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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第四部 転生少女の独立期
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筆頭10柱編⑫ 薬オタクのグレイさん

 私が、コウお母さんに新作の美容液を見せに行きがてら、一緒に夜ご飯を食べようとコウお母さんのお店に寄ると、中に先客がいた。


 もっさり頭の彼はコウお母さんと並んで、小型の蒸留器を熱心に見つめている。


「あ、グレイさん、またいらしてたんですか?」

そう、彼はグレイさん。

 商人ギルドの筆頭10柱の一人でありながら異色の治療爵をもつ変わった男の人だ。

 シルバさんの息子さんとは思えない純な彼は、治療師の腕前の評判をきいてコウお母さんのお店に行ったところ、まんまと夢中になってしまい、こうやって頻繁にコウお母さんのお店に顔をだしては二人で愛の研究に励んで……。


 というのは私の妄想で、実際は、コウお母さんのお店を見に来たグレイさんが、蒸留器を見つけて、その蒸留器の構造に夢中になった彼が、コウお母さんと一緒に新薬の研究をしている。


 我が社の企業秘密が!

 と最初は戸惑ったけれど、なんとグレイさんは薬の開発費や研究費、ひいては蒸留器の使用料金などのもろもろの利用料と称して、莫大な金額をドーンと渡してくれた。

 おかげで、ルビーフォルン商会の今期の売り上げ目標は、慰労会開催の前から達成しております。


 それにグレイさんの話を聞く限り、グレイさんが着手するのは薬関係ということで、私が広げている美容関係とはまた別の部門だったのもあり、グレイさんには蒸留器の使用を許可した。


 そんなこんなで、色々あって、コウお母さんとグレイさんは言ったら研究仲間だ。


「リョウちゃんおかえり。ちょっと待ってね、今ご飯の準備するから」

 と言って、コウお母さんは帰ってきた私に反応してくれたけれども、グレイさんは一心不乱に蒸留器から精製されていく液体を見つめていて、私が来てることに気づいていない。


 まあ、いつものことだ。

 彼は一度集中してしまうと、周りの声に気づかないところがある。


 別のテーブルに食事を用意して、コウお母さんと一緒に食事を楽しんでいたところで、やっと正気に戻ったグレイさんが、驚いた顔をして私を見た。


「あれ? リョウ会長、いつの間に?」

「ちょっと前からここにいましたよ」

 ボケっとした顔のグレイさんにそう返すと、素で驚かれ「いやー全然気づきませんでしたぁ」と言われた。

 天然さんだ。私よりも10歳以上年上だけども、彼は間違いなく天然さん。


「グレイちゃん、ご飯どうする?」

 さすがコウお母さん、治療爵をもつグレイさん(28歳)に対してもちゃん呼びである。

 グレイさんも、その呼び方に慣れてるのか気にするそぶりもせず「ご一緒してもよろしいですか?」と言って嬉しそうに一緒のテーブルについた。


 ゆっくりと食事を楽しんでいるグレイさんを見ながら「どうですか? 研究の方は」と話題を振ると、グレイさんは、目をらんらんを輝かせた。


「いやー、もう、すごいです。蒸留器、本当にすごい。もともと鎮痛薬として使うこともあったガガナリ科の低木ご存知ですか? 今はそれを蒸留しているんですけれど、そうすると、その薬効を凝縮したものができるんですよ。本当にすごいです。これは画期的ですよ。より精度の高い薬が作れる。ただ、効果が強すぎて毒にもなるんですよね。今はまだ、そのまま使うことができないので、それをどうにか安全に使用できる方法を考えないといけないところですけれど、うまくいけば薬の歴史が変わりますよ。いや、もうこの時点ですでに歴史が変わってきてます。今まで治せないと諦めていたような病気もこの製法で新しい薬を作れば、不治の病なんてなくなるかもしれない。それに……」

 とグレイさんは興奮したようにマシンガントークが始まる。


 グレイさんの勢いはすごい。

 薬の話になると、話が止まらないし、早口だしで、もうすごい。

 薬オタクである。


 グレイさんは一通り話し終わると

 ハッとしたような顔をして、私とコウお母さんの顔を見て、顔を赤くした。


「ああ、すみません、また一人でベラベラ喋って……。つまらないですよね? よく家族にも言われてしまうんですけど、ああ、すみません」

 と恐縮しきりな様子で、謝ってきた。

 いやーあの腹黒狸親父の遺伝子は一体どこにいったのだろう。

 グレイさんは狸親父との血縁関係を疑わざるをえない。


「いえ、勉強になりますよ。薬の開発も順調そうで良かったです。でも、こうやってここにある蒸留器をわざわざ使っているということは、まだ蒸留器は作ってないのですか? 以前、蒸留器の設計図はお渡ししたと思うんですけれど……」

