃんなら大丈夫よ!』

 いつもの励ますようなコウお母さんの声も。


『リョウ様がお決めになることなら、私はずっと応援してます!』

シャルちゃんの声。


 頭の中で、みんながみんな私に勝手なことを言ってくる。

 学園のみんなだって、私を信じて、戦争が始まるのを止めていてくれた。


 私は、まだ諦めない。

 まだ一か八かの、望みの薄い賭けだけど……手はある。


「ラジャラスさん、私を出してください。まだできることはあります」

「何をするつもりだ……。君が出てきたところで、場が混乱するだけだ」

「それでもいい!」

 吠えるようにそう言うとラジャラスさんが迷うように瞳が揺れる。


 そして何かを口にしようとした時、外から慌ただしい足音が聞こえてきた。


 ラジャラスさんもその音を聞いて通路の方を見ると、誰かが駆け寄ってきた。


「陛下のご様子が……!」

 知らない男の人の声……王国側の騎士だろうか。


「落ち着きなさい。陛下がどうしたのです?」

「突然人が変わったようになって……宣戦布告を取り下げようとなさってます! 戦場は混乱していて、こちらの被害が大きい」

「馬鹿な! 何故、陛下はそんなことを!?」

「わかりません! ただ、その後はリョウ=ルビーフォルン嬢を連れてこいというばかりで……!」

「私……?」

 唐突に私の名前が出てきて、ラジャラスに視線を向ける

 小さな格子窓を通して目があったけれど、ラジャラスは苦々しい顔をするとすぐに目を逸らした。


「陛下がそんなことをおっしゃるとは、信じられない……。陛下のもとへ行く。君は先に行って陛下をなだめて差し上げろ」

 ラジャラスさんがそう言うと、兵士の人はハッと返事を返して踵を返して行った。

 それに続こうとするラジャラスさんの背中に私は慌てて声をかける。


「まって! それなら私も連れて行って!」

 私は鎖を引きずるようにしてそばまで行くと、どうにか格子にすがりつく。


「陛下は私を探してるのでしょう!? なら私を……」

「君は連れて行かない。君は死んだことになっている人間だ。それに、行ってどうする? 君にとって都合がいいことが起こるとでも思っているのか?」

「それは……でも、直接話ができれば、戦争を今からでも止められるかもしれない」

「無駄な足掻きだ。陛下にその辺の理性はもうない。……何故君を探しているのか分からないが、ろくなことではないのは確かだ」

 ラジャラスさんにそう言われて、私は一瞬怯んだ。


 確かに、あの陛下とやらと話して実りのある話ができるような気がしない。

 その陛下が私を探す理由……考えられることとしたらゲスリーから生物魔法のことを聞いた、とか……?


 もしそうなら、あの臆病な王は、生物魔法を使える私が生きてることを決して許しはしないだろう。

 確実に殺すために、私を呼んでいるのかもしれない。

 でも……!


「戦争を止められるチャンスがあるなら、私はどうなってもいい!」

「……馬鹿な女だ。どうして、こんなのをコウキさんも、アレクさんも……」

 苦々しい顔でラジャラスさんはそう言うと、彼はそのまま行ってしまった。




【お知らせ】


3月13日土曜日。

私が原作を担当した『嘘憑き狐の巫女様は後宮で謎を占う』が、ガンガンonlineで連載開始されます!!

漫画は『天に恋う』で有名な望月桜先生です。

美麗...!!.

こちらは夏に公開した読み切り版が好評いただいての連載化になります。

本当に応援ありがとうございました!

後宮×ミステリー×中華風ファンタジー。

アプリはコインやチケットを使うと無料で読み続けられるはずなので、是非お楽しみください。

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嘘憑き狐の巫女様は後宮で謎を占う


― 新着の感想 ―
[気になる点] 王家の人達が突然人が変わったような状態になるのは何故なのか?むむむ、それさえ答えることが出来れば、状況は変わるかもしれない
[一言] (想像の中でやけど)コウお母さんと シャルちゃんの応援があれば リョウはいつだって頑張れる!
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