筆頭10柱編⑮ グエンナーシス勢の憂い 後編
注意!
9/4月曜日にも更新してますので、いつも最新話をお読みの方、ご注意です!
また、いつもだいたい感想返信してから更新しているのですが、今回はこれから返信いたしますね!
感想、いつも楽しく読ませてもらってます!
そして、転生少女の履歴書の5巻は9月30日発売です!(突然の宣伝
サロメ嬢から語られたグエンナーシス領の話を、呆然としながらも聞き入った。
グエンナーシス領は、大雨によって壊された結界からこぼれた魔物の数が多く、また魔法が効かない魔物が何体も現れるなど、他の領地よりも魔物による被害が深刻だった。
しかも、頼みにしていた王都からの魔法使いの救援は来ない上に、これからも来る気配がない。
他の領地の人々が思っているよりも、グエンナーシス領は絶望的な状況だったようだ。
そんなグエンナーシス領を救ったのは、魔法使いではなく、魔法の使えない人達。
それが、最近誕生した剣聖騎士団と呼ばれる人達らしい。
その騎士団の中心人物は、魔物の被害に苦しむグエンナーシス領に救世主のごとく現れ、魔法使いでも倒せなかった魔物を剣技でもって殲滅し、一躍グエンナーシス領民の英雄となる。
そして、なんとか魔物の被害が落ち着いてくると、その英雄はカテリーナの父であるグエンナーシス卿に反王政を提案した。
中央に対する不信感を募らせているグエンナーシス卿は、その英雄の提案を受け入れる姿勢を見せているらしい。
「それって、グエンナーシスはもう、国を、その、離反する意志は固いということですか?」
私は、衝撃の事実に震える唇で、サロメ嬢に聞き返した。
グエンナーシスの離反は、今までもまことしやかに噂はされていた。
でも、こうやってカテリーナ嬢達学園の生徒が戻ってきたから、もうその意思はないのかもしれないって、そう思い始めていた部分もあったのに……。
「そう。今のところ、英雄がそのような思想を持っているなんてことは、グエンナーシス領のほとんどの人は知らないわ。シャルロット様や戻ってきた他のグエンナーシス領の生徒達は、知らない。私も、なんとか取り入って知った情報よ。だけど、これから英雄が領民達にもその反王政思想を唱え始めたら、同調する人は多いと思う。彼らはそれほどの影響力を今は持っているの。それを止めなければならない領主様まで後押しするとなったら、もう止められる人はいないでしょうね」
「あのカテリーナ様の護衛と仰っている方々は……」
「その剣聖騎士団に所属している人達よ」
「ではあの方々は、やっぱりカテリーナ様が、グエンナーシス領の秘密を漏らさないかどうかを見張っているということですか? でも、それだと、なんというか……」
つじつまが合わない。
護衛なんかつけるぐらいなら、最初からグエンナーシス領に残せばいいのに。
だって、話を聞く限りもうグエンナーシス領は国に反旗をひるがえす気満々じゃないか。
独立する気満々の領主が、生徒達を一時的と言っても王都にやるのは……? 力を蓄えるための時間を稼ぐため?
