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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第五部 転生少女の婚約期

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王宮暮らし編⑯ ウヨーリの教えについて

まさかもう一年が終わるなんて!

この前あけましておめでとうございますって言ったばかりのはずだったのに!!(驚愕


そして他作品の宣伝で恐縮ですが……!

『あやかし心療室 お悩み相談承ります!』(スターツ出版文庫)

が12月28日本日発売日です!

いつも応援ありがとうございます!



 まさかのゲスリーからのお誘いで、評議会を覗き見できたのは僥倖だった。

 ゲスリー様様である。

 もしかして今後も評議会の覗き見に誘ってくれるのかなって少々期待したのだけど、あれ以来一向にゲスリー殿下からの評議会の覗き見のお誘いはなかった。


 それどころか、その後ゲスリーが再び私に会いに来る気配もない。あの人、本当に何考えてるんだろう……。


 評議会の覗き見に連れてってくれるのなら、ちょっとくらい大人しくかわいい家畜のふりをすることも辞さない気持ちだったというのにこれである。

 気分屋のゲスリーめ。


 まあ、ゲスリーのことについて考えてても仕方ないし、一度覗き見た評議会でグエンナーシス領のことが聞けたのは幸いだった。調べものなら私にも伝手がある。 

 すでにその伝手には調査を依頼済みだ。

 

 流石に王都から遠く離れた南端の領地の情報なので、返答にはまだまだかかるだろうけれど……と考えていると、下の方から視線を感じた。

 私のドレスの着替えを手伝ってくれているアリーシャさんが、私のスカートの裾を整えながら意味ありげな視線を私に向けていた。

 

 どうしたんだろうと不思議に思っていると、アリーシャさんが私に上着を掛けるタイミングで手紙のようなものをこっそりと握らせてきた。

 私は、周りの王宮の侍女たちに気づかれないようにそれを懐にしまい込むと何食わぬ顔で着替えを続ける。


 まさか、調べてもらったことの報告……?

 調べものの伝手と言うのはアリーシャさん。というか、ウヨーリ教徒の人たちだ。


 彼らは情報拡散能力もすごいけれど、情報収集能力も高い。

 しかも、今回の調査内容は、グエンナーシス領に広まっている『教え』についてのことだし、彼らが適任だろうとこっそりアリーシャさんに調査をお願いしてたんだけど……でもさすがに早くない?

 グエンナーシス領って、だって、ルビーフォルンよりも王都から遠いところだよ?


 握らされたメモ書きが気になりつつ着替えが終わると、イシュラムさん配下の侍女達が膝をついて手紙を乗せたトレーを私に捧げてきた。


「ジョシュア様からのお手紙をお預かりしております」

 そう言われて、その王宮の侍女から手紙を受け取る。


 巧妙に隠してはいるけれど、封のところが少し乱れているのをみるに、おそらく一度この手紙は開けられてる。

 シャルちゃん達みたいに私が連れてきた侍女以外は、私を監視するためにイシュラムさんが用意した侍女だ。私が書いた手紙はもちろん、私宛の手紙もすべて中身を見られている。

 まったく、結構徹底した監視体制だこと。


「ありがとう。ジョシュアさんからだと商会のことですね。きっと返信が必要になるので、紙とペンを用意していただいてもよろしいですか?」

 私がそういうと、侍女が書棚の方へと顔を向けた。

 私はその隙に、先ほどアリーシャさんからもらったメモ紙を取り出した。ジョシュアさんの手紙を読んでるふりをしながらメモに目を通す。


 予想通りアリーシャさんのメモは、先日お願いしたウヨーリ教に関する調べ物の件だ。

 こんなに早く結果が返ってくるなんて、さすがウヨーリ教徒は仕事が早い。

 そんなことを思いながら、アリーシャさんからのメモを見て少しばかり小さく息を吐き出した。


 やっぱりか……。

 グエンナーシス領にも、どうやらウヨーリ教のようなものが広まっているらしい。


 先日の評議会の盗み聞きで、懸念していたことが当たったようだ。

 ただアリーシャさんからのメモによると、ルビーフォルンのウヨーリ教とグエンナーシス領に広まってる教えは少しばかり内容に違いがあるらしく、大きく違う点はグエンナーシス領のウヨーリ教は『武力』を尊ぶ傾向にあるということだ。

