王宮暮らし編⑰ ウヨーリ教グエンナーシスver
あけましておめでとうございます!
そして大変お待たせしました!
どうも寒くなると布団の中に引きずり込まれたまま動けなくなる習性があるようで…!
ということで新年一発目の更新です★
今年もどうぞよろしくお願いします!
【念のためあらすじ】
異世界転生したリョウは、農民したり小間使いしたり山賊したり、伯爵家の養女になって学生になって学生生活中に商人を兼業したりして楽しんでましたが、そんなリョウを変な方向でものすごく強烈に慕っているタゴサク大先生が類まれな想像力で作り上げたウヨーリ教なるものによって、色々と大ピンチ★
天敵であるヘンリー王弟の婚約者になることでどうにかことなきを得たと思いきや、ウヨーリ教分裂してるってよ、と言う報告が届いて大混乱!もうー!一体タゴサクさんったら何やってんの~!?(ピキピキ)
ということで以上、(大雑把すぎる)あらすじです!
あらすじをうまく書ける才能がほしい!
ということで本編を楽しんでいただけますと幸いです。よろしくおねがいします!
私が、ここにいるはずがない人物を前にして目を丸くしていると、リュウキさんがタゴサクさんの隣で土下座ポーズをとった。
「どうか、どうか……我らをお許しください! どうか!」
と頭を下げるリュウキさん。
え、なに、この構図!
めちゃくちゃ私が悪役みたいな立ち位置なんだけど!
ていうかリュウキさんあなた、立場的にそう簡単に頭下げないでもらっていい!?
人の目がないからいいけど、見られたら100パーセントアウトな絵面だからね!?
あの人魔術師に頭を下げさせてました、とか言われたら罪をかぶるの私だからね!?
そんな意味不明な冤罪かけられて一生を棒に振りとうない!
もう! ほんとこいつら、ほんとにもう! って無性に叫び出したい衝動に駆られたけど、私は一旦落ち着こうと長く息を吐き出した。
「リュウキ様もタゴサクさんも、まずは落ち着いて。とりあえず早急に頭をあげてください。私はただ現状の把握がしたいだけなんです。というか、リュウキ様まで王都にいらっしゃったのですね」
「は、はい……! タゴサク先生に呼ばれまして」
いやいやタゴサクさんによばれたからって、ほいほい王都にこれるような身分ではなかったはずでは……?
「ルビーフォルンにはバッシュ様がいらっしゃったはずです。バッシュ様はご存知なのですか?」
「伝えてはおります」
「許可は……?」
「残念ながら許可は得られませんでした」
じゃあ、来たらダメじゃないかな……。
「許可、得られなかったのに、来たんですか……」
「タゴサク先生の召喚ですので」
……。
いやいやいや、そういうところだよ!?
君たちのそういうところが、ほんと怖いんだからね!?
しかもリュウキさんって、ルビーフォルン領の唯一の魔術師で、バッシュさんの娘と結婚して次期伯爵になる予定でしょ!?
次期伯爵が重度のウヨーリ教徒って、怖すぎるんだけど。
どうしたものか。次期ルビーフォルン領主に不安の種が……。
あ、頭が痛い。いや、でも今はそれどころじゃない。
次期領主問題も深刻だけど、バッシュさんはまだまだしばらく健在だ。
話を先に進めよう。
私はタゴサクさんの目の前でしゃがみこみハンカチを取り出して差し出すと、彼は涙に濡れた顔を私に向けた。
「タゴサクさん、落ち着きましたか? 手紙でグエンナーシス領にウヨーリの教えが広まっているのはわかりました。とりあえずタゴサクさんが作った経典とグエンナーシス領に広まった経典の差異について、聞かせてください」
私がそう切り出すと、タゴサクさんはプルプルと体全体を震わせながら差し出したハンカチを凝視した。
そして小さい声で「おおう、私の神よ、おおう、神聖なる布、聖布、おおう」という唸るような声を響かせるだけで、一向にグエンナーシス領のウヨーリ教について話し出そうとしない。
ついハンカチを差し出したのがいけなかったのかな。彼には刺激が強すぎたようだ……。
私はため息を吐くと、ハンカチを彼の濡れた頬に無理やり押し付けてキッと睨みつける。
「いいから、早く話してください」
ものすごい圧を込めてそういうと、タゴサクさんは押し付けられたハンカチを大事そうに受け取りタゴサイックスマイルを浮かべる。
そうしてやっと、ポツポツと語ってくれた。
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タゴサクさんからグエンナーシス領の状況について結構詳しく聞くことができた。
タゴサクさんの報告を聞く限り、グエンナーシス領で広まってる教えは、農法や生活の知恵的なもの、それにウヨーリ様という絶対的な存在がいることもそのままのようだ。
ルビーフォルンで広まっているタゴサクさんが書いた経典は物語っぽくなっていて、その中に伝道師のタゴサク先生の存在が見え隠れしているが、グエンナーシス領の経典ではその物語部分の多くが削除されてる。
