探究編② ゲスリーちゃんの深まる記憶喪失疑惑
「なんで、二人がここに……?」
と言って私は主にアランを見た。
「わ、悪い。殿下が……」
「僕のせいにしないでよ。先に不安だって言ったのは、アランでしょ」
と何事かもごもご言ってるアランにゲスリーが強気な口調で突っ込んだ。
というか二人がいる理由って結局なんなんだ。
不思議に思っていると、ゲスリーが私をみて、ズカズカと歩み寄ってきた。
「僕は、カインのことも好きだけど。リョウのことは特別なんだ。カインが、リョウのことを欲しいって言ったって、僕はあげる気は無いからね!」
とヘンリーは言いながら、私の側までくると強気な視線でカイン様を見た。
カイン様の方が、少し背が高いので見上げるような感じで。
カイン様はそれをかすかに笑って受け止めると首を傾げる。
「殿下は、記憶が戻られたのですか?」
「戻ってないよ。でも、一緒にいればわかる。カインといると、ホッとする。安心できるし、楽しいと思える。きっと君は、記憶を失う前の僕の一番の友達だったんだ」
ヘンリーがそう言うとカイン様が目を見開いて固まった。
そしてそんなカイン様を置いて綺麗なゲスリーは私を見た。
「リョウと一緒にいてもホッとするよ。安心する。でも、それだけじゃ無いんだ。特別だよ。だってリョウだけ違うんだ。すごく……ドキドキしてる。リョウに見つめられると、舞い上がるような気持ちになる。これって記憶を失う前の僕が君に恋をしていたってことでしょう?」
キラキラとした瞳でゲスリーはそう言った。
思わず私は瞳をパチクリした。
ゲスリーちゃんったら、何を言いだすかと思えば……。
ゲスリーが、私に恋をしてる……?
私の頭の中にゲスリーとの出逢いや、彼の口から紡がれるゲスリー節、カイン様を傷つけたゲスリーマジ絶許と思ったこれまでの軌跡が駆け巡る。
そして私は結論をだした。
「それは無いと思いますよ?」
私は至極神妙な顔をしてそう諭したが、ゲスリーは不満顔だ。
そして隣のアランが何ともいたたまれない顔をして、
「俺が言われたわけじゃないのに、胸が痛い」
と小さく嘆いた。
一体何なのだ。
そうこうしているとゲスリーは、
「とりあえず、二人っきりは危険だから、これ以上二人で外にいるのは禁止! 一緒に戻る!」
と言って、ズカズカと隠れ家の方へと歩いて行ってしまった……。
なぜこの場を彼が仕切っておいでなのか。
手首を縛られてる身だというのに偉そうである。
なんていうかゲスリーさん、典型的なわがまま王子って感じのキャラになってない?
記憶は失っても王族。自然とわがまましちゃうのがデフォなのだろうか。
私たち残された三人は、目配せをしあって結局ゲスリーの後に続いた。
薪の枝も十分集まったしね。
それにしてもゲスリーときたら、さっきからずっと魔法を使えば逃げられるチャンスはいっぱいあったのに、何もしないなんて……。
それに、恋だの親友だの彼からはありえない単語がポンポンでてる。
やっぱりゲスリーは本当に、記憶がないのかもしれない……。
◆
簡単に食事を済ませて隠れ家に泊まり、夜明けとともに準備して早々に出発した。
今日でおそらく以前ジロウ兄さんと会えた場所まで行ける。
ただ、行ったからといって必ず会えるのかという問題はあるけれど……。
目的地が近くなるにつれて緊張感が増してきた。
私以外のメンバーも、それぞれ緊張した面持ちだ。あ、いや、ゲスリーちゃんだけは呑気なもんだけど。
そうして、とうとう目的の場所付近までたどり着いた。
目の前には険しい山。
この先に進むとなると、道らしい道もないので馬を降りることになった。
徒歩で進むことになった私達は、あたりを警戒しながら無造作に植物が生い茂る山道を進むと、川の流れる音が聞こえてくる。
もうすぐだ。
地面を軽く均すようにして先に進むと、神縄が見えてきた。
あそこだ。
あの縄の向こうに、前はジロウ兄さんがいた。
しかし、今はいない。
「ジロウ兄さん! リョウです!」
と、何度か縄の向こうに向かって呼びかけてみたけど、返事はない。
「……少し、周辺もみて回ります」
私はそういうと、神縄に沿うようにして歩き始めた。
アランたちも無言でついてくる。
しかし、一通り周辺を見て回ったけれど、ジロウ兄さんは見つからなかった。
会えないかもしれないという可能性が現実味を帯びてきて、気持ちが重くなる。
自分でも分かってた。望みの薄い賭けだってことは。
でも、もうこれにかけるしかないのだ。
あと残る手段は……と思って私は藁で編み上げて作られた神縄を掴んだ。
「おい、リョウ、まさか中に入るつもりか!?」
アランの焦ったような声が聞こえて私は頷いた。
「そのつもり、です。このままここで呼びかけても反応がなさそうだし……」
「だからって……危険すぎる。中はどうなってるかわからない。少なくとも魔物がいるんだぞ」
「分かってる。分かってるけど……」
「私は行ってみる価値はあると思う。魔物なら、前の騒動で何度か相手をした。やれない相手ではない」
カイン様が神縄の奥を睨みながらそういった。
自分から中に入るといっておきながら、カイン様が同調したのが意外に感じた。
カイン様はいつも無茶をしがちな私やアランをとめるような役割が多かったから。
でも、本当のカイン様は、こういう時に結構無茶をしたがる人なのかもしれない。
「なんか、ごめんね。よくわからないけど、これも僕のためなんでしょ? 僕のせいで、ごめん」
とゲスリーが本当に申し訳なさそうに眉尻を下げた。
こちらのゲスリーちゃんの変化にも未だになれない。
いやたしかに、記憶を失ったゲスリーには、病気を治すためだと嘘の説明をしてるから彼がそう思うのはそうなんだけど……。
なんだろうこの綺麗すぎるゲスリーは。なんかものすごい罪悪感が……。
もしかして、こういう新手のゲス流の嫌がらせなのだろうか。
私は、三者三様の答えに戸惑いつつ改めて考える。
行くべきか。行かないべきか……。
「……少しだけ、中に入ってみます。神縄の、奥に」
私は結局、中に入ることに決めた。