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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第五部 転生少女の婚約期

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波乱の挨拶回り編⑮ ゲスリーの暴走3


 生物魔法をかけ続けてしばらくすると、カイン様の怪我の深いところに集まっていた光のようなものが、消えた。

 苦しそうだったカイン様の息が、穏やかなものに変わる。


 私は詰めていた息を吐き出した。


 よかった。これでカイン様は、大丈夫……。


 そう思って顔を上げた時に、やっと気づいた。

 近くに誰かが立っていることに。


 その人は、いつもの胡散臭い笑みを消して、私を見下ろしていた。

 奥に、アランが倒れているのが見えて目を見開く。


 そして声がした。


「ああ、やっぱり、君は生物魔法を使えたのか」

 私を見下ろしていたゲスリーがそう言った。


『生物魔法』と言った。


 やっぱりゲスリーは生物魔法の存在を、知ってる……。


 私がそう思った時、ゲスリーがゆらりと揺れるように動いて、私に覆いかぶさってきた。


「なっ、グ……!」

 抗議の声をあげようとしたけれど、ゲスリーに喉を掴まれて声を出せなくなった。


 馬乗りになったゲスリーが血走ったような目で私を見下ろしながら首を絞めている。

 私は空いている腕や脚をバタバタと暴れさせてみたけれど、ゲスリーは怯まない。


 苦しい。

 声さえ出れば、魔法で、こんなの引きはがせるのに……。

 このままだと、ゲスリーに絞め殺される……。


 ぼんやりする意識の中で死というものを覚悟した。

 でも、何故か私の喉にかかるゲスリーの手の力が徐々に弱まってきた。

 私が目を開けると、何故かゲスリーが怯えているような顔をしていた。


「どうして……! どうして、殺せない!!」

 そう言ってゲスリーは、とうとう私の首から手を離し、自分の手を信じられないものを見るような目で見る。


 ゲスリーの反応に戸惑いながら、私は急に入ってきた空気に思わずむせた。私はゲホゲホとむせながらも息を整え、どうにか上体を起こしてゲスリーを見上げる。

 彼は顔を強張らせて、私を見下ろしていた。

 その顔が、何故か辛そうで……。


「やはり君は私に、隷属魔法を使っていたのか……!」

 ゲスリーが震える唇でそう言った。

 怯えたようなゲスリーの顔色は悪く、瞳が動揺で揺れている。

 彼のこんな顔、今まで見たことがなかった。こんな怯えた子供みたいな顔……。


 いや、それよりも。


「隷属、魔法……?」

 ゲスリーの放った隷属魔法と言う言葉が脳裏をめぐる。隷属魔法って……。


 その言葉に、私は色々なことを理解し始めていた。


 何故生物魔法が恐れられているのか、王家が隠すのか、その性質を。


 ゲスリーと見つめ合う形で思わず固まっていると、黒い影がかかった。


 見ればゲスリーの後ろに、両手で石を持ったアランが立っていた。

 そしてアランはその石をゲスリーの頭にむかって、振り下ろす。


 ガン、と鈍い音がして、ついでゲスリーが私の膝の上のあたりに覆いかぶさるように倒れてきた。


 倒れてきたゲスリーの後頭部から、血が流れている。

 私は、短く息をしながら信じられない気持ちでアランを見上げた。



「アラン……」

 顔に切り傷などがついたアランが、荒い息遣いで立っている。

 そして呆然とした顔で、倒れたゲスリーをみた。


 アランと名を呼ぶと不安そうな顔で私を見て、そして視線を下げてから手に持っていた石を落として地面に転がした。


「お、俺……」

 戸惑うようにそう言ったアランの声は震えていた。

 きっと私も、今声をあげたらまともな声は出ないだろう。


 でも……。


「大丈夫……」

 咄嗟にそう口にして、自分が先ほどしてしまったことに呆然としているような顔をしていたアランと目があう。


 ……私のせいで彼に重荷を背負わせてしまった。辛い思いをさせてしまった。

 このままゲスリーが死んだら、アランは王族殺しになってしまう。

 それにアランのことだから、王族じゃなくても人を傷つけたこと自体を辛く思うかもしれない。


 私の、せいで……。


「大丈夫、だから」


 私がアランを人殺しになんてさせないから。

 私がそういうと、先ほどまで戸惑っていたアランの顔に疑問の色が浮かぶ。


 私は、改めて倒れたゲスリーを見た。

 そうだ。ゲスリーを死なせなければいい。アランのこともそうだけど、そもそもゲスリーがこのまま死んでしまったら、おそらく戦争になる。


「私に、任せて」

 そう言った私が改めて治癒の呪文を唱えると、ゲスリーの周りが光り出す。魔法が浸透しているのだろう。

 生きているうちは、生物魔法は効く。

 だからまだ間に合う。


 魔法が効いている感覚に、少しだけホッとしてそして同時に先のことが不安になった。

 おそらくゲスリーは助かる。

 でも……そのあとはどうする?