かわりに剣聖の騎士団というのがタゴサクさんに成り代わっているような感じで、故にグエンナーシス領ではタゴサクさんの影響力も薄い可能性が高い。
しかも、魔法使いを敵対視する向きがある。
そうした概要を聞いた限り、グエンナーシス領に広まってる経典は良く出来てる。素直にそう思った。
剣聖の騎士団なるものたちが、タゴサクさんの立場をうまくとって代わることに成功させたその手法には正直舌を巻く。
本来ルビーフォルンで最も偉いはずのグローリアさんやバッシュさんは、現在ルビーフォルン内においてタゴサクさんほどの影響力が、正直ない。
今は手を切ってくれたと思うけれど、バッシュさんは一時期親分と繋がっていた。だから親分達はその現状を知っていてもおかしくない。
剣聖の騎士団を作る時、親分達はウヨーリ教のことを知って利用したのだろう。
領主よりも権限があるタゴサクさんという化け物の立ち位置を狙って、元の経典を歪めて広めたのだ。
そして実際、カテリーナの父親である元グエンナーシス卿も、バッシュさんと同じように、経典の指導者である剣聖の騎士団にその立場を追いやられていた。だから、グエンナーシス卿は反乱を止められなかった。
これは、ルーディルさんの策なんだろうか……。
親分達の中では完全に参謀役のほっそりとした彼の姿が脳裏によぎった。
こんな突拍子もないような策を考えついた上に実際に行動に移し、なおかつ成功させたのは純粋にすごいと思う。
私なら、こんな思い切った行動はできない。だって私はウヨーリの教えなるものを甘く見てたから。これほどの影響を及ぼせる可能性があるものだとは、思っていなかった。
だって、ウヨーリの教えの内容は私にとっての常識だ。それがこの世界の人にどう映るかなんて、深く考えなかった。
でも親分達は、この教えがこれほど影響力を与えるものであると、見抜いたんだ……。
ウヨーリの教えの力ってほんとすごいと改めて思う。
逆に言えば、この国の人たちは新しい価値観を盲目的に頼らざるを得ないほど窮地にたたされていたのかもしれない。
「タゴサクさん、ありがとうございました。色々、わかりました……」
タゴサクさんからの報告を聞き終わってそういうと、何故かタゴサクさんが神妙な顔をし始めた。
何か言いたいことがありそうな雰囲気に、目線で先を促すとタゴサクさんは頭を垂れた。
「私はリョウ様のお考え、そしてそのお気持ちにやっと気付きました……」
え、マジで?
本当に気づいてくれた? 私がタゴサクをはじめとしたウヨーリ教徒に心底ビビってること、気づいてくれた?
私が疑いの眼差しでタゴサク氏を見ていると、彼は再び口を開いた。
「私はあの小さな村で、お小さくていらっしゃったリョウ様をこの目にした瞬間、世界の変化を感じました。リョウ様が紡ぎ出す言葉、そして作り出す物すべてが素晴らしく……私はそこに神々の世界を垣間見たのです。リョウ様は万能の神に近しいものに違いないと、そう確信したのでございます」
そうタゴサクさんがしみじみと語り出したので、思わずガリガリ村のことを思い出した。
あの頃は、まさかこんなことになろうとは思ってなくて、ただ必死に生き残るために、前世の記憶を手繰り寄せて村の現状を変えようとした。
私が小さい頃、後先考えずに調子に乗って前世の世界での常識を伝えたりしたのが始まりだ。
その時の私はまだ幼児っていうか、むしろ乳児だった。
確かにそんな子供が色々知っていたら、村人にとっては人外の何かに見えても当然なのかもしれない。
「私はリョウ様の教えをすべての善良なる者に知ってほしかった。この教えこそが救いだと、そう信じて……。しかし、尊い教えが、汚されてしまった……」
そう言って、タゴサクさんが悔しそうに唇を噛んだ。
マジで気落ちしてる様子のタゴサクさんが珍しくて、まじまじとそのランプの明かりに照らされた輝かしい後頭部を見る。
「やはり神々の教えを我らが用いるのは、罪深かったのでしょうか。ただただ、少しでもその輝かしさのお側に参りたかっただけなのです……! そこに安らぎがあると知って、近寄らぬ者がおりましょうか……! ああ、しかし、明かりを求めて飛び立つ虫は、明かりの輝かしさで自らを焦がしてしまう! 我々の運命も羽虫と同じく儚いものだった。リョウ様のもたらした光に耐えることができなかった……!」
そう言って、再び涙を流すタゴサクさん。タゴサクさんの隣にいるリュウキさんも泣き始めている。
救いを求めて隣を見れば、場の空気に流されやすい傾向のあるアズールさんまで、なんか泣きそうな顔をしてる。
ア、アズールさん……。
やだ、この場の雰囲気に乗り切れてないの、もしかして私だけ?
私は思わず口元に手を持っていって、この現状を一人ひっそりと嘆いた。