国策制定編③ 国策制定パーティーにて
本日、とうとう国中の人に改めて国策が制定されたことが宣言された。
そう、ウヨーリ教の知識をもとにした国策が制定されましたよっていうことが周知された記念すべき日!
本日はそれを記念して、アランやカテリーナ嬢含む商会のみんなや、内輪の関係者を呼んで小さなパーティーを開くことにした。
だって、結構神経すり減らした案件だったから、それが一旦区切りがついたということで、気軽な人達だけでパーッと騒ぎたかったのだ。
だから本当に超内輪のパーティーだけど、国の偉い人代表としてアルベール様はお呼びしている。
なにせ、ここまでスムーズに行ったのは、何を隠そうアルベール様のおかげですよ。マジで。
と、これまでのことを振り返りながら、改めてアルベールさんに感謝を捧げていると、バッシュさんが挨拶にきてくれた。
「リョウ君、新しい国策の制定、おめでとう。まさか、本当にここまでのことをしてしまうとはね」
「バッシュ様! ありがとうございます! バッシュ様のご支援があってこそです。本当に……」
とバッシュさんに答えながら、少し昔のことを思い出していた。
アレク親分と別れて、バッシュさんのところにきたこと。
そしてそれからのこと。
少し前まで、バッシュさんの不穏な動きに怯えていたけれど、バッシュさんは今回の国策制定に関しても協力的だった。
バッシュさんは、親分が動けば、親分に力を貸すかもしれないと思っていたけれど……私の考えすぎだったのかも。
「私の支援? 私は何もしていないよ。君が、君の力でここまでのことを成し遂げたんだ」
バッシュさんの言葉に私は首を振った。
「いいえ、私一人で行えたものではありません。それに、私、ルビーフォルンで好き勝手させてもらいました。それを許してくださって、応援してくださったのはバッシュ様です。親分に拾われて、バッシュ様のところに預けられて……本当に、良かった」
そう返した声が、なんだか泣きそうになって少しばかり震えた。
タゴサクという頭の痛い問題もあったけれど、本当に、バッシュさんのところに来られて良かった。
学園に通わせてもらって、友達ができて……。
それに、頭の痛い問題だったタゴサク教についても、今回の国策制定で、ようやくどうにかする糸口が見えたし、タゴサクは私が手中に収めている。
この会場にはいないけれど、地下の部屋で今頃は、国策制定パーティーをタゴサク教徒の皆と祝っている。
タゴサクさんに意見をもらったりして、ここまでこぎつけたところもあるので、この会場に呼んであげたかったけれど、でも……あいつらのことだからね。
いつ不意に五体投地してくるかもしれないし、うん。
リスクはできる限り避けるべきである。
「リョウ君にそう言ってもらえると、私も嬉しいよ。アレクが、君を私の元に連れてきてくれたあの瞬間のことは今でも忘れていない。……こんな小さな少女が、タゴサク先生のいう天上の御使様だったとはと、思ってね」
と言ってバッシュさんが、面白そうに笑う。
「もう、バッシュさん、その話はしないでください。あの時タゴサクさんに天上のなんとか扱いされたことは私の中の悪夢の1つなんですから……」
「ハハハ。でも、本当に、君にもアレクにも感謝している。リョウ君がいなければ、今のルビーフォルンはなかった」
と言ったバッシュさんが、優しげな眼差しを私に向けた。
なんだか気恥ずかしい。
私は手元のグラスを口に運んで唇を湿らすと、話題を変えるために口を開いた。
「そういえば、グローリア様は、ルビーフォルン領へ帰られたのですよね? バッシュ様は、もうしばらく王都にいらっしゃるのですか?」
グローリア様は、先日ルビーフォルンへ帰るために王都を出発された。
もう慰労会も終わって、王都にいる意味もないし、あまり伯爵不在というのもよくないからと言って、奥様だけ戻られたのだ。
