王宮暮らし編⑪ まさかの再会 後編
転生少女の履歴書第7巻
11月30日発売ってことは、もしかして明日じゃないですか!?
地域によっては、今日にも本屋に並ぶかもしれません!
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そうだよね、あんな目立つ感じでキスしたんだから、アランに見られてた可能性も十分ある……。
私が知り合いにあのときのキスシーンを見られたことに対する気恥ずかしさで言葉が出ないでいると、それに気づかないアランが続けて口を開いた。
「その時に、俺も色々整理したつもりだったけど、やっぱり実際にリョウの顔を見るとダメだな。……俺は、おめでとうとは言えそうにない」
そう言って、アランは悪いと小さく言葉を続けた。
アランはどうにか口角を上げて笑顔を作ろうとしてるけれど、自嘲的な笑みっていうか、すごく辛そうにみえた。
今にも顔を背けたそうな感じなのに、私のことをまっすぐとみてくる。
アランの瞳がまじで恥ずかしくなるくらい真っ直ぐ私を見るものだから、なんか落ち着かなくなってきた。
私は今までどうやって、アランのあの瞳を見返していたんだっけ。
アランは、子分で、友達で、いつも側にいてくれて、私はいつもアランの前で、どんな顔してたっけ……。
アランと再会するのが久しぶりすぎて、なんだかそわそわする。くそ、アランのくせに……。
私は、これ以上視線を合わせることができそうになくて思わず顔を下に背けた。そして誤魔化すように口を開く。
「えっと、その、私と殿下の婚約のことは、ご存知の通り政略的なもので、期限付きだし、そう、アランの言う通りあまりおめでたいものではないですから、その、おめでとうとかは別に無理して言うものじゃないですし、だから、大丈夫っていうか……」
王都はおめでとうムード満載だけど、ルビーフォルンサイドの人達には大不評だし、私自身もおめでたいと思ってるわけじゃないし……だから、無理しておめでとうなんて言わなくてもいいことだ。
むしろ……。
「おめでとうって言わないでいてくれた方が、私は嬉しいというか……」
と、頭の中がまとまらないままそういうと、改めてアランの顔を伺った。
先程まっすぐ私のことを見ていたアランの瞳は、やっぱり変わらず私のことを見てた。
どうしよう。なんかよくわからないけど、頭が回らない。
アランと目を合わせつつ、私が真っ白な頭で石像のように固まっていると、アランが視線をさげてくれた。私は心底ホッとした。
ふーとホッとした勢いで思わず一息吐くと、
「殿下はリョウを手放さないと思う」
というアランの悲しそうな声が聞こえてきた。
「え……? いや、それはないと思いますけど」
なにせ、私との婚約を懲役扱いしてきた彼だよ?
手放すタイミングが来たら、ものすっごいノリノリな感じで手放す未来しか見えない……。
私が将来ノリノリで結婚破棄してくるゲスリーを想像して忌々しい気持ちになっていると、アランが顔を上げた。
「とりあえず、今日は、リョウに会えて嬉しかった。……俺はこれからしばらくおじいさまの手伝いで、城の中にいることもあるから、リョウにもまた会えるかもしれない。あ、もちろん、商会の仕事もちゃんとやってるからな」
そう言ったアランは、ニッと歯を見せて笑ってくれた。
なんだかいつもの元気なアランみたいな顔してる。でも、やっぱりいつもと違うようにも見える。
アランにまたこうやって会えるかもしれないというのは素直に嬉しいけれど、なんだか、変な感じだ。
「アラン、待たせた。リョウ嬢も、ラジャラス君と話しているところ横から割って入ってしまってすまなかったね」
少々そわそわしていると、アルベールさんの声が聞こえてきた。
声のした方を見れば右手を上げてアルベールさんがこちらに戻ってきているところだった。ラジャラスさんとの話し合いが終わったらしい。
アルベールさんの隣にはなんだか白けた顔で私を見ているラジャラスさんがたっている。
あいつ、アルベール様の前だと、めちゃくちゃ愛想よくしてたくせに……見てないとなるとあの表情になるのはどういうことだろうか。
「いえ、ラジャラス様とは挨拶をしていただけですから」
特に話が盛り上がってたわけじゃない。
