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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第六部 転生少女の混迷期

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虜囚編① めざめたら牢


 体がズシンと揺れた気がして、重いまぶたを開けた。


 土を掘っただけって感じの天井が見えた。

 また知らない天井か、デジャブ……。

 最近、こんなことばかりだ。


 それにしても、なにこれ、気持ち、悪……。

 頭が痛い。

 どうにか記憶を掘り起こして、ラジャラスさんとルービルさんに囚われた記憶を思い出す。


 なんかすごい遠い記憶のような気がする……。

 とりあえず、この気持ち悪さをどうにかするため私は解毒の呪文を唱えることにした。

 前回ゲスリーに拉致られた時にもお世話になった解毒魔法。

 さすがに似たような事態が立て続けに二回ともなると慣れてくるらしい。

 前と同じように吐血すると、意識がはっきりとし始めた。

 体を動かそうとすると、ジャラリと鎖を引きずるような音がした。


 引きずるような、というか……鎖を引きずる音そのものだったようで、私の両手首と両足にそれぞれ鎖が絡まっているのに気づく。


 薬を抜いたのに体が重いと思ったのはこれが原因か。

 手首の方は、手の動きを封じるために両手をくっつけて縛られてる。

 足の方は足首に鎖が巻かれててその鎖の先はベッドの端にくくりつけており、ここから動けないようになっていた。私は猛獣か。


 ヘンリーに捕われた時と違って部屋の内装も本当にただの牢獄って感じだし。

 ただの土壁に、小さいベッドが一台。ちょっとした台にランプの明かり。おトイレ用なのかしらと思われる穴。

 絨毯などもあろうはずもなく。

 今思えば、ゲスリーは私を閉じ込めるために、立派な部屋を用意してくれたんだなと妙なところで感心した。


 服もいつのまにか変わってる。

 誰かが着替えさせたのか、生成りの簡素な服。

 しかもそれもすでに汚れていて……あれ、私ここにきてからどれくらい経った……?


 この部屋で目が覚めたのは初めてのはずなのに、初めてじゃないような気がしてきた……。


 朧げな記憶が脳裏にかすめる。……だめだ、思い出せない。


 と思ったところで足音が聞こえてきた。


 私は扉の辺りを伺う。扉の真ん中上の方は格子状になっていて向こう側が見えるのだけど、そこにあんまり会いたくない顔が見えた。

 ラジャラスだ……。

 彼は私が目を覚ましていることに気づくと少し驚いたのか目を見張った。


「……もう起きてたのか。ああ、そうか、外が騒がしいから……」

 騒がしい? そういえば、体全体が揺れたような気がして目覚めたのだ。

 それに、今も少し揺れてる……?


