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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第六部 転生少女の混迷期
267/304

探究編④ かつて栄えしもの-前編-

 ジロウ兄さんは、遠い記憶を手繰り寄せるように宙を見た後、ゆっくりと口を開いた。


「私が初めてこの世界に遣わされた時、この世界では一部の技術を持つ人間が、技術を持たない人間を支配し、管理していた」


「それは今でもそうですよね。魔法使いが非魔法使いを支配している」

 カイン様の言葉にジロウ兄さんは小さく首を振った。


「今とは支配層が異なる。当時の支配層の人間は、生物の体を意のままに操る魔法が使える者達だった」

「それは……生物魔法のことですか? 他の魔法が使える人達よりも生物魔法が使える人たちが、支配者だった、ということ、ですか?」

 私が思わず声を上げた。

 だって、生物魔法を使える者が、支配層ということは……もしかして、今とは全く逆、ということ……?


「そう。何も変なことじゃない。生物魔法は万能に近い力を持ってる。生物魔法は傷を癒すこともできたし、体を丈夫にすることも、老化することもできたし逆に若返らせることもできた。そして他人を意のままに操ることも、体を作り変えて都合の良い人間……いや、生き物を作ることすらできた」

「そんな、ことまで……?」

「支配層が、被支配層の体を作り変えて生まれたのが、奴隷魔法生物だった。それらは支配層が快適な生活を送るために力を与えられていた。火を起こす能力、植物を育てる能力、風を運ぶ能力……今でいう、魔術師、精霊使いと呼ばれている者達のことだと思う」

「……!」


 言葉にならず、思わずアラン達と目があった。ゲスリー以外はそれぞれ驚愕の表情を浮かべている。

 驚きで固まる私達に気付く様子もなく、ジロウ兄さんはまた淡々と話を続ける。


「それらの魔法奴隷生物のお陰で支配層の人間の生活は格段に向上した。楽に慣れ、怠惰が当たり前となった支配層の人間は、生物魔法の技術を学ぶことすら鬱陶しくなってきた。生物魔法を使うためには、膨大な知識と技術が必要で、それを学ぶことが煩わしくなったらしい。そしてひとりの天才が、ある技術を発明した。生物魔法の技術を、一人の魔法奴隷生物に集約させることに成功したのだ」

「魔法奴隷生物に集約? それって、どういう……?」

「知識も技術も、その魔法奴隷生物に押し込め、資格のあるものが命令するだけで、その魔法奴隷生物を介して生物魔法を行使できるようにしたんだ」

「そんなことが、可能なのですか……?」

「私は魔法の仕組みのことは詳しく知らない。しかし、彼らは実際にそれを可能にしていたのはこの目で見た。支配層は学ぶことを止め、欲望は満たせるところまで満ちた。長くこの世界を繰り返し生きてきたけど、人があれほど贅を極めた時代を見たことがない」

 ジロウ兄さんの言葉をそのまま信じるのは、勇気がいる。

 だって、それほど……突拍子もないことで。

 奴隷魔法生物……? かつて生物魔法を使っていた人々が、そんなものを作り出していたなんて……。そして、その奴隷魔法生物って、つまり、今の魔法使いのこと、だよね……?


 ……そもそもジロウ兄さんはさっきからまるで見てきたかのように話しているけれど、そんなに長い間生きているってこと……?


 色々な疑問があまたの中をぐるぐるして戸惑っていると、さらにジロウ兄さんは話を続けた。


「しかし栄華はそれほど長くは続かなかった。生物魔法の知識技術を集約した魔法奴隷生物がしばらくして壊れた。しかしもうその頃には、誰も魔法奴隷生物を治せるほどの生物魔法を使えるものはいなかった。誰もが知識も技術も放棄していた。その魔法奴隷生物の死をもってして、傷を癒す魔法も、人を操る隷属魔法も一緒に滅び、その時代は終わりを迎えた。そして隷属魔法の効力が切れた魔法奴隷生物が、自分の持つ特別な能力を以てして、その後は支配する側へと回ることになった。そしてその流れが、今も続いている」


