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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第四部 転生少女の独立期
209/304

慰労会編⑧ 暴走カテリーナ対策本部、始動

 アランとダンスを楽しんだ後、カ対のメンバーであるシャルちゃんやリッツ君を見つけて、こっそりと声をかける。

 そして簡単打ち合わせをしたのち、それぞれバラバラなタイミングで適当な理由をつけて、晩餐会から離脱した。


 そして、あらかじめ決めていた待ち合わせ場所に着くと、すでにシャルちゃんとリッツ君が、簡素な服に着替えて身を隠して待っていた。


 ここは、学園の敷地内の森。

 繁みに身を隠しながら図書館が一望できるとっておきの場所。


 私が入学した当初の図書館は、切り立った崖の上みたいな小高いところに建てられていたけれど、署名活動の成果として、今は高低差のないところに図書館の建物がドンと構えている。


 お陰で、少し離れた場所からでも図書館の周辺の見張りがしやすい。


「すみません、ちょっと遅れてしまいました。まだカテリーナ様はいらしてないですよね?」


 図書館に明かりがついていないのを見ながら、すでに待機していたメンバーに尋ねると、リッツ君が頷いた。


「誰も図書館にはいないと思う。みんな晩餐会に夢中だし。あ、そういえばアランはどうしたの?」

 リッツ君にそう聞かれて、私も地面に腰を下ろした。


「ギリギリまでカテリーナ様の様子をみてもらってます。カテリーナ様の今までの動きから察すると、救世の魔典を取りに図書館にくるとは思いますが、念のため」


 リッツ君にそう言って、小高い丘の上に建てられた立派なお城に目を向ける。先ほどまで私たちがいた晩餐会の会場だ。


 そろそろ晩餐会も終わりの時間だろうに、お城の方は、オレンジの明かりがこれでもかというくらい瞬いて、眩しいぐらい。


 それにしても今日の晩餐会の会場の護衛の数はすごかった。

 貴族の方々が勢揃いの今日の晩餐会ということで、城の騎士という騎士が綺麗な鎧を着てお城を守っていた。


 向こうはあんなに華々しかったというのに、図書館は……、と思いながら円筒形の細長い建物の図書館を見る。


 こちらの最上階に、救世の魔典が御坐します。というのに、外の見張りは一人もいない。

 というか、今日に限らず基本見張りとかはいない。

 ただ、許可をとって魔典を見るために入室する魔法使いがいる時は、必ず数人の魔法使いの見張りがつくらしいけれど、魔典を見る予定のない夜は誰もいないらしい。


 たしかに城の護衛も大切だとは思うけれど、救世の魔典が置いてある図書館がこんなに放置されていて大丈夫なのだろうか。


 図書館のセキュリティー甘くない?

 

「図書館には見張りもいませんし、こんな無防備で大丈夫なのでしょうか」

 図書館の杜撰なセキュリティに思わずそう呟くと、シャルちゃんがうーんと少し考えてから口を開いた。


「確かに無防備に思えるかもしれませんが、そこに至る扉には、古代の強力な魔法がかけられています。どんなに力を入れても、壊れませんし、無断では入れません」


 なるほど、魔法があれば大丈夫ってことでこのセキュリティー体制なのか。

 それほどまでに、古代の魔法とやらは信頼されてるらしい。


 シャルちゃんの説明を聞いたリッツ君も頷いた。

「……カテリーナ嬢が、何か結界の綻びを見つけられたというなら別だけど、普通ならカテリーナ嬢が頑張っても、あの部屋に入ることは難しいと思う」


 リッツ君の言葉に私も頷く。

 リッツ君やアランは、救世の魔典の部屋に施された結界の強さを知っているからこそ、カテリーナ嬢が魔典を奪いに行くという私の読みに対しては、どちらかというと懐疑的だ。

 でも、カテリーナ嬢は頻繁に救世の魔典のある部屋に足を踏み入れていた。

 その過程で、魔法のセキュリティへの対策を練っていたとしてもおかしくはない。


 ただ、今までのみんなの調査では、カテリーナ嬢がなにか、図書館の結界魔法に対して対抗策や仕掛けをしているような痕跡は見当たらなかったらしいのだけどね……。

 それに、カテリーナ嬢が出入りできる昼間の魔典のある部屋には、常に他の魔法使いがいる状態。そうやすやすカテリーナ嬢も変なことはできないだろうし。


 でも、カテリーナ嬢の性格からして、駄目元でアタックとかしそうなところがある。


 と思っていたら、ガサガサと繁みが揺れる気配がして、アランが現れた。

 着替える時間がなかったらしいアランは、晩餐会の時にきていた銀の刺繍のされた黒い礼装を着たままだけど、どうやらカテリーナ嬢の見張りを終えたらしい。

 ということは……。


「カテリーナ様が動いたんですね?」


 私がそう尋ねるとアランが頷いた。


「ああ、カテリーナが晩餐会中に気分が悪くなったと言って、城の個室に入って行った。その部屋で見張りの護衛に晩餐会の時に持ってきた飲み物を振舞って、しばらくして護衛が倒れた。多分、睡眠薬を飲ませたんだと思う」


 アランが、そう説明してくれた。


 そうか、本当に、とうとう……。

 ていうかその前に個室の中の様子までこっそり覗き見ることに成功しているアランのストーカー能力が私怖いんだけど……。どうやってその様子みたの? 忍者なの?


