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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第四部 転生少女の独立期
223/304

国策制定編⑩ 巣立ちの時

 長いようで短かったような陛下との謁見……というか今回の騒動の裁判的なものが、終わった。


 城門に押し寄せたルビーフォルン商会の人たちを回収し、王国騎士に護送されて一旦バッシュさんがいる屋敷へと戻る。

 無事の再会を一通り喜び合ってから、事の顛末とこれからのお話をコウお母さんとバッシュさんに話すことにした。

 私が淡々とあの場で言われたことを話すと、コウお母さんの顔が険しくなった。

「それって、どういうこと……?」

 一緒にいたバッシュさんも、驚愕の表情で私を見ている。


「つまり、私、ヘンリー王弟殿下と婚約することになりました」

 できる限り心配をかけさせまいと、笑顔で言ったつもりだったけれど、どうしても顔が引きつる……。

 あの時のラジャラスさんの言葉を皮切りに始まった私とヘンリーの婚約は、あっさりとあのまま決まってしまった。私の拒否権はなかった……。


「リョウちゃんは、それで、いいの? 婚約って、しかも、ヘンリー殿下は……」

 心配そうに揺れるコウお母さんの瞳と目が合う。

 コウお母さんには、ヘンリーがゲスであることを話したことないけれど、人身紹介所にいるヘンリーをコウお母さんは私と一緒にみていたし、私が奴を苦手にしているのを知っている。


 心配してくれるコウお母さんの気持ちが嬉しくて、でも、悲しくて、そのままいつもみたいにコウお母さんの胸の中に飛び込んで、嫌だ嫌だって泣いてすがりつきたくなった。

 そうしたら、きっと、コウお母さんは、私を連れて逃げてくれる。

 遠くへ、一緒に逃げてくれる。私を守ろうとしてくれる。


 ……でも、だからこそ、ダメだ。そんなことできない。


 それに、私が逃げ出したら、親分の目論見通りに、ルビーフォルンと国とで争うことになると思う。

 それだけは嫌だ。

 だから、私は、一生懸命笑顔を作って頷いた。


「私は、平気です。むしろ、ありがたいぐらいですよ。まさかこんな形で権力を手に入れることができるとは思いませんでした。国策のことも、今まで以上に話を通しやすくなりますし、他にも色々できるかもしれません。ですから、せっかく手に入れた王族の婚約者の地位を使って、これまで以上に好き勝手するつもりです」

 うまく明るい声が出せたと思った。

 顔だって笑顔を作ってる。

 大丈夫。

 と、私はそう思っていたけれど、コウお母さんには通じなかったようだ。


「リョウちゃん、アタシの前でまでそんな顔をしなくていい」

 と言って、コウお母さんは泣きそうな顔をした。

 いつも優しいコウお母さんの言葉に、やっぱり子供みたいに泣きじゃくりたくなった。


 でも、ここで、私がそうしてしまったら、コウお母さんに甘えたら……。

 私は、小さく息を吐いて、改めてキュッと身を引き締めた。

 もう決めたのだ。

 私は、もう決めた。


「コウお母さん、私は、私はアレク親分の思い通りにさせたく無い。私、あの時、アレク親分達が煙幕を使って逃げていった時、気づきました。私には、覚悟が足りなかった。私は、親分をとめるつもりでした。親分と争っても、対立しても、私は親分のやろうとしていることは間違いだっていって、止めるつもりだったんです。でも……私はあの時少しだけ躊躇した。躊躇してしまった」


 そういいながら、あの時のことを思い出す。

 自らを犠牲にしても、あの時ルビーフォルンと国との間に亀裂を生み出そうとしたクワマルさん。そして、そのクワマルさんの言葉に応えて仲間を傷つける役目を無言で引き受けたガイさん。

 どちらにも、覚悟があった。

 覚悟があったからこそ、できたことだ。

 でも、私は、あの時躊躇してしまった。


 あの時、ルビーフォルンやグエンナーシスと王国との争いを避けるためには、私は迷うことなくクワマルさんとガイさんを捕らえて、国に引き渡すべきだった。

 でも、出来なかった。そんなことをしたら、これから彼らがどうなるのかを考えて、立ち止まってしまった。


 私と親分達の間に、覚悟の差がある限り、私は、親分達を止められない

 止めることができない。

 だから……。


「私は、親分達のやり方は、間違いだと思います。だから、次にまた親分と出会ったら、必ず親分達を止めてみせる。この婚姻は、私にとって覚悟の証です」


「リョウ、ちゃん……」

 戸惑うようにそう私の名を呼ぶコウお母さんに、私は笑顔を向けてから、バッシュさんに視線を移した。


「バッシュ様、私は、準備期間として、数日だけ猶予をもらいましたが、その準備期間が終われば王城に住まいを移します。婚約者としての教育を受ける必要があるみたいで……。そして、おそらく、王城に住めば、今までみたいに気軽に外には出られなくなると思います。ルビーフォルン商会での仕事も他の人に引き継ぎをする予定です。王都の仕事は、ジョシュア副会長にそのままお願いしますが、ルビーフォルン領にある商会のことは、バッシュ様に一旦采配をお任せします。……今まで、バッシュ様には本当にお世話になりました」

