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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第四部 転生少女の独立期
211/304

慰労会編⑩ 狙われた魔典

 カテリーナ嬢が図書館の塔に向かって駆けだしたのを見て、私達も慌ててそのまま追いかけた。


 駆けながら爆音のした塔の最上階を見る。暗くて良く見えないけれど、焦げた匂いがここまで漂ってくる。

 本当に、グエンナーシス卿が、魔典を奪いに来た……?

 もし、このまま、救世の魔典がグエンナーシス卿のものになったら……。


 ぐちゃぐちゃと息の詰まりそうなことを考えながらも、図書館の建物に入り、中の階段を急いで駆けあがると、一旦広い部屋に出た。

 ここはいつも私達が勉強したり一般的な本を読むのに使うフロア。

 そこからさらに、奥に進んで、最上階へ続く階段のある場所へと進む。


 そして息を切らしながらもたどり着いた場所には、大きな扉が無防備な状態で開かれていた。

 魔法に守られ、固く閉じているはずの扉が、開いている。


 そしてその開かれた扉の先にさらに階段が見えた。

 この階段が救世の魔典が保管されている場所に続く、長い螺旋階段。


 非魔法使いである私が、本来なら絶対に入れない場所……。


 予想外の光景に思わず立ち止まった私達の中で、カテリーナ嬢が飛び出すようにかけていった。


「カテリーナ! 待って!」

 そう声をかけてサロメ嬢が追いかけていって、私やアラン達も後に続いた。


 以前、救世の魔典を見てみたいと思っていたあの時は、この扉の先でさえ入れなかった。

 扉自体に、魔法が仕掛けられ、魔法使いでないと通れないはずのこの螺旋階段。


「し、信じられない……! 階段の妨害魔法まで、ハア、解かれている……!」

 走りながらアランがそんなことを嘆いた。

 妨害魔法……?

 そういえば、昔、アランから、この螺旋階段にも非魔法使いが登れないような強力な妨害魔法が施されていると聞いたことがある。

 ちまたですごい魔法使いと言われているアランでさえも解けないぐらい強力な魔法のはず。

 でも、今、非魔法使いである私もサロメ嬢も、カテリーナ嬢の背中を追いかけて登ることができている。


 確かに、この螺旋階段には、なんというか、登り辛さのようなものを感じる。

 踏み込むたびに違和感がある。

 だけど、ちゃんと階段を昇れているので、妨害するための魔法の効果が弱まっている、のだと思う。

 ここに侵入した何者かが、何かしらの手を使って、昔からの強力な結界と呼ばれたものを破ったのだ。


 本当に、グエンナーシス卿が魔典を奪うつもりで……?

 もし、このまま駆け上がって、その場所にグエンナーシス卿がいたら、私はどうするべきなのだろう。

 あれほどの爆音。もう城の警邏にだって知られてしまっただろうし、もうすでにこちらに向かっているお城の人だっているかもしれない。

 グエンナーシス卿が、このまま魔典を奪ったとしても、奪えなかったとしても、もう内戦は避けられないのではないだろうか?

 それに、グエンナーシス領には、親分も、いる。


 もういっそ、このまま……いや、ダメだ危険すぎる!

 でも、じゃあ、どうすれば……。


 ああ、どうしよう。分からない。答えが出ない……!


 ……いや、落ち着け。

 今は階段の駆けあがりに、息が上がっているから、考えがまとまらないだけ。

 きっと冷静になれば、やるべきことだってみえる。

 それに、まだ確かめてない。この階段の先に、あるものを……!


 最初はカテリーナ嬢を追うようにして上っていた階段だったけれど、いつの間にか私が先を越していた。

 前方に、最上階に至る場所のあたりからオレンジの光が揺らめているのが見える。

 そして、熱気を感じ、何とも嫌な予感を感じながら、とうとう塔の最上階に駆けあがった。


 息は上がっているし、足も痛い。

 

 けれども、そんな疲れも吹っ飛ばすぐらいの光景が目の前に見えた。

 眩しさと喉を焦がすような熱に、思わず眉をひそめる。


 階段を駆けあがった私たちの目の前は炎の海で、その中で一人の人物が立っている。


 その人は大きな本を片手で持っていた。


「なるほど、魔法で生み出した炎では燃えない仕組みになっているのか」

 彼は、そう声を出すと、胸ポケットからマッチを取り出して、火を灯し、本にその火を移した。


「そ、それは! 救世の、魔典!」


 後ろから駆け上がってきたアランがそう叫んだので、目の前にいる彼が手に持っている本がそれなのだと知った。

 黒い表紙のその本。炎の明かりに照らされてその背表紙が辛うじて見えた。


 果てしなく懐かしい日本語で『魔法の本(和歌)』と書かれている。


 他にも日本語でなにかが書かれていたかもしれないけれど、その本は炎にあぶられ瞬く間に燃えていき、その本を手に持っていた人も床に手放した。


 床の上で、本が勢いよく燃えている。


「ああっ! な、なぜ! あなたが、ここにいるのですか!? それに、どうして! 救世の魔典を!? ……ヘンリー殿下!」

 そう絶叫するように声を上げたカテリーナ嬢が膝をついた。


「もう騒ぎに気付いた者がいたのか。早いね」

 そう平然とした様子で言い放ったのは、グエンナーシス卿でもなく、他の領地の魔法使いでもなく、王国の、王族の、ヘンリー殿下だった。


「どうして、ヘンリー殿下がこちらに……」


 私はそう言って、呆然と彼を見る。

 一体、何が起きてるのかが、良くわからない。

 どうして、ここにゲスリーがいて、どうして、魔典を、奪おうと……ああ、いや違う。燃やしたんだ。

 王国の象徴のようなものを、今、目の前にいるこの男が、燃やしていた。


「見てわからないかい? 本を一冊燃やしたんだよ」

「なぜ燃やしたのかって聞いているんです!!」


 いつも通りの人を食ったような暢気な口調に、思わず声が荒くなった。

 だって、どうして、彼がここにいて、救世の魔典を燃やして、意味が……、意味が分からない!