 あ、いや、今はアランのストーカーレベルに怯えてる場合じゃない。


 アランの話を聞く限りカテリーナ嬢がくるのはそろそろだ。


「そういえば、倒れた護衛の中に、サロメもいたんだが、そのままで良かったのか?」


 アランが、そう確認してくれたので、私はうなずいた。


「サロメさんのことは大丈夫です。事前に解毒薬を渡してありますから、サロメさんならうまいこと対処してくれると思います」


 私の説明にアランも頷いて、繁みに身を隠した。


 それから、皆でしばらく息を殺して目的の人物の到着を待つ。

 そろそろだとは思うけれど……と思っていると、静かな暗闇の中で、人の気配を感じた。

 そちらに目を向けると、校舎の方から黒いフードにマントを被った何者かが図書館に向かってこそこそと歩いてきているのが見えた。


 目深く被ったフードの隙間から、月明かりの下で銀色に光る髪が見える。

 あれは……。


「カテリーナ様ですね」


 私がそう言うと、シャルちゃんが、「え」と言って、私の視線の先を確認して、息を呑んだ。


「本当に、カテリーナ様、いらしてしまったんですね……」

 シャルちゃんのつぶやきには、驚きと悲しみの響きがあった。


 なんだかんだ、私達の思い過ごしなら良いという思いもあったから、シャルちゃんがそう言って悲しむ気持ちはよく分かる。


 せめて、相談して欲しかった。

 もちろん、相談できる環境じゃないのはわかってる。

 でも、私はサロメ嬢が、一生懸命カテリーナ嬢を守るために彼女に接触していたのを知っている。

 私の2階にある寮の窓に侵入できるほどの腕前を持っているサロメ嬢は、何度かカテリーナ嬢とも接触を図っていた。

 それでもカテリーナ嬢はサロメ嬢にも相談しなかったと聞いた。


 そう私に教えてくれた時のサロメ嬢は、とても悲しそうな顔をしていた……。

 

 今日こそは、カテリーナ嬢から話を聞く。

 こんな夜にこっそりあんな格好をしている現場を抑えられたら、流石のカテリーナ嬢だってしらを切り通せないだろうし。


「いきましょうか」


 息を潜めてカテリーナ嬢を見ているみんなに私はそう声をかけるとゆっくりと立ち上がる。


 そしてビクビクした様子で、図書館に向かって歩いていくカテリーナ嬢の後ろから声をかけた。


「カテリーナ様、こんな夜更けに如何されたんですか?」


 私に声をかけられてカテリーナ嬢が、目にみえて焦った様子でこちらを振り返る。


 顔はフードの陰に隠れているけれど、カテリーナ嬢が驚いている顔をしているんだろうなとなんとなくわかった。


「な! だれ!?」

 と怯えたような声を出すカテリーナ嬢の前に、私とシャルちゃんが立ちふさがると、カテリーナ嬢が息を飲む音がした。


「な、なんで皆さんがここに……!?」

 そう声をあげるカテリーナ嬢と同時に、一歩後ろにいたリッツ君がマッチをすってランプに火を灯してくれた。


 怯えたような顔でこちらを見るカテリーナ嬢の顔があらわになる。


「カテリーナ様、こんな夜更けに何処へ行って、何をしようとしているんですか?」


 改めてそう尋ねると、カテリーナ嬢が、わかりやすく動揺したように肩を揺らした。


「べ、べ、べ、別に、何かをしようだなんて……」


 となんだかもごもご言っているけれども、カテリーナ嬢のあせり具合が全てを物語っておりますよ。


「カテリーナ様、救世の魔典を取りに行く、つもりなのですか?」


 シャルちゃんが心配そうな声でそういうと、さらにカテリーナ嬢が一歩後ろに下がった。


「な、なんで、ど、どうして、それを!?」


 なんとなく見ればわかるよ。

 暴走カテリーナ対策本部をなめてもらっちゃこまる!


 カテリーナ嬢が執拗に救世の魔典通いしてるし、それにサロメ嬢からきいたグエンナーシスの情勢を思えば、そういうことをするかもしれないというのは想定できる。


 まあ、杞憂ならいいなと思っていた部分はあったけど……。


 だって、救世の魔典を奪うだなんて大それたこと、カテリーナ嬢が実際に行動をするとは思えなくて……。


「サロメさんから色々とグエンナーシスのご事情は伺ってます」


 私がそういうとカテリーナ嬢が放心したように「サロメが……」とつぶやいた。


「サロメさん、本当にカテリーナ様のことを心配してましたよ。ちなみに、救世の魔典を狙ったのは、グエンナーシス卿からの命令ですか?」

 私がそう尋ねると、ちょっと放心状態のようなカテリーナ嬢だったけど、ハッとしたように視線を私に移して首を横に振った。


「違うわ……お父様がおっしゃったことではないの。これは私が決めた。グエンナーシスにとって、民にとって一番の最善を考えて……私一人で、決めた……」


 カテリーナ嬢が、一人で決めた?

 少しばかり読みが外れて、私は眉を寄せた。



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