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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第六部 転生少女の混迷期

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混迷編⑩ 親分の参謀役ルービルさん

 一日があまりにも密で体が完全に疲れてる。


 けれど、突拍子もないことの連続で、精神的にはアドレナリンあたりがガンガン分泌されてる感じで、眠りにつけない。

 でも、ちょっとでも体を休めとかないと、と思って瞼を閉じていたんだけど、眠れない私に気付いたコウお母さんが、ホットミルクを持ってきてくれた。


 コウお母さんのホットミルク! どうしていつもここぞというタイミングで、私が欲しいものをくれるのだろうか!!


 私は礼を述べて、ありがたくホットミルクを頂戴した。

 気持ちも落ち着いて今日あった出来事を少し落ち着いた気持ちで思い返す。

 

「アレク親分は……私の提案を呑んでくれると思いますか?」

 私がカップで手を温めながらそういうと、隣で私と一緒にミルクを飲んでるコウお母さんがこちらを見る気配がした。


「かなりいい線いってたと思うわ。いつものアレクなら、ちょっとでも嫌ならすぐに突っぱねるもの」

「そうですよね!? あの親分が、決断を保留にしたのって、かなりいい線いってますよね!?」 

 私が、ちょっとはしゃぐようにいうとコウお母さんは、少し悲しい笑顔を見せた。


「……でも、ルービルの方は難しそうね」

「ルービルさんは……そうですね」

 話し合いの中、ルービルさんは最後まで強硬の姿勢を崩さなかった。

 少し意外だった。どちらかと言えば冷静で、荒事は避けるタイプの人だと思っていたから。


「あの、コウお母さん、親分達と王家の間に、何かあったんでしょうか? もちろん、話すのが嫌なら無理にとは言わないですけど……」

 恐る恐るそう聞くと、コウお母さんは「そうね。リョウちゃんは知っていた方がいいかもしれない……」と口にしてから、寂しそうに微笑んだ。


「アレクにはね、フィーナっていう妹がいたのよ。優しくて、とても可愛らしい子だった」

 懐かしむようにそういうと、すぐに顔が陰った。


「けど、フィーナは、王族のハインリヒに殺された。無実の罪をきせられ、アレク達の目の前で、火に炙られて……」

 火炙り……。

 火刑はこの国でも、特に重い罪を犯したものが処せられる刑だ。

 それを無実の罪でだなんて……。


「王族でハインリヒとなると……現国王、ハインリヒ王のことですか?」

 確かテンション王の正式な名前は、ハインリヒ=ゲイス=フォムタールだ。

 私の問いに、コウお母さんは頷いた。


「そうよ。当時はまだ王ではなく、王太子の身分だったけれど、次期国王の地位を約束させられていたあいつには権力があった」

「その権力で、フィーナさんに無実の罪を着せたんですか?」

「そう。あの子になんの落ち度もなかった。ハインリヒが可愛がっていた小姓の男が、フィーナを気に入りつきまとい始めたの。けれど、フィーナにはすでに恋人がいた。だからフィーナはその男の求愛を拒み続けて、そして逆恨みされた。逆上した小姓の男は、ハインリヒにあることないこと吹き込んで……」

 そう言ってコウお母さんは息をつめた。

 かすかに眉根を寄せて悲し気に瞳を伏せる。

 思い出してるのかもしれない。当時の辛い記憶を。


 しばらく無言だったが、コウお母さんは改めて口を開いた。


「ちゃんと調べさえすれば、小姓の男の言うことが嘘だとすぐにわかるようなものなのに、ハインリヒはそうはしなかった。小姓の男の言を鵜呑みにし、フィーナに罪をきせ、殺した。……あの時のことは今でも夢に見る。ボロ雑巾のように柱に縛られたあの子が、火に……あぶられてゆく姿を……」

 コウお母さんの唇が震えていた。


 私も、言葉にならなかった。怒りが、嫌悪感が、こみあげてくる。


 だって、ちゃんと調べもせずに、火刑!?

