混迷編⑤ 会議中に失礼します
カテリーナ嬢達はルビーフォルングエンナーシス領陣営では顔パスな感じらしい。
二人の後ろに怪しいフードの人物(私)がいても、すんなりと中心地にはいることができた。
一番大きな天幕へと向かう。そこにバッシュさんや親分達が集まっていて、ゲスリーがもどってきたことについてどうするかと言う話し合いをしているらしい。
天幕の中に入ろうとしたら、見張りの人に呼び止められた。
「カテリーナ様、申し訳ないでありますが、今大事な会議中で、中にはお通しできないであります」
と、申し訳なさそうにそう言った兵士は……。
アズールさんじゃない!?
幾分疲れが滲みでてる感じがするけれど、間違いなくアズールさんだ。
「そんなこと言ってる場合じゃないのよ」
カテリーナ嬢はそういうとクイッと顔を動かして私を示した。
フードを目深にかぶって髪とか顔を隠している怪しげな人物である私を見てアズールさんが訝しげな顔をする。
私はそんなアズールさんにそっと近づいた。
「お久しぶりです。アズールさん」
私の感覚から言えば数日ぶりだけど、アズールさんからしたら半年ぶりだ。
囁くようにそう言うと、アズールさんの目が見開いた。
そして信じられないような目でこちらをみる。
「ま、まさか、り、りょ……んん!」
大声で私の名前をシャウトしそうだったので、私はとっさにアズールさんの口の辺りを手で押さえた。
「すみません、まだ私が戻ったことは内密に」
私がそういうと、アズールさんが首だけでブンブンと縦に振った。
私は口元の手を話すと、少し冷静になったらしいアズールさんが、「戻ってきたのですね……!」
消え入りそうな、小さな声で言って、目に涙を溜めた。
その顔から今までたくさん心配させたことがわかって心が痛い。
「バッシュ様や剣聖の騎士団と話し合いたいんです。通してくれませんか?」
私がそういうとアズールさんが、すぐさま頷いて出入り口を開けてくれた。
「どうぞ、お入りください。今は、ヘンリー殿下の動向について話し合いが行われています。リョウ殿もご参加された方がいいでしょう」
アズールさんの言葉に私は頷くと、そのまま天幕の中に足を踏み入れた。
天幕に入ると、改めて仕切りのようなものがあり、それを避けて奥に進むと、大人達が円を描くようにして床に座っているのが見えた。
薄暗くはあるけれど、それでもここに誰がいるのかがわかる。
みんな、私の知ってる人だった。
バッシュさん、コウお母さん、セキさん、ルーヴィルさんに、アレク親分。
そしてあぐらをかいていたアレク親分が、唐突に入ってきた私たちを剣呑な雰囲気を漂わせながら睨みつけた。
「誰かと思えば、グエンナーシス領のお姫様か。ここは子供が勝手に入って良い場所じゃねぇぞ」
凄みをきかすようにそう言われたが、恐ろしいよりも懐かしいがまさった。
親分、相変わらずだ。変わらない……。
「もう子供じゃないわ。成人したもの。それに、ものすごい重要人物を連れてきてあげたのだから、感謝してほしいところね」
カテリーナが負けじとそういうと、私のために道を空けた。
フードを深くかぶっているので、私が誰かわからないらしく、だいたいが訝しげな顔をしている中、コウお母さんだけが、ハッとしたように目を見開いた。
どうやら、コウお母さんは気づいたらしい。
私はそっと頭のフードを取った。
「お久しぶりです。ただ今戻りました」
私はそう言って、フードに隠していた長い髪を掬って靡かせた。
私が誰か気づいたらしいその場の皆が驚きの表情を浮かべる。
そして、コウお母さんが立ち上がった。
「やっぱり、リョウちゃんじゃない!」
そう言って、私の方に駆け込んでくると、ガバリと力強く抱きしめてくれた。
久しぶりの再会で、久しぶりのコウお母さんで、私もギュって抱きしめ返す。こんなに心配をかけて……ごめんなさい。
抱きしめてくるコウお母さんの力がつよい。
この背中がきしむほどの抱きしめの強さが、どれほど私のことを心配したのかが伝わってきて……あ、ちょ、思ったより強い、というか、コウお母さん、痛い……背中が割れる!
「……ゲ、ゲホッ!」
思わず咽た。
そこでようやくコウお母さんの抱きしめが緩まった。
たすかった……。
コウお母さんは、気づかわし気に覗き込むように私を見つめた。
「今までどこで何をしてたの? けがはない? 痛いところとかない?」
「だ、大丈夫です」
しいて言うなら、先ほど抱きしめられたことで背中が痛いけれども。
しかしそれを口にするほど野暮ではない。
「心配をかけて、ごめんなさい」
「ごめんで、すまないわよお……! もう!」
わんわんとコウお母さんが泣き始めて、私も釣られて泣きたくなって……。
「おい、コーキ。いつまでそうしてるつもりだ。テメェの感傷に付き合ってる暇はねぇんだ、さっさとどけ。そいつには聞きたいことが山ほどある」
私とコウお母さんの感動の再会に、親分が声を荒らげた。
するとコウお母さんが勢い良く親分の方に顔を向けた。
「ちょっと、アレク!? ひどいんじゃない!? リョウちゃんが心配じゃなかったの!? 私と貴方の子よ!?」
「だーから、俺とお前の子供じゃねぇっつってんだろ!」
「子供の前でなんて酷いことを言うのかしら!」
「事実を言っただけだろうがよ!」
目の前で繰り広げられたどこか懐かしいやりとり。
私がいなくなった後、コウお母さんとアレク親分はなんだかんだとうまくいっていたみたい。
一時は、私のこともあって少し親分と距離をとっていたコウお母さんだったけど、やり取りを見る限り、もとさやにもどった感じだ。
それもそうか。二人は、ずっと長い間一緒にいた。再び出会えば、距離を置いていた期間を埋める絆があるのだ。
なんだか無性に、あの山暮らしの日々に戻りたくなった。
雑用に追われながらも、親分達と一緒に楽しく過ごしたあの頃の記憶が蘇る。
まるで、あの頃に戻ったみたい。
あの頃の私は外のことなんか何も知らなくて、親分がやりたいなら、私もそれを手伝いたいと思っていた。
親分が、反乱を起こしたいのなら、私も一緒にそれを手伝う。
そうするのが当たり前だと、思ってた。
思っていたのだ……。
「親分、久しぶりです。こうやってゆっくり話すのは、本当に何年ぶりなんでしょうか。……私は、親分を、親分達をとめるために戻ってきました」
私がそう言うと親分は警戒するように目を細めた。
確かに、以前の私は、親分の手伝いをするのだろうと漠然と思ってた。
でも、今の私はそうじゃない。
でもそれは親分を嫌ったからじゃない。
親分のことだって好きだから、親分のことも大事だからだ。
だからこそ、この無謀な戦いを止めたい。
しばらくして親分は険しい顔のまま、「話を聞こう。座れ」と言った。
これから、頑固な親分相手に、戦を止めるための説得だ。
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