 だからこそ、グエンナーシス領に広まったウヨーリ教は騎士団というものの存在がある。


 聖なる乙女の剣という意味を込めて、その騎士団は剣聖の騎士団と呼ばれているらしい。

 つまり、親分が英雄として君臨していた剣聖の騎士団は、最初っからウヨーリの教えを利用して作られた騎士団だったのだ。


 剣聖の騎士団と言う名前を聞いたとき、親分が組織したにしては随分と上品な名前をつけたなとは思っていたけれど、そういうことか。


 おそらく騎士団を統制するのにウヨーリ教が使えると思って、騎士団発足とともに少しずつ広めた可能性が高い。

 伯爵派で当時騎士爵の娘だったサロメ嬢が、この教えのことを知らなかったことを考えると、教えを伝えられたのは完全なる平民限定というところだろうか。

 あまり表には現れず、局所的に教えが浸透してるあたりが、ウヨーリ教っぽい。


 まったく親分め。嫌なことを考える。

 いや、親分は正直本能の赴くままに行動するところがあるから、考えたのはルーディルさんあたりだろうか。彼は親分一味のブレーンだったし。


 それにしても、ウヨーリ教って発足からそんなにたってないのに、枝分かれしすぎじゃない?


 ウヨーリが私だと知っているウヨーリ教初期派のタゴサク教。

 そして、後から大きく広まっていった、ウヨーリが私だと知らないウヨーリ教多数派。

 そして今回のグエンナーシス領に広まってるウヨーリ教武力派。


 最初の二つは、王都のウヨーリ教暴動騒ぎで一つになりつつあるかもだけど、グエンナーシス領にウヨーリ教武力派なんていうまさか新たな派閥が出てこようとは。


 しかも、教義がいい感じに改変されて、親分たちが使いやすそうな感じになってるようだし……。


 ルビーフォルンのウヨーリ教は平和な教えだった。

 武器の扱い方を教える部分は確かにあるけれど、それは狩りのため。そしてそのおかげで魔物騒動の際、助かった命がある。

 だけど、グエンナーシス領の教えのように人との争いで武器を手に取ることを是とするようなことはなかった。


 アリーシャさんからもらった手紙に目を落としながら思わず気分が落ち込む。


 ……なんにしても、もう少し情報が必要なのは確か。

 どうにかして、もっと詳しく話を聞けないだろうか。

 できれば直接コンタクトをとりたい。


 私は、ルビーフォルン商会のジョシュアさん宛ての手紙を返信していると見せかけて、アリーシャさんに渡すメモに、ちょこちょこと要望を書きだした。


◆◆◆◆◆◆◆◆



 アリーシャさんを通して行った文通のお陰で、なんと教えのことを最も詳しく熟知している人とコンタクトをとれることになった。

 なんと驚くべきことに私が住んでいる星の宮の地下に、外と連絡をとれる場所があるらしい。

 

 私は半信半疑だったけれど、昼間のうちにばれないようにこっそり確認すると、確かにそれらしい地下の入り口のようなものが見て取れた。


 王族のしかも女性を囲う場所に、外への隠し通路があるということは防衛上どうなのだろうか。いや、それとも非常時の逃げ道という感じなんだろうか。

 その割にはここの主人であるはずの私は、ここが非常口ですよって教えてもらってないけれども。

 

 少々微妙な気持ちになりつつも約束の日の夜、私は侍女達に睡眠薬入りのジュースを振る舞った。

 何か仕込んだとばれない程度に薄めたので突然ばったり倒れるように眠りにつくようなものではなく、夜になると健康的にぐっすり眠れるという程度だ。

 夜中にこっそり抜け出す算段なので、そのくらいで十分だ。

 そして、眠り薬でみんながぐっすりと寝静まった頃、シャルちゃんから侍女服を借りた私はお伴にアリーシャさんとアズールさんを連れて寝室から脱出した。

 ちょっと出ていくだけなので大丈夫だとは思うけれど、シャルちゃんは念のための保険としてしばらく私の身代わり役だ。


 私は侍女ということで、一応変装も兼ねて化粧を施し、夜も更けて薄暗い星の宮の廊下を俯きがちに歩く。

 すでに夜は暗く、人通りもない。そうばれることはないとは思うけれど念のため。


 初めてなのでドキドキしたけれど、どうにか目当ての場所にたどり着いた。


 私が住んでいる星の宮の建物の地下一階だ。

 周りを確認して誰もいないことを確認すると、アズールさんがそこに膝をついて床の様子を探ってくれる。


「リョウ殿。こちらです」

 といったアズールさんが壺を持ち上げると、そのすぐ下の床に不自然な切れ目のようなものがあるのを確認して頷いた。隠し扉だ。


 私はその床の切れ目に金具を入れて引っ掛け、蓋のような扉を開かせる。

 扉の下には、地下へと続く階段が見えた。


「アリーシャさん、ここで見張りをお願いできますか。私たちが中に入ったら、蓋を閉めて壺を戻してください。そして床からコツコツ二回音がなったら戻ってきたときの合図です。周りに問題がなければ蓋を開けてくださいますか?」

