閑話:僕の残念な友人※リッツ視点
ごぶ!ご無沙汰しております!
体調不良もあって、あまり書く時間を得られず……!
だって気温が寒くなったり暑くなったりするから……!
しかし重大なお知らせがありましたので、どうにか更新したくて閑話をあげることにしました。
そう、なんと、転生少女の履歴書の第6巻が6月30日(土)発売なのです!(テレーン)
もう今日じゃないか!
ということで、宣伝更新……!
楽しんでいただけたら幸いです。
時期的には、慰労祭のあたりの出来事です。
こちらの閑話は、もともと書籍に入れようかなと途中まで書いてたものなので、web版と比べてもしかしたら話の流れやキャラに違和感があるやも…一応修正してるので大丈夫だとは思いますがあったらすみません…!
そして貴重なリッツ閣下視点ですのでお気を付けください!
慰労会中は、大なり小なり様々な催しや祝宴が行われている。
今日は、アランにほぼ無理やり連れられてそのうちの一つに足を運んだ。
そこは商人ギルド関係の集まりで、商人を中心に商会で仕事をしている魔法使いも参加しているんだけど、正直僕らは完全に部外者だし、同じ年頃の人はあまりいなくて僕ら2人はかなり浮いている。辛い。
ただ、アランが言うには、この会場にはリョウ嬢がいるらしい。
だからこそ、部外者なのにここにやってきたわけだけど……。
「ねえ、リョウ嬢とはどこで待ち合わせしてるの?」
会場に入るなりキョロキョロとあたりを見渡しながら歩くアランにそう声をかける。
アランは僕の方は見ずに口を開いた。
「特に待ち合わせはしてない。これから探す」
「これから……? 一応確認だけど、リョウ嬢は僕らがここにくることは知ってるんだよね?」
「いや、知らない。別に言ってないからな」
え……。
「あの、それって、リョウ嬢に声もかけずに勝手に僕たちここにきてるってこと?」
僕たち完全に部外者なのに?
商人ギルドと関係ないのに?
僕の当然の疑問にアランは純粋な瞳で頷いた。
「そうなるな。だが、リョウがここにきているのは間違いない。ちゃんと知り合いのツテを使って調べた」
知り合いのツテを使って調べたってどう言う意味!?
リョウ嬢とは別に知らない仲じゃないんだから、最初からリョウ嬢に確認すればよくない!?
なんだか頭が痛くなってきた……。
げんなりする僕とは違って、アランはそわそわと嬉しそうに辺りを見渡してリョウ嬢を探している。
まあ、いいや。アランがそういう感じの奴だって、知ってたし……。
僕はそう自分の心をなだめていると、近くに僕らと近い年頃の女の子が目に入った。
グラスを片手に不安そうに辺りを見渡している。
同じ歳ぐらいの子なんて珍しい。家族が商人ギルドの関係者なのかな。心細そうに誰かを探している風だし、もしかしたら連れの人とはぐれたのかもしれない。
そんなことを思っていると、その子がすれ違う男性の肩にぶつかってバランスを崩してよろめいた「きゃ」と小さく響いた悲鳴。
今にも女の子が床に倒れてしまいそうだったところにアランが手を伸ばした。
「大丈夫か!?」
本当にいいところで彼女を支えたアランがそう声をかける。
「あ、ありがとうございます。私は、大丈夫です。その、貴方様が支えてくださいましたので……!」
と言って、顔を赤らめながらアランにお礼の言葉を伝える女の子。
これは……! 友人に訪れた突然の春の予感……!
しばらく二人のそんなやり取りを見つめていると、女の子が自分のドレスの裾を見てさっと顔を青ざめる。
「あ! ドレスに、染みが……。叔母さまからお借りしたものだったのにどうしましょう」
と今にも泣きそうな声で呟いた。
先ほどバランスを崩した際に、手にもっていた飲み物がドレスにかかってしまったようだ。
女の子のつぶやきを聞いたアランが、ドレスに目を落とす。
「ああ確かに、空色の綺麗なドレスに染みが……」
そう言ったアランは、ゆっくりと床に膝をついた。そして「失礼」と声をかけてからそのドレスの裾に軽く触れる。
そのまま呪文を唱えて、アランはドレスのシミを消してしまった。
おそらく水系の魔法なんだろうけれど、結構細かく魔法を使ってる感じでかなりの高等技術だった。
アランの魔法の腕は本当にすごい。
「良かった。うまくいった」
汚れの取れたドレスを確認したアランは、そうホッとしたように女の子に声をかけた。
なんかいつもよりも、アランがカッコいい感じがする。
女の子も突然の出来事に顔を真っ赤にさせてポーッとした顔をしてアランを見つめてるし。
アランって、結構罪作り……?
