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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第四部 転生少女の独立期

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国策制定編⑧ ルビーフォルン商会暴動裁判 前編

 先のウヨーリ教の騒動でのことで、私は早々に城に呼ばれた。


 陛下の前で、先の騒動の事情説明をするためだ。


 まあ、ほとんどの事情説明は、ここに来る前にしているんだけどね。

 今回騒動を起こしたルビーフォルン商会の従業員が、とあるデマに踊らされてあのような事件を起こしたってこと、

 そして、今回の騒動の裏には、グエンナーシス伯を退位にまで追い込んだ、反乱分子『剣聖の騎士団』の存在があること。



 もうその辺の重要なことは、事前に包み隠すところは隠しつつも、滑らかに話しており、その内容を踏まえて、これから私は陛下とも謁見するのだ。


 この急遽な謁見に陛下が時間を割くというのが、ことの問題の大きさを表していて、正直怖い。


 怖いけれど、やるしかない。


 私が、謁見の間で、膝をつき、頭を下げて待っていると、顔を上げて良いの言葉に顔をあげた。



 目の前の10m以上先には玉座に座った王。

 遠くない? あそこまで声を通すにはかなり声を張り上げねばならない気がする。


 そして陛下の隣には、ヴィクトリアさんの甥っ子と噂の綺麗な顔をした男の人が、床に片膝をついている。

 そしてその段差から降りたところに、位の高そうな立派な服を着た方々が立っていて、その中に、心配そうな顔のアルベールさんがいらっしゃった。


 よかった。

 アルベールさんはいてくれる。

 小心者の私は、ちょっとばかしホッとした。


「此度の、ルビーフォルン商会の商人が起こした城門での騒動に関して」


 と立派な服を着こんだ人の一人が話し始め、ルビーフォルン商会の従業員が城門前で暴動を起こしたという内容について話し、その簡単な説明を聞き終えた陛下が口を開いた。



「ふーん。ラジャラス、こやつが、城門前で騒いだ奴らの責任者なのか? 子供じゃないか。……ああ、あれか。これは、最近騒がれている勝利の小娘とかいうやつだな。そうだろう?」


 少し、間の抜けたような声で陛下が言うと、ラジャラスと呼ばれた綺麗な男の人が、魅惑の眼差しで微笑んだ。


「左様でございます。さすがのご明察でございますね、陛下。この少女こそ、陛下がおっしゃる通り約束された勝利の女神と呼ばれている商人でございます」


 甘ったるい声で、そうラジャラスが陛下に言うと、多分『さすがのご明察!』とか言われたのが、うれしかったのか、陛下は満足そうに頷いた。


 そしてその得意げな笑顔のまま私を見おろした。


「はは、こんな子供だとは驚いた。それで、なんでこんな騒ぎを起こした?」

 なんだか上機嫌な陛下に私は改めて頭を下げて事情を説明するため口を開く。


「はい、今回の城門前の諍いは、確かに私が会長を務めておりますルビーフォルン商会の者が起こしたものでございます。しかし、それはもともと、悪意ある者が流した偽りの情報が発端にあるのです」


「悪意あるものが流した、偽りの情報?」


「私が城に囚われ、殺されるかもしれないという嘘でございます」


「詳しく」

 と、周りにいた誰かが言ったので、私は頭を下げたまま事前に考えていた騒動の流れの作り話をいざ語らんと口を開けた。


「はい、先の騒動を抑えた後、詳しいことを商会の者に聞きましたところ、広められた嘘の内容は、施行したばかりの国策に反対する一部の貴族の方々が、私を陥れようとしているという恐ろしいものでございました。今回の国策の施行に関しては、アルベール様を筆頭に、聡明なる貴き方々のお力があってこそのもの。そのようなものあろうはずがないことは、私は分かっておりますが、商会の一部の者がその偽情報を信じてしまったのでございます。と言いますのも、その情報を流した者は卑怯にも、私の血だと言って、血のついた草花をルビーフォルン商会の者に見せつけました。それを見て、商会の者達が私の身が危ないと思い込み、私を助けようとしてあのような事態に……」


 私はそこまでいうと、思わず涙こぼれそう、みたいな悲痛な感じで顔を上げた。


「ルビーフォルン商会の者が大変愚かなことをしたことは承知しております。しかし、全ては彼らの善良さが招いた不幸な事故。いいえ、何者かに唆されて行われた彼らも被害者なのです。そして、目の行き届かなかった私の責任でもございます」


 可憐な少女の仮面をかぶって、そう改めて訴えかけると、周りから多少同情するような視線が向けられてくるのが分かった。

 よし、これは、行ける。


 特に、私に同情的な目を向けてくれていたアルベールさんが、床に膝をつくと、凛々しく王様に向かって顔をあげた。


「彼女の話は間違い無いでしょう。現場での話とも一致しております。騒動を起こした者達は、城門前に集まると、『あの方を侮辱する行為は許さない』などといった言葉が多数叫ばれていたようです。……それに、これは、彼女の言う通り、何者かに故意に仕組まれた罠といってもいいものです」


 さすがのアルベールさんが、私が最も陛下に言って欲しかった説明第1位を早々におっしゃってくれた!


