混迷編⑦ もうひと押し
私が親分の動向を見守っているとアランが再び口を開いた。
「すくなくとも……学園にいた生徒達は、俺たちと近しい価値観を持っていると思う。彼らとは、一緒に食事をし、ともに学んで遊び、魔物が襲ってきた時には協力しあった。魔法使い、非魔法使い関係なくみんながみんな学園を守るために戦った仲間だった」
「そうよ。仲間だわ。現に、王国側にいる同級生の中には、私達の身を心配して動いてくれる人がいる。そこに非魔法使いも魔法使いも関係ないわ」
アランに続いて、カテリーナ嬢も物申す。
学園勢の話に耳を傾けていた親分達は押し黙った。
あと、もうひと押し……!
「親分、もう少し、もう少しだけ待ってほしいんです。時代は変わろうとしてます。学園にいた生徒達は、これから国を背負う人達ばかり。時が経てば今のその世代が国を作る時代になる。そうしたら、もう誰にも、自分が誰かの奴隷だなんて思わせない」
そう言うとしばらく親分と見つめあった。
めっちゃこわい。顔が怖い。
ビビりながらの長い沈黙。
なんでもハキハキとすぐに決める親分にしては珍しいと思えた。
やっぱり親分の中でも迷う気持ちがあるのだ。
「アレク迷うな。ソフィアが……いや、私たちが受けた屈辱を忘れたか? 一つの世代が変わったからといって、そう簡単に国は変えられない。ましてや頂点があの王家のままならなおさらだ」
そう答えたのは、ルーディルさんだった。
いつも冷静な彼が、少しだけ声を荒らげて、吐き捨てるようにそう言った。
山暮らしの頃から物静かなイメージの彼だったから、こんなふうに 声を荒らげているのを見るのははじめてだ。
「しかし、だからって、このまま戦を仕掛けたって、勝てません」
私がそう言い切ってみたが、ルーディルさんは怯まず首を横に振る。
「勝算はある。王家を転覆させる算段はもうできてるんだ。あの臆病で無能な王が、もうすぐこの戦にやってくる。……たとえどれほど犠牲が出ようとも、私はやり遂げる」
王家を転覆させる算段……? それに、あのテンション王が、こっちにきてる?
「王が来てるって……王様が? どうして……」
別に詳しく知ってるわけでもないけど、あのテンション王が、わざわざこんな危ないところにくるようには思えない。
何を吹き込んだらここまでくる気になるのだろうか?
絶対勝てる戦だからとでも言ったりしたのか……。
それに一番気がかりなのは、王が自らここまで来たタイミングで、王国側からの攻撃が始まる可能性がでてくる。
だってわざわざやってきた王様の前で引き続き睨み合いだけなんて真似、できないだろうし。
「ルーディル、余計なことを話すんじゃねぇ。冷静になれ」
親分はルーディルさんにそういうと、また私のほうに顔をむけた。
「……リョウ、お前は一旦ひけと言ったがこのまま俺たちがひいて国が大人しく見逃してくれると思うか? 悪いがもう遅い。お前がいなくなった半年の月日はもう戻りようがないところまできてる」
親分にそう言われてどきりとした。
確かに私の不在は長い。でも……まだ戦ははじまってない。
学園の卒業生、学園のみんなが私の意を汲んでくれた。
戦が始まらないように、ここまでこうして食い止めてくれた。
「いいえ、まだ間に合う。間に合います。私が直接国と交渉します。そしてこちらに不利のない平等な和平を結んで見せます」
「交渉? そんなもの今更、応じるわけがないだろ」
「いいえ、応じさせてみせます。私は王家の秘密を握ってる……そして少なくともヘンリー殿下はそれを知ってます。必ず殿下は交渉の場にくる」
「王家の秘密ねぇ。それがどれほどのものなのか、わからねぇのにどうやって信じられる? その秘密とやらを俺たちに話す気はないんだろう?」
「……今はまだ。人に広めないでいることが、国にとって脅しになる」
「つまり、その王家の秘密の秘匿と引き換えに和平交渉をするってことか? だが、それには大きな問題があるんじゃねぇか。その交渉の場でお前が殺されたらどうなる? 秘密は永久に秘密のままになる」
「王家の秘密については、すでに形に残しているものがあります。今はそれを隠してますが、私が死ねば、それが明るみになるようにします」
親分は眉根を寄せて難しい顔をした。
そしてしばらくの睨み合い。
めちゃくちゃ心臓がドキドキいってる。
親分は果たしてのんでくれるだろうか……。
「アレク、迷うことなんかない。昔年の恨みを晴らすのは今しかないんだ」
ルーディルさんが非難するように親分に言い募る。
「……私は領民がより多く救われ、平穏に暮らせる方にかけたい」
バッシュさんが静かに親分に伝える。
二人の言葉を聞いて親分は下を向いたまま腕を組んでいたけれど、しばらくして顔を上げた。
「……少し、考えさせてくれ」
親分はそう言った。
「少しなら、待ちます。でも、長くは待てません」
「わかってる。そう時間はかからない」
そうして、一旦その場は解散になったのだった。
中華後宮ものにはまって、新作を始めました!
『後宮茶妃伝』
あらすじ:
茶狂いと呼ばれるほどお茶が大好きな采夏は自分の作ったお茶が皇帝献上茶に選ばれることを夢見て、はるばる都にやってきた。しかし試験会場を誤り、うっかり後宮へ入ってしまう。
そこで目にしたのは、意地悪な妃に茶も出てこない質素な後宮の食事、そして、宦官に扮した――皇帝!?
ただただお茶を飲みたい采夏なのだが、お茶の力で心を解し、謎を解き、やがて国をも救うことになってしまい――?
という感じで楽しいお話なのでぜひぜひ。
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