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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第四部 転生少女の独立期
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筆頭10柱編⑱ バッシュと『人』の道理


 不安な顔をしているバッシュさんに私は向き合って、恋愛相談はまた後にしますーとか言ってどうにか話をはぐらかし、商会の活動のことなどのお話しをして、いい感じに場が温まってきたのを見計らって早速本題の一つを切り出すことにした。


「実は、バッシュ様にご相談というか、ご報告があるんです。事後報告となり申し訳ないのですが、例のウヨーリ教のことを国から正式な領地政策として、大々的に広めてもらうことになりました」


 私がそう切り出すと、バッシュさんが驚いて目を瞬かせた。


「正式な領地政策、というのは?」


「はい。ウヨーリ教を隠すのはやめようと思いまして。いっそのこと国に認めてもらえれば、隠すこともなく安全ですから。ウヨーリと呼ばれるものを特別視するといった行き過ぎた部分はもちろん伏せつつ、ウヨーリ教の中でも特に有益だと思うものをまとめていて、実は今度の慰労会の折に、国策として各領主様方にお知らせする予定なんです」


「ほ、本当か!? 国は、あの教えのことを認めてくれたのか? あれは、ウヨーリを信奉する部分を無しにしても、非魔法使いに知識をつけ過ぎるところがあると思うが……。あれを国が認めてくれるとは、正直、思えない。いや、無理に決まっている!」


 そう顔面を蒼白にしてバッシュさんが大声をだした。

 私が想像していたよりも、驚いていらっしゃるご様子に私も少しばかり驚いた。


 正直、私が『あれは危険です!』と何度も訴えても、あまり取り合ってくれなかったから、バッシュさんは、ウヨーリ教に関しての認識が甘いのだと思っていた。


 でも、バッシュさんなりに、ウヨーリ教の考えが、中央に知られれば危険だという認識は持っていたようだ。


「ご安心ください、バッシュ様。すでに、王城の政務官の方に確認はとれています。興味を持ってくれた方がいまして、その方を中心に話を進めてもらっています。思ったよりも城の魔法使い様方の反応は悪くないです。……あの大災害で、魔法使い様方の意識も変わりつつあるようです」


 私がそういうと、バッシュさんは、眉を寄せて考えるように下を向いた。

 そしてしばらくの沈黙の後、再び口を開く。


「……だが、中央の貴族は、ほとんどが傲慢な魔法使い。国の情勢が落ち着いてきたら、ウヨーリの教えのような政策、非魔法使いに力を与えるような取り組みを反故にしないだろうか?」


 流石、バッシュさん。鋭いところをつく。

 私は頷いた。


「正直、その可能性はあります。都合が悪くなったら切り捨てるつもりの考えの方はいるかもしれません」


「ならば……!」


「でも、そうならないように私たちが力をつけていけばいいんです。私は王都の商人ギルド10柱の一人になります。そして、商人ギルドはますます力をつける。生産関係だって、平民の皆さんなくては、もう成り立たない段階にきています。そう簡単には、国は私たちを切り捨てられない。国の一部の上層部がどう思おうと、結局もうこの国は魔法頼りの生活では生きていけない状況になっているのです。力を合わせていかないと、もう国として成り立ちません」


「力を、合わせる……? 私たち非魔法使いと、中央の魔法使いで、ということか?」

 そういったバッシュさんは心底驚いたような顔で私に尋ねてきたので、大きく頷いた。


「そうです。何も難しいことではないです。同じ国に住むものとして、さらなる豊かさと安寧を望む気持ちは一緒です。そして実際に、魔法使い、非魔法使いに関わらず、そう思って動いてくれている方もいるのです」