 ジロウ兄さんの話は信じられないことばかりで、しばらく呆然と彼の顔を見つめた。

 しかし、ジロウ兄さんの顔に焦りも何もなく、ただただ淡々と過去のことを語ったというだけに見えた。


 ただこのまま黙っていても、何もわからない。私はどうにか重い口を開いた。


「それは、どれくらい前のことですか?」

「さあ、数えてないからわからない。それに私もずっとこの世界に居続けていたわけではない。ただ、この忌々しい不死の魔女の森ができるもっと前。文明もなにもかもが全く違う時代の話……」

 不死の魔女って、カスタール王国の最後の魔女王のこと?

 そのカスタール王国時代より前って……千年以上も昔になる……。


「どうして、そんなに前のことをジロウ兄さんは自分が体験してきたかのように語るのですか? ……あなたは何者なのですか?」

 ずっと気になっている質問が口から出た。

 ジロウ兄さんの話を聞きながら、どんどん目の前の人のことがわからなくなっていた。


「わたしは、六十四番目。六十四番目の使い。あの方をこの世界に招くために遣わされた者」

「あの方……? それに六十四番目の、使いって……私の知ってるジロウ兄さんではない、ということですか?」

「この体はジロウと名付けられた。しかし魂は、あのお方によって六十四番目という名を与えられている」

 そう語ったジロウ兄さんの顔に初めて柔らかい表情が出た。

 恍惚の表情というか、どこかウヨーリのことを語るタゴサクさんと似ている。


 どんどん目の前の人がわからなくなる。名のってもらったばかりだけど、この人は一体、誰なのだろう。


 私の知ってるジロウ兄さんは……。


「生物魔法の技術が、滅んだのだとしたら、どうして、リョウはそれを使える?」

 そう尋ねたのはカイン様だった。

 カインさまの質問に私はハッとした。

 たしかに、そうだ。

 生物魔法なるものが膨大な知識と技術がいるのだとしたら、話のつじつまが合わない。

 私の感覚としては、ただただ呪文を唱えただけだ。


 カイン様の質問に、ジロウ兄さんは顔をしかめた。


「それは忌々しい三十四番目と三十三番目のせいだ。あのお方から授かった力を不死の魔女王に捧げてしまった。三十三番目と三十四番目には、法則を生み出す力があった。彼らはこの世に呪文という概念を生み出した。呪文を介して、魔法という技術を行使できる仕組みを作った」


 三十三番目と三十四番目……?


「三十三番目と三十四番目は、どなたのことですか?」

「私の兄弟だ」

 ジロウ兄さんの兄弟……?


 一瞬、ガリガリ村の兄弟達のことが浮かんだ。でも、それは違う。

 ジロウ兄さんは明らかに生きてる年代がおかしい。

 それに、この目の前にいるジロウ兄さんの顔をした何かは、私のことを兄弟だとは思っていない。


 自分でも不思議と、そのことが、思ったよりも、なんか……。


 私が少しだけ気持ち的に混乱していると、アランが難しい顔をして口を開いた。


「カスタール王国の終わりとともに、魔法使いは呪文を唱えないと魔法が使えなくなったと聞いてる。それはあなたの言う三十三番目とかの力のせいということか?」


「そうだ。魔法を呪文で管理できる法則を作った。これによって、かつて時代とともに滅んだ『生物魔法』も復活した。生物魔法も他の魔法と同じように、適性を持つものが呪文さえ唱えれば発動できるようになった。どこで呪文を覚えたのかはわからないが、彼女が生物魔法を使えるのはそれが理由だ」

 そう言ってジロウ兄さんは私を見た。私も戸惑いつつも彼の顔を見返した。

 顔の半分は懐かしいジロウ兄さんの顔。でももう半分は人間離れした美しさを持つ人形みたいな顔。

 色々問いただしたくなった。

 あなたは誰なのか。私とガリガリ村にいてくれたジロウ兄さんとは違う人なのか……。


 でも、ぐっとそれを堪えた。

 ほかに聞くことはたくさんある。

 私は、隷属魔法のことを聞きにきたんだ。



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