 そんなのありえない。そう思う、思いたい。

 でも、確かに、魔法使い至上主義で王政のこの国では、あり得ないと言い切れない……。

 この国は、そういう理不尽がまかり通る国だ。


 そしてそれはきっと、私が知らないところで、今でも……。


「アタシ達は、あの時フィーナを助けられなかった。けどアレクはそれを嘆くだけの人じゃない。だからこの国を変えるために、何もかもを捨ててここまできたのよ……」

 そう言ったコウお母さんの目に、ランプの明かりが揺らめいた。

 コウお母さんの中で燻る、憎しみの炎のように見えた。


 コウお母さんは、戦争を起こしたくない私の意見を尊重してくれてる。

 国を変える方法は他にもあると言う私の味方でいてくれる。


 でも、もしかしたら、本当は心の奥底では、アレク親分と同じ思いもあるのかも……。


「アレク親分が復讐のためだけに動いているのだとしたら……私の要求は飲んでくれないかもしれませんね」

 だって、私のやり方だと、親分の復讐は果たされない。

 あのテンション王は、あのままなんの反省もすることなく、呑気に生き続けることになるだろう。


 そう思って呟いた私の言葉にコウお母さんは首を振った。


「確かに、アレクの目的は復讐というのもある。けれど、アレクは復讐にだけに囚われる男じゃないわ。それに、小姓の男はきっちり八つ裂きにしたし、その時に彼の復讐は、終えているのよ。アレクは今、この国を変えるために動いてる。だからリョウちゃんの提案にも前向きに検討できるのよ。あんな悲劇が起きないような国になるというのなら、アレクはそれで構わないの。でも……ルービルは違うかもしれない。彼は復讐に囚われている。この国と、そしてハインリヒへの復讐のために動いてる」

「ルービルさんが?」

「フィーナとルービルは恋人同士だったから」


 コウお母さんの言葉に、ルービルさんが、私の提案に対してあんなに声を荒らげて、受け入れない姿勢を示したことに納得がいった。

 そして想像した。

 もし、私も、大切な人が国に裏切られて殺されたら、どう思うだろう。


 もし、コウお母さんが、アランが、シャルちゃんが……。

 その時、私は、今のままの私でいられるのだろうか……。


 私が物思いにふけっていると、コウお母さんが警戒する様にしてあたりを見渡した。


 どうかしたのだろうかと、私もあたりを見渡す。

 ここは野営の天幕の中。

 明かりはランプ一つなので薄暗く、寝るための毛布があるぐらいで荷物もあまり多くない。

 気になるものはないと一瞬思ったが、何か違和感があった。


 天幕の外の雰囲気が、変……微かに人の息遣いが聞こえる。


 ……囲まれてる?


「コウお母さん……」

 私は小声でそう名を呼ぶと、コウお母さんは警戒の視線を外に向けたまま頷く。

 私は、いつでも出れるように自分の荷物を引き寄せた。


 そこで、バリと何かを引き裂くような音が聞こえてくる。

 天幕の布を破って何者かが入ってこようとしていた。


 あの鎧は、王国騎士……?


 私は、力を増やす呪文を唱える。

 そしてその王国騎士は私の姿を認めるとこちらに向かってきて迷わず剣を振り下ろしてきた。

 狙いは、私……!


 その凶刃をコウお母さんが短剣で受け止める。

 私も加勢しようと、その男の懐にタックルをかますと、その男はバランスを崩して背中から倒れた。

 しかし、男が破った天幕から他にも人影が入ってきて……。


「リョウちゃんは、逃げて!」

「でも……! この人数では、コウお母さんが……!」

 天幕の外にはまだまだ何者かがいる。さすがのコウお母さんでもそれらを全員相手にできるわけがない。


「リョウちゃんに何かがあったら、この戦争は止められない」

 コウお母さんの言葉に、私は唇を噛んだ。

 確かに、そうだ。ここで私が殺されるようなことになれば……。


 迷う私の背中を押すように、コウお母さんが前に出て逃げ道を塞ぐ騎士に飛びかかる。

 コウお母さんの長い足は、侵入者の急所にあたってそのまま地面に倒れ……逃げ道ができた。


 呪文のかかった今の私なら、このまま逃げ切れる……でも……。


「早く!」

 コウお母さんの大きな声に押されて、私は反射的に逃げ道に向かって走った。

 伸びてくる侵入者の手を掻い潜り、その先を目指して駆け抜ける。


 ありえないスピードで走る私に襲撃者達は戸惑っていたようだけど、私を追いかけることにしたらしい。

 足音が聞こえる。

 でも、魔法がかりの私のスピードについてこれないのか、その音も遠ざかっている。

 このままいけば逃げ切れる。


 あとはどこにいけばいいのかだけど……。

 バッシュさん? それとも親分のところ? それとももうこの近くには いない方がいいのだろうか……。

 いやでも、コウお母さんを助けに行かないと、そのためには誰かに助けを求めたい……。


 そう迷う私の前方の暗がりに 人影が見えた。


 明かりがなくてシルエットしか見えないが、体格からして騎士ではなさそうだと判断したところで、月明かりに照らされてそのほっそりとした体格の人が何者かが分かった。

「ルービルさん……!」

 ルービルさんだ!

