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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第一部 転生少女の幼少期

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小間使い編⑬-建国神話と糸車作り-

 私はアイリーンさんのお仕事の様子をみて、思いついたことが二つあった。一つは井戸作り、そして糸車作りだ。


 井戸があれば、わざわざ魔法使いが水を補充しなくてもいいし、糸車があれば、誰でも綿から糸を作ることが可能だろう。

 ただ、井戸作りは、私の力だけでは試作品を作れないし、糸車のほうを優先させることにした。糸車も正直よくわからないけれど。


 でも、作り始める前に勉強だ。家庭教師の先生の授業のお時間がある。

 今日は、歴史の授業だ。今回は歴史の中でも結構昔の話、神話の時代と呼ばれている時期の授業だった。神話といっても、この国に宗教らしい宗教はない。日本書紀とか、ギリシャ神話に近い宗教感覚だ。ライトな感じ。でもこの神話の中で語られているカスタール国の建国神話のラストに語られるこの国の信念というか、建国した理由や理想のようなものが、現在のこの国が抱える問題点の原因のように思えてならない。



 先生が私に授業で教えてくれた神話の話では、私が住んでいるカスタール国は神様が作った国と言われている。


 神話時代は、魔法を呪文がなくても使うことが出来た時代らしい。そのため、魔法使いは万能で、自らを神だという風に表現するほど調子にのっていた。そういった傲慢な魔法使いたちが住んでいる国が神の国、魔法大国パンドーラ。その時代、この大陸で唯一絶対の王国で、支配者だった。


 その時代の魔法使いは、調子に乗っていたので、残忍で冷酷だったらしく、魔法を使えない人間全てを奴隷とし、時には畜生以下のように扱い弄んでいた。


 しかしあるとき、魔法を使うことが出来ない人間が、鉄を使って、丈夫な剣や楯、鎧や兜などの防具を作る方法を発見する。奴隷だった人間達は、こっそりと、魔法使いにばれないように自らのつめを研ぎ続け、魔法使いに反旗を翻す。


 無力な人間に何が出来ると、調子に乗っていた魔法使い達だったが、なんと言っても、数が多い。また、鉄で出来た鎧は、魔法使いが放つ魔法をどうにか耐えることもあったし、その剣は、きちんと力いっぱい振り下ろせば魔法使いを切り裂くことも出来る代物だった。


 魔法使いと人間の戦争は長引く。

 そこへ人間と魔法使いがともに手を取り合って生きていこうと提案する魔法使いの集団が現れた。こちらの第三勢力がのちにカスタール国を建国する神々になる。


 しかし、その当時、超傲慢だったパンドーラの魔法王は、その提案を一蹴し、そんな軟弱な考えを持つやつは魔法使い失格じゃい! とばかりに、その第3勢力の魔法使い達に攻撃を仕掛けはじめる始末。


 かといって、人間側も、いまさら魔法使いを信用できるはずもなく、第3勢力を受け入れられずにいた。


 そんな時、ぽっくりとパンドーラの魔法王が死んで新しい王が誕生する。後に闇の魔女王、死の女神、腐肉と腐臭の支配者だかなんだかと悪口みたいな二つ名で呼ばれる最悪の魔女王だった。


 こちらの魔女王も第3勢力の話には聞く耳持たず、自ら人間を殲滅するため兵を進軍する。それがマジですさまじかった。魔女王は魔法使いの中でも珍しいネクロマンサーだった。死人を操るのだ。

 死者は全員彼女の軍団に加わるので、人間が魔法使いを殺してもよみがえるし、逆に殺された人間達は魔女王の軍団の一員として蘇る。しかもゾンビ軍団は、味方側のはずの魔法使いを間違って殺しちゃったりなんかするので、なんかかなり不毛な戦いになって人間も魔法使いも逃げ惑う羽目になった。

 しかし、そんなことは関係ねえとばかりに魔女王は戦争地帯をぐんぐん進んでいく。


こいつは見てられない! と思った第3勢力の魔法使いが力を合わせて、どうにかこうにかこの魔女王を追い詰め、ゾンビ軍団ごと封印することに成功した。


 そしてもうこんな戦争は起こさないと誓って、第3勢力は国を立ち上げ、カスタール国が誕生する。


 魔法使いたちは、人間を虐げないこと、豊かな生活を約束すると誓い、人間と手を取り合うため声をかけ、人間達も、不毛な戦争と闇の魔女王から救ってくれたことを感謝し、彼らを改めて神として崇め一緒に国を作ることを承諾する。



 魔法使いが豊かさを授け、それ以外の人間が魔法使いを崇めてその豊かさを受け取るという図式が、現在のブラック企業の誕生の始まりだったのである。彼ら魔法使いは日夜人民のために働いているのである。おいたわしいのである。


 私はアイリーンさんの仕事ぶりをみて、この神話は史実に近いのかもと妙に納得した。



*


 座学が終わったので、坊ちゃま方は現在剣術の指導中。私は洗濯とかもろもろを終わらせた上で、今朝用意した石と薪を積み上げたところの近くで、どっこいしょと地べたに座って糸車作成に取り組むことにした。もうメアリーさんは洗濯を終えたみたいで、近くにはいなかった。


