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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第五部 転生少女の婚約期
248/304

波乱の挨拶回り編④ ゲスリーと一つ屋根の下

 ということで私とゲスリーは同じ部屋に通された。


 一応安全のためにゲスリーの近衛がベッドやクローゼットの中とかの様子を先に見る。

 安全確認が終わると、近衛の一人がゲスリーに問題ないことを報告してくれた。


 近衛の方よ。私と同じ部屋ということがすでに問題だということに気付いてほしいのですが……。


 しかし誰もその問題点に触れぬまま、ゲスリーは伯爵が用意してくれた濃紫に月と星の模様が描かれた天蓋付きのベッドに腰を下ろしてくつろぎ始めた。ジャケットも脱いで上はシャツ一枚という軽装になっている。

 ちなみに私はどうしたもんかと未だに扉の近くで呆然と立ち尽くしております。


 さて、この絶体絶命のピンチをどう乗り越えるか。

 私は十五歳にはなったけれど、うまいことタイミングが重なって正式にゲスリーと結婚とまではいっていない。

 あくまで婚約者だ。


 しかし、周りからしてみれば私とゲスリーがいずれ結婚するのは明白な流れであり、実際、未婚の男女なのに一緒の部屋で寝させようとする暴挙に出ている輩がいる。

 まじで、私、ゲスリーと同じ部屋で一夜を共にしなくてはいけないのだろうか。


 私とゲスリーの周りには、しばらく護衛がいるから二人きりになることはないけれど……寝る時はマジでどんな塩梅なんだろう。私の護衛役のアズールさんを常に側に置いてても問題ないかな。

 しかしそれでも、貴族の人たちは召使いは家具の一つか何かだと思っている節があるし、無体なことをする可能性はなきにしも……あ、いや、ゲスリーの場合は家具じゃなくて家畜か。

 周りの人達を家畜か何かだと思っているゲスリーが私に無体なことを働く可能性が……いや、よく考えたら私も家畜だと思われてる! え、じゃあ別に私身の危険を考えなくていいの……? え、でも私これでも年頃の女子で、あ、でもゲスリーにとっては家畜で……? なんか混乱してきた。


 うーん、ゲスリーのことだし、家畜だと思っている私になにかよからぬことをするとは思えないような気もするけれど、婚約式の時ゲスリーは突然キスしてきたりした。


 ああ、ゲスリーがゲスすぎて何を考えているのか分からない。分からないから怖い。


 未婚の男女が一つ屋根の下なんて……めくるめく未知の世界が脳裏によぎって……。


「ひよこちゃん、そんなところで立ったままでどうしたんだい?」

 いっそ無邪気にも聞こえるゲスリーの声が聞こえてきて現実に引き戻された。


 こいつ、私がこんなに悩んでるって言うのに、気楽な顔しやがって!


 私はもういいや、と言う気持ちでスタスタとソファのあるところまで歩いた。


「殿下、結婚前の男女が同じ寝具に寝るなんて早すぎます。私はこちらで寝させてもらいます」

 婚前交渉は良くない。そう、良くないよ。

 私の言い分は最もだ。もう可憐なふりをするのも疲れたし、わざわざゲスリー相手に可憐ぶる必要もない。護衛の目があるが、それがどうした。


 私はソファーをぶんどることにした。

 流石に王族相手にベッドを所望できないので、ソファ。


 そして私はベッドとソファーの間の壁側に設置されているクローゼットとそのちょうど反対側に置かれたデスクを指差す。


「あちらのクローゼットの角からこちらのデスクの角のところを境界線にして、その線から先は踏み入らないでください」

 私が淡々とそう言うと、ゲスリーがクスクスと笑った。


「ひよこちゃんが何を期待しているのか知らないが、そこまでいうならそれに合わせようか。そこから先へは行かない。これでいいかい?」

 な、何その、呆れたような顔!

 き、きき、期待って別に……! 別に期待はしてないんですけど!

 なんか私が自意識過剰みたいな事言うのやめてもらえます!?


 だって、男女で同じ部屋って、警戒するの普通でしょ!? 普通の乙女の反応でしょう!?

 ていうか、こう言う時、王子だったら王子らしく女性を優先して『君がベッドを使いたまえベイベ』とか言うのがお約束だからね! 

 それなのにさっさとベッドを一人で使うことに納得しやがってこのゲスリー!


