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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第一部 転生少女の幼少期

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小間使い編⑩-奥様付の小間使い 前編

 レインフォレスト家の兄弟のためにひそかに何かしてあげようと決意した私は、おそらく今まで悩まされたであろう問題に取り組むことにした。


 家族団らん時間を増やそう作戦である。


 アランのあの癇癪も完全にお母さん成分が足りないことが原因だろうと推測される。それにしても、アイリーンさんも、子どもと一緒にご飯が食べれないほど忙しいってどういうことだろう!

 何か無駄があるはずだ、何か。それ本当に必要ですか!と言える何かがあるはずだ。


 私は仕分け作業をするに当たって、アイリーンさんのスケジュール、一日の仕事内容を知りたかったので、手っ取り早く奥様付侍女のステラさんを探した。まだ仕事前だから、使用人の控え室にいるはずだ。


 しかし、明け方前に着いてみたが、誰もいない。まだ少し早すぎたか。ステラさんはいつも早いからもう来てもいいころだと思ったのだけれども。

と思っていたところで、勢いよく、控え室の扉が開かれて、そこにはすごい形相のステラさんが立っていた。


 殺気立っている。どうしたのだろうか。ステラさんは私を見つけると、


「リョウですね。まだあなたしか起きてませんか。仕方がありません。時間もないですし、あなたを連れて行きます」


と言って、有無も言わさず私の腕をとって引きずるように連れ出された。


「ど、どうされたのですか?」


「奥様付の小間使いが一人倒れました。かわりの使用人としてあなたを連れてきます。まだ幼いですが、なかなか仕事が出来ると評判ですからね、期待してます」


 スタスタと猛スピードで歩いている。ステラさんは競歩の選手だったのか。

 私は転ばないように小走りになりながらひきづられてついていく。


「ということは、本日は私が奥様付の小間使いということですか?」


「そうです」


 なんという強運。ステラさんに聞くまでもなく、アイリーンさんの仕事ぶりが直接見れる。心の中でガッツポーズをしていると、ぽいっと物を投げるように馬車の中に入れられ、ステラさんと一緒に席に着いた。すると、前の席にアイリーンさんがよだれをたらして眠っている。


「リョウ、静かに。奥様が起きてしまいます。奥様はこういう移動の時間ぐらいしか寝る時間がないのですからね」


 目の前で眠るアイリーンさんは、心なしか前あったときよりもくたびれており、目元に隈ができている。


 しかし移動時間に寝るなんて、満員電車のサラリーマンのようだ。これが貴族の普通なんだろうか。優雅なイメージが崩れる。




 ということで、かの有名なレインフォレスト伯爵家のアイリーン奥様の仕事ぶりを徹底リサーチ!


 魔法使いのお貴族様の朝は早い。

 夜も明けぬうちに馬車に揺らされ、少しはなれた畑地帯へ赴く。


 そして、その畑地帯にポツポツと存在する水溜め石に、魔法で水を溜めていく。


 広い範囲を馬車で周り、水を足していく。モチロン馬車に乗る間は、大切な休眠タイム。ひとつも時間を無駄に出来ない。


 次の作業は、建物の建築だ。予め積んでいた石を手に取り、魔法を唱えていく。みるみる石が、融合し、分裂し、形を変え、新しい建物が建てられてゆく。


 すごすぎる。アイリーンさんは、魔法を使う時、馬車の中でいつも閉じている目をギンギンにあけている。目が血走って見えて怖い。


 お次は綿花がたくさん収穫された倉庫に入る。

 奥様は綿の塊を手に取ると、魔法を唱える。すると綿からするすると糸が出てくる。

 私とステラさんは糸巻きの芯みたいなものをもって、綿から魔法で発生した糸を巻き取っていた。おそらくそのために私呼ばれたのだろう。地味に大変な作業だった。時間もかなりかかった。それでも倉庫にはまだまだ綿花が残っていたが、次の作業現場へ。


 建物の補修。

 剣、鎧などの道具の作成

 ガラス製品の作成、などなど


 なんという第二次産業。魔法使いは複合型生産工場だったわけですね。


 そして、夜遅くにアイリーンさんは屋敷着。魔法使いと言う名のブラック企業のお勤めご苦労様です。


 アイリーンさんは遅い夕食を取るため、ダイニングへ。食事のことは給仕係に任せて、私とステラさんとで、湯あみの準備に取り掛かる。


「ステラ様、私驚きました。アイリーン様はあのようなことをされてらっしゃったんですね」


 まさか、貴族の魔法使いが工場扱いされているとは思わなかった。なんか、もっとこう、貴族らしくサロンに出かけたりとか、もしくは魔法使いらしく魔物を退治したりとか、そういうイメージを勝手にしていたので、心底驚いた。


「ええ、もともとはレインフォレスト伯爵家様直轄の魔法使い達で分担して行なうことなのですが、何人かは大旦那様と一緒に王都に行ってしまったので、領地にいる魔法使いの人数が足りていないのです。しかし、こればかりは魔法使い様にしか出来ないお仕事、奥様も覚悟を決めて2年間頑張ってらっしゃいます」


 ううう、と涙ながらに語りだすステラさん。

 あの無表情美人の目にも涙。


 しかし、待ってほしいステラさん。魔法使い様にしか出来ないお仕事ではないと思うんですが。もう少し工夫のしどころがあるのではなかろうか。


 私は石でできた浴槽をごしごし掃除しながら、胸中で思わず突っ込んだ。

そしてふと、疑問に思った。


「ちなみに、ステラ様。現在浴槽が空ですけれども、お湯はいかがされるのでしょうか?」


 湯浴みに使う薬草の準備をしているステラさんがこちらを振り返り、当然でしょ?と言う顔をしながら答えた。


「もちろん、奥様が魔法でお湯をお入れになるに決まっております」


 私は思わず天を仰いだ。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] あー、魔法が便利すぎて技術が発展しないパターンの極地かな? 酷すぎるわ!!?魔法使いの貴族とか煌びやかなイメージだったのに社畜……いや魔畜じゃん!?
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