「はい、もちろんでございます。私はウヨ……リョウ様の僕ですから」

 と言って、アリーシャさんは恍惚とした表情で頷いた。

 アリーシャさん、最近顔つきがなんかタゴサクさんみたいになってきたな……。


 それでもアリーシャさんは、ウヨーリ教を秘匿にしたい私の考えは知ってくれており、人前では普通に接してくれるので有難い存在である。


 そんなアリーシャさんに見張りをお願いして、私とアズールさんとで地下に潜ってしばらく歩くと、奥に明かりが灯った部屋のようなものが見えてきた。

 目を凝らすとその床に五体投地している何者かが見える。


 手に持っているランプの明かりが反射して何者かの後頭部を輝かせた。

 そう、タゴサクさんだ。

 教えのことを最も深く理解している人選手権ナンバーワンの彼だ。

 彼から、是非に自らがグエンナーシス領の教えについて説明したいという強い希望もあり、今日ここにきたのだ。


 ウヨーリ教徒暴動事件の時はかっこよく見えたような気がしなくもないけど、やっぱりタゴサクさんはタゴサクさん。相変わらずの五体投地歓迎挨拶に懐かしささえこみあげてくる。

 行動の奇抜さに変わりはない。

 そして、タゴサクさんの隣には付き人のような人もいて、その人も深く頭を下げて五体投地していた。


「タゴサクさん、すみません、お待たせしてしまいましたか?」

「待つことも喜びでございますれば」

 とタゴサクさんが頭を下げたまま震える声で答えてくれた。

 ああ、うん……。

 まあ、とりあえず本題に入るか。


「アリーシャさんから聞いていると思いますが、グエンナーシス領に広まっている教えの件です」

 私が早速本題を切り出すと、タゴサクさんがすでに下げていた頭をグリグリと地下にめり込む勢いて床にこすりつけてゆく。


 ……どうしたのかなー?

 タゴサクさんのいつもの奇行を生ぬるい目で見守っていると、タゴサクさんから、悔しさをにじませるような暗い声が響いてきた。


「誠に、申し訳ございません! 私の不徳の致すところでございました。まさかッ、ンまさかッ……!」


 そこまで言って、言葉が詰まったように声に出せないでいるタゴサクさんが、ビクビク震えはじめた。

 どうしたのだろうかと思っていると、タゴサクさんはガバリと顔をあげて、その涙と鼻水で濡れた顔を見せてくれた。


「我らォシュエエンンガァアアアア!」

 と泣き叫ぶと、なにか泣きながら色々語ってる様子なんだけど、なにを言ってるのか全然聞き取れない。


「タ、タゴサクさん? 落ち着いてもらっていいですか?」

「ドゥブドウンングナルグスー、アァアアア」


 いや、マジでなに言ってるかわからないから。珍獣の鳴き声みたいになってるから。

 そんなタゴサクさんの姿を見かねたのか、隣の付き人のような人が動いた。


「タゴサク先生、早まらないでください! 私達にはまだまだあなたが必要です!」


 とタゴサクさんの付き人がタゴサクさんの背中を支えながら必死で何かを止めようとしている。

 どうやらタゴサクさん、何か早まろうとしているらしい。

 というか付き人君、よくわかったね。私はなに言ってるかわからなくて、ただただ呆然としていたというのに……。

 いや、だって完全に怪獣の鳴き声だったじゃん。


 と私が付き人風の人に感心して改めて顔を向けて、気付いた。

 この付き人っぽい人、リュウキさんじゃない?

 ルビーフォルン領唯一の魔術師でめちゃくちゃ忙しくて、慰労会にも来られなかったリュウキさんでは……?







久しぶりのタゴサク先生の登場でとっても神聖な気持ちで新年が迎えられそうな気がしますね!!ね!!!(圧力)



そして、宣伝で恐縮ですが……以前もご案内しました

『あやかし心療室 お悩み相談承ります!』(スターツ出版文庫)

が本日12月28日発売日です!


本屋で見かけました際には是非手にとってレジに持って行って購入してお持ち帰りくださいませ!

ポップで可愛らしい表紙が目印ですよ!


気づけば年末なので、ご挨拶を!

本年も大変お世話になりました(感謝)

おかげさまで、今年は「転生少女の履歴書6巻」、「転生少女の履歴書7巻」、「あやかし心療室 お悩み相談承ります!」で本を3冊世に出すことができました。

あと電子書籍にもなりまして嬉しいかぎりです!


来年もどうぞよろしくお願い申し上げます!

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