 私がそういうと、それでもバッシュさんは信じられないのか、焦点の合わない目を下に向けて、何度も首を横に振る。


「だが、信じられない。……だいたい、魔法使いに、人の道理など、わかるとは思えない」

 そう思わず呟いたようなバッシュさんの言葉に、私の方が驚いた。


 だって、人の道理って……。


「バッシュ様、魔法使いだって、人、ですよ。私たちと同じです。それはもちろん、人であるからこそ色々な考えを持っている方はいますけど、それでも、魔法使いの方が全員、絶対に理解できないとか、そういうものではありません。そして実際に、王都は変わってきています」


 私がそう驚きながらも伝えると、バッシュさんが目を見開いて私を見た。


 バッシュさんは、今まで魔法使いを同じ『人』だと思っていなかったのだろうか。

 でも奥さんのグローリアさんは、魔法使いだし、ルビーフォルンのためにいつも頑張ってくれているセキさんだって、魔法使いだし……。

 バッシュさんは、セキさんもグローリアさんも大切にしているように思えるのに。

 本当は、今まで、どう思って彼らに接してきていたのだろう。


 しばらくしてバッシュさんは私にいつもの人の良さそうな笑みを見せてくれた。


「そうか、そうだな。そう素直に思えるリョウ君が、羨ましいよ。君の言う通りなのかもしれない。そう、私たちは、同じ人なのだろうね。……国策の件、驚いたが承知した。本当は、それを国に提案する前に私に相談して欲しかったがね」

 穏やかな、いつものバッシュさんの口調だ。


 私だって、本当はバッシュさんに相談したかったよ。

 でも、バッシュさんが、私と同じ気持ちではないような気がして……。

 そして、それは多分、気のせいじゃない。


「申し訳ありません。でもこれが、ルビーフォルンのためと思ったのです」


「そうか。そうだな。分かっている。リョウ君がいつもルビーフォルン領のことを思ってくれていること、本当に嬉しく思うよ」


 バッシュさんのその笑顔が少し寂しそうに見えた。


 ……親分のこととか、さりげなく聞いて、正直に答えてくれなくても、その様子で何かしらわかるかなとか思っていたけれど、聞く必要、ないかもしれない。


 多分、バッシュさんは、親分と、繋がっている、気がする。


 繋がっていなくとも、根本的な考え方が親分と一緒だ。


 親分は、魔法使いというものを憎んでいた。魔法使いの誰々が憎い、というのではなく、魔法使いそのものを憎んでいる。そう、基本的に親分は、魔法使いを同じ『人』だと思っていなかった。


 ……親分が何かしら行動を起こした時、国の魔法使いを信じられないバッシュさんは、必ず親分につく。


 そんなことを思っていると扉からノックの音がした。


 扉の方に顔を向けると「バッシュ殿、失礼してもよろしいでしょうか!?」と聞いたことがある声が聞こえてきた。


 ていうか、この声。

 この声って……。


 私が思わず振り返ると、焦ったように立ち上がったバッシュさんと目が合う。


「バッシュ様、この声って、タゴサクさんですよね?」


 私の天敵のタゴサクさんですよね!?


 私がそう声をかけると、バッシュさんは、引きつった顔で頷いた。


「連れてくるつもりはなかったんだが、いつの間にか勝手についてきていたんだ! この宿に着いてから気づいて、領地へお帰りいただくよう何度も言ったというのに!」

 

 やっぱり!!


 気付かれずに勝手について来るとか、タゴサクさん、あいつは本当に一体何者なんだ!

 というか気づかないバッシュさんも相当だよね!?

 いや、タゴサクさんがすごいのか!? タゴサクだもんね!!


