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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第五部 転生少女の婚約期
245/304

波乱の挨拶回り編① 素敵の化身の巧みな乗馬術

しばらくぶりです!唐澤です!

とうとうゲスリーさんとのグエンナーシス領へ向かう優雅な新婚旅行が始まります!嘘です!まだ新婚ではないです!

今回も楽しいながらも色々大変なこともありそうな予感がしますが、

またしばらくお付き合いくださいますと幸いです。

今後もよろしくお願いします。

 私とゲスリー殿下はテンション王からの勅命を受けてグエンナーシス領に転勤することになりました。


 しかし、ゲスリーというのは、あれでも次期王様と言われる王族殿下。

 城から離れるにしても色々と手続きや準備が必要なようで、勅命を受けてからしばらくしてやっと王都を旅立てることになった。

 旅立ちにはわざわざ出発式のようなものを開催してくれて、王都の皆々様から盛大に見送られる。


 王都の人たちにとってアイドル的な人気を誇っていたリョウ&ゲスリーユニットが王都を去るわけである。

 多くの王都の人たちはそのことが悲しいらしく、嘆く声も聞こえる。

 大丈夫、そのうち戻ってくるよ。

 結婚しなくちゃいけないし、少なくとも、このゲスリーとやらは次期王様だしね。


 ちなみに私、その準備してる間にこの国の成人年齢である15歳に達した。

 15歳になったら、ヘンリーと結婚するはずだったのだけど、グエンナーシス情勢が落ち着いてから王都で盛大に結婚式をするということになり延期になったのだ。

 正直ホッとした。

 グエンナーシス領のことを早期にどうにかしたいと思う反面、どうにかなった後は正式にゲスリーの妻になるかと思うとなんだか微妙な気持ちである。

 しかも最南端のグエンナーシス領に下るのをいいことに、通り道に当たる各領地の伯爵様方に挨拶をして回ることに決まった。婚約者としての顔見せみたいなものらしい。

 なんか今まであんまり意識しないようにしてたけど、私、マジでゲスリーと婚約してたんだなという実感が久しぶりに湧いた。


 道順は、魔物騒動で領地に帰る時に学園勢が使った大通りを使うらしい。

 今現在一番安全で整備されている大通りだ。

 ちなみにこの道路は、あの災害を機に『小さき勇者達の大道』と改名されて、国営道路となっている。

 魔物も姿を見せることもなくなったし、綺麗に整備されたこの道路は、他領を安全に行き来するための道路として人々に愛されているとか。

 それにしても、魔物騒動の時にこの道を通った時は、王国騎士が一人も護衛に付かずに困っていたというのに……。

 私は、四頭立ての豪奢な馬車の窓からチラリと外を見る。

 華麗なるヘンリー殿下の麗しの近衛隊を始め、その他の王国騎士も護衛として周りを固めている。

 今ではこんなに騒々しく大勢に囲まれながらこの道を通ることになろうとは。

 しかも、これからグエンナーシスを統治するために必要な文官なども連れているので、かなりの大所帯だ。

 それにしても、私が乗ってるこの馬車広すぎ。床とか椅子とかふかふかすぎ。

 馬車に乗ってる感ゼロ。


「リョウ様、グエンナーシス領に行かれるのは初めてですよね?」

 隣に座っているシャルちゃんにそう尋ねられたので私は頷いた。


「はい、初めてです。カテリーナ様からグエンナーシス領の見所は聞きましたけれど、やっぱり海を見たいですね」

「海は本当にすごいですよ! 大きくて、綺麗です!」

 シャルちゃんのはしゃぎぶりに私までわくわくしてきた。

 海は前世の時に見たことはあるけれど、この世界の海は初めて。

 見てみたい。きっと綺麗だ。カテリーナ嬢も自慢気だったし。


「海というのは、広すぎて向こうの岸が見えないという噂でありますよ。それにエメラルドの海には、色鮮やかな魚が舞うように泳いでいるとか。楽しみでありますね」

 同じく同じ馬車にいるアズールさんがそう言ってくれて、私はうっとりと頷いた。


 エメラルドの海なんだ! しかも色鮮やかな魚って……完全にリゾート地じゃないか。

