小間使い編⑰-サプラァイズ-
アイリーンさんの旦那様がとうとうレインフォレスト領に帰ってきた。優しそうな面影のイケメン男性、推定30代前半なカーディンさん。カイン坊ちゃまはお父さん似だったみたい。
久方ぶりのお父様の帰郷と言うことで、屋敷内はすごく賑わった。しかも、カーディンさんと一緒に幾人かの魔法使いが戻ってきたので、アイリーンさんやもともと居た魔法使いたちの負担が減るってことで、魔法使いのみなさんも大はしゃぎ。
しかも、他の使用人からカーディンさんのことを聞いたのだけども、なんと王族だったらしい! 1つ前の王様が側室に生ませた7番目の王子ということだった。王族も魔法が使えなかったら、王族ではなくなってしまうみたいで、大概が魔法使い(貴族)に嫁がせるらしい。ちなみに1つ前の王様が、かなりの子沢山だったので、現在の貴族のお嫁さんお婿さんは、結構元王族が多いのだとか。
今の王様はカーディンさんの兄にあたる方が務めているというから、カーディンさんてすごい。
そんな感じで、元王族でもあり、現在はレインフォレスト領の主人でもあるカーディンさんは人気者だった。カーディンさんが来てからは、しばらくは毎日立食パーティーのような感じで、屋敷の使用人たちはもうてんやわんや。
現在は、カーディンさんのおかえりなさいパーティーが落ち着いてきて、昨日から、クロードさんが早速カーディンさんと仕事の引継ぎについて打ち合わせを始めていた。
数日もすれば私もいよいよ異動かと、窓ガラスを雑巾で拭きながら物思いにふけっていると、アランが剣術の授業を終えて、私のところにやってきた。
私が、クロードさんと一緒に屋敷から出て行くということが決まったとき、ちょっと微妙な空気になった子ども3人衆だったが、その後、特に衝突することもなくすごしていた。ただ、お坊ちゃま二人は、何か私に隠れて、ごそごそやっている雰囲気がある。何かサプライズを用意しているのかもしれない。察しの良い私は、何も気づいていないふりをしなければなるまいと察して淡々とすごしていた。
今までごそごそしていたアラン氏だったが、今日は胸を張ってこちらにやってきている。すんごい笑顔だ。とうとうサプライズの日なのかしら。
極力、私何も気づいていないですーという雰囲気を出して、雑巾を桶にかけて、やってくるアランに使用人らしくペコりとお辞儀をする。
「リョウ! ちょっと来て! 渡したいものがある!」
そういって、アランは私の手をとって、屋敷の別棟のほうへぐいぐい引っ張っていった。
やはりサプライズか。盛大に驚かなければ。
私は、あらやだアラン様突然なんですかー、困りますー、窓ガラスの掃除中ですーみたいなことをいいつつ大人しくアランに引っ張られた。
アランが行こうとしている方角を見ると、カイン坊ちゃまが手を振っている。相変わらずさわやか貴公子の笑顔。
そんな感じで、乱暴にアランに案内されたのは、屋敷の奥にある別棟。ここには、商人から買い取った鉱石類がたくさんある。
アイリーンさんなどの魔術師がこの鉱石を使って、ガラス瓶だったり、剣や道具類を魔法で作っているのだ。
しかし、サプライズ会場としては、ちょっと地味じゃなかろうか。
なんでわざわざこんなところへ? と言う顔をカイン坊ちゃんに見せると、右手に短剣をもって、ヒラヒラとふった。
ええ! 短剣て!?
はっ! まさか、私がここから出て行かないように監禁する気!? サプライズパーティー的なものじゃなくて、サプライズ監禁だったの!? やめて! アランったら、ツンデレだと思っていたけれども、ヤンデレだったのね!?
思わず青ざめた私をみて、カイン坊ちゃんが慌てて「怖がらないで! 大丈夫だから!」 とフォローをしてくれているが、何が大丈夫なのか分からないのでフォローになっていない。とりあえずその右手の物はしまおうか。フォロリスト失格ですよ?
「リョウには、出発前に、特別に俺が作った短剣をやる!」
そういいながら、アランは、建物の中に積み上げられている鉱石を一つ一つ手で持って、じっくり検分している。
短剣?