 私がそう言うと、バッシュさんは顔を歪めて俯いた。


「すまない、リョウ君……。私のせいだ。私が私怨に駆られることなく、アレクを止めることができていたならば……」

 そういうバッシュさんに私は首を横に振った。

「もうその件は、いいんです。私の生まれはヤマト領の開拓村ですが、私にとって故郷と言える場所は、ルビーフォルン領です。どうか、これからも私の故郷のことを、ルビーフォルン領のことをお願いします」

 私がそういうと、バッシュさんは、呆然とした顔で私をみて、口を二度三度と開きかけたが、最後に唇をかみしめて頷いた。


「分かった。これからは、ルビーフォルンの領主として、領民のために最善を尽くそう。もう、私怨にかられることはないと誓う」

 バッシュさんの迷いの無い言葉にホッとした。

 やっぱりルビーフォルン領には、バッシュさんが必要だもの。

 今のバッシュさんだったら、安心して託せる。


 そして、私は改めてコウお母さんに顔を向ける。


「あと、コウお母さんには、大事なお願いがあるんです」

 私がそう切り出すと、「お願い? 何?」と言って、コウお母さんが私の目を見た。


「自由に外を動けない私の代わりに親分の動向を探ってもらいたいんです。親分は、きっとまた、何か仕掛けてくると思います。今回の時みたいに、後手に回りたく無い。親分のことを見つけることができるのは、きっと親分のことをよく知っているコウお母さんしかいません」


「リョウちゃん……。そうね、確かにアレクのことはほっておけない。それは、分かる。分かるけれど、でも、リョウちゃんの側を離れなくちゃいけないじゃない!? リョウちゃんを王城に一人残すなんて……」

 と言って、コウお母さんが悲しそうに私の手を取った。

 その心配そうな瞳に、慈しむようにして触れるコウお母さんの手に、私は今も、今までもずっと救われてきた。


 そう、私はもうとっくに救われている。

 だから、私の手を握るコウお母さんの手を握り返した。


「コウお母さん、私の、お母さんになってくれて、ありがとうございました。コウお母さんがいつもそばにいてくれて、私は本当に幸せだった。コウお母さんが、そばにいてくれて、愛してくれて、だからこそ私は自分を見失わずに、信じて生きていけた。コウお母さんが、私を強くしてくれました。これから先も、コウお母さんが私のそばにいなくても、生きていけるぐらい強く。だから、私は大丈夫です。愛してます、コウお母さん」

 もう今までみたいにコウお母さんには気軽に会うことはできない。

 それはとても寂しくて、辛いけれど、でも、それを乗り越えるられるぐらい強く、コウお母さんは私を育ててくれた。

 愛してくれた。


 私の感謝と決意を聞いたコウお母さんは、目を見開いて固まる。

 そしてしばらくしてその目に涙を浮かべた。


「リョウぢゃん、やだもう、ぞんな今生の別れみだいなごど言わないでよぉ」

 と言って、コウお母さんが涙を流すものだから、私が一生懸命堪えていたものが噴出した。


「コ、コウおがあざんごぞ、泣がないでぐだざいよぉ……! ぜっかく、ぜっかく頑張って堪えてたのにー!」

 かっこよくお別れして、大人になった私を見せようと思ったのにー!

 ひしりとコウお母さんと私は抱き合って声を出して泣いた。

 ああ、もうこうやって、悲しいことや辛いことがあった時に、コウお母さんの胸の中で泣くことはこれからはなかなかできないのかもしれない。

 それが、無性に寂しい……。


 でも、私は、それでも決めたのだ。


「リョウちゃん、アレクのことはアタシに任せて。アタシもリョウちゃんのこと、愛してる。これから先もずっとよ。それだけは絶対に忘れないで」

 コウお母さんのその言葉に、ありがとうを込めて何度も頷いた。


 もう私は、大丈夫。

 どんなことでも乗り越えられる。

 それだけの強さを持っている。


 コウお母さんが私を愛してくれた。

 アランやシャルちゃんにカテリーナ嬢、サロメ嬢、リッツ君に、カイン様に、バッシュさんにトーマス先生に……もう数え切れない人たちとの出会いが、私を強くしてくれた。


 だから私は、これからも自分を信じて見失わずに生きていくことができる。 

 例え、コウお母さんやみんなと離れることになろうとも、自分らしく生きていける。


 寂しさで泣くのはこれが最後だと、そう思って流したその最後の涙が、コウお母さんの洋服に大きな染みを作っていた。





 転生少女の履歴書 第4部

 了






ということで第4部が終わりました。

ここまで、お付き合いくださって、本当にありがとうございます!

かなりの文字数でびっくりしますよね!


それにしても第4部、色々ありましたね!

特に最後のほうとか、色々ありましたね!(汗


はい、とりあえず謝っておきます、すみません!

リョウとヘンリー殿下との婚約ということで、これまでに無いほど後味の悪い終わり……そう感じてしまった方には、申し訳ないです……。

しかし、まあ、まだ5部に続くので、これで終わりでは無いので……震え


ということで、しばらくどんな風に5部を書いていくのか練りますので、次の更新まで間が空きます。

お待ちの間、良ければ、この前から投稿し始めた新作も読んでいただけると嬉しいです!

8万字ちょいでもう完結してます!


今後ともどうぞよろしくお願いしますー!



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― 新着の感想 ―
[一言] アラン報われねー(´・ω・)カワイソス
[気になる点] やはり、ゲスリーとの婚約には無理がある。 商人の10傑とは、いったい? 本を無くした学園は、どうなる? 魔法使いの中では、死刑と騒がれても仕方ないし。 そうなるべき。
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