「ハハ、ヒヨコちゃんには、私が本を炎にくべて暖をとってるように見えたかい? 私はいらないものを燃やしているだけだよ。……今までの王族が信じられない。こんな危険なものを処分せずこんなところに置いておく愚かさがね」


 そう言った彼の顔には珍しく、焦りのようなものが見えた気がした。

 だがそれは一瞬のことで、いつもの爽やかに見える笑顔でこちらを向いた。


「こうなれば、救世の魔典も、ただの灰だ」


 そう言って、火が消えて黒い灰の塊となったものをヘンリーは踏みつけた。


 その黒い灰の塊は、救世の魔典と呼ばれるものだった。


 いつの間にか部屋中を覆うほどの炎も消えている。

 あれはどうやらヘンリー殿下の魔法だったらしく解除の魔法で消え去ったようだ。

 今ある明かりは、部屋の中の燭台にいくつかともった炎のみ。


「こんな、こんなことって! だって、これは、私達魔法使いの……! この国を作った英雄の、魔法使いの、歴史が……!」


 生まれた時から、魔法使いとして生きてきたカテリーナ嬢にとって、かなりショックな出来事のようだった。その横で、サロメ嬢が、カテリーナ嬢をなだめるように肩を抱いた。

 想像以上に取り乱すカテリーナ嬢と、言葉は発してはいないものの、リッツ君も、アランもシャルちゃんだって、愕然とした表情をしている。

 私だって、目の前で起こったことが、信じられない。


 おろおろと狼狽えるカテリーナ嬢を見てヘンリーが見下すように微笑むと、首を傾げた。


「それよりも、これからどうしようか。変なところを見られてしまったな。まあ、もともと隠すつもりもなかったが……」

 彼がそう呟くと、階段から誰かが駆け上がる足音が聞こえてきた。


 後ろを振り返ると、複数の人たちが階段を登りきってこちらにやってきている。

 仕立ての良い服を着ている人ばかりで、おそらく全員魔法使い。

 その中の一人にアランのお爺様、アルベールさんがいた。


「ヘンリー殿下、これは……」

 階段を駆け上がったアルベールさんが周りの状況を確認して、狼狽えたように前にでてきた。

 私のすぐ後ろにいたアランが、小さく「お祖父様……」と口に出したけれど、アルベールさんの視線はヘンリー殿下に釘付けだ。


「おそかったね、アルベール。他の者に先を越されているよ」

 こんな状況の中で、ゲスリーが、人を食ったような笑顔でそう言った。


「あ、あなたは一体何をしたのですか!? 救世の魔典は!?」

 ゲスリーよりもアルベールさんがかわいそうなほど狼狽えていて、そう叫ぶように言うと、ゲスリーが右足を床に踏みしめた。


「私の足の下にある」


 ヘンリー殿下がそういうとアランのおじい様は足元に視線を移した。

 そこにあるのは、ただの黒い灰だ。

 全てを察した様子のアランのおじい様は頭を抱えた。


「ま、まさか、燃やしたの、ですか!? あなたという方は、なんていうことを……!」


「小言は後で聞くよ。お前だってここまで上るのに結構疲れただろう?」

 おちょくるようなヘンリーの言い方にアランのおじいさんはさらに鼻息を荒くした。


「たとえヘンリー殿下であろうとも、ここまでの勝手は見過ごせませんぞ! まずは大人しく城にお戻り願いましょうか!」

 そう叫ぶような勢いの怒れるアルベールさんとは打って変わってヘンリー殿下はいつもの余裕の笑みで、アルベールさんのもとへと歩いていく。


「いいよ。わかった。もともと戻るつもりだ」

 そう平然と言ったヘンリー殿下に、アランのおじい様はさらに眉間にしわを寄せ、何かしら言おうと口を開けたようだったけれど、思いとどまるようにして再び口を閉じた。


 そしてあきらめたように息を吐くと、アルベールさんが小さく口を開く。


「ヘンリー殿下を北塔の地下の角部屋に連れていくように」


 アルベールさんは、近くにいた部下らしき人に、疲れた声でそういった。





比較的区切りも良い方なので、意味不明なゲスリーさんと苦労人のアルベールさんのツーショットで、転生少女の履歴書の年内の更新を最後にしようかなと思ってます!


ぼちぼち更新している「四天王の最弱令嬢は自由に生きたい!」はもしかしたらまだ年内更新するかもですが、念のため、年末のご挨拶をさせてください!


今年も一年、大変お世話になりました!

web版転生少女の履歴書の第4部を年内に終わらせたかったけれど、上手くいかず……。

比較的4部は反省点が多い……。

第4部に関しては、このあとあれやこれやをして、衝撃のあれをして区切るつもりなので、多分あと10話ない位で終わるかなぁ終わるといいなぁと思ってます。

そして第5部がはじまる……。

なんか気づけば結構文字数いっててびっくりしますね!

ここまでくれば100万文字いきたい……!

というか、いきそう!長い!


それでは良いお年を!

あ、その前によいクリスマスですかね!w

今年も一年、本当にありがとうございました!


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[良い点] あー、やっぱり作ったの日本人だったんですね…….同じ転生者かもしくは転移者かな? [気になる点] 魔法以外にも重要なことが書かれてたのかもしれないのにぃ!? まさか、あれか?ヘンリーも転…
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