 私は少し前に、グレイさんに蒸留器の設計図をわたしていた。

 グレイさんの薬に対する思いは本物で、それは今後絶対にこの国の人達のためになるもの。

 自分の利益のために蒸留器を独占するよりも、蒸留を利用して作られたより良いものがもっと流通したほうがいいなって思った私は、グレイさんに蒸留器の設計図を渡すことにしたのだ。


 それに、グレイさんからは、もう十分に結構なお金を貰ってるしね。

 私の利益は十分。

 蒸留器がもっともっといいことのために使われて、生活がどんどん便利になっていくのなら、それに越したことはない。


「はい、作ろうとは思っているのですが、中々作れる魔術師様に会えなくて……。銅製で複雑な形のものだと、魔法で作るのはなかなか難しいみたいです。リョウさんはどちらでこれを作ってもらったのですか?」


 あー、なるほど。そういえばクロードさんにもそんな話聞いたかも。

 アイリーンさんは無理そうだったけど、アランは作れたとか。

 というか、アランすごいな。王都にいる魔術師でもできないことができちゃうってことだよね。


「私は、友人に作ってもらったんです。あ、というかグレイさんも会ったことありますよね? アランですよ」

 私がそういうと、グレイさんは、「アラン? え、彼は魔術師様だったんですか!?」と彼にしては珍しく大げさな動作でびっくりした。

 グレイさんが度々コウお母さんのところに来ているのだから、ご飯を食べに頻繁にここに来るアランともバッティングするのは必然だった。

 しかも最近のアランは、私がいないところでコウお母さんとこそこそ何かやっているところがあって、私よりもコウお母さんのお店に入り浸っている。


 そういえば、以前、二人がバッティングしたときに、軽く学園の友人ですと紹介したけれど、魔術師であることは言ってなかったかもしれない。

「すみません、私、アランのことあまり紹介していなかったですよね。彼は、レインフォレスト伯爵家の生まれの魔術師なんです」


「そ、そうなんですか、あのお化粧の子が……」

 とまだ驚いた顔で、グレイさんはつぶやいた。

 ていうか、お化粧の子ってなんだろう……? と疑問に思っていると、グレイさんは、うんうんと何度か頷いた。


「アラン様が、レインフォレスト伯爵家の魔術師だったのは驚きですが、かの伯爵家は水と土魔法の名門ですもんね。確かに作れるかもしれません。次お会い出来たら頼んでみようかな。うーんでも、私はアラン様とはたまにここで会うぐらいで、それほど親しい間柄でもないですし、聞き入れてくださるかな」


「アランなら、大丈夫だとは思いますけれど、でもすぐに欲しいのでしたら、銅製じゃなくて、ガラス製の蒸留器はどうですか?

 ルビーフォルンに置いてある蒸留器はガラス製のものもおいてるんですけれど、問題なく機能してます。作る費用も安く済みますし」


「ガラス製!なるほど!それなら、すぐに依頼すれば、懇意にしている魔術師様が作ってくれるかもしれないですね……! さっそくお願いしなくては!」

 と意気込むグレイさんのとなりで、コウお母さんがクネっとしなを作った。

「あーら、蒸留器作ったら、グレイちゃん、もうこっちにきてくれないのー?」

 そう言って、『やだー寂しいー』というそぶりを見せる女豹のようなコウお母さんが炸裂した。


 まあ、確かに、最近は結構グレイさん頻繁に来てたし、来なくなったら寂しいかも。

 というか、どちらかといえば筋肉の薄い感じのがり勉風なグレイさんだけれども、コウお母さんが結構気に入ってる素振りなのが気になる!


 いや、アレク親分に対するクネり方に比べれば、まだまだ浅い。

 アレク親分を前にしていた時のコウお母さんの腰のクネリ具合はもっと力が入っていた。


 グレイさんはコウお母さんのお誘いに満面の笑みを浮かべた。


「わあ、ありがとうございます! そう言ってもらえて嬉しいです。それにコーキさんの意見もすごく参考になるし、良ければ、蒸留器を作った後も伺わせてください!」


 と爽やかに返すグレイさんにコウお母さんはぽかんとした顔をした。


「……あら、そういう反応ははじめてねぇ」

 と言って、目をパチクリさせる。


 コウお母さん、彼はね、純なんですよ。

 腹黒狸親父とは似ても似つかないんですよ。


「グレイちゃんが、未だに商人ギルドの10柱だなんて信じられないわ。しかもあのオーガン薬店の商会長だものねぇ」

「ははは。よく言われます。それに実際商会の経営は弟がやっているようなものです。私は名ばかりで。私自身もこうやって研究している方が好きですから」

 と言ってグレイさんは自分でも研究者気質であることを自覚しているようだ。


「弟さんというと、私が以前お会いしたネヴィ様ですか?」

「あ、いいえ。ネヴィよりも一つ下の弟です。私の商会の手伝いをしてくれてます。と言いますか、実際仕切っているのは、弟の方ですけど。私はいつも研究と言って引きこもってるだけなので」