 なんでこんな夜中に!?

 いや、それよりもと思って私はまっすぐルービルさんのところまで駆け出した。


「大変なんです! 天幕が、襲われて! コウお母さんがまだ、そこに……!」

 私はルービルさんにすがるようにしてそういうとルービルさんが驚きで目を見開いた。


「何だって……? どんな奴らに襲われたんだ?」

 ルービルさんの問いに、私が王国騎士の格好をした男達だと答えようとしたところで、微かに金属が擦り合わさるような音がした。


 この音は、鎧をきた人が身動きした時に聞こえる音……。

 近くに、鎧をきた誰かがいる。


 嫌な予感がして、ルービルさんから一歩距離を取る。


 そもそもどうしてルービルさんがこんな夜中に外に?

 それに、確かに襲ってきた奴らは王国騎士の格好をしていたけど、それは本当に、王国騎士なのだろうか……?


 よく見れば、ルービルさんの後ろにいくつかの人影がある。

 その人影が、鎧の音を響かせながら前に出てきた。

 王国騎士の鎧をきた人達だ。

 それに、もう一人、見知った顔がある。


「ラジャラス、さん?」

 陛下のお気に入りの美貌の小姓ラジャラスさんが、なんで、こんなところに……?


 そう思った時には、私は背後から羽交い締めにあい動きを封じられた。


 顔だけ後ろを振り返れば、ここにも王国騎士の格好をした男達がいた。

 ただ、どの人もなぜか目が虚で、正気じゃないような顔をしてる……。


 そしてちょうど、強化の魔法が切れた。

 身体中に駆け巡る万能感が消えていく。


 改めて呪文さえ唱えれば、また力を使えるけれど、この人達の目の前で魔法を使うのはためらわれる……。

 どうするべきかと顔を上げると、ラジャラスさんと目があった。


「どうして、ラジャラスさんが……」

 戸惑う私の目の前でラジャラスさんが興味なさそうに私を見て、ルービルさんがニヤリと笑う。


「彼は我々の協力者だ」

 ルービルさんの言葉に私は眉をしかめた。


 グエンナーシスへ向かう道中、私を襲った王国騎士の矢のことを思い出す。

 それに、今私を捕らえている正気のない騎士も王国騎士の人達だ。


 おそらくラジャラスさんが引き連れてきた。

 王国側に、裏切り者がいるかもしれないとは思っていたけれど、まさかそれがラジャラスさん……? それっていつから……。


 いやそれよりも、ルービルさんだ!


「今回のこれはどういう意図ですか?」

 ルービルさんに向かって睨み付けるようにそう聞いたけどルービルさんは動じず、平静な顔で口を開いた。


「わかるだろう? 君に生きて戻られては困る。それに、君がやろうとしてることはこの国のためにならない。戦争を止める? 馬鹿な。こんなチャンスもうない。この国は病んでる。一度膿みを全て出し切る必要があるんだ」

「ただ平穏に暮らしたいだけの国民達が巻き込まれるとしてもですか?」

「そうだ」

 私の問いにルービルさんは即答した。そこに迷いは一つもなかった。




お久しぶりの更新……!

2020年ももうすぐ終わりですね。今年は色々ありましたが、私は元気です!

来年もよろしくお願いします!


また、カクヨムにも、小説を掲載することにしまして、

なろうで載せていたものを順次転載する予定です…!


そのうち、カクヨムとなろうで使い分けていきたいなぁと思ってますが、具体的には決めてません。

どうしようかな…。


それでは今後ともよろしくおねがいします!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] あ、これ、ラジャラスさんか誰かが隷属魔法を使ってる?虚な目をした人達って前にも出てたよね……リョウ以上に生物魔法を使いこなしてる人がいるのかな
[一言] リョウちゃんピンチ! 一日が蜜って甘々に過ごしてるのかと思った(笑) 蜜月的な意味でね(意味深)
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