 私はゲスリーに生物魔法が使えることがバレてしまった。


 生物魔法が使えると分かったゲスリーは、私をこのまま放置はしてくれない。


「……それが、リョウが隠してたものか。カイン兄様も無事なんだな?」

 出口の見えない思考に囚われていると、頭上でアランの声がした。



「うん……カイン様も無事。今は意識がないけど、しばらくしたら目を覚ますと思う」

 そう言って地面に寝ているカイン様に視線を向ける。かすかに体が上下しているし、顔色も戻ってる。


「そうか。……だが、リョウ。殿下は、リョウのこの魔法を見て襲った。殿下の目が覚めたら、また何かしてくるかもしれない」

 警戒するようにアランが言う。

 分かってる。アランの言いたいこと。

 本当に彼を助けるのかって言いたいんだ。


 でも……。

 迷う私の目の前でアランが屈んだ。まっすぐ私の目を見る。


「俺のことはいい。覚悟してる」

 先ほどまでは動揺してるように見えたアランは、今はもう落ち着いている。

 アランの覚悟に私は少しだけ目を見開いた。


 王族を傷つけることは、魔法使いだとしても許されない行為。傷つけるだけでなく、殺してしまったとなれば……おそらくアランに命はない。


 アランは自分の死を覚悟してると、そう言ったのだ。


「やめて。アランが、責任を取る必要なんてない」

「だけど、こいつが生きてたら、またリョウを……」

「私のことはいい! それに、どちらにしろ今ここでヘンリーに死なれたら……戦争が起きるかもしれない。私、それだけは嫌だ」

 今、この国は危ういバランスの上でなんとか保っている。いろいろな思惑と勢力が存在して、この国は思ったよりもギリギリなのだ。


 私は別に特別この国が好きってわけじゃない。でも、これから変わろうとしていて、きっと変わることができる。

 戦争になったら、今までの私の苦労、それにこの国のために動いていた人達の努力が水の泡になる。


 それに……。


 私は、膝においていた拳を強く握りなおした。


「それに、もしかしたら、私の魔法で何事もなかったようにすることが……できるかもしれない。殿下は、私の魔法を見て『隷属魔法』っていう単語を使ったの。多分、その魔法さえ使えれば……」

 ヘンリーを意のままにあやつれるかもしれない、という言葉は口に出せなかった。


 『隷属』魔法というのが言葉の通りのものなら、私はこの状況を何事もなかったかのように丸く収められるかもしれないのだ。


 でもそれは、あまりにも非人道的で、身勝手なもので……。

 我ながらひどいことをしようとしていると思う。

 考えるだけでおぞましくて吐きそうだった。


 でも、私はこれからそれに頼ることになる。

 いや、もしかしたら今までだって……。

 私にそのつもりはなくても、隷属魔法を使っていたとしたら?


 だって、ゲスリーは確かに、そう言った。


 そう思ったらあまりの恐ろしさに体が震えた。






本編シリアスなところで躊躇なく宣伝をぶっ込んでいく唐澤です、こんにちは!



とうとう明日は、転生少女の履歴書9巻の発売日です!

(わーい)

地域によっては既にお店に並んでいるやも!

ぜひぜひ可憐なリョウちゃんの花嫁姿な表紙をご確認下さいませ!


今後ともよろしくお願いします!

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転生少女の履歴書13巻発売しました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] そりゃ隷属なんてあれば下克上が起きるから隠すよねぇ。生物魔法は取得する可能性がものすごく低いとかかなぁ。絶対数が少ないとか…… [気になる点] いつ隷属魔法をかけたのか?思い浮かぶのは魔法…
[良い点] 主人公が無双するわけでもなく、ギリギリのところで助けられながら切り抜けていくのが良い。いつも何かしらの足りない部分があり、それを補い合いながら無駄な死人を出さないようにしている姿勢は素晴ら…
[一言] なんぞ、ちょっと見ない間にエライことになってますね。 まさかゲスリーを最終兵器の駒として隷属させ、そのまま王都で猛威を奮わた挙句に自滅させようとしてますか? 凄まじいBADENDの予感に…
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