ラジャラスは私の返事を聞いて小さく頷いた後、またあの媚び媚びな笑顔を貼り付けて、アルベール様にお辞儀をした。
「アルベール様、それでは私はここで。アルベール様からの頼まれごと、このラジャラスが確かに承りました」
媚び媚びで完璧な笑顔でラジャラスさんはそういうと去っていった。
あの人、予想以上に癖が強そうだ……。
「彼がいることで、随分と陛下の対応が楽になった」
と、アルベールさんが調子のいいラジャラスさんの背中を見送りながら、呟くようにそう言った。
私は顔を上げてアルベールさんを見あげる。
「ラジャラス様は、陛下のお気に入りだとか」
私がそう問いかけるとアルベールさんは頷いた。
「ああ、それはもう大層お気に入りだよ。……商人ギルドが政に財務顧問として加わったのも、彼の影響によるところが大きい」
そうでしょうね。私の殿下との婚約も彼の意見から始まりましたしね。
その影響力についてはすでに身をもって知ってる。そして、そんな影響力を持っているラジャラスさんは非魔法使い……。
「ですが敵も多そうです。非魔法使いの政治介入には否定的な方も多いでしょうし」
「そうだな。だが、彼はその中でもうまくやっている。彼は人の懐の中に入るのが得意なようだ」
あ、うん、先程彼の処世術のねっとり笑顔をみたよ。みんなあの笑顔にだまされているのだろうか……。
私の時は全然使わないことから察するに、あのねっとり笑顔は魔法使い様専用の笑顔だと思う。
「ところで、先程はラジャラス君とどのような話を? 挨拶だとは言っていたが」
とアルベールさんが尋ねてくれたので、これはいい機会だと思った私は口を開いた。
「評議会についてのことです。評議会のことを知りたいという話をしたら、私には必要がないと言われてしまいました。今までの歴史でも王族と婚姻を結んだ者が評議会員になることもあるようですが、やはり難しいことでしょうか?」
「いや、それほど難しいことではないと思うよ。リョウ君のいうとおり、実際に王族の妃が参加することは多い。中には正妃より下の妃が評議会の一員だった時代もある。だが、どなたも全て、魔法使いではあったな……。しかし、私は十分リョウ君には参加資格はあると思う。興味があるならば私の方で、すこしかけあってみよう」
「本当ですか!? 嬉しいです! ありがとうございます!」
さすがアルベール様! 素敵! 渋イケメンだけにとどまらず、中身も最高! さすがフォロリストキングカイン様のお爺様!
「私は、非魔法使いの政治介入は悪いものではないと思っている。だが、反発する者が多いのは確かだ。ラジャラス君はうまくやっているようだが、リョウ君もそのあたりのことは気をつけておいた方がいい」
分かっておりますとばかりに私は神妙に頷いた。
アルベールさんが懸念してる通り、非魔法使いが政治的な介入をすることをよく思ってない層は絶対にいる。
むしろ私がヘンリー殿下と婚約するのですら、反発している勢力もあるらしいし、私のことだけじゃなくて、非魔法使いのラジャラスさんが陛下のお気に入りということを嫌がる人だってもちろんいる。
ラジャラスさんのあの魔法使いに対する媚び媚びで魅惑的で完璧な微笑みは、必要以上の軋轢を回避するための自衛も兼ねてるのかもしれない。
しかし、私にラジャラスさんのような魅惑的な微笑みができるような気はしないので、私なりの対処を考えていかないとな……。
うーんと、少しばかり悩んで顔を上げると、アランと目があった。
「大丈夫だ。リョウにはお爺様も付いているし。俺もいる」
そう言って、アランが落ち着いた雰囲気をまといながら穏やかに笑う。
アラン……。
何か本当に、大人っぽくなったというか、雰囲気が変わった、ように思うのは私だけなのだろうか……。
「そうだな。何かあれば、すぐに相談してきてほしい。できる限りのことはさせてもらう」
私が思わずアランを見ていると、アルベールさんもそう言ってくれて、私はハッとして膝を軽く曲げて礼をすると感謝の言葉を述べた。
転生少女の履歴書7巻の明日発売です!
っていつものごとく後書きで宣伝しようと思っていたのですが、一瞬忘れてそのまま投稿してしまいました!!
書籍版もweb版も、いつも応援してくださって本当にありがとうございます……!
日頃の感謝を込めて、発売日当日あたりに、もう一話更新したい気持ち!