 そうこうしていると、タゴサクさんが我慢できなかったようで、扉を開けた。


 そして私と目があうと、ハッとした顔をして、慌てて五体投地をし始めた。


「ああ、おひさしぶりでございます!リョウ様ー!」

 と盛大にむせび泣いてきたので、私は遠い目をした。


 まさか王都でも彼の五体投地むせび泣き攻撃をくらう日が来ようとは……。


 再び恨みをこめてバッシュさんを睨むと、顔面蒼白で厳しいお顔になっていた。


 あ、あれ? 思ったよりもバッシュさんの反応が、険しいような。

 いつもと違う。


 いつものバッシュさんなら、笑顔で私のうっかりですまんすまんとか言ってきそうなものなのに。

 いや、でも、さすがに、やっぱり王都にタゴサクさんがいるのは、領地にいる時とは別か……。


「タゴサク先生! まだいたのですか!? 勝手は困ります!!ルビーフォルン領に引き返していただくように伝えたはずです!」


 と慌てたバッシュさんが、タゴサクさんのところまで歩いていった。


「しかし、私はリョウ様に会うためにここまで来たのですぞ! 一目だけでもお会いしなければ! 他の者たちもリョウ様のご尊顔を拝し奉り……いいえ! ご尊顔を拝するなど恐れ多き事! そう、私どもはリョウ様の後光により浄化された空気のほんの一部を吸うためにはるばる辛い旅路を進んだのです!」


 そう涙声で言い切ったタゴサクさんの後ろには、見たことある使用人が三人ほどタゴサクさんと同じように五体投地していた。

 かすかに肩が震え、鼻を啜る音が聞こえてくるので、おそらく彼らは泣いている。多分、久しぶりに私に会えたことに泣いている。


 彼らもウヨーリ教徒……というかどちらかといえばタゴサク教徒の使用人だ。


 昔から、ルビーフォルンの屋敷を支えてくれていた使用人で、私のことをウヨーリだと思っている数少ない人達。ウヨーリ教初期派のタゴサク教徒達だ。


 バッシュさんが、ルビーフォルンの僻地に追いやったとか言っていたけれど……。その僻地から、バッシュさんを付けてきたのだろうか。本当に彼らの執念は凄まじい。


 バッシュさんは、ハアと重いため息を吐き出すと、「タゴサク先生のお気持ちはわかりました。もうリョウ君に会えたので、気がすみましたかね? おかえりください。馬車の用意もしてあります」と疲れた声で言った。


「リョウ様が近々! この王都に! そのお力をお示しになるということ! このタゴサク! お聞きいたしておりますぞ! 是非その歴史的場面をこの目に直接おさめとうございます! それまでは、是非とも! 是非ともこちらに滞在したく!」


 そうすんごい勢いで懇願するタゴサクさんの迫力の凄まじさに、バッシュさんが後ずさりする。


 ていうか……。


「力を示すって、なんのことですか?」

 私が思わず話しかけると、タゴサクは感極まったようにして、いつものタゴサイックスマイルを見せてくれた。


「商人ギルドなる団体の頂点に君臨されることでございます! 我らが住まうルビーフォルンの地のみならず、王国全体にまでそのお力を振るわれるとは、流石でございます! このタゴサク! リョウ様の無限に広がる慈悲深さに、溢るる涙止めることができませぬ!」


 いや、なんで、私が商人ギルドの10柱になること知ってるんだ! 辺境の地に行っていたはずなのに!

と思ってバッシュさんを改めて見ると、心底困惑したような表情でタゴサクさんを見下ろすバッシュさんがいた。

 バッシュさんも予想外なのか。

 というか、やっぱり、バッシュさんの反応が、少し、いつもと、違うような……。

 余裕がないというか、なんというか。


「タゴサク先生、しかし勝手についてこられては困ります。部屋の用意はございませんし、それに……。とりあえず、おひきとりください」


 そう言ってバッシュさんは勢いよく「衛兵!」と切羽詰まった声を上げた。


 バッシュさんに呼ばれてやってきた衛兵は、五体投地するタゴサク一派を見て、目を見開く。


「タゴサク先生をルビーフォルンまでお送りするように手配を!」

 とバッシュさんが言うと、やってきた衛兵は青い顔で首を横に振った。


「しかし、バッシュ様、その、このお方はタゴサク様です。無理にお帰りいただくなんて……私どもには……」

 と申し訳なさそうにバッシュさんの衛兵は物申した。


 な、なんというタゴサク大司教のお力だろうか!


