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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第四部 転生少女の独立期
214/304

国策制定編① 卒業後、ルビーフォルン商会にて 前編

 先日学園の卒業式が行われ、私達は、無事に学園を卒業して、大人への第一歩を踏み出すことになった。


 卒業式後、速やかに領地を返還したグエンナーシス卿は、領地内の反乱を抑えられなかった罪を認める形で、国へと身を寄せたことになっている。


 王位簒奪という後ろ暗いことを考えていたこともあるグエンナーシス卿だったけれども、そのことは明るみにならずに、伯爵として領地の安定を図れなかった罪で、王城の離れに幽閉されるだけにとどまった。


 そして、グエンナーシス領にいる不穏分子を捕らえるため、お城の魔法使いが率いる魔法騎士団とかいう制圧軍が結成されることになり、いつの間にかカテリーナ嬢の護衛として側にいた騎士の人達は姿を消した。


 サロメ嬢はそのまま王都に残ったけれど、サロメ嬢にも忽然と姿を消した騎士団員の行方にはまったく見当がつかないらしい。


 そして、あまりにも急なことで新しいグエンナーシス領の領主は決まっていないため、グエンナーシス領はしばらく王族直轄の領地になる。


 噂では、救世の魔典を燃やした罪として、ヘンリー殿下が王国の最南端のグエンナーシス領に飛ばされるのではという噂が流れているけれど……。


「リョウさん! この量のガラス瓶を作るのに今日中だなんて、無理よ!」


 私が、ルビーフォルン商会の執務室でグエンナーシス領の今後のことを考えていると、カテリーナ嬢がものすごい勢いで扉を開け放って入ってきた。

 後ろには申し訳無さそうにしているサロメ嬢が続く。


 どうやらカテリーナ嬢がフンスフンスと鼻息を荒くして、私に仕事量の直談判をしにきたようだ。


 学園卒業後のカテリーナ嬢たちは、グエンナーシス卿の思いもあり、ルビーフォルン商会に身を置くことになった。


 カテリーナ嬢だけでなく、グエンナーシス領にいた他の生徒達や一部の人たちもうちの商会に流れ込んできた。

 特に学園の生徒達の数が多い。


 シャルちゃんも来てくれたし、もちろんサロメ嬢もいる。

 学園で教養を学んでいる生徒達は、計算もできるし、文字の読み書きだってお手の物。とっても優秀な方々が我が商会にきてくれて、頼もしすぎる。


 人手や時間がなくて出来なかったアレヤコレヤをこの勢いで、着手する心算である!


 ちなみに、カテリーナ嬢はグエンナーシス卿が伯爵位を返上したので、もうカテリーナ=グエンナーシスではない。しかし、魔法使いである彼女は、変わらずこの国では貴族なので、今は新たに魔法爵名を名乗っている。


 現在のカテリーナ嬢の名前は、『カテリーナ=ニカゼ』だ。


 グエンナーシス卿が、領地を返還した後のカテリーナ嬢は、やっぱりショックで落ち込んでいた。でも、今はいつものツンデレカテリーナ嬢の元気を取り戻し始めている。

 側にはサロメ嬢がいてくれるしね。


 それに、領地返還で戸惑っていたのはカテリーナ嬢だけじゃなくて、グエンナーシス領出身の他の生徒達にとってもショックな事件で、カテリーナ嬢はそんな彼らを元気づけるためにも、ずっとショックを受けて落ち込んでいる場合ではないと思ったらしい。


 本当に、カテリーナ嬢って、責任感が強いというか、面倒見がいいというか。


 自分だってショックなはずなのに、周りの子達のために、自分の悩みを吹っ切っちゃうとか、カッコいいよね。


 ……カテリーナ嬢が、もしあのまま順当にグエンナーシスの伯爵位を継いでいたら、きっといい領主になっただろうな。


「って、リョウさん、私の話聞いてるの!?」

 私が、鼻息の荒いカテリーナ嬢を見て、元気になって良かった良かったなんて思っていたらカテリーナ嬢に凄まれた。


「あ、すみません、ちょっとぼーっとしちゃってました」

 と言って、テヘペロすると、カテリーナ嬢が「だいたい、こんなにどうしてガラス瓶が必要なのよ? 今までどうやってたのかしら……」とブツブツ呟いて、必要な瓶の数や形の説明が書かれた紙を嫌そうににらんだ。


 ガラス瓶の製造が追いつかなそうなので、カテリーナ嬢にも作ってもらおうとしていたのだけど、正直カテリーナ嬢がどこまでやれてどこまでやれないのかが、全くわからなくて、とりあえずアラン基準で考えてお願いしちゃったけど、やっぱ多かったよね。


「今までは、レインフォレスト領に頼んで作ってもらっていたんです。それと、アランにも、たまに手伝ってもらってました。でも、最近、王都で作れるお酒の量が増えて、このままだと……」