 グエンナーシス領の特産の中には、暖かい気候でしか育たないフルーツが多いし、完全に南国気分。


「思いっきり海で泳いでみたいですね」

 と思わず呟いた私の言葉に、ゴホン、と非難するように咳払いが響いた。


 恐る恐る咳払いの主を確かめると、渋い顔の恰幅の良い中年の女性がいらしゃった。

 私のマナー教師のエレーナ先生である。


「リョウ様、海で泳ぐなどはしたない……! ああ、考えるだけでめまいが……! そのような野蛮なことはいわないでくださいまし。リョウ様は、ゆくゆくは尊き一族の一員になるのです。そのような愚かな行為は、絶対になさらないように」

 めちゃくちゃ渋い顔でたしなめられた。

 いっけね。グエンナーシス領の海の魅力にお目付け役がすぐそばにいることを忘れていた。


「失礼しました。随分と浮かれていたようでございます。遊びに行くわけではございませんものね。エレーナ様、いつも考えの足りない私をご指導していただき、感謝しております」

 私が可憐に微笑みながらそういうと、エレーナ先生の合格点には達していたようでよろしいという感じで満足そうに頷いてくれた。

 良かった、乗り切った。


 エレーナ先生の前では、いい子ぶりっ子しなければならない。

 イシュラムさんがよこした世話役という名のスパイには良い印象を持ってもらいたいし。

 海へのダイブを断念するつもりは正直ないけど、エレーナ先生の前ではそんなことしないという姿勢を貫かねば。海はこっそり遊びに行こう。


 今回の旅では、エレーナさん以外にもイシュラムさんの息がかかっている女官も幾人か同行していて、彼女達は間違いなく私の日頃の行いを見張りイシュラムさんに報告する係だ。

 私を警戒している様子のイシュラムさんには、私がとっても無害で可憐なだけの淑女だと知ってもらわなければ。


 ちなみに婚約者であり、この度セットでグエンナーシス領の統括になったゲスリー殿下は、また別の豪華な馬車に乗っておられる。

 最初は、私とゲスリーが同じ馬車に乗るだろうと言われていて、周りはそのつもりで準備してたんだけど、ゲスリーが突然「別の馬車で」と言い出して別々になった。

 その場にいなかったからわからないけど、きっと『家畜と同じ馬車はちょっと……』みたいなことをいったんじゃないかと思っている。

 でも、ゲスリーよ、私だって『ゲスと同じ馬車はちょっと……』状態だったから有難い申し入れでした。


 その後、グエンナーシス領について和やかに話を聞いていると、コンコンと馬車の外からノック音がなった。

 アズールさんが小窓を覗いて、何事かやり取りをしたのちにこちらに顔を向ける。


「カイン殿が参られております。お伝えしたいことがあるとか」

 お、カイン様が? 確かカイン様は今日はゲスリーの側に配置されていたはず。

 何かゲスリーからの伝言でもあるのかな……。


 嫌な予感を感じながら頷くと、馬車の扉をアズールさんが開けてくれてすーっと新鮮な風が入ってくる。

 そして風と共に馬に乗って華麗に並走する濃紫の騎士服を着たカイン様がいらっしゃった。

 やだ、あいかわらずカッコいい!

 そんないつでも私の目の保養なカイン様は、馬の手綱を片手で握って巧みに馬を操って並走しながら、右手を胸に当てて敬礼をした。

 もう一度言おう。カッコいい。


「失礼します。ヘンリー殿下から乗馬のお誘いがございました。私と一緒に殿下のもとまでお越しいただきたいのですが、よろしいでしょうか」

 私のそばにエレーナ先生がいることを確認したカイン様が、改まった言い方でそうおっしゃった。


 乗馬か。

 まあ、ずっと馬車に乗っていると飽きるだろうし、悪くはないお誘いだけど……ゲスリーのお誘いだからなぁ。

 よし、行かない。

 内心で即決した私は淑女ぶった態度で口を開いた。


「まあ、乗馬に? 殿下からのお誘いはとっても嬉しいのですけれど、どうしましょう。私、乗馬服を着ておりませんわ」

 とブリブリと淑女ぶりをアピールしてみた。


 今の私はドレス着用。ただコルセットなどはなし。

 正直に申し上げると、コルセットやパニエがないならドレス姿でも馬に乗れる自信はある。

 しかし、普通のご令嬢ならばこんな姿で馬には乗れないはず。はしたないはず。

 そうですよね? エレーナ先生?

