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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第六部 転生少女の混迷期
271/304

混迷編③ 決断

 次の日、隠れ家の入り口を覆うツタの隙間から入った朝日に起こされて、目が覚めた。


 軽く首を動かしてみると、荒れた部屋にコウお母さんからのメッセージが目に入る。

 やっぱり今までのことは夢じゃないらしい。


 けれど、一晩寝て、少しだけ心の整理がついた。


 私は……まだ諦めたくない。


 戦争をどうにか止めたい。

 そうするために手段は、まだ残ってる。

 可能性は低くとも、まだ手段があるのなら最後まで抗いたい。


 ……気持ちは固まった。


 あれ、そういえばアランは……。

 そう思ってあたりを見渡すと端のほうで、丸くなって寝ていた。

 わざわざあんなに離れなくても……。

 火元に近いこちらにいた方が暖かかっただろうに。


 アランは、これからどうするつもりだろう。

 アランの立場なら、間違いなく王国側だ。

 でも私は……もしこの戦争を止められなかったとしたら、おそらくルビーフォルン側に、親分側につくと思う。

 その時、アランとは敵同士になるということだろうか……。


 そんなことを考えながらこちらに背を向けて寝ているアランを見ていると、彼が身じろぎした。

 そしてこちら側に寝返りを打ってから、ゆっくりと目を開ける。

 こんなタイミングよく起きると思ってなくて、目があったときにドキッとした。


 アランは私と目が合うと、ハッとしたような顔をしてから、飛び跳ねるように上体を起こした。


「リョウ、起きてたのか! 体調は大丈夫か?」

「う、うん、もう大丈夫。アラン、その、ありがとう。この前から色々と……」

 昨日もそうだけど、最近は情けないところばかり見せてしまった気がする。

 アランはその度に側にいてくれて……本当に助かってる。


「いや、別に大したことはしてない。何か飲むか?」

 そう言ってアランがいそいそと立ち上がって、私の方に、というか火の消えた炉の方に来た。


「水を温め直して飲むか?」

 そう言って、鍋に溜まった水を見て、炉に新しい木をくべ始める。


「ううん、温めなくていい。このままで」

 私はそう言って、昨日の冷めきった白湯を、カップに入れる。

 アランもそのままでいいというのでアランの分もカップに注いだ。


 冷たい水で一息つくと、私は口を開いた。


「アラン、これからのことなんだけど……私、まだ諦めきれない。今からでも戦を止めようと思う」

 私がそういうのが意外だったのか、アランは目を見開いて驚きを表した。

 そしてすぐに苦い顔をする。


「止められるのか……?」

「わからない。でも、手がないわけじゃない。正直、殿下が王国側に戻ったことは、反乱軍にとっては痛手のはず。あの大地の亀裂……殿下が本気を出せば、ひとたまりもない」

「そうだな……」

「でも、殿下は生物魔法を恐れている。そこをつく。殿下と交渉できたら、戦争を止められるかもしれない」

「交渉の場にくると思うのか? 殿下はあの時、あれほどの魔法を使ってまで俺たちと距離を取り、王国側に戻った」

「それはそうだけど、でも、あの場で何故か殿下は私を殺さなかった。何か考えがあるのかもしれない。最悪、私の身を王国側に差し出すつもり」

 私がそういうとアランは不服そうな顔をした。

「どういうことだ……?」


「もともとこの戦は、私と殿下が長らく不在だったことが原因の一つだし、王国側は私が殿下を亡き者にしたというのを前提にここまでのことをしてる。それなのに殿下も私も無事だと分かってその前提がなくなった。そしてそれは、ルビーフォルン、グエンナーシス連合側にとっても同じ。まずは連合側に行って、戦争を止めて和平を結ぶことをのんでもらい、私と殿下の話し合いの場を設けさせる。生物魔法のことをほのめかせば、殿下なら交渉の場にくるだろうし、生物魔法の秘匿と引き換えに、連合側との平等な和平を結ばせることができるかもしれない」


「そんなの……! 危険すぎる! 生物魔法の秘匿……? 生物魔法を使えるのはリョウだけなんだろ!? それの秘匿と引き換えって……リョウは、死ぬつもりなのか!?」


 アランに痛いところをつかれて、私は思わず苦笑いを浮かべた。


 やっぱり、そう思うよね。生物魔法を永久に亡きものにする確実な方法は、私が死ぬことだ。

 そんな私を一時でも見逃したゲスリーの行動は謎だけど……。


「別に、死ぬつもりなんてない。ただできることをしたいだけ。だって、これが一番成功する可能性が高い」


 このまま争い合うぐらいなら、自分ができることはしつくしたい。


 だって、この戦争を主導したのは親分だ。

 そして、私を慕ってくれたウヨーリ教徒達が巻き込まれた。

 親分を止めきれず、ウヨーリ教徒のことを抑えられなかった私のせいで起こったと言ってもいい。


 だから、その責任を自分でとるだけ。


 私の言葉にアランはさらに渋面を作って、そしてしばらくして諦めたようなため息を吐いた。


「リョウは、一度決めたら譲らないからな……。けど、もし、リョウが危ない時は、俺は俺で好きなようにするから」


 強い意志が宿った双眸をこちらに向けてアランがそう言った。

 一旦は私と一緒に行動してくれるらしい。


 もし、私の作戦がうまくいかなかったら、アランは王国側につくのかも知れない、けれど……。

 でも、それでも、一緒についてきてくれることが嬉しかった。


「ありがとう、アラン。一緒に頑張ろう。争わなくていい人達が争うなんて、こんなの、おかしいから」


 私がそう言うと、アランもうなずいた。

 とりあえずは、目指すべきものが見えてきた。


 まずは、ルビーフォルン、グエンナーシス領陣営に行く。

 そこで、親分と話し合いだ。


【大事なお知らせ】

いつもweb版の転生少女の履歴書を読んでいただきありがとうございます!


書籍版転生少女の履歴書のお知らせです!


7月31日(金)に転生少女の履歴書10巻が発売となります!(ジャーン)

10巻ですよ!10巻!!すごい!

とうとう二ケタ目……こんなに巻数行くとは思ってなかったので驚きです……!

いつも応援してくださる皆様のおかげだなぁとしみじみ思いまする(しみじみ)


ここだけの話…10巻ではカラーイラストでゲスリーさんが脱いでます。

ゲスリー脱ぎます。ゲスリーのヌードに需要があったら、いいなって…(遠い目)


あとあと内容ももちろん加筆してありますので、web版を読んでいても楽しめますよ!


改めまして、いつも応援していただきありがとうございます!

web版はシーリアスな場面が増えて最終局面に入ろうかなってところです!

引き続き書籍版ともどもよろしくお願いします!



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― 新着の感想 ―
[一言] カエルの死んだみたいな目をした子供は ここまでみんなを深く愛する様になったんですね… 無茶する所は変わって無いけど。
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