 と説明しているところで、扉にノックの音がして「リョウ様、今よろしいですか?」と鈴を転がすような可愛らしい声が響く。


「どうぞ」と私が、声をかけると、シャルちゃんが、可愛く顔を出しておずおずと執務室に入ってきた。

 王都でのお酒生産増量に最も貢献しているシャルちゃんの登場である。


「どうかしたのですか?」


「あの、今日作る分がもう終わったので、他にもお手伝いできることがないかなって思って」


「ええ!? もう終わったのですか!? あの量を!?」

 シャルちゃんの言葉に思わずそう声をあげると、シャルちゃんが笑顔で頷いた。

 いやだって、そんなすぐ終わる量じゃなかったはず……。


 シャルちゃんの腐死精霊使いとしてのレベルが高すぎてヤバイ。


 前々から、そんな気がしてたけれど、ルビーフォルンに来てくれた腐死精霊使いの人達と比べると、その力の差が歴然で……。

 学園卒業後、シャルちゃんがルビーフォルン商会に来てからというもの、王都でのお酒の生産量がやばいことになっている。


 またお酒造りのもとになるものをたくさん仕入れなければ。

 そして、作ったお酒を入れる瓶も……。


「シャルちゃん、すごい、本当に。で、では、後で、出来上がりを確認しにいきますね。でも、他に手伝ってほしいことが、今のところはなくて……」


 しいて言えば、瓶を作りたいけれど、シャルちゃんは土魔法が使えないから無理な相談だ。


 でもこうなるとますますガラス瓶が足りなさそう。

 通常お酒は樽のまま卸しているんだけど、貴族層向けには、綺麗なガラス瓶にお酒をいれた状態で売っている。

 中身は一緒のお酒なのに、綺麗な瓶にいれただけでかなりお高い値段設定にしているのだが、それでも貴族の方からは大人気で、作れば売れるという私としてはとってもありがたい商品。


 ガラス瓶の生産性を上げるためには、他の魔法使いの力を借りるべきかな?

 アランがいてくれたら、アランに頼めたんだけど、でも、アランは、アイリーン様と一緒にレインフォレスト領に帰っちゃったし。


「アラン……」

 私がしみじみと子分の大切さに思いをはせて呟くと、その呟きにカテリーナ嬢が反応した。


「アラン……? アラン様ができて私ができないからって、べ、べ、べ、別に私が劣ってるわけじゃないんだからね! ただ、私、その、土魔法はあんまり得意じゃないってだけなんだからね!」

 と言ってカテリーナ嬢がさらに鼻息を荒くして、ツンの強いツンデレで物申してきた。


 学園を卒業後も彼らの魔法使いとしてのライバル関係は継続しているようだ。


 それにしても、そっか、人によって得意不得意があるんだよね。

 カテリーナ嬢は確か、風魔法が得意だと聞いたことがある。

 風魔法……風力か……。


 あれ、これ、設備さえ整えば、結構使える力なんじゃないだろうか……。


「そういえば確か、カテリーナ様って、風魔法が」

 得意でしたよね? って聞こうと思ったら、ガシャンガシャンガシャンとガラスが揺れる音が聞こえてきた。


 え、何この音? と思っていると、ガラス瓶が詰められた木箱を台車に乗せて、わざわざこの部屋に運びこんできた男がいた。


 彼は、自慢げにガラス瓶の入った木箱に手を置くと、「カテリーナ、これぐらいの仕事もできないのか?」と言い放った。


 そう、彼の名は、アラン。私の子分である。

 アランがガラス瓶を大量作製してこちらに持ってきてくれたようだ。


 ていうか、アラン、なんでここにいるの!?


 学園を卒業して、レインフォレストに帰ったんじゃないの!?


 この前、慰労会のために王都に滞在していたアイリーン様がレインフォレストに帰ると聞いて、送迎パーティーのようなものに参加してお別れをした。


 それでてっきりアランも一緒にレインフォレストに帰るのかと思っていたのだけど……。


 と驚いているとカテリーナ嬢が悔しそうに地団駄を踏む。


「あらなに!? それって、この私があなたに負けているとおっしゃりたいわけ!? だいたい土魔法はあなたの得意分野じゃない! ああ、もう嫌な男! 違う魔法で勝負なさい!」


「いいだろう。言っとくが、俺は勝負ごとに関しては、相手が女でも容赦しないからな」


 と言って、カテリーナ嬢とアランがなにやらにらみ合いを始めたんだけど、ちょっと待って。ねえ、まって。


「な、なんで、アラン、いるんですか? 領地に帰ったんじゃ……」


「帰るなんて言ってないだろう。俺もしばらくはリョウの商会で働くから」


 ……え?

 いや、採用した覚えないんですけど!

 なに勝手に働く気でいるの!? こわ! この就活生こわ!


 だいたい……。


「アラン、自分で何を言ってるのかわかっているんですか? 私の商会で働くって、商会所属の魔法使いになりたいってこと、ですか?」

 私がそう尋ねるとアランが当然のように頷いた。


「できればそうしたい」

 いや、落ち着こう、アラン、よく考えるんだ。


「アランは、次期伯爵、アイリーン様の後継者です。領地に帰って、後継者としての教育を受けるのでしょう?」


 卒業式の日に、アイリーン様は、アランには領地に戻ってもらって、後継者として教育をさせるって聞いていた。

 だから、アランとは、学園を卒業したら、悲しいけれどしばらくはお別れだねなんて思って、寂しくなっていたというのに!


「別に後継者としての勉強というのなら、王都でもできる。問題ない」


「いや、問題ないことないですよ。アイリーン様はご存知なんですか? アイリーン奥様が、アランが商会所属の魔法使いになることをお許しになるようには思えないんですけど」


「お母様とは残念ながら意見が合わなかった。それは仕方ない」


 いやいや、仕方なくないよ!

 それによって、私、絶対にアイリーン奥様に睨まれるよね!?

 アランを商会所属の魔法使いになんかしたら、アイリーン奥様の怒りの矛先が向くよね!?


 レインフォレスト領とはこれからも良い関係でいさせてください!


「アイリーン様の許可がないとなると……」


「でも、俺、このまま領地には帰りたくない。このまま、このまま何の進展のないままじゃ、帰れない!」

 と言って鋭い視線で私を見てきた。

 本気だ。彼は、本気だ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] シャルちゃん、超優秀!! [気になる点] アランがストーカーすぎてヤバい
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