王宮暮らし編⑬ ゲスリー流デートのお誘い
私が住んでいる王族の女性居住区の実態がエッセルリケ様のハーレム王国になっていたとしても、本来は王様やゲスリー殿下のためのハーレム王国。
ゲスリーの来訪となれば、婚約者である私が応対するのが筋だ。
それを分かってるエッセルリケ様は、苦々しい顔つきで、
「殿下がきたのでしたら、貴女を引き止めておくわけにもいかないわね」
と不満そうに呟いて、私を解放してくれた。
まさか、ゲスリーの登場でこんなに嬉しい気分になるなんて……。
私は複雑な気持ちで、ゲスリーが待っている星の宮に向かった。
星の宮の中で一番豪華な客室にいくと、ゲスリーが優雅に足を組んでお茶を飲んでいる。
一体何の用できたのだろう。
行動が基本的に意味不明なゲスリーは、私が部屋に入ると一見爽やかに見える笑顔を向けてくれた。
向かい合う形でゲスリーの前のソファに座る。
「まさかヘンリー殿下が来てくださるなんて思いませんでした。私がこちらに越してから初めてですね。私はてっきり殿下は私の住まいをお忘れなのかと思ってました」
私はにっこり微笑んで嫌味を言うと、ゲスリーは口角を綺麗にあげて微笑んだ。
そんなゲスリーの唇を見て、思わずこの前の、キスされたときのことを思い出してしまった……。
そういえば最後に顔を合わせたのはあの婚約式以来だ。
微妙な気持ちで私がゲスリーの様子をうかがいながらお茶を飲もうとカップを持ちあげたところで、ゲスリーが腰を上げた。
「さて、いこうか」
え、行く?
目を丸くする私の前で、スタスタと歩いて部屋から出ていこうとするゲスリー。
なんか突然来たと思ったら、勝手にどっか行こうとしてる……。
アズールさんをはじめとした私の侍女達が戸惑っているじゃないか。
「どちらにいかれるのですか?」
侍女が扉を開くのを待っているゲスリーの背中にそう問いかけると、彼は振り返って「ひよこちゃんだけきてくれ」とだけ言って颯爽と部屋から出ていってしまった。
マジでなんなの、あいつ。
しかし、きてくれと言われて嫌ですとは言えない関係なので、私は渋々立ち上がってついていくことにした。もちろん、私だけといわれてるので、戸惑う侍女を残して。
突然やってきたと思ったら退出したゲスリーを追いかけると、とうとう女性住居エリアの外に出た。
ゲスリーが私だけとわざわざ言ったために、いつも私のそばを離れない侍女達もいないのだけど、ゲスリーがいつも引き連れてる美しすぎる近衛隊ですら一人もいない。
てっきり外で待たせているのかと思っていた。
私と二人でどこかいきたいところがあるのだろうか。
私は優雅な早歩きでゲスリーの隣に並んだ。
「殿下、どちらに行かれるのですか?」
「評議会だよ。アルベールから、ひよこちゃんが行きたがってると聞いたからね」
へー、評議会か。なるほどなるほど……ええ!?
「評議会ですか!?」
驚きのあまり声が大きくなった。
評議会って、あの評議会!? 私がいきたいなぁってアルベールさんに頼み込んでも参加できなかったあの評議会!?
先ほどエッセルリケ様に評議会を餌にハーレム入りを要求されてたあの評議会!?
私の驚きなんて全く気にしてない感じのゲスリーは、いつもの胡散臭い笑顔のまま「そう」と言って頷いた。
え、マジで!? マジでいっていいの!?
あ、でもたしかに、私調べだと今ってちょうど評議会の会議があるはずの時間帯……。
やばい、ドキドキしてきた。
いや、でも、私行けないってはっきり言われてるのに、行くのって……。
私は思い切って口を開く。
「しかし、殿下……その、私、アルベール様には参加するのは難しいと言われていたのですが……」
「だろうね」
なんか、私が恐る恐る尋ねたのに、めちゃくちゃ簡素に流されたんだけども?
「えっと、その私、勝手に参加してもいいのでしょうか?」
再びそう尋ねると、やっとゲスリーが私を見た。少し驚いているようにも見える。
「……普通、参加できないと言われているなら、参加できないのではないかな」
と真顔で言われた。
心なしか、勝手に参加しようとしている私に対してゲスリーが若干引いている気さえする。
いや、私だって、ダメって言われてるのに勝手に参加する気なんてないよ! だってゲスリーが評議会にいくっていうからさ!
なんてことだ。まさか、ゲスリーに正気を疑われるような目で見られる日が来ようとは!
あのゲスリーに『普通』を説かれたショックもあって、私はそのあと忌々しい気分で黙ってゲスリーさんの後をついていくことにした。
ゲスリーはそのまま評議会の会議が行われている部屋に直行、するわけではなく、よく知らない部屋に入ったかと思うと、ちょっとした隠し通路みたいな階段を登って、小さなカビ臭い部屋に私を連れてきた。
窓もなく陽が差し込まない部屋で、明かりはランプに灯った炎がひとつだけ。部屋の中は壁側に二人がけ用のテーブルとイスがあるぐらいで、ほとんど何もない部屋だ。
なにここ……。
まさか、ゲスリーに騙された……?
私が胡乱な目でゲスリーを見ていると、静かに空いているイスに腰掛けたゲスリーが、壁にある突起物をいじった。
すると、壁に横長の長方形の小さい窓がでてきて、声が聞こえてくる。
あれ、この声って、まさか……。
私は、ゲスリーが座っている方とは反対側の椅子に腰を下ろすと長方形の窓に目を近づけた。
小さな窓から見下ろすような形で隣の部屋の様子を覗くと、大きな円卓とその円卓に囲むように人が座っているのが見える。
その中には、先ほど聞こえた声の主、渋イケメンのアルベールさんの姿があった。
そして、ヴィクトリアさんに、エレーナ先生の上司であるイシュラムさんに……他にも知ってる顔がちらほら……。
この部屋、評議会の会議が行われてる部屋だ。そして、今私とゲスリーがいるのは覗き部屋みたいなもの……?
「この部屋って……」
「評議会の話をひっそりと聞くための隠し部屋、というところかな。参加するのが面倒な時に、ここにきて話だけ聴くことがある。まあ、話を聞くのですら面倒な時はここにもこないが」
というゲスリーの返答を聞いて、私は視線をゲスリーに移すとゲスリーと目があった。なんか、すごい笑顔だ。
え、なに、このゲスリーのニマニマしたような変な顔。何か企んでいるんじゃ……?
そう思った私は、また糞とかを仕掛けられてやしないかと、注意深くあたりを確認する。
特に何もなさそうだけど……。
再びゲスリーに視線を移すと、ゲスリーは未だに笑顔だ。
……あ、でも、これ、見たことある笑顔。牧場デートした時にヤギや豚さんに見せていた笑顔だ。家畜をかわいがる時の顔。
どうやら、今ゲスリーは家畜を可愛がっているところらしい。
婚約者である私が、家畜扱いしないで! って言ってるのに、家畜扱いしてくるゲスリーに一瞬イラッとしたが、しかし彼の家畜愛好精神ゆえに、ここに連れてきてくれたのだ。感謝しておこう。
「殿下。ありがとうございます」
それだけいってにっこり笑うと、私は再び視線を覗き窓に移した。
ゲスリーのニマニマ笑顔とか見てても面白くないしね。
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ありがとうございます!
web版からかなり変更しましてかなり面白く仕上がってますので、ぜひお手に取ってもらいたい……!
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今後ともよろしくお願いします!