 領主様であるバッシュよりもタゴサク大司教様が優先された!!

 恐るべきタゴサク大司教……。


 そして、バッシュさんの眉間のシワが深くなった……。


 あのバッシュさんの本気で焦ってるような顔、やっぱり珍しいような気がする。

 いやまあ、焦る気持ちも分かるけれども。


 うーん……。


 私は恐る恐る声をかけることにした。


「バッシュ様、よろしければ、私がタゴサクさんの輸送を手配しましょうか? ちょうどルビーフォルンと王都を行き来する商会の荷馬車がこちらに戻ってますので、それでタゴサクさんも輸送することができると思います」


 私がそう提案すると、バッシュさんは、私の目を見た。

 少し逡巡するような間があって「ルビーフォルンまでおねがいできるだろうか?」と言った。


「はい、もちろん。ルビーフォルンまで。私としても、タゴサクさんがそばにいるのは……」

 と言って苦笑いを浮かべると、バッシュさんも同じように微笑んだ。


「そうか。では、申し訳ないが、お願いするよ」


「はい、お任せください」

 と、タゴサク輸送業務を請け負ったので、タゴサクの五体投地を止めるため、立つように促す。


 ちょうどいいタイミングだし、このままタゴサクさんも連れて、バッシュさんのお宿を出よう。

 

「し、しかし、リョウ様、私どもはリョウ様の栄光の一歩を見納めたく……!」


「ダメです。ルビーフォルンに帰ってもらいますよ。まったく、いつも本当に勝手な行動して! 私怒ってるんですからね! ほら、早く立ってください!」


 そう言って、私が急き立てるとタゴサク教徒の皆さんが渋々立ち上がった。

 タゴサク教徒の皆さんは、バッシュさんの言うことを聞かないとしても、私の言うことには結局逆らわない。タゴサク教徒だからね。


「バッシュ様、それではこのまま帰りますね。タゴサクさんを送らないといけませんし。今度はグローリア奥様もいらっしゃる時に、友人を連れて伺います。それでは、また」


 と言って、バッシュさんの泊まる宿から、タゴサクさんを連れておいとますることになった。





突然ですが、転生少女の履歴書5巻発売を前にして、何故かレインフォレスト家の手紙がこちらに届くのでご紹介いたします。



--------------


親愛なるお父様へ


最近調子はどうですか? アランです。

この前突然お父様からお手紙を頂いたので、驚きました。

読んでみたら、お母様に宛てたお手紙だったので余計に驚きました。

お返ししますので、お母様に渡してください。


追伸:転生少女の履歴書5巻発売の件ですが、既に俺は数か所の本屋で10冊ほど予約済みです。


あなたの息子、アランより


-------------


愛しい我が子、私の誇り、希望に輝くアランへ


父様の手紙を返してくれてありがとう。

しかし、私はアランのあまりにもそっけない手紙に、まるで心臓を氷漬けにされたような気分だよ……!

私の最愛は、アイリーンに捧げてはいるが、愛しい我が子であるアランにも溢れんばかりの愛を注いでいるというのに!

アイリーンが私の永遠の愛だとしたら、愛しい我が子であるアランやカインは、私の希望そのもの。

アランを愛しく思うこの父の心を知ってほしい!

それとも何か悩みでもあるのだろうか。

父様はとても心配です。


追伸:転生少女の履歴書5巻の発売日である9月30日は土曜日なので、地域によっては発売日前に入荷があるかもしれない。父様はその時期毎日本屋に通うつもりです。


息子の愛という暖かさなしでは生きられない憐れな父カーディンより


--------------

と、いうことで、転生少女の履歴書5巻は来週の土曜日9月30日発売予定!


それにしてもカーディンさんがどんどん面倒な性格になっていく……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 親も親なら子も子だなぁ [気になる点] なんかあとごきの感想しか書いてない気がする……結構重要な話が多いのに!?
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