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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第四部 転生少女の独立期

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慰労会編⑦ 大晩餐会にて1

 盛大な開会式から始まった慰労会もすでに折り返し地点。


 定期的に開催される商人ギルドの10柱の会合で、この慰労会にかこつけた経済効果について色々と報告を受けているけれども、すこぶる調子はいいようだ。

 学園勢の演劇は最初の公演で大評判だったので、慰労会中に何回か行った。

 ただ、ヘンリー殿下だけは最初の一回目だけしか参加してないけどね。

 ということで、まだまだ祭りの勢い衰えない慰労会は、折り返し地点となってもイベント目白押し。


 今日は貴族の方々が集まる王国主催の大晩餐会。

 まあ、ほとんど毎日何かにかこつけて大晩餐会しているんだけれども、今日は、慰労会期間のちょうど中間地点ということもあって盛大だ。


 この国のえらい人々がこんな風に一堂に会すことなんて滅多にない。

 これからの王国の栄光を讃える大晩餐会である。

 城内がこんなに人に溢れているのもないだろう。


 商人ギルドの10柱の人たちも来てるので商売の話をしたり、バッシュさんと一緒に知り合いの方に挨拶をして回ったり、さりげなくうちの商会の品物を見せつけて宣伝したりと、美味しそうな食事は色々とあるのに手が付けられないほど忙しい。


 それにしても、今日はルビーフォルンの養女としての家名があるので、主にバッシュさんと一緒に回っているけれど、15歳になったらどうなるのかな。

 15歳で成人として扱われるこの国では、15歳になると基本的に親の家名を名乗れなくなる。

 でも私は商爵をすでに取得したので、15歳になったタイミングで商爵のほうの名前を名乗れる。

 ということで、そろそろ商爵を名乗るときの家名を決めなくちゃだ。


 ちなみにカイン様は騎士爵を取得した際に、アイリーンさんに名を決めてもらって、カイン=レインフォールという名前になっている。

 もともとのレインフォレストを少しもじったような形だ。


 カイン様はなんとゲスリーから、私が名を決めようか、と声をかけてもらったらしいがその時にはすでに家名が決まっていたので、丁重にお断りしたらしい。

 良かった。素早く名を決めてくれたアイリーン様グッジョブである。


 万が一ゲスリーが名付け親とかになって、自分の名前とかまでもじり出して、『ゲスフォレスト』とか名付けたりでもしたら……。

 想像するだけで鳥肌が。

 カイン=ゲスフォレスト……絶望である。


 私もお世話になった人に名を決めてもらうのもありかなとは思うけれど、多分商会の名前を何のひねりもなくリョウ=ルビーフォルン商会にしてしまったから、それに合わせる形になりそうだ。


 それに領地の名を使えると、領主からの信任も厚いってことで、安心感があり商売がやりやすくなるしね。

 クロードさんもレインフォレストと名乗っているし、私も今後のことを思うとこのままルビーフォルンの名前を使いそうである。


 そんなことを考えながら、バッシュさんと一緒に挨拶回りをしているわけだけど、なんというか、バッシュさん、ものすごく大人気だ。

 最近の目覚ましいほどのルビーフォルンの活躍を讃えにたくさんの貴族たちが挨拶をしに来ている。


 そんなこんなでたくさんの人に挨拶をしていると、アイリーン様とアランを発見した。


 アイリーン様とアランの前には、女の子が立っていて、顔を赤らめながら潤んだ瞳でアランを見ている。

 完全に恋する女の子だ。


 栗毛色の髪の毛を綺麗にまとめたとても可愛い感じの子で、年は同じぐらいに見えるけれど、学校では見たことがないので、学園の生徒ではなさそう。

 今回の慰労会で、親と一緒に上京してきた貴族のご息女と言ったところかもしれない。


 それにしても、うっとりとした表情でアランを見つめる女の子の様子に、私はなんだかカルチャーショックをうけた。

 これが恋する女の子。

 しかも、恋の相手は、あのアラン……。


 そんな恋する少女を前にアイリーン様は笑顔で何事か話しかけ、たまにアランに話を振ったりしているのだけど、当のアランはつまらなそうな顔をして、適当な相槌をうっている様子だった。


 うわー。だめだわ。うちの子分ったら、恋する女の子の様子に気づいてないご様子。

 やだー、鈍感だー。

 あんな可愛い子に好かれてるのに、気づかないなんて、もったいない子分。


 まあ、まだまだアランもお子様だものねぇ。恋なんてまだまだだよねぇ。

 とか思って鈍感なアランを見てぷぷって笑っていると、アランが私に気付いた。


 親分を見つけたアランは、一気に笑顔になって、こちら向かって来ようとしている。

 いきなり置いてかれようとしている女の子はポカンとした顔で目をパチクリとさせ、引きつった顔で、アランの視線の先にいる私の顔を見た。

 そして、私と目が合うと、般若のような形相となって睨みつけてきた……。


 ア、アラン、友達を見つけて嬉しくなる気持ちは分かるけれども、こっちくるなら一言何か女の子に言ってからにしようよ……! 

 今ね、女の子が私のことすっごい睨んできてるからね!

 アランのせいで、めっちゃ私睨まれてるからね!