 私はエレーナ先生に目線を向けた。


 いつも淑女の何たるかを語ってくださるエレーナ先生ならば、女性がドレスで乗馬などはしたない! と断ってくれるはず!

 私の期待の眼差しにエレーナ先生は頷いた。


「確か、リョウ様は乗馬の腕が素晴らしいと伺っております。横乗りならば、ドレスでも問題ございません。せっかくの殿下からのお誘いを断ることなどあってはならないことです」

 エレーナ先生からまさかの厳しいご指導が入った。

 エレーナ先生め……。

 私は、新たな味方を探すためにアズールさんとシャルちゃんをみた。


「リョウ殿でしたら、ドレス姿でも容易に馬にも乗れるであります」

 と、私が馬に乗れることを知ってるアズールさんがなぜか自慢げに語る。


「まあ、乗馬されてるリョウ様、私も見たいです! きっと素敵です!」

 と目をキラキラさせて喜んでいるシャルちゃん。

 どうやら、ゲスリーとの乗馬は断れそうにない。

 みんなの援護を得られなかった私は再びカイン様を見た。

 カイン様は心なしか同情の視線を私に向けてくれている気がする。


「そうですか……。では、せっかくですからヘンリー殿下のもとに参りますね。あ、でも、どのようにして向かえばよろしいでしょうか?」

 と、馬車の扉のところまで身を乗り出した私は、外を見て首をかしげる。

 馬車は走ってるし、カイン様の馬も走ってるし、近くに乗り手のいない馬もいないから飛び移れないし。

 どこかで一度馬車を止めるのだろうか。

 いぶかしむ私に「とりあえずは私の馬に」と言いながらカイン様が手を差し伸べてきて、恐る恐るその手に自分の手を乗せると少しだけ引っ張られた。

「え……!?」

「失礼」

 というカイン様の声を聞いたときには、カイン様は私の脇の下に手を入れて持ち上げていた。

 ふわっと宙に浮くような感覚にびっくりしている間に、気づけば私はカイン様の操る馬の上で横座りになっていた。

 カイン様が片手で私が落ちないように支えていて、片方の手だけで馬を操縦している。

 なにこれ、何の早業なの!?

 というか、近い!

 私の左肩なんてカイン様に密着してるしで、すこぶる近い!

 というか、びっくりした。だっていきなりなんだもの!


 ドキドキして呼吸を整える間に、カイン様が「それでは」とか言って、私を乗せたまま華麗に馬車から離れていく。きっとゲスリーのもとに向かうのだろう。


「カイン様、あんな風に持ち上げるのなら、一言声をかけてくださっても良かったのに。すっごくおどろきました。それに、私は馬に飛び乗るぐらいなら一人でできます」

 やっと呼吸を整えた私が不満げに言ってカイン様を見上げると、カイン様が楽しそうに笑っていた。


「リョウなら一人で飛び乗ってきそうだと思って、何も言わずに抱えたんだよ。できるとは言っても危ないことに変わりないし、そんなリョウの姿をみたら私の心臓がもたない」

「突然あんなことされて、私の心臓の方が縮みあがりましたよ」

「ごめん。でも、リョウを驚かせることができて、すこしいい気分だ。いつも私の方が驚いてばかりだから」

 そう言って、くつくつと本当に楽しそうに笑うカイン様が素敵だから許すけれども!

 だって、何あの笑い方、素敵か! 素敵の化身か!

 カイン様はすごい。私は改めて実感したのだった。


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