というか、アランはお兄さんの影響もあって、基本的には紳士だもんね。
なんだかんだ面倒見もいいし、学園でも下級生のファンが多い。
ただ、アランは何故か本命を前にすると……。
リョウ嬢を前にした時のアランの様子を思い出して、僕は何とも言えない気持ちになった。
その後、お礼をしたいとか言って女の子がアランの名前を聞き出そうとしてたけど、アランが別に大したことしてないからとか言って、女の子とはあっさりと別れた。
先ほどまで傍観者として事の成り行きを見ていた僕も、アランの後について行って横に並ぶ。
「アラン、やるね。さっきの子、アランのこと好きになったんじゃないの?」
と揶揄うと、アランがバカにしたような顔を僕に向けてきた。
「何いってるんだ、リッツ。あんな、ちょっと汚れとっただけで好きになるわけないだろ」
「いやいや、汚れをとったってことだけじゃなくてさ、その全体の流れというか、雰囲気というか、そういう感じの……」
「服の汚れをとっただけで、好きになってくれるんだったら、俺はこんなに苦労してない」
妙に実感の篭った声色でそう言うアランにはどこか哀愁が漂っている……。
思わず頷きそうになったけれど、いや、ちがうからね。
汚れをとるっていう行為のことじゃなくて、その全体の流れのスマートさが大事であって、と改めて説明しようかと思ったけれど、アランがとある場所を見て目を見開いた。
僕もアランの視線の先をたどると、なんと、リョウ嬢がいた。
髪の毛を上にまとめ、ところどころキラリと光る宝石を散りばめた白っぽいドレスを身につけたリョウ嬢が、周りの大人たちに混ざって歓談をしていた。
僕たちと同じ歳とは思えない落ち着きようだ……。
すごいな、リョウ嬢って。
なんていうか、綺麗だけど、こう、迫力があるっていうか、大人に混ざって商人としてすでに名を広めてるあたりとか、凄すぎて逆に怖いっていうか……。
「リ、リョウだ……」
そう呆けたように呟く声が聞こえたので、思わずアランの方を見た。
アランが、頬を染めてリョウ嬢を見ていた。
「ああ言う白っぽくてしゅっとしてるドレスも似合うな。白い芋虫みたいだ」
芋虫かぁ……。
「アラン、お願いだから本人の前で芋虫みたいとかは言わないようにね……」
「え? なんでだ?」
「大概の女の子は、喜ばないと思うからさ……」
「そうなのか」
なるほど、と神妙に頷いたアランの顔は至極真面目だった。
僕がそんなアランの将来の心配をしていると、アランがキラキラした目で僕の方を見た。
「周りの大人たちがいなくなったら、リョウのところに行こう」
そう嬉しそうにいうアラン。
本当に、僕の友人はリョウ嬢のことが好きなんだな、と改めて思った。
正直、アランとリョウ嬢が結ばれるなんて未来は、難しいと思う。
それはリョウ嬢の気持ちがどうこうという問題じゃなくて、魔術師で次期伯爵位を継ぐだろうアランと魔術師の家系ではないリョウ嬢との立場的な問題だ。
たとえアランがどんなに想っていたとしても……。
アランだってそのことはわかっているはずなのに、それでも諦めずに想い続けている。
そんなアランがすごいと思うし、そしてそういうところが少しだけ羨ましい。
「ん? どうしたんだ?」
アランが反応のない僕に心配そうに尋ねてきた。
「いや……」
なんでもないよ、と答えようかと思ったけれど、僕の中でちょっとしたいたずら心が芽生えた。
「アランって、リョウ嬢のどこが好きなの?」
と僕が聞いてみると、アランが目を見開く。
「は!? おま、リッツ、こんなところで、何言ってんだよ。好きって、それは、だって……」
と言ったアランが、ちょうど近くにきたウエイターから飲み物をもらって、それを勢いよく一口飲んだ。
そして、意を決したように口を開く。
「……全部好きだよ」
そう照れながら言うアランに衝撃を受けた。
甘酸っぱい!
なんか僕の方が恥ずかしくなってきた!
昔は、こういう話題をふると、リョウは妹みたいなものだからとかムキになって言ってたのに、こんなに素直になろうとは……。
大人になったんだね! アラン!