 私は糸車作りをするに当たって、ステラさんからいただいた綿の固まりをポケットから取り出し、まずはどういう過程で糸が出来るのかを確認することにした。

 おそらく、ティッシュでこよりを作るみたいに、捻って糸にしていくのだろうと、綿を少しつまんで捻っていく。


 結構時間をかけてひねっていくと糸っぽいのが出来た。捻れば捻るほどいい感じの糸になるが、手作業ではやっぱりかなり時間がかかってしまう。

もう少し、楽に回転数を上げたい。回転と言えば・・・・・・コマ? 前世の小さい子向けのおもちゃ。アレは一回ひねっただけで、なかなかの回転数だった。

 私は、手ごろな枝を見つけて、枝に糸を結びつけてまわしてみたが、重さが足りないみたいでうまく回らない。枝の下に石を新たに結びつけてみると、いい感じに回転する。


 おー! と思いながら、綿から引っ張って、回転して糸を作ってから、枝に巻きつけるという作業を行なっていくと、それなりに糸作りっぽくなってきた。

 これでも、十分いけそうなきもするけれど、でもやっぱり、私が想像している糸車って言うのは、なんか、車輪みたいなのを回転させるやつだ。

 たぶんアレなら、綿をひねっていくのと同時に、出来た糸を糸巻きの棒に巻きつけるところまで、車輪の回転一つで出来るような仕組みなんだろうと思う。正直、学校でもらった歴史の図解資料の写真を見ただけなので、よくわからないが、仕組みとしてはそういうものであると思う。


 となると、車輪みたいなものと、その回転を伝えるベルトのようなものが必要かな、あと木で作るとして、木を削ったりしなきゃか。それに道具をそろえるのにもお金が必要だけど、そういえば私、無給だ!


「リョウ、こんなところにいたんだね。何をしているの?」


 カイン坊ちゃまとアランがいつの間にか近くに来ている。あ、やべ、集中してぜんぜん気づかなかった。結構時間が経ってたのか。


「すみません。坊ちゃま。剣術の授業が終わったんですね。汗をお拭きになりますよね? 準備してまいります」


 私は湯浴みの準備のため慌てて立ち上がろうとしたが、カイン坊ちゃまは手で制し、しゃがんで、私が手に持っている糸巻きをみている。


「いや、まだ大丈夫。ところでこれは何?」


「こちらは糸車、と言うものを作ろうと思って、色々試していたんです」


「イトグルマってなんだ?」

 アランもカイン坊ちゃまと同じようにしげしげと道具をみてきた。


「綿から糸を作る道具です。出来るところまでは自分で作ってみようかと思いましたが、道具をそろえるのも大変そうなので、図面を書いてクロード様にお渡ししようかと思っています」


 なんとなく仕組みはわかってきたし、図面ならかけそう。自分で作ろうとするよりもクロード様に相談したほうが完成まで早そうだ。ついでに井戸についてもいったん図面で用意してみよう。

 紙とペンなら、授業でもらったものがあるから、道具もそろってる。うん、そうしよう。


「そんな道具があるんだ。知らなかったな。じゃあ、この焚き火みたいに石とか薪を積んでいるのも、糸車のため?」


 そういって、カイン坊ちゃまが、朝私がセットした石と薪を積んだところを指差した。


「いいえ、こちらは糸車とは関係ありません。奥様の湯船のために準備したものです。焼き石でお湯を張ってみようかと思いまして。夜に料理長が火をつけに来てくれる段取りになってます」


「焼き石?」


「ええ、焼いた石です。焼いて熱くなった石を水の中に入れて、水の温度を上げ、お湯を作ろうかと思っているんです。奥様は、湯船がお好きのようで毎晩入られているんですが、いつも、魔法で自らお湯をお沸かしになるので、こちらで準備できればと思いまして」


 そうかそれはいいことだねと、カイン坊ちゃんが和やかに微笑むその隣で、私が奥様の話をしたあたりからものすごくキョドリ始めた子どもがいる。もちろんアランだ。


 なんかもう、私にすごく何かを聞きたそうにしているから、しょうがなく、アランのほうに目を合わせて、なんやいうてみ、という感じで首をひねってみた。


「・・・・・・リョウ、お母様は、お元気にされてる、か?」


 アランがやっと搾り出したような、かぼそーい声で、別にそんなに興味ないんですけどねーという風を必死に装おいながら聞いてきた。


「お元気と言えばお元気ですが、ただやはりお仕事がお忙しくていらっしゃるので、お疲れのご様子ではありました」


 ふーん、そ、そうか、と言って口をもごもごさせているアラン氏。他にも聞きたいことがありそうだけれど、何を言えばいいのかわからないような感じだ。


「でも、アラン様のことやカイン様のことを気にかけていらっしゃいましたよ」

 ステラさんからアランが親分いなくて暴れているという情報を聞いたとき、アイリーンさんは即決でアランのところに私を戻していたしね。


 そう伝えると、パアアと明らかにアランの顔が明るくなった。そして、アランは思わず喜んでしまった自分に気づいて、ばつが悪そうに、眉をしかめてから必死に生意気そうな顔に戻して、


「まあ、別にいいけどね。お母様なんていなくても平気だし!」

 と、強がり始めた。


 明らかに強がってる。強がっていることを隠そうとしていない。いや隠そうとしてるのかもしれないが、ぜんぜん隠れていない。


 やだ、何この子。かわいい。あからさますぎる。

 おお、おお、そんなにお母様が恋しいかい。

 私が思わずニヤニヤしちゃったと思ったら、隣にいるカイン坊ちゃまもニヤニヤしている。カイン坊ちゃまがアランをかわいがる理由がわかってきた気がする。うん。



「なんだよ二人して! 変な顔して! なんだよ!」


 アランは顔を真っ赤にしていつもの調子で吼えている。カイン坊ちゃまがニヤニヤ顔のまま、興奮状態のアランをどうどうと落ち着かせていた。




 糸車が出来れば、きっとアイリーンさんと一緒に夕ご飯を食べる時間が普通になるはず。アランとカイン坊ちゃまが一番ほしい時間だ。


 前世の私が、どうしても、一番ほしかったものだ。




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