このまま生徒が戻らなければいらぬ憶測を生んでしまうから、それを気にしたのだろうか。
でもそれも、いまいちピンと来ない。
確かに、力を蓄えるのも大事だとは思うけれど、国だって、まだ魔物の災害から完全に回復したわけじゃない。それに、グエンナーシス以外の領地だって、国に対する不信感は高まっているはず。
この機に乗じて、動いた方がいいような気がするのだけれど。
私ならそうするし、グエンナーシスの英雄、と呼ばれている人も、きっと、そう、考えるはずだ……。
「実はね、グエンナーシス側も一枚岩じゃないのよ。さっき話した剣聖の騎士団の英雄は、魔法使いが領主として統治する制度を廃止し、非魔法使いを頂点にして統治を行うようなことを唱え始めているの」
「非魔法使いが、統治……!?」
あまりの衝撃的な内容で声を荒げてしまった。
改めて一つ呼吸を置いてから、私は再び口を開く。
「非魔法使いが、さすがに統治まで行くとなると、領民たちはついてこないんじゃないでしょうか……? それにそうなるとグエンナーシス卿だって黙ってはいらっしゃらないでしょうし」
「そう、その点については、閣下は納得されていないはず。現在の閣下のお考えは、おそらくだけど、グエンナーシスを独立国家にして、魔法使いである自分達で統治をすること、だと思う。だから剣聖騎士団と閣下は、必ずしも手放しで協力し合える状況じゃない。カテリーナが学園にもどるように強く要求したのは、カテリーナのお父様、グエンナーシス伯爵よ。カテリーナの護衛として学園にきているあいつらは、閣下の動向を見張るためでもある」
「なるほど……。グエンナーシス卿が、カテリーナ様に何かをやってもらうために返したと考えるのが妥当ですね……」
そう思うと、カテリーナ嬢の今までの動きを見るにやはり一番怪しいのは、救世の魔典関係だ。体調を崩してでも、あの魔典を見ようとするカテリーナ嬢の動きはおかしかった。
救世の魔典は、魔法使いの心の支柱。
それに、以前ヴィクトリアさんが、領主が反乱を起こさない理由の一つとして救世の魔典の存在について言っていた。
この国の建国神話では、救世の魔典を手にしたものが、王としてこの国に君臨している。
「私……カテリーナが一体何をしようとしているか、わからないの。私にすら言ってくれない。私は一応騎士団に所属はしていても、なにがあってもカテリーナの味方なのに。そんな当り前のこと、あの子は分かってくれていると思っていたのに」
そう言ってサロメ嬢は悔しそうに目を伏せた。
「サロメさんは、剣聖騎士団側に所属していることになるのですね?」
「そうよ。母がね、騎士団派の人間なの。非魔法使いが統治する国を夢見ている」
「え? 確か、サロメさんのお母さまって……」
魔法使い至上主義だって聞いたことあるのだけど。それがどうして騎士団派に。
「私の父が死んで、母が狂ってしまったの。もともと魔法使い様を神様みたいに崇めていた人なのにね。父が死んだのは、魔法使い様、つまり領主様が守ってくれなかったからだって恨みを抱いてる。逆恨みも大概でしょう? 領主様は何もしてなかったわけじゃない。守ろうとしてくれていた。それなのに今まで頼りきっていた存在が、期待に沿えなかっただけで、あんなふうに思うなんて……愚かだわ」
「サロメ嬢……」
自分の母親を愚かだという気持ちは、言わざるを得ない気持ちは、どんな気持ちだろうか。
きっと辛いことのような気がする。だって、サロメ嬢の顔、辛そうだ。
「だから、私は母に言われて、剣聖騎士団に入ってる。でもそれは、非魔法使いの統治とかを夢見てるわけじゃない。カテリーナの側にいるためよ」
そう言い切ったサロメ嬢には、先ほどの憂いはなかった。
ただただかっこいい。
「サロメさん、今日、来てくれてありがとうございます。そういう事情があるのなら、私もカテリーナ様のことはよく見ておくようにします。何かグエンナーシスの領主様に言われている可能性は高いと思いますし、結構危険なことをしようとしているかもしれません」
「ありがとう。……本当に。それに今まで言えなくてごめんなさい。もしこのことが、中央に知られたら、カテリーナの、グエンナーシス家は危険な状況に陥る。あなたもだけど、アラン様やリッツ様、それにシャルロット様にも、心配をかけてしまったわ」
少しホッとしたようにサロメ嬢がそう言った。
そうだよね。グエンナーシスでそんな動きがあると分かれば、グエンナーシス伯爵家はお家取り潰しにされそうだし、最悪伯爵家一家処刑なんてこともあるのかもしれない。
私とサロメ嬢は、グエンナーシス領の怪しい動きを中からも外からも察知できるように共同戦線を張るため、固く握手を交わした。
そして、私は少しだけ間をおいて、思い切って口を開いた。
「その、グエンナーシスのことなんですが……。私は、できれば争いなんて、したくない。グエンナーシス領の反乱を止めることはできない、のでしょうか?」
「……そうね。どうかしら。あまりに不利な戦いなら挑まないとは思うけれど……。実は、あなたのおかげで、思いとどまっている部分もあるのよ」
「え? 私、ですか?」
「そう、約束された勝利の火種、ああ、マッチっていうのよね。グエンナーシスにも配ってくれたでしょう? そのおかげで、魔物の被害を抑えられたのは確か。あれは国から依頼されてやっているという話もあって、そのことで少しだけ国への反感が薄らいでるの。勝利の女神様の名前は、結構グエンナーシス領でも知られているのよ。あなたが、王国側にいることで思いとどまっている人たちもいると思う」
「そうなんですか……!」
バラまいて良かった、マッチ!