 私は心の中で決して口には出せないような悪態をついてから重いため息を吐き出した。


 落ち着け、こんなことでいちいち目くじら立ててたら、これからのゲスリー婚約者生活は耐えられないよ。

 私はにっこりとどうにか笑顔を作って見せた。

 ああ、頬がひきつる。


「では、ここから先には決して入らないようにお願いしますね、殿下」

 私がそう言うと、ゲスリーは仕方ない家畜だなみたいな表情で微笑みながら頷いてくれた。

 ああ、殴りたい。この笑顔。


 ◆


 

 夜、湯船に浸からせてもらうことになった。

 ゲスリーと同じ空間にいると言うだけで疲れ果てた私の心を温かい湯が癒してくれる……。


 そしてそのタイミングでアズールさんから手紙を受け取った。

 今日のお昼にコウお母さんからもらった花束に隠されていたものだろう。


 ゲスリーとその護衛の人達が周辺にいない湯浴みのタイミングが、秘密裏に手紙をやり取りするにはもってこいだ。

 紙が湿気でふよふよになるけども。

 そしてそのふよふよの紙に書かれたたった三行のメモを読んで、息を飲んだ。


『気をつけて。

 狙いはリョウ。

 首謀者は剣聖の騎士団』


 これは……。

 おそらく移動中に私が矢で襲われた事件についてのことだ。

 首謀者が、剣聖の騎士団? それじゃあ、私を狙って矢を放ったのは……親分達の指示?


 いや、もしかしたら親分本人が矢を射った可能性も……。


 血の気がスーッと引くような感覚がした。

 使っている風呂の湯はあたたかいはずなのに、温かさを感じない。


 だって親分、本当に?

 私、あの時、本気で命を狙われていた。

 一歩、本当に一歩間違えてれば、あの矢は確実に私の喉元に命中していた。

 親分が、そう命じたの?


 どうして私を……と考えて、放たれた矢が王国騎士が使う矢であることを思い出した。

 王国騎士は王侯貴族に忠誠を誓っている者達。


 王国騎士の矢で私が死ねば、疑われるのは国だ。

 王宮内には私のことを不満に思う勢力は確かにいるし、国の貴族が私を殺したのだと広まったらどうなるだろうか。


 以前起こった城門前の血塗られたたんぽぽ事件が脳裏によぎる。

 そうだ、あれと一緒だ。


 剣聖騎士団は、ウヨーリ教を使ってルビーフォルンと国を分裂させようとした。

 今回も、同じ、いやもっと悪い。

 私が死ねば、タゴサクさんは絶対に黙っていない。

 タゴサクさんが黙っていないならウヨーリ教全員が黙っていない。そして今ウヨーリ教は、グエンナーシス領にまで広がっている。


 しかも、ウヨーリ教を抜きにしても、私は王都で勝利の女神と呼ばれていた。

 他の領地を治める領主の動き次第では、最悪王家は孤立するかもしれない。


 それはきっと、国と戦争しようとしている親分達の望み通りの展開だ。

 心臓の音が嫌にばくばくとうるさくて、耳を塞ぎたくなる。

 だって、そんなの信じられないというか……信じたくない。

 親分達が私を亡き者にしようとしているなんて……。


 でも、親分達の動向を探ってくれてるコウお母さんからの報告だ。話の辻褄だって合う。


 私が死んだことを王国騎士がやったと罪を擦りつけることがうまくいくかどうかは未知数だけど……。

 でも、王国騎士の矢が使われていたのは事実で、疑われる可能性は高い。


 そして、最悪なことにおそらく、王国騎士の中に親分の味方をしている裏切り者がいる。

 そうじゃないと王国騎士の矢を親分達が持っていることの説明がつかない。


 私はすでに濡れてボロボロのコウお母さんのメモを拳に収めて力を込めた。

 粗悪な紙だったので、きっと中で小さな紙屑になるだろう。


 握った拳が怒りなのか恐怖なのかよくわからない気持ちで、震えていた。




今日のあとがきは宣伝します!



なんと!ジャーン!

5月30日(木)転生少女の履歴書第8巻が発売します!

もうすぐ!もうすぐですよ!

お花を抱える可愛いリョウちゃんが表紙!

それにしもて毎回表紙の座は決して譲らぬリョウ様。サスリョウ!

また発売日あたりにwebも更新する予定です…!


8巻の原稿が上がったタイミングで、ちょっとページが足りないから小話をつけてと編集さんに言われて、

急遽付け足した巻末のおまけ付録『とある王国騎士から見るヘンリー殿下の優雅なる謹慎』が何気にお気に入りです…!

満を持して明かされる謹慎中のゲスリーさんと家畜達とのお戯れの日々…()


今後もよろしくお願いします!



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