 怯える私には気づかず、そのまま問題の鈍感アランは私の近くまでくると「リョウ!」と言って、手を挙げた。


「アラン……」

 鈍感な子分に私もため息まじりで名前を呼ぶけど、そんな私の様子に気づいていないアランは、いつもと同じようにテンションの高い様子で「今日のドレスはあれだな。焼き芋の色だな。似合ってる!」と言って、下手なりに私のドレスを褒めようとしてくれた。


 焼き芋って、普通に紫って言ってくれた方が、まだ幾分かましなんだけど……。変に何かに例えようとして芋をつけたことによって、かなり台無しになっているどころか、若干悪口に聞こえる。

 それとも暗に芋女と罵りたいのだろうか……?


 相変わらず女性を褒めるセンスのない鈍感子分は私の反応を嬉しそうに待っているので、「ありがとうございます。アランの装いも、素敵ですよ」と無難に応えた。


 いいかい、アラン。別にね、無理をしてカイン様みたいに色々なものに例えるようなポエミーな褒め方はしなくていいの。シンプルでいいんだよ。むしろあれはカイン様だからこそ許される技なのよ。


 そういう意味を込めて簡潔に褒めてみたけれど、アランは気づいてるのか気づいてないのか、照れ臭そうな顔をした。

 いや、照れてる場合じゃない。

 ちゃんと親分の真意を受け取ってほしい。


 そんなやり取りをしているとアイリーン様も近くにきてくれたので、私の近くにいたバッシュさんも一緒に挨拶をする。


「それにしても、アラン、先ほどは女性の方との話の途中のようでしたけれど、大丈夫だったんですか?」

 私が先ほどのことを取り出して聞くと「別に問題ない」とアランは答えた。

 しかし隣で、バッシュさんと話していたアイリーン様が、「問題ないことありません!」ってすごい勢いで話に割って入ってきた。

 すごい迫力だ。


 思わずアイリーン様を見ると、険しい顔で「あの子はアランの婚約者候補でしょう!」とアランを責めた。


 えっ! 婚約者、候補!?


 驚く私の前で、「別に候補は候補で、婚約者ではないし……」と答えるアランをキッとアイリーン様は睨んでから、今度は弱った顔をしてため息を吐いた。


「なにやら大変そうですな」

 と朗らかにバッシュさんがアイリーン様に声をかけると、アイリーン様はため息まじりに口を開く。


「なかなかアランの婚約者が決まらないのよ。この子はいつか私の後を継いでもらうし、早く決めたいのだけどね。いい縁談の話はたくさん来ているの。でも本人が乗り気じゃなくて」

「まあ、まだまだご子息は若いですし、そのようなものでしょう」

 とバッシュさんは朗らかに笑いながら対応すると、アイリーン様が来ている縁談について色々と話し始めた。

 先ほどの女の子は、魔法使いではないにしても、魔術師の血筋の由緒正しい家柄の女の子で、アイリーン様のイチオシだったらしい。

 そして彼女以外にもアランにはすでに100件近くの縁談があるとか。

 すごすぎる。

 そういえば、アランって奴は魔法使いでもあり、伯爵家でもあるということで、かなりの注目株。

 10歳ぐらいの時からすでに縁談の手紙が来ていると聞いて、驚いた覚えがある。


「アランは、そんなにたくさん縁談が来てるんですか?」 

 私は思わず隣にいたアランにそう問いかける。

 さっきまで、べらべらと縁談の話をしゃべっておられるアイリーン様に呆れたような顔をしてみていたアランだったけれど、私に問いかけられたことに驚いたらしく背筋をピンとさせた。


「い、いや、話は来てるみたいだけど、俺は……!」

 と何か勢いをつけてアランが言おうとしたタイミングでアイリーン様が、興奮した様子で話に入ってきた。


「そうなのよ! たくさん縁談の話はきているの! まだまだ先のことと思って保留にしていたけれど、いつの間にかもうすぐ成人でしょう? 早くいい人を決めないと」

 アイリーン様、顔が近い。相当アランの縁談のことが気になっているご様子だ。

 アランは、呆れたようにため息を吐くと、「だから、俺は興味ないです」と答えた。


 分かる。その気持ちわかる!

 まだそういう気分じゃないよね!

 婚約とかなんとか、言われても全然わかんないっていうか、ピンとこないよね!

 興味がないってわけじゃないけど……。


 だって、まだ好きな人だってできてないし……恋とかだって知らないでしょう?

 それなのにねぇ。

 私も一回ゲスリーから縁談の話が来たときは、本当に絶望にした。


 まあ、それはゲスリーの悪いゲスリアンジョークだったけれど、みんなして婚約とか結婚だなんて、話が早すぎるよね!

 よかった。アランも同じ気持ちで安心した。

 なんかみんなして来年成人だからって急いで大人の階段を登ろうとしてる感じがして、焦っちゃったけど、私達まだまだだよね?

 さすが我が子分! 期待を裏切らない!


 しかも我が子分は立場上、恋も結婚も自由にできないわけで、なんだか大変そう。

 私も人のこと言えないし、きっとバッシュさんの養女だから伯爵家の娘ってことだし、結婚なんかは自由にできないのかも……。


 いや、まてよ?


 とはいっても15歳になったら、家名はとられちゃうから、商爵を名乗るわけで……そうなると、別にバッシュさんが勧める縁談を受けなくても良いんじゃないか?



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