 今回の騒動を何者かの手引きで行われた悲しい事件という印象を、城の人達に思わせて、罪のありかを私から遠ざけたい。

 というか、王都の英雄扱いされてる私は、国としても罪に問いにくいはずだ。


 何者かの手引きという理由があれば、不問にしてくれる可能性は大きい。


 というか、実際、親分達の仕組んだ事件でもあるしね。

 あの時親分の姿をみた人は少なからずいるわけだし、説得力はある。


「何者かに仕組まれた罠か、ふーん。それが、このような小さな諍いに余を引っ張り出してきた理由か?」


 思いの他に順調に話がすすむので、内心エキサイトしていると、陛下がやる気なさそうにそう言った。

 陛下的には、こんなところに急遽引っ張り出されたことはどうやら不服らしい。


 アルベールさんの隣にいた、なんだか貴族にしては、たくましい腕っ節を持つ男の人が、膝をついた。


「その場に居合わせた衛兵の話によりますと、その現場に、怪しげな煙を使い、逃げおおせた者がいたという報告が上がっております。今回の事件を引き起こしたのは、間違いなくそれらかと。そして、それらはグエンナーシス卿を退位に追いやった反乱分子の者達である可能性が高いと思われます。危険思想家アレクサンダーの姿と似たような人物がいたとの報告もあります故」


 どうやら騎士の統括をしている人がそう言うと、ざわざわと謁見の間が少し騒がしくなった。


 親分て、ちょっと悪名で広まってる感はあったけれど、こんな風に貴族の人たちにざわざわさせるほどの有名な悪党だったのか……。


 なんて思っていると、先ほどまで呑気にしていた王様の様子が変わった。


「危険思想家……? なんだ、奴らはグエンナーシス領にいるんじゃないのか!? 王都にいるのか!? 殺せ! 殺せ殺せ! 余の安全を危める者は全員殺せ!」


 そう喚き倒して荒ぶる王様に目が点になった。

 なんていうか、異常な感じの喚き方だ。


 王様……結構ヤバい人かもしれない。


 そんな荒ぶる陛下の手を、ラジャラスさんがぎゅっと両手で握り込んだ。


 そして、甘くとろけるような笑顔を陛下に向けると、先ほどまで荒ぶっていた陛下が「ラジャラス……」と小さく呟いた。


「陛下、ご安心ください。陛下に危害を加えようとするような愚かな者には、必ず罰がくだりましょう。陛下を傷つけられる者など、この世のどこにもおりません」


 ねっとりとした口調でラジャラスがそう言うと、陛下が幾分落ち着いたのか「そうだ。そうだな」と言って、ゆっくりと玉座に座り直した。


 今では先ほどの荒ぶりようが嘘みたいにスンとした顔で座っていらっしゃる。


 王様のテンションの上がり下がりが凄まじい。


 思わずアルベールさんの方をちらりと目線だけで見ると、疲れたように息を吐いていた。

 他の周りの人の反応を見る限り、こういうのは日常茶飯事的な感じなのかもしれない。


「しかし、なぜ、グエンナーシスの反乱分子が、そのようなことを行う? わざわざ商人なんぞを先導して、城門前で少しばかり騒がせようとした理由はなんだ?」


 陛下がそのスンとしたお澄まし顔でそう尋ねられたので、改めて私は口を開いた。


「おそらくではございますが、国に忠誠を誓うルビーフォルンを国から引き剝がしたいがためかと。私も含め、商会の者達のほとんどがルビーフォルン領の者です。ご存知のとおりルビーフォルン領はグエンナーシスの隣の領地。愚かにも、偉大なる陛下が治めるこの王国に対して刃を向けております反乱分子は、ルビーフォルンと国との間に亀裂をつくり、その混乱に乗じてルビーフォルン領を乗っ取るつもりだったのではないかと……」


 私がそう答えると、王の周りにいた人達が、さもありなんみたいな顔して頷いていて、その中でさっきの騎士の統括っぽい強そうな男の人が口を開いた。


「これから、我が率いる魔法騎士団がグエンナーシス領に向かうとなれば、反乱分子の奴らの命は風前の灯。彼らは新たな拠点先としてルビーフォルンに目を向けたということか。もしくは、グエンナーシス領とルビーフォルン両領地を手中に収めようとしている可能性もある」


 そう私の言葉をまとめてくれると、突然、陛下が勢いよく立ち上がった。


「クソゴミどもめがぁあああ! バカめバカめバカめ! いいか、グリードニヒ! 必ずやアレキサンダーを殺せ! いいな! 首だけ持ち帰ってこい! 首だけだ!」


 陛下が唾を飛ばしながらそう、気が狂ったように叫んだ。


 こ、こわ……。

 またどうやら激昂モードに入られたようだ。

 他の人たちは、この王様のテンションの上がり下がりには慣れているようで、グリードニヒと呼ばれた体躯のいい男が「はっ」と冷静に敬礼を返した。


 そして、それで気が済んだのか、またスンとした顔に戻って玉座に座る陛下。


 本当に、このテンション王、怖いんだけど。


 と内心、私が怯えていると、今回の騒動に係わった者たち、つまり私率いるルビーフォルン商会の処罰の話になった。


 最大の罪人を現在逃亡中のアレク親分になすりつけることには成功したけれど、だからといって、騒いだ私達ルビーフォルン商会の罪が無くなるなんてことはない。


 それは予想していたし、当然だ。


 どういう罰が妥当かという話し合いを、陛下ではなくてその周りの側近の中の人たちが意見を言い合っているけれど、今のところ、一定期間の商会活動の停止、または罰金などの話が有力のようだ。


 よかった。これぐらいで済みそうで、ホッとした。

 予想よりも、早めに丸く収めることができた。


 と、思いつつ顔を伏せて沙汰を待っていると、深刻そうな声で「危険ではないか?」と、話し合いをしている側近の誰かが呟いた。


 私が嫌な予感を感じていると、その人はさらに言葉を続けた。


「非魔法使いが、王国の象徴とも言える城に、暴徒同然で乗り込もうとしたのだぞ。非魔法使い一人のためにだ」


 その人はキリッとした声で、私が一番触れてほしくないところへ切り込んできた。



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