慰労会編③ 学園勢による演劇会にて
昨日9月30日、転生少女の履歴書5巻が発売されました!
ご購入ありがとうございました!
ここまでこれたのも皆さまのおかげ。感謝!
御礼を込めて始まった、三日連続更新などは本日が最終日ですよ!
おととい、昨日、今日と更新してますので、いつも最新話から読まれている方はお気を付けください!
最初に、爵位の授与やら、褒賞の授与やらの堅苦しい会が数日にわたって行われた慰労会。
その肩苦しい感じのイベントが一通り終わったタイミングで、とうとう私たち学園勢が色々と準備していたイベントが行われる。
そう、学園勢が贈る初めての演劇!
配役を決めるのですら、ヘンリー殿下がやるのかやらないのかで難航したり、芝居なんてものは、貴族の子女の皆さんは初めての試みでうまくいかないこともあったけれど、皆の熱意でどうにかこの日を迎えることができた。
「リョウ様! 私、緊張してきました……!」
劇で勝利の女神役、つまり私役を演じる騎士科の4年生、オルテちゃんが、そう言って、顔を青白くさせていた。
無理もない。思ったよりも大盛況だ。
学園の生徒やその保護者だけだろうと高をくくっていたのだけど、どう考えてもそれ以上の人数が劇のために学内にこしらえた特設会場に集まっている。
ぎゅうぎゅうと人が入っていて、立ち見席ですら満員だ。
「大丈夫ですよ。今日の日のためにたくさん練習しましたし、オルテさんなら問題ありません」
私が、そう声をかけると、オルテさんは、ぎこちなく頷いた。
「そ、そうですよね。アラン様もいてくださるし、それに、後半はヘンリー殿下も来てくださるし……!」
そう言って、オルテちゃんは、気持ちを落ち着かせるように何度か深呼吸をし始めた。
可愛い。
オルテちゃんはもともとドッジボールで一緒に遊んだことのある生徒なので、前から知り合いではあったのだけど、今回の劇でたくさん話す機会があってなんだか妹分みたいな感じだ。
「オルテ、そんなに緊張して大丈夫なのか?」
心配そうに、主役のヘンリー役を結局押し付けられたアランがオルテちゃんに話しかける。
既に衣装に着替えているアランは、王族っぽい服装に身を包んでいた。
なかなか似合ってる。
「だ、大丈夫です! アラン様こそ、緊張してないのですか? 主役のヘンリー殿下役ですよ?」
「別に。主役っていっても、出番はほとんどないし。一番難しい魔法の場面はヘンリー殿下本人がやるみたいだからな」
と言って、つまらなそうにあくびをした。
劇には出演しない私だってちょっと緊張しているのに、この落ち着きようだ。
アランめ、意外と肝が据わっておる。
しかしオルテちゃんは、落ち着いたアランを見て、冷静さを取り戻したようで、少し顔がほころんだ。
よし、今までこの日のためにみんなでお稽古したり舞台装置作ったり、衣装作ったり打ち合わせしてって頑張ってきた。
想像以上にたくさんの人が見に来てくれているのは確かに緊張するけれども、だからこそやりがいもある。
私達、演劇実行委員会は、円陣を組んで、本日の大舞台に向けて気持ちを一つにした。
すごい、なんか、これ、青春って感じがする!
みんなで励ましあいながら、開演に備えて心の準備をし、問題なく開始時刻に幕を開くことができた。
開演前は、慣れない劇で緊張して青白い顔をしたりする子もいたけれど、いざ劇が始まれば今までの練習の成果を存分に発揮し、順調に進んでいく。
魔物に襲われる学園。
それに立ち向かう生徒達。
王都の人たちを魔物から守るヘンリー役のアラン。
稽古中に何度も見たわけだけど、そのたびにあの時の学園に魔物が降りてきたことを思い出す。
みんなで力を合わせて一つの危機を乗り越えて……。
あの時はただただ必死だったけれど、今思えばあれはあれで楽しさがあったような気がする。
それはまあ、乗り越えた今があるからそう思えるのだろうけれど。
みんなの頑張りを見守っていると、幕が下りた。
前半の舞台が終わって、すこし休憩をしてから後半に入る。
私は一息つこうと、出演者や裏方の生徒達を労いに回っていると、「リョウ様、大変です!」と慌ただしい声で呼ばれてそちらに振り返る。
衣装係の子だ。
「まだヘンリー殿下がいらっしゃらないのです!」
え、マジで……!?