「そう、僕が持ってる短剣もアランが作ってくれたんだ」
そういって、カイン坊ちゃまは再度短剣を私の目の前に見せてくれた。
装飾もない無骨な短剣だった。心なしか、刃の部分がほんの少し曲がっている感じではあるけれども、短剣として使う分には問題ない代物だ。
「魔術師が剣を作って、その剣を誰かに渡すのはこの国では信頼の証なんだよ。リョウが出ていっちゃう前にアランが渡したいって、いっぱい練習してたんだ。僕のもらったこの短剣も練習中にできたものだよ」
ニコニコっと笑顔のカイン坊ちゃま。アランの成長が嬉しいみたいだ。
「よし! この鉱石にする! リョウ、なんか希望の形とかあるか?」
納得のいく鉱石を見つけたようで、アランは満面の笑みでトタトタとこちらにやってきた。
「私のために頑張ってくれたみたいで、ありがとうございます。特に、希望はありません。アラン様が作ったものなら、なんでも」
私は、にっこり微笑んでお辞儀をする。
信頼の証か・・・・・・。なんかちょっともらうのが申し訳ない気もするが、もらえるものはもらっておこう。ナイフあると便利だし。
「分かった!」
そういって、アランは神妙な顔をしながら自分が持ってきた鉱石を両手でしっかりと握った。
「キミガタメ ハルノノニイデテ ワカナツム ワガコロモテニ ユキハフリツツ」
アランが呪文を唱えると手に持っていた鉱石が、形を変え、大きさを変え、色をかえ、ニョキニョキと剣の形をとり始める。
アイリーンさんの仕事と比べちゃうと、アランの剣の生成は時間がかかったが、きちんと短剣のようなものが出来た。
でも、さっきカイン坊ちゃまが見せてくれた短剣よりもかなり不恰好だ。剣先がうにょんと斜めになっている。
アランの顔をみると、うっと唸って、落ち込んでいる。失敗したのだろう。
小声で、もう一回やる! といって、深呼吸を始めて、また違う呪文を唱えた。
「アサボラケ ウジノカワギリ タエダエニ アラワレワタル セゼノアジロギ」
今度は、さっき出来た短剣がぽろぽろと崩れて、砂のようになり、それを下に設置していた桶の中に入れた。
そして、桶の中の砂に手を置いて、また「キミガタメ」で始まる呪文を唱えると、ニョキニョキと短剣の形になっていく。
しかし今度もまた不恰好。アランは、ううう、と唸ってまた違う鉱石を使ったりして、色々と試行錯誤を始めた。
ああ、なんと大変そうなアラン氏。既にうまく出来たやつを用意してから私に渡せばよかったのではなかろうか? そんな疑問が脳裏をかすめる。
それを察したのか空気が読めるカイン坊ちゃまが私の耳元で、
「アランが、目の前で作って、驚かせたいと言ってきかなかったんだ」とこっそり教えてくれた。
ちょっとは大人になってきたアラン氏だけれども、ところどころ子どもっぽい。
それからしばらく、アランが、魔法を使い続けていく。
アイリーンさんの仕事の手伝いをしたときに確信したのだが、どうやらこの世界の呪文は、何故か私が前世で暮らしていた世界の古典文学からの言葉回しが多い。今まで聞いた呪文も昔の百人一首とかに出てくる短歌の文言だった。
短歌の意味と魔法の効果が特にリンクしていない感じがするので、どの短歌でこの効果が出ると言う推測が出来ていないが、どうやら剣を作る呪文が、「キミガタメ」で始まる短歌で、「アサボラケ」が魔法を解くときの呪文のようだ。
「アサボラケ」で始まる呪文は、アイリーンさんもたまに使っている。作った剣の解除だけでなく、他の魔法の解除も同じ「アサボラケ」ではじまる呪文だった。
ちなみに、呪文さえ唱えれば魔法使えるんじゃね? と思って、こっそり短歌を詠んでみたけれども何も起こらなかった。魔法使いじゃないと発動しない仕組みがあるらしい。
そんなこんなで、十数分は短剣作りに格闘していたが、やっと納得行く仕上がりのものが出来たらしいアランが笑顔で短剣を持って私のほうを見た。
刃渡り15センチぐらいの両刃の短剣だ。先ほどと違ってまっすぐ剣先が伸びている。色もいいし、切れ味もよさそう。
満足そうな顔をして、アランが、自慢げに短剣の柄の部分を私に差し出す。
「リョウのものだ。俺や、カイン兄様がいなくても、大丈夫なように、お守り! 俺の代わりに、この短剣がリョウを守ってくれるようにって思って作ったんだ!」
おやおや、いっちょ前に親分を守っている気でいたんですかね、アランよ。
まあ、今のアランの成長具合からして、もう私の子分じゃものたりないかもしれないね。うむ、独立を許そう。
私は、大げさなくらいかしこまって、恭しく短剣を受け取ると、お礼を言った。
ここを離れるんだな、というしんみりとした実感が沸いてきた。