「食事を持ってきました。気分はどうです?」

 ラジャラスはそう言って床に何かを置いた。

 床と扉の間には少しだけ隙間があって、そこからスープの入った器と、パンが乗ったトレイが差し出された。

 どうやら食事を持ってきてくれたらしい。

 正直あまりお腹もすいてないので、再びラジャラスの方を見る。


「ここはどこですか?」

 私がそう尋ねると、ラジャラスは首を竦めて懐から何かを取り出した。

 取り出した紙で包まれた小さいものを見せびらかすように私の前に掲げる。


「強がっていても薬の効果は消え切れてなくて辛いでしょう。これを吸うと楽になります」

 何か勝ち誇ったような顔でそういうラジャラス。

 あの小袋の中身は、テンション王にも飲ませていた薬だろう……。

 解毒魔法のお陰で、依存症状のようなものはないけれど、もし薬が体に残っていたら抗い難い誘惑だったのかもしれない。


「もう一度聞きます。ここはどこですか」

 ラジャラスさんはやっと訝しげな表情をすると、すぐに不機嫌そうに私を見た。


「……ここは陛下が作った地下室ですよ。あなたのために急遽作ってもらったので、荒いところもありますが、しばらくの間辛抱してください」

「しばらくというのはいつまでですか?」

「戦争が終わるまで。ルービルさんは、剣聖の騎士団の勝利で終わった後の統治を貴方を旗頭にして行う予定のようなので」

「私を……?」

 そういえば、ルービルさんはまだ私に利用価値があるといった。


「私がルービルさんの言いなりになると思うんですか?」

「ええ、思っていますよ。あなたは、私たちの傀儡になってもらう。そのためにこれがあるのですから」

 そう言って再び薬袋を振った。

 ああ、そうか、彼らは薬を使って私を操るつもりなのか……。あのテンション王と同じように。

 けれど、私には解毒魔法がある。

 ルービルさん達の思い通りにはならないとは思うけれど……。


「今は何時ごろですか? 私はどのくらい寝ていたんですか?」

 そう言いつつ鎖を引っ張ってみる。ジャラジャラと無機質な音がなる。

 この鎖、重い上に太い。強化魔法で引きちぎれるか心配になってきた。


「そんなことを聞いてどうするつもりかわかりませんが、知りたいのでしたら伝えましょう。今は昼過ぎです。貴方がここにきてから、すでに3日が経過してます」

 ラジャラスの話に目を見開いた。

 え……3日……?

 そんな、馬鹿な……。


 真っ白になった頭に、先ほど思い出せなかった朧げな記憶が蘇る。

 そうだ、私はこの場所で何度か寝起きしてる。

 意識が朦朧としてハッキリとは覚えてないけど……食事と一緒に、薬を飲まされて……。


 薬を摂取しては寝て、起きてはまた薬を摂取する。私は、たしかにそういう生活を3日ほどしていた……。


 先ほどは、大きな揺れで、ちょうど薬の効果が薄らぐ時にたまたま起きることができたのだろう。 だから解毒魔法を使う余裕が生まれた。

 でも、それまではずっと朦朧とした意識の中で、ここで暮らしていたのだ……。


 私は奥歯を噛み締めた。


「私をここから出してください! 外はどうなってるのですか? 本当にあなた達は何がしたいのかわからないっ! 陛下はもうあんな状態で……わざわざ戦争なんてしなくても、貴方達が勝つ方法はあったはずです。それなのにわざわざ戦わせるなんて……!」

「双方にある程度犠牲が出ないと、意味がない。簡単に手に入れた勝利や革命に、ついて来るものなどいないでしょう?」

「そんなの違う!! 勝利を手にしたその後のことはその後の動き次第です!」

 私がそう噛み付くように言うと、ラジャラスさんは顔を下に向けた。


「……たくさんの犠牲があった上での革命だからこそ、ありがたがる。だから戦争が必要だと、ルービルさんは言っていた」

 ルービルさんが……?

 それはそうだろう。あの人はだって、この国の人たちの未来を嘆いて剣をとってるわけじゃない。

 復讐のために世界を巻き込んでいるだけだ。

 正直、この国をめちゃくちゃにした後のことは本気で考えてないような気がする。


 でも……アレク親分は違う筈だ。

 それにクワマルさんやガイさんだって……。それに今目の前にいるラジャラスは……?


「ラジャラスさんは、どう思っているのですか? ルービルさんの言う通りでいいと本当に思ってるんですか?」

「私は……」

 私に問われたラジャラスさんは、そう言って先が続かないのか口をつぐんだ。

 しかし、すぐに視線を上げて私を睨むように見た。


「僕はアレクさん達の望むように動ければそれでいい!」

 ラジャラスさんが思いの外に声を荒らげるので言葉を失っていると、彼はさらに口を開いた。


「君は一体なんなんだ! どうして僕は捨てられたのに、君は彼らのそばにいられたんだ! 僕の方が美しくて、従順だった! それなのに……何が悪かったんだ!」

 突然ラジャラスが意味わからないことを言い始めた。

 僕の方が美しいって……。いや 確かにそうかもしれないけども。


「な、何の話をしているんですか?」

 戸惑いながらそう問いかけてみたけれど、ラジャラスさんは忌々しそうに私を見るだけで答えようとしなかった。


 というか、そもそも、ラジャラスさんは、いつから親分と繋がっていたんだろうか。

 基本的に、王都に離れた南の領地に籠もっていたはずのアレク親分達と、王都にいたはずのラジャラスさんが出会う機会なんて、然う然うないはず……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかのラジャラスさん同じ境遇? 昔死んだカエルの目をしてた主人公より美形なのにーーキーーーッ! [気になる点] 私の中で巻き起こる親分たち人たらし説… [一言] ハラハラドキドキでワク…
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