「私も、そろそろルビーフォルンに帰ろうと思っている。……無事、あの国策が制定された瞬間を見届けることができたしね」
「そうですか。バッシュ様も、戻られるのですね。なんだか、寂しくなります」
私は、商会も立ち上げたし、国策制定のその後についてもアルベールさんと話し合う予定だから、しばらく王都で暮らす予定だ。
今のところルビーフォルンに戻る目処もたってない。でも、いつか、帰りたいな。
コウお母さんと一緒に……と思ったら、最近ちょっとばかし気になってることを思い出した。
コウお母さんは、私が王都にいる間は、王都にいると言ってくれてはいるけれど、なんか最近様子がおかしいんだよね。
だって、王都来てから始めていた薬屋さんを、なんとやめたのだ。閉店したのである。
美容部門を私の商会で引き継ぎ、薬部門をグレイさんに引き継がせと、なんだかお片づけモードっていうか……。
バッシュさん何か聞いてないかな。
「バッシュ様、あの、一つお伺いしたいことがありまして、コウお母さんのことなのですが……。コウお母さんから何か聞いていたりしますか? その、一人でルビーフォルンに帰るつもりだとか、そういう感じの……」
と、なんかまるで、こっそり浮気調査でもしてるような気持ちになって、どもりながらそう尋ねると、バッシュさんは、首をひねった。
「コーキから? いや、なにも聞いていないな。私はてっきりこれからもリョウ君と一緒に、王都にいるものだと思っていたが……?」
とバッシュさんは答えてくれた。
あ、やっぱりなにも聞いてないか。
そうだよね。私の気にしすぎ、かな……。
「そうですか。それなら、いいんです。すみません、変なことを聞いてしまって」
「いや、構わないよ。むしろ今後も、もし、他にも気になることや、困ったことがあれば遠慮なく相談してほしい。私は本当に、リョウ君には、感謝をしているんだ。本当に。感謝しきれないほどに。だから、君の要望にはどんなことでも応えるつもりだ。……もしリョウ君が、私の死を願うなら、私は死んでもいい」
突然、バッシュさんがそんなことを言うものだから目を見開いた。
「え、いや、バッシュ様、なんてこというんですか……!」
死んでもいいって! そんなの願わないよ!
というか、場合によっては愛の告白みたいな文言にも聞こえるし! ドギマギする!
私の動揺をみて、バッシュさんがまた少しおかしそうに笑う。
「そのぐらい、君には感謝しているということだよ。ハハ、しかし、慣れないことを言うものじゃないね。リョウ君の彼に警戒されてしまったようだ」
とバッシュさんが言って意味有りげな視線で私の隣を見るものだから、私もそちらに視線を写すと、いつのまにかアランがいた。
さすがアラン。学園を卒業しても、その忍びスキルに衰えはない。
「アラン、そんな怖い顔してどうしたんですか?」
「べ、別に、怖い顔なんてしていない」
とか言うけど、なんかめちゃめちゃ機嫌悪そうだよね!?
「今日のパーティーの主役を独り占めしすぎたようだ。それでは、リョウ君、楽しんでおいで」
バッシュさんはそう言うものだから、改めてお礼を言って軽やかに別れた。
そして隣に忍び寄るアランに目を向ける。
「それで、アラン、何か用があるんですか?」
「え、いや、その、ほら、商会の奴らで、あっちで固まってて、それで、リョウを呼んでこようと思って」
とあたふたしているアランに促される形で会場のとある方向を見ると、カテリーナ嬢達が揃っていて、こちらに手を振っている。
先日採用した学園を卒業したばかりのルビーフォルン商会の新人のみんなで固まっているようだ。
あ、一緒にコウお母さんもいる!
よし、私もみんなのところに行こう。
今日の私は久しぶりにはっちゃけたい気分なのだ。
そうして、私は、アランと一緒にみんなの元に向かい、長い夜を楽しんだのだった。