予定ではそろそろこちらに来てくれないと困る。
衣装を着替えてもらったり、打ち合わせをする時間を確保したかったから、早めにきてってお願いしておいたのに……。
「……私、探してきます!」
そう言って、後ろを振り返って、アランの方に顔を向けた。
アランは私の視線に気づいて、こちらにきてくれた。
「どうしたんだ?」
「ヘンリー殿下が、まだ来ていらっしゃらなくて、私今から探してきます。アランは、もしもの時のために、ヘンリー殿下が使う予定の魔法を使えるように準備をしてもらいたいんですが、可能ですか?」
私がそういうと、アランは少し悩むようなそぶりをして、「わかった。多分、できると思う」と言って頷いた。
「ありがとう! お願いします! 後半出番がない子も一緒にヘンリー殿下を探しに行ってもらっていいですか? あまり騒ぎにならないようにできる限りこっそりと探してもらいたいです」
そう言ってお願いして、学園勢によるヘンリー殿下大捜索作戦が開始された。
あいつ、ほんと、本番に限って一体どこに……。
まずは出店もたくさん並んでいる学園の校門前広場に向かった。
ここには私の商会の人がたくさんいる。私は商会の人に、ヘンリー殿下を見かけたら、すぐに報せてもらうように頼む。
でも、ヘンリー殿下のことだし、こんな人ごみの多いところにはいかなそうだ。
あの人ってどこにいることが多いんだろう。カイン様ならわかるのかな?
私は全然仲良くないし、彼の行きそうな場所なんて全く思いつかない。
まさか、大好きな家畜に合うために王都の牧場になんかにはいってないよね? さすがにそこまで行かれてしまうと連れ戻すのに時間がかかる。
まだ城にいるのだろうか?
いや、城にいるなら、お城の人がヘンリー殿下を連れてくるか、こちらに連絡をよこしてくれるはずだ。
人ごみの多い広場は私の商会の人が目を光らせてくれるだろうし、私はあまり人目がなくて、静かなところを探してみよう。
そういえば前に、ヘンリー殿下は静かなところが好きみたいなことを言っていたような気がする……。
私はしばらく考えてから、とあるところに向かった。
学園の敷地の端っこに滝のようになっている場所がある。
滝の向こう側には洞窟があって、人が入れる。
……私がヘンリー殿下の本性を初めて知った場所だ。
私は、そこに入った。
手に燭台を持って奥に入ると、人の気配がした。
私が入ると、その気配から微かに忍び笑うような声が漏れた。
「あれ、ひよこちゃん、どうしたんだい? こんなところで」
そう言って、奥にいた何者かが動いた。
この声、間違いない。
「こちらのセリフです! ヘンリー殿下、探しましたよ! そろそろ出番です!」
そう言って、私も慎重に奥に進む。
近くまでくると燭台の明かりでその人の顔が露わになった。
私が探していたヘンリー殿下がいつもみたいな胡散臭い笑みを浮かべて、腰を下ろしていた。
「ああ、そういえば、今日は劇の日だったか。道理で周りが騒がしいと思った。ところで、よく私のいるところがわかったね?」
そう言って、彼は立ち上がって、服に付いた汚れを払う。
「そんなこと言ってないで、早く戻りますよ!」
私がせかすと、ゲスリーは肩を竦めた。
「ひよこちゃんも、まずは落ち着いたらどうだい? ここは静かで落ち着く、おすすめだよ」
「ヘンリー殿下が時間通りに来てくれないから、焦ってるんです!」
何暢気なこと言ってんだ!
私は、面倒くさくなって、ヘンリー殿下の手を取って引っ張るように洞窟の外に連れ出した。
外のまぶしい明かりにゲスリーが目を細める。
「……眩しいな」
そう言って、忌々しそうに眉を寄せるゲスリーの手をさらに引っ張って、歩かせる。
ちんたらしてる場合じゃない。急がないと、みんなが待ってる!