 と言ってあははとグレイさんは笑った。

 なんだかちょっと残念男子だ。


 そのあとは薬の話や私が蒸留器で作っている香水の話をしているとグレイさんが突然立ち上がる。


「あ、そういえば今日、父上と予定があったんだった!あ、時間過ぎてる!また怒られる!」と叫んだグレイさんが、バタバタと帰りの支度をして、すみません!またきますー!と言って慌ただしく帰っていった。


 いつも帰るとき、あんな感じだ。

 ドジっ子だ。


「リョウちゃんもそろそろ寮にもどる? 送っていくわよ」

 グレイさんを見送るとコウお母さんがそう言った。


 そうなんだよね、私もそろそろ寮にもどらないと。

 でも、本当はもうちょっとゆっくりしたい……。

 そういえば、カテリーナ嬢には護衛の人が寮にまできてるんだから、コウお母さんも一緒に寮に来てもらえないかなぁ。

 ああ、でも、さすがに無理か。コウお母さんには店もあるし。


「そうですね。そろそろいきます……」

 と言って、帰り支度。


「そんなにしょぼくれた顔しないの」

 とコウお母さんは笑ってるけど、だって、寂しい……。

 しょぼくれながら準備して、用意ができるとコウお母さんと一緒にお店を出た。


「そういえば、コウお母さん、結構グレイさんのこと気に入ってますよね?」

 今日も腰をクネらせていたし。

 私が道中そんなことを聞くと、コウお母さんは曖昧に頷いた。


「そうね。リョウちゃんが、前、グレイさんとの結婚を推されてるなんて言ってたでしょう? だから気になってたんだけど、悪い子ではなさそうね」


 ああ、そういえばそんな話をコウお母さんにしたかも。


「ま、たとえいい子だとしても、リョウちゃんが結婚を嫌がるなら、私はリョウちゃんの味方よ。確かに、ちょっと年も離れてるしね」


「私もいい人だとは思いますけど、結婚とかって感じはしなくて……」

 というか、私、いつか結婚したいと思える人にちゃんと会えるのか不安になってきた。

 まあ、結婚しないならしないで、コウお母さんが一緒にいてくれるから、それはそれでいいんだけれども……。でもいつまでもコウお母さんを縛り付けるのは良くないような気もしなくもないし……。


 そんな不安な気持ちが顔に出ていたのか、コウお母さんが、ふふと笑った。


「大丈夫よぉ。運命の人に会えば、ピンとくるわよ! ……それにしても、リョウちゃんも、もう14歳なのよねぇ。あと一年で成人して、そのうち結婚して……早いものね」

 とコウお母さんがしみじみとこぼした。


 私が結婚したら、コウお母さんはどうするんだろう。


 前は、私が独り立ちしたら、愛を求めて旅に出るのも悪くないって言っていた。

 つまりアレク親分を追いかけるってことなのかなって、ちょっと思ってた。


 でも、アレク親分は、神殺しの剣なんかを作ったりして、もう、あの頃の親分と違う、ところだって、あると思う。

 それに、コウお母さんの気持ちはどうなのだろう。

 ルビーフォルンで、親分に再会した時のコウお母さんは、すごく冷静だった。


 ……ていうか私も、まだ、全然コウお母さんと離れたくない!

 それに結婚とかしたりして、まだ知らない誰かと暮らす未来が全然思い浮かばない。


 ファザ……マザコンの私に、コウお母さん以上の人を見つけることが、果たしてできるだろうか。


 ……うん。


「私、まだ、全然結婚なんてしたくないです。こうやってコウお母さんと一緒にいたい!」

 私は握っていた手をぎゅっと強くつかみなおして、そういうと、コウお母さんが驚いた顔で私を見下ろした。


「あら、なーに突然? かーわいい。商人ギルドの筆頭10柱になる子がこんなに甘えん坊でいいのかしら。本当、かわいい。リョウちゃんが、結婚する時は寂しくなっちゃいそう」

 と言って、コウお母さんは目を細めて笑った。


 うへへ、やっぱり、しばらく結婚とかはいいや!









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