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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第五部 転生少女の婚約期
253/304

波乱の挨拶回り編⑨ もし王妃になったなら

 次の日、スピーリア領の皆さんに見送られて、馬車に乗って出発した。次の目的地まで馬車の旅だ。


 馬車の周りは騎乗したカイン様とアズールさんが、ほかの護衛を引き連れて守りを固め、大きい馬車の中には、私とアランとシャルちゃんがいる。


 エレーナさんは、緊急事態だからと外してもらった。

 その線はないとは思うけれど、彼女が裏切り者の一派である可能性もあるからね。


 窓から外を見て警戒している様子のアランが、「ヘンリー殿下とは、うまくいってるのか」とポツリと呟いた。


 なんてことないような顔で外を見ているが、その顔が少し不機嫌というか……。


 ていうか、ゲスリーとなんて上手くいってるわけないじゃないか。


 いきなりどうしたと思ったけれど、そういえば昨日殿下からのゲスの洗礼をうけたばかりだったね君はと思い出す。


「もともと上手くいくことはないと思ってますから」

 平気ですと、笑顔を作って見せた。


 アランはちらりと私の顔を見て「そうか……」と元気なく呟いて再び外に視線を向ける。

 なんとも気まずい沈黙が流れる。


 アラン、ちょっと機嫌悪いというか昨日から普通に怒ってるよね。

 詳細は教えてくれなかったけれど、一体昨日ゲスリーからどんなゲスの制裁を受けたのだろうか……。


「リョウ様はヘンリー殿下のこと苦手にされてらっしゃいますものね」

 と可愛らしい声が響く。

 シャルちゃんが控えめな笑顔を浮かべて私を見ていた。


「苦手というか、なんというか……あまり話していて楽しくない相手であるのは確かですね」

 私は素直にそう白状した。


 ここには見張りのエレーナさんもいないし、気心のしれた人だけだもの。たまには素直に言ってもいいだろう。


「そうですか……」

 そう言ってシャルちゃんは少し悲しげな顔をする。

 あ、そういえば、シャルちゃんは綺麗なヘンリーしか知らない。


「すみません、シャルちゃん、私……」

 と声をかけてみたものの、なんていうのが正解なのか!

 やつのいいところでも言ってみようかな。顔だけはいいとか……?


 と戸惑っているとシャルちゃんが慌てたように首を横に振る。


「いいえ! 謝る必要なんてないです!むしろ、謝らなくてはいけないのは、私の方で……」

 と言ってから、シャルちゃんはしょんぼりと視線を下げる。


「これだけ一緒にいればわかります。リョウ様が殿下をお嫌いになっていること。リョウ様がお嫌いになるということは、きっとあまり良い方ではないということもわかります。でも、それでも、殿下がいらっしゃるからリョウ様が王妃様になれる道がある……。以前にもお伝えしたことがあるかもしれませんが、私は、ずっと、リョウ様がこの国の王妃様になってくれたらいいのにって思っていたんです。そうしたらきっとステキな国になります! そして私は、そんなリョウ様のことを支えられる存在になれたらって……!」

 そこまでマシンガンで話し続けたシャルちゃんが言葉を止めて戸惑うように唇を噛むと、再びその小さな口を開いた。


「すみません、勝手に幻想を押し付けてるってこと、私にもわかっているんです。……ですから本当に辛い時は言ってください! その時は、私が責任を持ってリョウ様をお助けしますから!」

 と言ってガッツポーズをとるシャルちゃんの可愛らしさと言ったら!


 ありがとうシャルちゃん。シャルちゃんの浄化能力のお陰で、私のゲスゲスした気持ちが癒されております。

 シャルちゃんがいなかったら、ほんと、私はあのゲスリーのゲス圧に耐えられなかった。


 ただ一つだけ訂正が。


「でも、シャルちゃん、私が王妃様になる未来は薄いと言いますか、ないと言いますか……」

「そんなことありませんよ!リョウ様がなれなかったら誰がなれるっていうんですか?」

 と目をキラキラさせておっしゃるシャルちゃん。その自信はいったいどこからやってくるのか……。


 いや、だって、非魔法使いである私とゲスリーの関係は、期間限定なのである。

 こんなに夢を見てもらって申し訳ないが、本当に私が王妃になることはないと思うよ。


「そうだな……リョウが王妃になったら、きっともっといい国になる」

 アランが外を見ながらそう言った。窓の外を見てるのでどんな顔をしてるのかはわからないけれど、なんだか寂しそうに聞こえた。


「小さなリョウが、レインフォレスト領に来てくれた時、幼くて愚かだった俺の世界を変えてくれた。それと同じようにきっとこの国も変わる。……リョウの治める国だと思えば、俺もレインフォレスト領の領主として、喜んで忠誠を捧げられるかもしれない」

「アラン……?」


 あまりにも切なげにいうものだから、思わず名を呼ぶとアランがこちらを振り返った。

 その黄緑の綺麗な瞳の目を少しだけ細めて、優しげに微笑むアランを見て、息が詰まった。


「……アランは、なんだか、変わりましたね」

 これホント最近何度も思うけど。だって、本当に、なんか、変わったんだもん。


「そうかもな。でも、さっき言っただろ。俺を変えてくれたのは、リョウだよ」

 いや、幼い頃の話じゃなくて。

 確かに、幼い頃のクソガキアランと比べたら、かなり変化してるけども。


 そうじゃなくて、私がいない間にものすごくこう、雰囲気変わったじゃん!


 なんだか、アランが私を置いて、一人で大人になってしまったような気がして……寂しい。

 そう思うのは私だけなのだろうか……。



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― 新着の感想 ―
[良い点] アランがリョウを諦めて、めっちゃ良い男になってる!! これがアレか! 恋を諦めたおかげで素が出せるようになり、モテまくる現象!! あ、けどアラン、リョウ以外にはイケメンムーブしてたわ………
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