……でも、なんか、今日のヘンリー殿下、ちょっと様子がおかしい、ような。
ちらりと後ろを振り返って、改めて顔色を窺うと、彼と目が合った。
いつもの胡散臭い微笑みを返してくる。
いつも通り、のような気もするけれど。
「……なんで、あんなところにいたんですか? 明かりもつけずに」
「静かな場所に行きたかったんだ。色々考えたいことがあってね」
へー、考え事。
ゲスリーったら、考え事をするために暗いところに一人で行ったりするんだ。意外。
「ヘンリー殿下も一人で考えたくなる時があるんですね」
私はとりあえずそう言いつつ先を歩く。
ゆっくり会話できるような余裕はない。
今急いで戻ればまだ間に合う。
「面倒だが王族ともなると、色々な話を聞くことになるんだよ。……例えば、縁談とかね」
後ろでゲスリーがそうポツリと言った。
え? 縁談? ヘンリー殿下に縁談?
うわー、縁談相手かわいそう……。
一体そのような悲しき運命を背負った乙女は、誰なんだろう。
よりにもよって、ゲスリーが相手だなんて。
私だったらそんな縁談きたら、逃げ出しちゃうな。
ゲスリーはゲスリーだけど王族だから、お相手の女性はそれなりの血筋の人だよね。
魔法使いの血縁者じゃないと、魔法使いが生まれない。
この国では、数十年前から、魔法使い同士の結婚は推奨されていないけど、王族は別。
今の王様の王妃様は魔法使いだし、ヘンリー殿下は次期王様になる説は有力だから、もしかしたら魔法使いの女性が選ばれるかもしれない。
「そうなんですか。ヘンリー殿下も成人しましたしね」
私は縁談相手に同情しながら、そう声をかけて、構わずズンズン先に進む。
ちょっと様子がおかしいと思っていたけれど、縁談の話が来てブルーだったとは、意外とゲスリーにしては繊細なお心を持っておられる。
まあどうでもいいけれども。
「意外と、あっさりしているね。ひよこちゃんは」
「いえ、驚いていますよ、すごく」
そう言いながらも歩を進める速さは緩まない。
後半の幕が上がればヘンリー殿下の出番はすぐだ。
それまでに軽く打ち合わせしたいし、衣装だってせっかく衣装係の子が、ヘンリー殿下に着てもらえるなんて! と気合を入れて作ってくれたので着てもらいたい。
「私の縁談相手は、君なんだけどね」
「まあ、そうなんですか。おめでとうございます」
それよりも急がないと。ゲスリーの縁談相手はかわいそうだとは思うけれども、私には関係ないことだし。
いや、次期王と名高いゲスリーの奥さんってことは将来の王妃様なんだから、全くの無関係ではいられないだろうけれど……。
ん?
あれ、さっきなんかゲスリーから聞き捨てならない話が聞こえたような……。
無事に昨日、後光が眩しい転生少女の履歴書5巻が発売されました!
すでに5巻ということに、私自身がびっくりです!
web版、書籍版ともに最後まで書ききれたら良いなと思いますので、今後ともよろしくお願いします!
それでは最近恒例の、書籍宣伝をします!
ウヨーリ教季刊誌たんぽぽで、ウヨーリ教徒の人物紹介文がありましたので、ご紹介いたします。
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<伝達力の変わらない、ただ一つの大先生〉
名前:タゴサク
出身地:聖地ガリガリ村
詳細:
ウヨーリ教徒は皆、声量の限界で、伝えたいことが目詰まりし、
伝達力が息切れして、ウヨーリ様の偉大な話を知らない人々をルビーフォルン領内にこんなに取り残していました。
タゴサクは違います。
15万dbもの声量と知識の深さで、ミクロの話までウヨーリ様のすばらしさを表現できるので、伝達力は決して衰えません。
つまり、あなたの生活はどこまでも神聖。
タゴサク。伝達力の変わらない、ただひとつの大先生。
(ウヨーリ教団季刊誌たんぽぽ 夏の終わり号 教団員紹介ページより抜粋)
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そんなウヨーリ教団季刊誌でも名を連ねるタゴサク宣教師から、コメントを頂きましたので、あわせてご紹介いたします。
タゴサク「転生少女の履歴書1巻~5巻絶賛発売中ですぞーーー!!」(15万db)
※120dbで飛行機のエンジンの近くいるときの騒音並みです。
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はい、ありがとうございました!
こうやって、ウヨーリ教は広まっていったんですね!(違う
ここ最近は、本編とは別に、書籍宣伝ということで毎回後書きが長くなってしまってすみませんw
これからは通常運営でございます!
お付き合いくださってありがとうございました!