これからだ。これから……。
商人ギルドの10柱の力が増していけば、おのずと商人たちの力が増してくる。
あわせて国監修のマイルド版のウヨーリの教えがこのまま順調に国に広まれば、非魔法使いの立場だって徐々に変わってくる。
でも、グエンナーシスが先に動いたら、絶対に国は混乱するし、そこに非魔法使いの統治なんて危険思想が見えたりしたら、今まで順調だった私の努力が全て水の泡……。
これは、どちらが早くことを進めることができるのかの負けられない競争なのかもしれない。
「サロメさん、最後に一つ聞いても良いですか?」
私がおずおずとそうたずねると、サロメ嬢はもちろんという風に頷いた。
もしかしたらと、最初にグエンナーシスの不穏な動きを感じた時にずっと思ってた。
でも、今日サロメ嬢の話を聞いてそれは確信に変わった。
「グエンナーシスの英雄の名前は……」
そこまで言って、やっぱり躊躇した。
もしかしたら偽名を使ってるかもしれない。いや、普通ならこんな大それたことをするんだから、偽名を使うよね。でも、私の知ってるあの人なら、偽名は、使わないと、思う。
「英雄の名前が知りたいの? あの人の名前は……」
「アレクサンダー、ですよね?」
サロメ嬢が教えてくれようとしたその先を私が遮るように続けると、サロメ嬢は目を見開いて驚いた。
ずっと、気になってた。
魔法が効かない魔物を倒すためには、神殺しの剣が必要で、親分は神殺しの剣を持っている。
私とコウお母さんが最後に親分に会ったあの場所は、グエンナーシスの境に当たる場所だった。
それになにより、非魔法使いの統治とか、そんな大それたことを考えるのなんて、親分ぐらいしかいないじゃないか。
「リョウさん、よく知っているわね。そう、あの人の名前は、アレクサンダー様よ」
と不思議そうにサロメ嬢が肯定してくれた。
ああ、やっぱり。
アレクサンダー。
私と、コウお母さんの大好きな、アレク親分の名前だ。
突然ですが、筆頭十柱の方々に、転生少女の履歴書5巻の出来についてコメントを頂きました。
「100年に一度の傑作と言われた転生少女の履歴書4巻にも勝るとも劣らない出来」
「みずみずしさが感じられるフルーツのような主人公」
「転生少女の履歴書2巻、3巻に比べて神聖さに恵まれ、読むとタゴサク的な感涙あふれるウヨーリ味豊かな味わい」
「エレガントでいてサスリョウ味とウヨーリ味のバランスがとれたユニークな味わい」
「100年で最高と言わしめた転生少女の履歴書1巻をしのぐ勢い」
ということで、転生少女の履歴書5巻、9月30日発売です!
ちなみに今年のボジョレーヌボー解禁日は11月16日らしいですよ!