思わず感動を覚えていると、リョウ嬢の周りにいた人たちが散っていった。
あ、今なら、話しかけられそうだと思っていると、すでにアランは行動を起こしていた。
足早にリョウの方に向かってすでに声をかけている。
さすがアラン。
僕も大人しくアランの後ろを追いかけた。
「あれ、アラン、それにリッツ様もきていらっしゃったんですか?」
アランに声をかけられたリョウ嬢は、僕とアランを見て驚いたように目を見開いた。
というかどうしてきてるんだろうと不思議に思っているような顔をしてる……。
まあ、そうなるよね。
「はは、なんかアランに連れられて……」
と僕が言うと、リョウ嬢は同情の眼差しを僕に向けた。
「リッツ様、すみません。またアランの暇つぶしに付き合って頂いてるみたいで……」
とリョウ嬢が申し訳なさそうに謝った。
「ははは、まあ、もう慣れてるし、それなりに楽しいよ」
と答えると、リョウ嬢が小声で「さすがです閣下……」と呟いて頷いた。
リョウ嬢はたまに、閣下とか先生とかホトケとか言ってくるんだけど、彼女の中で僕って一体どういう立ち位置になってるんだろうか……。
「な、なあ、リョウ」
と、アランが少しそわそわした様子でリョウ嬢にそう言った。
「何ですか?」
「なんかドレスに汚れとか、付いてないか?」
「え? ドレスに汚れ?」
そういって、慌ててリョウ嬢が自分のきている服に目を向けた。
スカートの部分や背中のあたりを見て、汚れが付いていないのを確認すると、非難するような目でアランを見る。
「別に、ドレス汚れてないと思いますけど……? 汚れてます?」
訝しげにリョウ嬢がそういうと、アランが少しばかり落ち込んだ。
「いや、汚れてないなら、いいんだ」
「なら、どうして汚れのことを聞いてきたんですか? ち、ちなみにこのドレス、アイヴォリーって言って、もともと少し黄色味のある白いドレスなだけで、別に汚れて黄ばんでるわけじゃないですからね!?」
と、リョウ嬢が必死に言い募ると、アランが慌てて首を振った。
「あ、いや、別にそういうつもりで聞いたわけじゃない! ただ、リョウのドレスが汚れていたら、俺がその汚れをとりたかっただけで……」
「え? 汚れを、ですか?」
と答えながらも戸惑うリョウ嬢。
うん、気持ちわかるよ。
なぜ突然汚れを取ろうとしているのかっていう不思議さしかないよね。
だいたい、アラン、さっき汚れをとったぐらいで好きになるわけないって自分で言ってたじゃないか!
あとね、僕が言いたかったのは、汚れを取る行為自体に意味があるんじゃなくて、あの時のはそれまでの流れのスマートさがいいって話なんだけどね!
心なしかぼくに向かって恨めしい目をしてくるアランに思わずため息が漏れた。
なんていうか、アランって、ほかの女の子の時はちゃんとしてるのに、リョウ嬢の前になると、なんていうか、こう、残念な感じになるような気がする……。
「いや、本当になんでもないんだ。リョウの、その白っぽいドレスも似合ってる。白い……蚕みたいで!」
と、アランが慌てた様子で口にした。
蚕かぁ。さっきアランが言ってた白い芋虫を、ただ具体的な虫の名称に変えただけだよね……。
「蚕ですか……」
アランのドレスの褒め言葉になんとも微妙な表情で繰り返すリョウ嬢。
ごめん、リョウ嬢。
僕がもう少しちゃんと言っておけば……。
そのあとは3人でとりとめのない話をして、リョウ嬢が別の人に呼ばれたこともあって別れた。
別れるときのアランの寂しそうな顔といったら、捨てられた子犬みたいな顔だった。
「なあ、リッツ、やっぱりドレスの汚れなんかとったって、好きになってくれなそうだったぞ」
リョウ嬢と別れて壁際に移動すると、アランはそんなことを言った。
「いや、だからね、汚れを取ることが大事なんじゃなくて、それまでの所作というか、流れがいいって話なんだよ」
「流れ……? まずは、ドレスを汚すところからはじめるってことか? リッツ、お前ってやつはすごいことを考えるんだな」
「わざと汚そうなんて思ってないよ!」
見当違いなことを行ってくるアランに、僕はそう言ってため息をはいた。
僕の友人は、なんでこう、どこか残念なんだろう……。
まあ、でも、顔も家柄も性格もよくて、魔法使いとしても優秀で、女性の扱いもお手の物……そんな完璧な人間だったらこんな風に友人として一緒にいられなかったかもしれない。
少し残念な部分も含めてアランだし、それがなくなったらなんとなく寂しい思いをしてしまう気がする。
「おい、リッツ、なんで俺の顔を見てニヤついてるんだ?」
「いや、アランは面白いなって思って」
「人の顔見て面白いとか失礼なんじゃないか……」
そう不服そうに答えるアランにまた笑みが溢れた。
転生少女の履歴書第6巻が6月30日発売ということで、ここまで来れましたのも、本当に皆さまのおかげでございます!
ありがとうございます!感謝感謝の感謝の極みです!
アマゾンではとっくに予約が開始中、地域によっては昨日からお店に並んでいるかもしれません。
週末お出かけの予定があればぜひとも、本屋さんなどで転生少女の履歴書6巻を探してみてください!
真っ赤なお花を持った可愛すぎるリョウの表紙が目印です!
そして中には、リョウとアランが抱き合ってる(誇大表現)美麗イラストが……!
書籍版もweb版もどうぞ今後ともよろしくお願いします。